第45話〜商人バルドの奇妙な出会い(上)
商人目線です。
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私の名はバルド。
イナホ公国で旅の商人をしている。
扱っているのは主に香辛料やその土地の特産物。
旅の相棒は商人だった親父から譲ってもらった馬のサリー。
毛並みもよく、脚は速くないが長距離の移動にも耐えてくれる、いい馬だ。
サリーはそろそろいい年だが、まだまだ現役だといつも馬車を引いてくれる。
知性的な瞳、常に微笑んでいるような口元、非常にキュートで魅力的な愛馬だ。
私自身もいい歳だが、サリーがいてくれれば寂しさなんて感じやしない。
朝から晩まで、寒い日は寄り添って、商談が失敗した時はその毛並みに癒されて、10年以上寄り添ってきた。
もはや家族のようなもの。
いや、夫婦のようなものといっても過言ではない。
ああ、サリー、愛してるよ。
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今回はイナホ公国の中でも帝国に近い街へと仕入れに行っていた。
帝国は優れた魔道具を他国より多く作り出しているから、帝国に近い街ほど安く高性能な魔道具が手に入りやすくなる。
もっともそれは帝国内で流通しているものの型落ち品や古いタイプのものばかりだが。
さすがの私も他国に直接商談に行けはしないので、より質の良い品を見繕うことしかできない。
だが国境付近というのは国の中心から離れているだけあってあまり流通していない品が多くある。
馴染みの商店で香辛料などを多く仕入れる。
イナホ公国は温暖な気候ではあるが、香辛料の類はあまり多くない。
私のような旅の商人はあまり多くの荷を積まない分、嵩張らず、それでいて高価な品を運ぶしかないので香辛料はいい商品になる。
さてサリー、今回も宜しく頼むよ。
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今回の旅も順調だった。
香辛料と一緒に魔除けの香を焚いているので、モンスターも寄り付かない。
このルート周辺は数年前に大規模な夜盗狩りがあったので危険度も低い。
もう目的の街までは1日もしないで着く。
ここまできたら定期的に討伐隊にモンスターや危険な野生動物は狩られているので安全だ。
今は月の始めだから狩られて間もないので、より安全だと言える。
このペースだと到着が夜になり、門は閉まってしまうため途中で夜営する必要はあるが。
魔除けの香はそこそこいい値段をする。
ここまでくれば大丈夫だろう。
私は香を消して器の蓋をした。
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それが間違いだった
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街道、それも街から半日やそこらの距離でモンスターが出るなんてこと、ほとんどない。
定期的に討伐隊が組まれるし、冒険者にだって依頼が出される。
ここ数年はそれらの被害なんてほとんど聞かなかった。
だから油断してたのだろう。
気付いた時には緑の体毛をしたフォレストウルフの群れに囲まれていた。
少し前まで単体で見かけてはいたのだが、どうやらそれは斥候のようなものだったらしい。
遠目には臆病で大人しいグリーンウルフに見えたのだ。




