第82話〜ゴロツキ冒険者A B Cの末路(上)
誤字を訂正しました。
ジョッキをジャッキと誤変換したまま投稿していました。
酒場でゴロツキがパンタグラフ式扛重機をテーブルに叩きつけるシーンを想像してしまった方は申し訳ありません。
…………。
街にいくつかある酒場の一つで怒声と共にドン!とジョッキがテーブルに叩きつけられる音が響いた。
テーブルを囲んでいるのは、手入れもまともにされていない革鎧を付けた柄の悪い男たち。
柄が悪い以上の特徴のない、ゴロツキ冒険者である。
…嘘である。
少なくとも一人は全身に打身やアザが目立ち、もう一人は露出した肌に火傷の跡があり、その頭頂部には燃え滓のような毛が僅かに残るのみである。
特に何もないのは一人くらいだ。
そう、彼らはルナたちが冒険者ギルドに訪れた初日に絡んだゴロツキ冒険者たちである。
…………。
冒険者が酒場で騒ぐのは日常風景ではある。
クエストの失敗、仲間の死、それらを酒を飲んで切り替えるのだ。
もちろん成功しても飲むし、特に理由がなくても金があれば飲む。
そして騒ぐ。
冒険者が粗野で乱暴なイメージを持たれているのも仕方がないことだ。
今回騒いでいるのもそんな冒険者パーティーの一つ。
荒くれ者の多い冒険者たちの中でもゴロツキの部類に入る者たち。
名前負けパーティー【ドラゴンキラー】の3人だった。
冒険者登録もしていない、それどころかまだ成人も迎えていない幼女とその従魔にボロボロにされ、すっかりいい笑い者だった。
日頃の素行もあり、ギルド長からこってり縛られ、壊れた扉や壁の修繕費、ギルド規則違反による罰金、自分たちの治療費で借金をするはめになった。
「クソ!あんな小娘がもうランクアップだと?俺たちがDランクに上がるのにどれだけかかったと思ってんだ!」
マールの咆哮で吹き飛ばされた男がテーブルに腕を叩きつけ、治り切っていない傷に響いて涙目になった。
傍目から見たら完全に間抜けである。
「まぁDランク程度ならまじめにやってたらすぐに上がるからなぁ」
白夜によってこんがりと焼かれた男がぽつりと呟いた。
その間にはある種の諦めがある。
「ああ⁉︎そりゃ俺への当て付けか!」
彼らは一様に冒険者のランクはD。
年齢ももう三十路で、その日の稼ぎで飲んで騒いでを繰り返して来たため貯蓄もなく、危険なクエストなど受けた事もないため体系もそれ相応。
そんな生活を10年以上繰り返してきたので体は言う事を聞かなくなってきており、そこに怪我と借金で完全に詰んでしまった。
あとは借金返済のために毎日クエストを受けては少ない報酬からさらに引かれるのだ。
こうして酒を飲むことが出来るのも今日が最後だろう。
「おいおい、飲み過ぎだぜ」
「うるせぇ!」
シルとライムによって溺れさせられた男が注意するが、当然の如く聞くわけがない。
むしろ管を巻いて絡まれる始末だ。
特にこの男の場合、溺れただけで外傷も何もなく、被害は全身ずぶ濡れになっただけ。
同じパーティーなので慰謝料や修繕費は折半だが、治療費がかからなかっただけほんの少しましなのだ。
そんな小さな事をネチネチと絡み絡まれ、段々と空気は険悪なものになっていった。
そして話は当然の如く悪い方へと転がっていく…。




