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叛逆の守護者  作者: 鍋澤 統連
亡命編
2/26

アラビル王国の亡霊

 脇道に入り、黙々と進んでいく男の後ろをついていくと、いきなり複数の男に取り囲まれた。俺は身の危険を感じ、思わず腰を低くして警戒する。


「安心してくれ。周りに人が来ないよう見張らせるだけだ」


爆破する瞬間を見張るのならともかく、会話するためだけに見張りが必要あるのだろうか。空き家を爆破し、わざわざ目立つような真似をしておきながら、俺と話す際にはこうやって見張りを設ける。俺と会話することに一体何の意味があるのか。そう頭の中で考えていると、男は深く被っていたフードを外し、顔を俺に見せた。


「アラビル王国の人間なのか?」


彼はユラと同じ褐色肌をしており、それはアラビル王国出身者の特徴だった。アラビル王国は六年前に滅び、生存者はユラ以外には存在しないはずであり、亡霊と言ってもいい存在が俺の前に姿を現したのだ。


「そう、私の名はラバルカーン。六年前に滅んだアラビル王国の残党だ」


アラビル王国の残党がこうして周囲を警戒していることは当然のことではあったが、俺と話をするためだけに空き家を爆破した理由までは理解できなかった。


「とうの昔に滅んだ国の残党が一体俺に何の用だ?」


「君に真実を話しておこうと思ったのだ」


何が言いたいのか意味がわからず、俺はすぐに質問をしようとしたが、ラバルカーンが続けて語りだした。


「君は六年前の事件を知っているか?」


六年前といえば、ルゼロア帝国の皇帝がアラビル王国の首都で毒殺された事件だ。そして、その事件が切欠でルゼロア帝国は報復としてアラビル王国を攻め滅ぼし、更には他国へ宣戦布告を開始した。誰もが知っている常識レベルの話だ。


「もちろん知っている」


「では皇帝を毒殺した犯人が誰かは知っているかな?」


第三者からすれば誰もがアラビル王国の人間と答えるだろう。実際にルゼロア帝国がアラビル王国を攻め滅ぼしたのだから、過去の出来事はそう結論づけている。しかし、このラバルカーンという男は真実を話すと言っていた。つまり、過去の出来事は真実ではないと言いたいのだろう。


「自分達の仕業ではないと?」


俺が先を読んで答えると、ラバルカーンは脇道の壁に寄りかかり、空を見上げて語りはじめる。


「何者かが戦争をするための足掛かりとして我々を利用したのだ。そして、十二年前の事件も戦争への布石だったのだろう」


十二年前の事件。この言葉を聞いた瞬間、俺はラバルカーンに詰め寄った。十二年前の事件といえば当然、帝都で起きた爆発事件のことだ。平和を祝うはずの祝典で多くの死傷者を出し、俺の母も犠牲となった悲惨な事件だ。その犯人は明確に特定できておらず、帝国は六年前の事件と併せてアラビル王国の仕業だと結論付けていた。


「どういうことだ!?」


「そこに食いつくとは、やはり十二年前の事件が気になるようだな」


ラバルカーンが不敵な笑みを浮かべると、俺は思わずラバルカーンの両腕を思わずつかんだ。


「何か知っているのか!?」


「全てを知っているわけではないが、ある程度の情報は掴んでいるつもりだ」


「何!? 詳しく教えてくれ!?」


俺は更にラバルカーンに詰め寄り、掴んだ両腕を大きく揺さぶった。


「お兄ちゃーん、どこにいるのー?」


必死にラバルカーンに迫っている最中に遠くからユラの声が聞こえる。


「知りたければ、シルアールまで来るといい」


そう一言言い残すと、ラバルカーンは俺の周りを囲んでいた男達と共にその場から一瞬にして消え去った。ラバルカーンの両腕をがっちりと掴んでいたはずの俺はただただ呆然と立ち尽くす。


「あっ、いたいた!」


ユラの声に反応して振り返ると、ユラが脇道に顔を覗かせている。


「こんなところで何してるの?」


俺は慌てて体勢を正して、脇道を出た。


「いや、こっちのほうに不審者がいたんだが、どうにも逃げられてしまったようだ」


「お兄ちゃんも!? アタシも不審者を追いかけてたんだけど、巻かれちゃったんだ。アタシが巻かれるなんて初めてだよ」


ユラが残念そうに肩を落とす。おそらく先ほどのアラビル王国の残党達が手分けして爆発を起こしていたのだろう。


「まぁそんなに気にするなよ」


相手はユラと同郷の人間だ。正直、巻かれるのも無理もないと思い、俺はユラの頭をポンと叩いて、家へと足を向ける。


「もう帰るの?」


「ああ。十分に収穫はあったからな」


「え? どういうこと!?」


ユラが歩いている俺の周囲を執拗に付きまとってくるが、俺は先ほどのことはユラに伏せることにした。この国での生活に馴染んできたユラには余計な話をするべきではないと思ったからだ。しかし、このラバルカーンとの出会いが結果的に俺とユラの運命を大きく動かすことなろうとはこの時の俺は知る由もなかった。

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