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星野模型店の女店主 ~模型と一緒に恋も作ってみませんか?  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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ライバル その3

あれから二日が経ったが、真奈美は現れなかった。

少しモヤモヤしたものの、前回のように動揺するつもりはない。

彼は私のものだ。

今度会ったら、言い負かしてやる。

そう息巻くものの、相手が現れないとどうしょうもないわけで…。

そんな感じで二日か過ぎ、少し気が緩んできた時に知らない電話番号から電話があった。

まぁ、お店の電話番号だから出ないわけにはいかず、営業の声で対応する。

「はい。星野模型店でございます」

「あら、その声はつぐみちゃんかしら。なんか、この前聞いた声とは違って少しりりしい感じねぇ。営業用の声かしら…。そういや、うちの子も仕事先にかけるときは、いつもとは違った感じで喋ってたわねぇ…。やっぱり、外で仕事する人ってそうなるのかしら…」

それだけでわかってしまった。

彼の母親、鍋島弘子さんだ。

「えっと…鍋島さんでよろしかったですよね」

「やだぁ、弘子さんって呼んで。私もつぐみちゃんって呼ぶんだから…。そ・れ・と・も、お母様とかいいわよねぇ。あ、お母さんでもいいわ。うーん…どっちも甲乙付けがたいわねぇ…」

「弘子さんですよね」

なんか終わりそうにないので、さっさと話を進めるためにざっくりと言い返す。

「ああんっ。つぐみちゃんのいけずっ。もう、もう少し考えて迷って言ってよぉ…」

なんかどっと疲れる…。

とてもこの人から彼が生まれたとは思えない。

多分、彼は父親似なのだろうと想像する。

ともかく、話を進めよう。

「それで、今日はどういうご用件でしょうか?}

「なんか冷たいわ。私の腕の中で泣いていたかわいいつぐみちゃんはどこに行ったのぉ~」

あのーっ、あの時、私、泣いてません。

泣きそうになった記憶はあるけど…。

さすがに、疲れてきた…。

だから、少し語尾を強めに言う。

「すみません。今は仕事中なのでお客様や取引先の電話があったりしますから…」

「あらそうだったわ。そうよね、自営業だもの。つぐみちゃんの言うとおりだわ。ごめんなさいね」

そう言って素直に謝ってくる。

なんかそういう部分を見せられると、自分がすごく意地悪のように感じられる。

うーん、弘子さんの話術にハメられているのかも…。

ともかく、電話の用件を聞かないと始まらない。

「それでどんな御用ですか?」

「えっとね…真奈美ちゃんの件なの…」

なんとなく弘子さんからの電話だとわかった瞬間そんな気はしていた。

「はい。それで?」

「あの子も私にとって、娘みたいなものなのよ。だからね、仲直りして欲しいなぁって…」

思わず思考が停止しかけた。

この人は、何を言っているのだろうか…。

正気ですか?

そう聞き返したい衝動に駆られる。

しかし、それはさすがに言えない。

だから、ソフトに、オブラートに包んで言う。

「まさかぁ、あの人がそんな事を望むとは思えませんけど…」

「もし望んでいたとしたら?」

まさかあれだけ私に突っかかってきたんだからありえない。

だから、私は言ってしまう。

「なら、私も会って話を聞くぐらいはしますよ」

すると、「じゃあ、今日の二十一時に会いましょう」と弘子さんは言ってくる。

ええーっ。嘘でしょう?

