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星野模型店の女店主 ~模型と一緒に恋も作ってみませんか?  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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FM社 1/12? 第二次世界大戦 ソビエト陸軍女兵士 シュパーギンPPsh1941サブマシンガン その1

「ほれ…。これ作ってみろ」

悟さんから課題として渡されたのは小さな白地の箱だ。

「お前さんの課題はフィギュアの塗り方が甘い事だ。それですごく損をしている。エアブラシを使う予定がないなら、筆塗りのレベルアップを目指したらどうかと思ってな…」

「ありがとうございます」

今や悟さんは僕の模型製作の師匠みたいな感じになっていた。

本人も元々いろいろ教えたがりと言う部分もあったし、僕自身もいろいろ覚えたいということがあったので、実にいい関係になったんじゃないかと思う。

もちろん、つぐみさんとの事もあるし…。

そして、時折、課題と称して模型を渡されるのだ。

今回もいつもの喫茶店に呼び出されてといった感じだ。

そんなことを思いつつ、渡された箱をよく見る。

そこには三頭身の女性の兵士の姿が描かれており、後はシンプルに文字だけだ。


『FM社 1/12? 第二次世界大戦 ソビエト陸軍女兵士 シュパーギンPPsh1941サブマシンガン』


最近、烈風や彗星を作ったメーカーだ。

「なんかどこかで見たような感じの絵ですね…」

「おっ気が付いたか、それな…キャラクターデザインは、Tさんだぞ」

「えっ…TさんってDBの漫画を描いてたあのTさん?」

「そうだぞ。あとはゲームのDQのキャラなんかも描いてたな…」

驚いて、パッケージをまじまじと見る。

「知らなかったな…」

「まぁ、男でもよかったけど…まぁ、女性のほうが気合が入るかと思ってな…」

悟さんが苦笑して言う。

中をあけて確認してみる。

部品点数はたいした事はない。

しかし。

しかしだ。

フィギュアに対して、付いている銃器のほうが気合が入っている。

僕が銃器のところをじっくり見ているのに気が付いたんだろう。

悟さんは笑いつつ、解説してくれる。

「フィギュアは3頭身だが、銃器はほぼ1/12だぞ。その辺はメーカーやキャラテザしたTさんのこだわりってわけだ。それにな、1/12って稼動フィギュアのサイズとしても結構主流のサイズでな。いろんなメーカーから銃器だけ1/12で出てたりしてる」

「へぇ…。そういうものなんですか…。フィギュアはあんまり興味なかったから知らなかったですよ」

「何を言っている。アニメなんかのロボットもののプラモなんかもある意味フィギュアだぞ」

そういわれて、確か完成品の稼動ロボットのやつをフィギュアという名記がされていた事を思い出す。

「ああ。言われてみたら確かに…。しかし…これはなかなか難易度高そうですね」

そう言うと悟さんはニタリと笑う。

「何いってやがる。1/48や1/35よりもサイズが大きい上に三頭身で顔がでかい。フィギュアの顔塗りの練習にはぴったりだろうが…」

「確かにそうなんですけどね…」

元々苦手意識があるもんだから、気が進まない。

しかし、やるしかないか…。

僕はそう思い、「じゃあしばらく試行錯誤しますから時間ください」と言って喫茶店を出て星野模型店に向ったのだった。



「今回はフィギュアなんだけど…」

つぐみさんは僕の出した箱を見て苦笑した。

「それ、今朝、おじいちゃんが買っていったやつですね」

どうやら、悟さんはきちんと店の売り上げに貢献しているらしい。

公私をきちんと分けるタイプなんだろうな。

「そういえば…」

つぐみさんはそう言いつつ、奥のほうから何冊かの本を持ってくる。

「参考になるかはわかりませんけど…」

かなり古い雑誌のようだが、それを開いて見せてくれる。

「へぇ…これってタミヤの改造フィギュアのコンテストの作品か…」

そう言って見ていたら、一つの作品で目が止まった。

作品のタイトルは『ハイヨー、シルバー!』。

「えっと…これって…」

つぐみさんが、にこりと笑って言う。

「本人さんですよ」

そうなのだ。タミヤの改造フィギュアコンテストでTさんの改造フィギュアで賞、それも金賞をとっているのだ。

「金賞って…すごいな…。それに、このフィギュア…Tさんらしい味が出てる…」

そのフィギュアは、表情は漫画チックだが、躍動感があり、実に見てて楽しい作品だ。

たしかに1/35でこの表現力、再現力は素晴らしい。

つぐみさんは、それ以外にも何回か改造コンテストに出展してあるTさんの作品を見せてくれる。

どれもこれもすごくいい出来で、Tさんらしい味が出ていた。

「ありがとう…。すごく参考になったよ」

僕がそう言って本を返すと、つぐみさんはにこりと笑って「どういたしまして」と答えてくれる。

本当に助かってるよな…。

こんな頼りになる人が僕の彼女なんだ…。

思わず手が動いて、つぐみさんの手を握り締めてしまう。

つぐみさんも少し頬を赤らめて握り返してくれる。

暫しの間が空き…。

「はいはい。店内ではイチャイチャ禁止でーす」

ぱんぱんと手を叩いてそう言って奥から出てきたのは美紀ちゃんだった。

慌てて二人とも手を離す。

「そ、そういうわけでは…」

「そうよ…」

しかし、その言葉は美紀ちゃんのジト目の前に尻つぼみとなる…。

「すみません…」

「わかればよろしい…」

楽しそうに美紀ちゃんはそう言うと、つぐみさんに「交代するからご飯食べてきたら」と言う。

もうそんな時間か…。

じゃあ、帰るかな…。

ちょっと名残惜しいけど…。

そう思ってカウンターから入口の方に向おうとしたら手を引っ張られた。

誰かと思ったら美紀ちゃんだ。

「ふっふっふ…。今日は、私の料理の味見をしてもらうのだ」

「へっ?」

我ながら変な声が出たと思う。

「新しい料理にチャレンジしたからね。食べていってよ」

「えっ…いいの?」

そう聞き返すと、美紀ちゃんはこくこく頷いて僕に囁く。

「奥なら、イチャイチャしても文句言わないわよ」

その言葉に一気に顔の熱量が上がり、顔が真っ赤になっているのがわかる。

「い、いや…それは…」

多分、さっきのささやきが聞こえたのだろう。

つぐみさんも真っ赤になって、「ち、違うのっ」と言っている。

しかし、そんな僕らの背中をぐいぐいと押して美紀ちゃんは言った。

「ちゃんと後で味の感想を聞くから、イチャイチャするのに夢中にならないできちんと味わって食べてよね」

そういわれても…多分…無理かも…。

そんな事を思いつつも、気を回してくれた美紀ちゃんに感謝して、今日の夕食はご馳走になる事にしたのだった。

もちろん、つぐみさんといっしょに…。

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