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第22話〜猫耳少女の不運(下)

ふぅ、3つに分けたのにいつもよりやや長めになってしまいました。


次回から再び主人公の目線に戻ります。

◇◇◇


「なんだ?」


とうとう音はルナたちの乗った馬車の真下にまでやって来た。


出発準備をしていた御者の男も気付いたらしい。


僅かな微震が、馬車を揺らす。


そしてそれすらも止まった。


「………ッ!」


ルナは尻尾を抱えて丸まることしかできなかった。


(きた!)


振動、そして衝撃。


痛みを感じる間も無く浮遊感が全身を包み込み、そして再び衝撃。


一瞬だけ意識が飛ぶ。


それでも獣人の本能か、ルナは無意識にバランスを取り、同時に姿勢を整えて衝撃を可能なだけ逃していた。


◇◇◇


最初の衝撃で数名、そして地面に叩きつけられた衝撃でルナ以外の人は全員死亡。


御者の男だけは逃げ場のない檻と違って空中に投げ出され、そのまま森の木々を緩衝材かんしょうざい代わりに生き延びた。


ただしそれが幸運だったとは言えない。


着地の際、両足の骨を折った男はあまりの痛みに悲鳴をあげた。


なまじ木々に落下の勢いを殺されることで意識を手放すことができなかった男は、大声で悪態あくたいをつき、痛みを誤魔化ごまかすためか地面を何度も叩く。


そして当然、音を頼りに獲物を探すワームにとっては、いきのいいエサが自分から居場所を教えてくれているようなもの。


男はワームに丸呑みにされるその瞬間までわめくことを止めなかった。


◇◇◇


ーーードンッ!

ーーーキシャアァァァァ!


爆発音とワームの悲鳴でルナの意識は段々とはっきりしてきた。


あまりの衝撃で朦朧もうろうとしていた意識はすぐに生存本能に従いはっきりとする。


外では残った馬車から出てきた護衛がワームと戦っているようだが、ルナはとにかくその場から離れることだけを考えていた。


落下の勢いで歪んだ檻。


小柄なルナならば抜けるなど造作もない。


かせが引っかかりつつもどうにか抜け出したルナ。


そして直後、護衛たちとワームとの戦いも終わった。


その巨体に押し潰され、丸呑みにされて、もはやその場に生きている者はいなかった。


ルナを除いて。


通常サイズのワームならばここまで一方的なものにはならなかったはずだった。


違法奴隷を売買するための荷馬車の護衛をするだけあってすねに傷を持つ者ばかりだが、それでも実力は確かだった。


しかしワームの大きさが規格外過ぎた。


通常のワームであれば致命的な攻撃も、半端な傷しかつけられなかった。


◇◇◇


魔法で焼かれ、抉られ、傷付けられたワームは怒り狂い、森の木々をなぎ倒して暴れていた。


今ならばワームから逃げられる。


ルナは痛む身体を無理やり動かし、森の中へとよたよたと逃げ出した。


しかし。


ルナは知らなかった。


地面の中ならばともかく、地上に出てしまえばワームの鋭敏な感覚は獲物を逃すことはなく、そして本能的にワームは動くものを狙う。


そして大きくなるほど鈍くなると思われがちなワームだが、しかしその巨体故に障害になるはずの木々などなぎ倒して進むことが出来る。


ルナが必死に進む距離など、巨大なワームからすれば大した距離ではなかった。


ワームは生き絶えた獲物をその場に残し、動く生きのいい獲物を追い始めた。


◇◇◇


ルナは必死に、しかし牛歩の歩みでよたよたと逃げていた。


よく聴こえる耳は段々と近付いてくる振動に気付いているが、今だけは聞かなかったフリをしたかった。


「おねぇ、ちゃん…」


死んでしまう。


ルナは幼いながらに確信した。


しかしどうしても諦められなかった。


姉に会いたい。


抱きしめられたい。


優しく撫でてもらいたい。


そんな想いばかりが浮かんできて、足を止めることなど出来なかった。


しかしワームは恐ろしいほどの速さでやって来る。


あと数秒もすればルナは死んでしまうことだろう。


絶望が全身を冷たく駆け上がってくる。


そしてついにワームが起こす揺れにルナは倒れてしまった。


(おねえちゃん!)


ギュッと全身に力を入れて最後の瞬間を覚悟したルナ。


その耳に、少し間の抜けた鳴き声が聞こえた。




ぴょ〜‼︎




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