動揺する私に、近くに喫茶店はないかと聞かれ、間宮館を教える。

「じゃあ、二十一時にそこで…」

「あっ…でも…お店が…」

「お店、二十時までよね?」

「でも、締めとか、明日の準備とか…」

思わずそう言うも、「すぐに話終わるから」と押し切られてしまう。

そして、結局会うように約束させられてしまったのだった。


そして、二十時五十分。

私は、間宮館の前にいる。

約束より少し早いが、何とか締めと明日の用意も終わらせた。

彼には黙っていてねと弘子さんに言われたので、彼には会う事を話してない。

だから、お店に来た彼は私と少しおしゃべりをして塗料と道具を少し買うと帰って行った。

多分、家、お父さんしかいないと思うけどなぁ…。

まぁ、それを言うわけにはいかないので、また明日ねと言って別れる時にキスをした。

なんかもうね、当たり前のようにキスしてるけど未だにすごくドキドキするし、幸せを感じてしまう。

この人と繋がっているんだという感覚に簡単になれるんだよね。

だから、私、キスはすごく好きみたい…。

おっと、そんなことを思っている状況じゃないわね。

こっからは女の戦場なんだから…。

パンパンと少し自分の頬を叩いて気合を入れる。

前回は不覚を取ったが今回は負けられない。

それも彼の母親の前でなんて最悪だ。

よしっ。いくぞっ。

私は間宮館の中に入った。

入ると時間より早いが弘子さんと真奈美がいた。

奥の方の席でなにやら話していたが、私が来た事がわかると真奈美はキッと私を睨み、弘子さんはうれしそうに手をひらひらさせている。

こっちだよ~って合図らしいけど、なんか手だけで踊っているのかと思ったのだが、それは置いておく事にした。

「すみません、遅くなりました」

私がそう言うと、真奈美が「まったくよ。遅いわ」と言いかけて弘子さんから頭を叩かれている。

拗ねたような顔をしつつも、黙り込んでいるところを見ると弘子さんには頭が上がらないようだ。

「いいのよ。まだ時間前だしぃ。謝る必要はまったくないから」

『まったく』と言う部分に力を籠めて言うと、ぎろりと真奈美を見る弘子さん。

その視線だけで縮こまる真奈美。

なんか漫才見ているみたいで面白いと思ってしまった。

いかん、いかん…。

ここは女の戦いの場だ。

彼をめぐる修羅場なのだ。

そう思って気を引き締めると二人の向かいの席に座ってコーヒーを注文する。

「しかし、ここいいお店よねぇ。うちの近くにも欲しいわねぇ…。こういうお店…」

店内を見回し、しみじみと言う弘子さん。

多分、声が聞こえたのだろう。

マスターが少し笑ったように見えた。

「はい。うちの常連さんなんかもよく来ていますよ。特にお薦めは、オリジナルブレンドのコーヒーですね」

「へぇ。そうなんだ。次は私もそれ頼んじゃおうっと…。ケーキがおいしそうだから、セット頼んだのよね」

そう言って紅茶を飲んでいる弘子さん。

すでにケーキは姿形もない。つまり、もう食べてしまったと言う事なのだろう。

てっきりコーヒー駄目だから紅茶頼んでいると思ってたが違うようだ。

そして沈黙が訪れる。

しかし、それだけだ。

まぁ、もう火花が出てたりしますか…。

私と真奈美の間で…。

そんな雰囲気を楽しんでいるかのような弘子さんの声。

「私としては、二人とも娘に欲しいのよねぇ…。そうだわ。つぐみちゃんが第一婦人で、真奈美ちゃんが第二婦人って感じでどう?」

「伯母さまっ。日本は一夫一妻制度です。しっかりしてください。それにもしそうなるなら、第一婦人は私です」

「やぁねぇ…冗談に決まってるじゃないの。真奈美ちゃんのいけずっ」

真奈美の身体から力が抜ける。

ああ、なんか初めて真奈美に少し同情したかも…。

そして再びの沈黙。

そして、弘子さんはぽんと手を叩く。

「仕方ないわね。それじゃあ、仲直りしましょうか」

ちょっと待てっ。

何でいきなりそうなる。

それは私だけではなかった。

「伯母さまっ、きちんと話を聞いていただければ、私がお兄ちゃんに相応しいとわかるはずです。だから、仲直りする必要はありません。この人は私の恋の障害物なだけです」

そう言う真奈美。

もちろん黙って聞いている私ではありません。

反論します。

「恋の障害物?昔の事ならいざ知らず、今、彼と付き合っているのは私なの。彼は私の事を愛してくれている。貴方じゃないのよ。つまり、あなたは私と彼の恋の邪魔者なだけなの」

