第8話〜白羽の王子さま?
「ぴょ〜!」
ノタノタ…
ダメだ〜…
おおかみさんとは逆方向に走り出したのはいいんだけど、自分でもわかるくらいに足が遅い!
小鳥さんたちってチョコチョコトトトトッて大きさのわりにすごく速く移動したりするけど。
まだ生まれて数日しか経ってないヒナ鳥には荷が重すぎるよぉ!
…………………………。
現実逃避している間におおかみさんから落っこちたわたしは、とにかく逃げることにしたんだけど…。
わたし、風に飛ばされるまで、巣から出たことはおろかほとんど歩いたことだってなかったんだよ?
走るなんて無理!
人間だった時だって、学生時代にもほとんど走ったりしなかったし!
運痴だもん!
( *`△´)
こんなヒナになっちゃって、余計に逃げきれるわけがないよ。
だれか助けてー!
…………………………。
振り向くとちょうどワームが起き上がるところだった。
口元はモグモグ。
おおかみさんの姿はナッシング。
どこにいったのかは闇の中、もといお腹の中。
ワームのお腹はぽっこりと膨らんでいる。
「ぴょ?(あれ?)」
けどよく考えてみたら、おおかみさんには悪いけど、こんな小さなヒナなんてお腹の足しにもならないよね?
(°△°)
おおかみさんでお腹いっぱいになってくれれば、わたしは見逃してくれるんじゃ…
「キシャーッ!」
「ぴょ〜⁉︎(きましたわ〜⁉︎)」
ダメみたい!
ワームの顔は「ゲヘヘ、ヒナは大好物だぜ!」って顔だぁ!
口しかないけど。
距離は10メートル以上離れてるけど、ワームからしたら誤差みたいなもの。
「ぴょ〜!(ママ〜ン!)」
コケッ
「ピョッ(いてっ)」
いたた…。
小石につまづいて転んじゃった。
両手をつこうとして、けど翼だったからうまくいかないでコロンと転がっちゃった…。
(T△T)グスン
人の時と感覚が違いすぎなのよね。
せめて空を飛べたら簡単に逃げられるのに!
けど小鳥が飛ぶには、一般的に巣立ちの早いスズメとかだって10日くらいはかかるらしい。
生まれて数日程度のわたしじゃさすがにまだ飛べないみたい。
必死に羽ばたいてみるけど、うまくいかない。
って、そうこうしてるうちにワームが近づいてきてる!
「ぴょ〜…(ママン…)」
ダメ、もう逃げられない…。
せっかく生まれ変わることができたのに、新しい家族ができたのに……!
わたし、まだ死にたくないよ!
わたしの身体をワームの影が覆い隠す。
ギザギザしてて尖ってる沢山の牙が一本一本よく見えた。
おおかみさんだったものの滓が見えて、身体が震えるのが分かった。
生き物は弱肉強食の食物連鎖の中で生きてる。
わたしだけが生きるために一方的に食べていくことができるほど自然は甘くない。
それでも、死にたくなかった。
わたしは最期の瞬間まで目はつぶることなくいようと決めた。
足をワームと逆方向に出す。
最後まで走ろうと決めて、ワームに背中を向けたわたしの視界に、白い羽根が宙を舞った。