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第104話〜とある領主の異変

…………。

…………。


時は遡り、スタンピード発生の2日前。


ノーマの街の領主の屋敷。


その執務室では、領主であるレイン=アール=ノーマが黙々と書類を片付けていた。


質実剛健の気質を表すように、執務室を始め屋敷には最低限のものしか置かれていない。


と言っても領主としての品格は落とす事なく、華美な装飾ではなく価値あるものを嫌味にならないよう配置している。


歴史こそ浅いが、そこには確かに貴族としての実力を示せるだけの趣があった。


まだこの土地を治めて2代目でこそあるが、レインはほんの数十年前まで続いていた戦争にも騎士として参加していたのだ。


まだ開拓村だった頃からこの土地を守ってきた。


先代領主である父が開拓村を発展させ、大きくなっていくノーマを領主の息子として、騎士として守ってきたのだ。


だからこそ街、というより都市となった今も住民たちからの信頼も厚く、また彼自身が真面目に誠実に向き合ってきたからこその発展であった。


その肉体は全盛期こそ過ぎたが未だ現役であり、立派に育った息子たちも今はノーマの街を守る兵士として働いている。


あと数年もすれば領主の座を退き、息子の一人が新たな領主としてこの地を治めることだろう。


末の息子は門番として働いているし、一族皆、ノーマのためにあるという考えで執務に励んでいた。


…………。


とある書類に目を留める。


その書類はとあるモンスターに関する報告書だった。


トレントだ。


トレントはモンスターではあるが、危険度は低い。


それどころか人にとって有益な存在と言える。


【擬態】というスキルを持ち、成長する過程で近くにある樹木に【擬態】し、その性質を備えることができる。


その性質をうまく利用することができれば、一年を通してその時期しか採れないはずの野菜や果物を売ることだってできるのだ。


実際そうやって貿易をする国もある。


ノーマの街でも試験的に導入していた。


近場にトレントの森があり、他の土地とは比べ物にならないほどの好条件。


ここまで街が発展した今、貿易の要でもあるこの条件下でトレントで特産品を作り出すことができれ、ば…


どうしてだろうか。


時折、頭に靄がかかったように感じる時がある。


何か重要なことを忘れているような…


コンコンコン…


「入りなさい」


部屋に入ってきたのは、確か、うちに代々、仕えている…


代々…?まだ…


「さぁ領主様、本日のお薬ですよ。クククッ」


「うむ、いつも悪いな」


「いえいえ、領主様あってのノーマの街。何かあったら一大事ですからねぇ」


屋敷の中であるというのに頭まですっぽりと覆うローブからは、ほんのりと甘ったるい匂いがした。


段々と、頭がはっきりと、してきた。


「特産品の件は順調か?」


「ええ、領主様が潤沢に資金をお与え下さったので、スムーズに苗木を手に入れる事ができましたよ」


「なに、ノーマの街がさらに発展し、住民たちの暮らしがよりよいものとなるならば構わんさ」


「ええ、ええ。全てはノーマの街のために…くくっ」


そう、全ては、ノーマの街の、ため…

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