12話 武神ブローノ
「ゼロノスよ、彼が件の少年、ジャックであるか?」
「そうじゃ、彼がジャック君じゃ。してブローノよ、一体なんの用じゃ?」
「何、我もゼロノスの被害を被った彼には興味があったのだ。アルマが自慢のように話してくるものなのでな」
まーた知らない神様とご対面か。
何だか親しげに話してるけど俺は置いてけぼりだ。
「あのー」
「おお、すまんな。自己紹介が遅れた。我は武神ブローノである。よろしく頼む」
「初めまして、ジャックです」
アルマ様が礼儀には気をつけた方がいいって言ってたから初めは敬語で話す。
「我も堅苦しいのは好まぬ。楽に話してくれて構わん」
許可が出たから普通に喋ろう。
「じゃあ遠慮なく。よろしくな」
「それでいい。してゼロノスが迷惑をかけたな。同じ神として詫びよう」
「いえ、気にしてませんって。むしろいいスキル貰えてラッキーって感じです」
「ほう。ジャックはゼロノスの失敗作を気に入っているのか?」
失敗作というのは反射と回避のことだろうか?
むしろ成功だろ。
「回避で反射が発動するなんて最強だろ?」
「だがそれは回避が成功することを前提としたものである。回避に失敗したら反射も発動しないというデメリットもある」
確かにな。
そもそも反射は食らったダメージを跳ね返すものだ。
それが回避した時に食らうはずだったダメージを跳ね返すことになっているため、ダメージを受けたら、ただダメージを受けるだけというクソ仕様になっている。
「確かにそのデメリットはでかいけど回避できれば解決することだろ? だったら俺は避ける努力をするよ」
スキルで避けられないなら自力で避ける。
そのための努力ならばいくらでもしてやる。
「面白いな。では我と手合わせしてみるか?」
「は?」
なんか言い出したぞこの神様。
「何、安心しろ。殺しはしない」
こわっ!
超怖いんだけど!
殺しはしないけどボコボコにして精神的に追い詰めるってこと?
俺、精神系は回避できないのに。
「嫌です」
「ではいくぞ」
話聞けよ。
やらないって言ってんだろ。
「ジャック君、スマンが諦めて相手してやってくれんか?ああなったブローノは止められんのじゃ」
「ええー……死んだら生き返らせて下さいよ」
「ここでは死なぬから安心して殺されるのじゃ」
ゼロノス様も俺が負ける前提で話してるし、もう嫌だ。
◇
◇
「ふむ、初めにルールを決めておくのである。有効と思える攻撃が入ったら我の勝ち、それを全て避けたらジャックの勝ちである」
「はあ。分かったよ。やればいいんだろ」
こうなったらやけくそだ。
やれるだけやって足掻いてみせるか。
「ではいくのである」
そう言ったブローノはものすごいスピードで俺に向かって突っ込んでくる。
そして振り抜かれた腕は俺の眼前に迫る。
しかし、そんな拳に怯む俺ではない。
問題なく回避が発動し、通り抜けた腕の横へと移動した。
「ふむ。確かに転移に似ているのであるな」
その後も連続で拳を振るうが俺にはかすりもしない。
まともに食らったら即死ものでも当たらなければどうってことはないぜ。
「どうだ? 俺にダメージを通すのはあんたでも苦労するんじゃないか?」
「なるほど。ではこうするのである」
そう言ってブローノは俺に対してでは無く自分の足元へと拳を振るおうとしている。
「ちょっと? これまずくない!?」
「ブローノのやつ。はしゃぎすぎじゃの」
何やら不吉な言葉が聞こえた。
それと同時にブローノ様の拳は地面に叩きつけられる。
そしてドゴンと轟音が響きわたり、何がなんだが分からないうちに俺は吹き飛ばされた。
「がっ? 痛え……?」
本来なら即死級のダメージが俺を襲う。
ちょっ!?
ほんとに死んじゃう?
「手加減はしたのである」
はあ?
これで手加減したのかよ?
それよりも何が起こったか全然分からなかった。
ただ一つ確かなのは俺の回避が反応しなかったことだ。
「ふむ? 不発であるか?」
この空間の仕様でダメージも回復したところで俺はゆっくりと起き上がる。
「なんで回避が発動しなかったんだ?」
俺自身その理由が分かっていない。
「今ブローノはこの空間全てを埋め尽くすほどの衝撃波を放った。それつまり安全地帯と呼べる場所がここにはなかったのじゃろ」
「まじかよ」
確かに俺の回避は攻撃の範囲外に瞬間移動するように発動する。
しかし、それがどれほどの範囲で発動するかは分かっていない。
俺のスキルの射程を上回る範囲を攻撃されたら回避自体発動しないことがこれで分かった。
「また新たに自分を知れたのであるな」
「くそっ。ゼロノス様と言い、ブローノ様と言い反則じゃねーか」
そもそも人間と神が戦っているのがおかしい。
よく考えなくても勝てるわけがない。
「ほっほ。ジャックくんもまだまだじゃな」
「あのなあ。俺は人間なの!」
何がほっほだ。
その髭もぐぞこら。
「ジャックよ。またここに来い。我はいつでも相手になるのである」
「えっ? あのー?」
ブローノ様はは返事も聞かずにどこかへ行ってしまった。
え、また戦わないとダメってこと?
「ジャック、気に入られちゃったね」
「うむ。今後も絡まれるかもしれんのう」
え、普通に嫌なんだけど。
死ななくても痛いものは痛いんだよ!
「嫌だー」
「どんまいじゃな」
「どんまいだね」
アルマ様はかわいいからいいけど、ゼロノス様の笑顔はなんか無性に腹立つな。
でもまあ、ブローノ様も悪い神様じゃなさそうだし、たまには殺されに来てやるか。
そんな馬鹿げたことを考えながら、俺は神界を後にした。




