14話 勝負
「負けませんか、言うじゃねーか」
俺の宣言を聞いたガッシュさんはにやりと白い歯を見せる。
俺の発言を生意気と捉えたのか、それともやれるものならやってみなという強者の余裕なのか、はたまたその両方か。
どちらにせよガッシュさんを焚きつけてしまったことに変わりはない。
しかし俺だって何の根拠もなしに大口をたたいたわけじゃない。
確かに俺のスキル構成では怪しまれずに勝つことはほぼ不可能だ。
攻撃するそぶりも見せないのにガッシュさんにダメージが入るなんてことになったらおそらく追及は免れない。
だが負けなければいいだけならばその限りではない。
回避。
俺の認識を素通りして発動するそのスキルを破り、俺の身体に攻撃を届かせることが出来る存在はそう居ない。
それこそ神様クラスの強さがなければ俺の回避は打ち破れない……はずだ。
「ルーキー、お前の言うことが本物か、それとも口だけのはったりか確かめさせてもらうぜ」
「……はは、お手柔らかに」
見るからに闘志を漲らせているガッシュさん。
煽るようなことを言ったのは失敗だったかもしれない。
◇
◇
俺とガッシュさんはギルドの模擬戦が出来る訓練室に通された。
どうやら試験はガッシュさんに一任されているらしい。
「お前、得物は?」
武器か。
今更だがまともな武器を持ってないな。
「必要ありません」
「体術ってことか。じゃあ俺もそれに合わせてやる」
別に体術に優れている訳では無い……というか体術も専門外だ。
これがスキル頼りだった弊害か。
今度何か武器を買って特訓するか。
「じゃあやるか。かかってきな」
お互い武器無しで戦いのゴングは鳴る。
さて、A級の実力、見せてもらおうか。
といっても俺から仕掛けるわけじゃないけどな。
俺は突っ立ったまま動かない。
拳を構えたガッシュさんは眉をひそめる。
「どうした? こないのか?」
「これが俺の戦い方です」
「なるほど。カウンター狙いってか?」
まあ、確かに反射スキルがあるし、カウンタータイプっていうのは間違っちゃいないが、今回はダメージを跳ね返すつもりはない。
あくまでも回避だけで、俺は実力を示す。
「しょうがねえ。のってやる」
そう言ってガッシュさんは攻勢に移る。
ブローノ様と比べるとハエが止まったようなスピードに感じる。
オート回避に頼らなくてもなんとか避けられるぞ。
迫り来る拳を、華麗なステップで躱していく。
右、左、バックステップ。
ガッシュさんの拳は俺にかすりもしない。
しかし、ガッシュさんもまだ本気じゃないはずだ。
俺に合わせて素手だとしてもこれでは拍子抜けすぎる。
「どうした? 避けるだけか? 反撃しないと俺に勝てないぞ? それとも隙が出来るのを恐れてるのか?」
「はい。俺は避けるだけです。それに言いましたよね? 負けませんって」
問答をしながら俺は避ける。
確かに俺のスキルならば攻撃の際にどれだけ隙ができようとオート転移で回避出来る。
だがする必要がない。
俺は回避だけで、勝てなくても負けないことを証明してこの試験を突破する。
そこでガッシュさんの攻撃が止む。
「ここまで一芸に特化したやつは初めてだぜ。それがお前の負けない戦い方か」
ガッシュさんもようやく俺の意図を理解したのだろう。
ボキボキと首を鳴らしながら息を吐く。
「確かにずっとそれが出来るなら負けないわな。おもしれえ、本気出すわ」
ガッシュさんの雰囲気が変わる。
小手調べの時間はもう終わった。
「これを凌いだら合格だ。気張って避けろよ」
ダンっと床を蹴る音が聞こえた。
そう思っていたら俺の視界はブレ、オート回避が発動する。
確かに速い。
それに当たったら痛いのだろう。
でもそれだけだ。
当たらなければどうということはない。
圧倒的な速さでは俺の回避を破ることは出来ない。
それはもう実証済みだ。
それから何度も拳が空を切る音を聞いた。
それと同じ数だけ自分の身体は攻撃から遠ざかるように安全圏へと転移した。
「くそっ、キリがねぇな。やめだやめ。文句なし合格だ」
ガッシュさんはそう言って攻撃をやめた。
その言葉を聞けただけで俺は満足だ。
「あとはあれだな。自分から攻撃できれば言うことなしだな」
うん、そうだね。
今日の帰りにでも武器屋に寄ってみますよ。
「とにかくお前は試験に合格した! おめでとう! 今日からお前はC級冒険者だ!」
手続きをしに行くぞと訓練室を出るガッシュさんに俺は着いていく。
冒険者に対してそんなに執着してた訳じゃないけど結果が出るっていうのはやっぱり嬉しいな。
このスキルで俺はどこまで行けるか。
確かめるのも面白いかもしれないな。