もちろん、私の言葉に真奈美が納得するはずもなく、互いに言い合い続けることになる。

そして、三十分後…。

荒い息をしながら、睨みあう私たちがいました。

多分、いくら時間があったとしても平行線で交わる事はないでしょう。

このままだと確実に…。

そんな私達を互いに見た後、ため息を吐く弘子さん。

「お互いに思ったこと言い合ったら、仲良くなれるかと思ったのに…」

「なれるわけないです、伯母様っ」

「なれませんっ、弘子さんっ」

はっとしてお互い顔を見合わせる。

今まで散々、会わなかった意見が、その点だけは意見が一致したわけだ。

またため息を吐いた弘子さんは、ゆっくりと宣言する。

「なら、こうしましょう。真奈美ちゃんは、つぐみちゃんのライバルになりなさい」

「「はいっ??」」

声がハモる。

あまりにも突然の提案だったからだ。

「つぐみちゃんは今までどおりあの子と付き合いなさい」

「そ、そんなぁ…」

真奈美が悲痛な声を上げる。

「真奈美ちゃん、彼女にはその権利があるし、それにきちんと最後まで話しは聞いて…」

それで少し持ち直す真奈美。

「それで、つぐみちゃんとあの子がうまくいかない時は、私が協力します。誘惑するなりしてもいいからあの子を奪いなさい」

「弘子さんっ…それは…」

私の口から思わず声が出る。

「はいはい、つぐみちゃんも最後まで聞いてね」

「その代わり、つぐみちゃんとあの子がうまくいっているときは、手を出さない事。手を出したら…私が絶対に許しません…。真奈美ちゃん、この意味わかるわよね?」

真奈美の顔が青ざめ、目を見開いて何度も頷いている。

「では次はつぐみちゃんよ。つぐみちゃんもいいわよね?」

「でも…それって…」

「別にいろいろしろなんていわないわよ。つぐみちゃんはあの子を夢中にさせるだけでいいのよ。あの子は貴方にゾッコンなのでしょう?」

真奈美がニタリと笑い、私を見ている。

これなら簡単に奪えそうとか思っているに違いない。

だからこそ、私は力強く言う。

「もちろんです。私も彼もお互いに愛し合っています」

この前までは大好きですと言うのさえ恥ずかしかったはずなのに、互いの体を知る関係へ変わったからだろうか。

私は愛し合っていると自然に言えるようになっていた。

愛し合っているという言葉に真奈美の表情が怒りに染まる。

そして、私を指差して宣言する。

「星野つぐみっ。いいっ、彼を泣かせたり、彼があなたに飽きてしまった時は、全力で略奪してあげるから首を洗って待っといでっ」

「いいわっ。受けて経つわよ、鍋島真奈美っ。もし、私に落ち度が合ったら彼を略奪するといい」

そう言い返して、ニタリと私は笑う。

「でも、そんな事は絶対に起きないわよ!!」

今まで、自分自身に自信を持てなかった私なのに…。

なんでこんなにもはっきりと断言できたのだろうか。

ともかく、この女だけには負けたくない。

その思いが、私の口から出た結果だった。

「なんですってぇ…」

真奈美が私を睨みつけ、私は睨み返す。

そんな様子を見て、弘子さんは笑いながら言う。

「はいっ。これで成立ね。連絡先がわからないと問題だから、まずは電話番号とメアドの交換よ」

言われるまま、睨みながらも互いの電話番号とメアドを交換する。

登録が終わったのを確認した後、弘子さんは宣言した。

「ここに、真奈美ちゃんとつぐみちゃんとのライバル関係が成立したわ。お互いに女を磨き、切磋琢磨しなさい。いいわね?」

「もちろんです」

「ええ。わかりました」

互いにそう言って、にらみ合う。

「「この人には絶対に負けませんから」」

最後は、なぜか声がハマっていた。

もしかしたら私と真奈美は似たもの同士なのかもと、一瞬思ったのだった。

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