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星野模型店の女店主 ~模型と一緒に恋も作ってみませんか?  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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約束



「こりゃ…かなり手間がかかるぞ…」

家に帰って箱を開けて仮組みしつつため息とともにそう呟いていた。

そう、今製作に入ったのは、悟さんに渡された模型だ。

Tさんデザインのフィギュア『第二次世界大戦 ソビエト陸軍女兵士 シュパーギンPPsh1941サブマシンガン』だが、長いのでキットのキャラ名「ターニャ伍長」と呼ぶことにする。

このキット、烈風や彗星の会社だからちょっとは苦労するかもと思ったが、どうやらちょっとではすみそうにない。

バリは多いし、合いは悪い。その上、隙間だらけ…。

一緒に入っている銃器の方はしっかりしており、まるでフィギュアはおまけだから手を抜きましたって思ってしまいそうだ。

まぁ、そんな事はないんだろうけど…そう思えてしまう。

まず下半身と上半身を切り離して貼り付ける。

うーん。バリを削りたいんだが、モールドや境目が甘く、どこまでが合わせ目なのかわからず、削ってはあわせ、削っては合わせを繰り返す。

それで何とか張り合わせたのだが、今度は結構パーツとパーツの間に隙間が開いていたりする。

飛行機や戦車のように硬いものならそこまで考えないのだが、柔らかい布の表現を考えると、埋めてガシガシ削ればいいというものでもない。

だから、塗装に行くまでにかなりの時間がかかりそうだ。

しかし、考えていても埒が明かない。

まずは上半身と須半身を張り合わせしたものに、パテで隙間を埋めていくか…。

しかし、そうなると…パテが乾くまでは何も出来ない。

他のパーツの加工をしてもいいが、もうなんかこれはじっくり腰をすえて少しずつやっていくしかないと腹を決めるとやる気が起きない。

だから、このキットの今日の作業はここまでとして別の事をする事にした。

うーん…別にもう一つくらいキット作りつつやるかな。


さて、次の日…。

いつものごとく仕事の帰りに星野模型店に寄った僕は、ちょうどカウンターにいたつぐみさんとちょっと話をした後、店内の奥の方にいる悟さんを発見した。

どうやら次に作る模型を物色中のようだ。

「こんばんわ」

「おう、こんばんわ」

棚を見ながら挨拶をする悟さん。

まぁ、この人らしい反応に苦笑する。

「そういえば、昨日帰ってどうだった?」

そう聞かれて、ああ、確信犯だなとわかってしまう。

「あれ…顔の塗装の練習って言いながら、結構手間のかかる難易度高いやつだったんでしょう?引っ掛けましたね…」

僕が少し皮肉っぽく言うと、やっとこっちを向いてニヤリと笑う悟さん。

「よくわかってんじゃないか。そうだよ。あれはな、結構手間がかかるキットだぞ。硬いものではなく、布ややわらかなものの曲線だからな。表現するのは大変だし、修正するのも結構大変だぞ」

「だからですね。時間かかるかもしれませんよって言っても、「ああいいぞ。じっくり納得できるまでやれ」って言ってたんですね」

ははははっ。

悪戯っ子が悪戯に成功したみたいに悟さんは実に楽しそうに笑う。

「まぁ、他のキットでも作りつつ、チマチマやっていけよ。時間制限はつけないからな。ただし、納得できるものが出来たら持って来い。見てやるからな…」

「はい。わかりました。それで今日は何を物色してるんですか?」

僕は興味がわき、そう聞いてみる。

「なぁに、次の作るやつをどれにするかと思ってな…」

その言葉にふと思いついた事を聞く。

「あれ?積みとかないんですか?」

イメージ的には、模型をいくつか買い込み、積んでいてもおかしくない感じがしたからだ。

その僕の言葉に、悟さんはカラカラと笑う。

「おいおい、先の短い老人が積み上げていて、もし何かあったら作られなかったプラモがかわいそうじゃねぇか」

「まさかぁ…」

僕がそう言いかけると、悟さんはじっと僕を見る。

その表情は真剣だ。

「そうなる可能性だってあるって事だ。そんなわしが今本当に心残りなのは、孫たちの事だ。つぐみはしっかりしているようだが、まだしぶとさが足りないし、頼りない。それに美紀もまだまだ世間の事をわかっていない。そんな二人だけを残していく事になったら悔やみきれない」

悟さんの手が僕の手を握り締める。

その手は暖かく、力強い。

「だから支えてくれるやつが必要だ。南雲や梶山の坊主達もよくしてくれるとは思う。だけどな…」

そこで一旦言葉を止めて、じっと僕の目を見つめられる。

僕の目に映る悟さんの目は、まっすぐで必死な色に染まっていた。

「つぐみたちが本当に頼りにするのは、お前さんだと思うんだ。だから…」

その先は言葉にならなかった。

いや、僕が言わせなかったというのが正しいだろう。

「この先、どうなるかわかりませんから安易に任せてくれとはいいません。けど、つぐみさんが、いえ、つぐみさん達が僕を信頼して頼ってきてくれるなら、僕は喜んで二人を支え続けますよ。お約束します」

僕の言葉に安心したのだろう。

ふっと悟さんの手から力が抜ける。

そして…呟くように言った。

「つぐみはいい相手を見つけたよ。ありがとう…」

その言葉には、とても重い思いが籠められていた。

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