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7 Sランクパフェ

 魔力が高まると、光の糸が現れる。

 ガイルとリベルの間でそれが動くなり、リベルはさっと距離を取り、ガイルは鬱陶しそうにそれを押しのける。


 そしてすかさず、女性は割り込んだ。


「ここまでよ。二人とも、十分強かったわ。ガイルは逞しかったし、リベルも運が味方した。それでいいわね」


 リベルはさっと剣を退く。


「俺に異論はない」

「ちっ……ここまでにしといてやる。まぐれで当たったからっていい気になるなよ」


 ガイルはドスドスと足音を鳴らしながら、部屋を出ていく。


 転生者三人がついていき、ティールは三人とリベルを何度も見比べた後、ガイルのあとを追っていった。


 そうして室内に残されたリベルはため息をつく。


「リベルくんは優しいね」

「なんのことだ?」

「手加減してたんでしょ」

「そんなことはないが。運が味方したんだろ?」


「あの男、千切れそうなほど怒りで血管が浮き上がっていたし、なだめるための文句だよ」


「そうは見えなかったが」

「リベルくんもまだまだだね」

「なんだそりゃ」

「言ってみただけ。ところで、『とっておきは残しておく』だっけ。とっておき、何個あるの?」

「魔力が使えないから、たいしたものじゃないさ」


 大幅に力を底上げするような技術は使えない。

 あるのは、磨き続けた剣技のみ。小さな技術の積み重ねがあるだけだ。


「まあいいや。おめでとう。お祝いに、奢ってくれていいよ」

「いや逆だろ。なんで俺が奢るんだよ」

「細かいことは気にしないの。とりあえず、街に行こうよ」

「その前に、少しだけギルドで話をしたい」

「じゃあ、待ってるね。一人でこっそり出かけたらダメなんだからね」

「わかったわかった。約束しよう」


 そうして二人は出かける準備を始めるのだった。



    ◇


「ねえリベルくん。どこに行くの?」


 冒険者ギルドで待っていると、アマネがぱたぱたと駆け寄ってきた。

 髪を結んで、ちょっとお洒落にしている。準備に時間がかかったのは、このためだろうか。


「街に行って情報収集する。あと、モージュから借りた武器もギルドのものだから返却したし、新しいものが必要になる」


「いいところ知ってるの?」


「ギルドの関連施設は聞いてきたからハズレではないと思うが、当然ながらこっちの事情には詳しくない」


「じゃあ、頼りにするね」

「……話、聞いてたのか?」

「バッチリなんだよね」

「どこをどう考えたらそうなるんだ……」


 リベルは肩を落とした。


「そういえば、俺のところに来ていていいのか? ティールたちも街に行くみたいで、集まってるのを見たぞ」

「えー。愚痴を聞かされたり、八つ当たりされたりしそう。言ったでしょ。あーいう男は尻尾ばっかり見てくるし、ろくでもないんだよ」


 アマネは尻尾をぎゅっとする。

 彼女の言葉には、ただ尻尾を見ること以外に意味合いがありそうだ。嫌がらせでもされた経験があるのだろうか。


(なんにせよ、詳しく聞くような仲でもない)


「せっかく誘ってあげたのに、あたしと一緒に行くのは嫌?」


 アマネはちょっぴり拗ねてみる。


「嫌ということはないが」

「じゃあ決まりねっ!」


 そういうことになると、二人は冒険者ギルドを出て街中に溶け込む。


「街にいて、誰からも注目されることがないというのは、なかなか気楽なものだな」

「まったく、そのとおり。ホント、それだけでもこの世界に来た甲斐があるね」


 Sランク以上の冒険者となれば、野次馬に囲まれることもある。ろくに街を歩くこともできなかった。


 あれでは見世物のようだった、と思い返す。


 一度話題が切れると、リベルはふと思い出して、本題を切り出すことにした。


「それにしても、昼食のときのあれ、綺麗なもんだったな」

「美人さんだったね」

「いや、人じゃなくて水晶の映像の話だったんだが……」


 リベルはあまり口がうまくなかった。


「まあいいや。ミレイとは、誰も知り合いじゃなかったみたいだな」


 この言葉には二つの意味がある。


 気軽にミレイと呼んだことから、「自分は知り合いである」というニュアンスが含まれていること。


 そして「アマネもまた、知り合いであろう」と問いかけているということだ。


 もちろん、転生時にミレイに会っていなければ、そのように解釈はしないだろう。全員知り合いでもなかったと判断するはずだ。


 しらを切ることもできるとはいえ、さあどうなるか。


 アマネはチラリと視線を向けてくる。


「その話だけど、転生者でもミレイさんに会った人はほとんどいないみたいだよ」

「なるほど。用がある相手にだけってことか」

「……ねえ、腹の探り合いはやめにしない?」


 彼女が鋭い視線を向けてきた。SSランク炎巫女の顔だ。

 誤魔化してもどうしようもないだろう。


「わかったよ。腹を割って話そう」

「そうそう。探るのは、腹具合にしてね。あのパフェ、おいしそーだね!」


 アマネは店の中を覗きながら、打って変わって、楽しそうな顔をする。


「さっき昼飯にしたばかりじゃ……」

「せっかく女の子が誘ってあげているんだから、喜んでよね」

「……ありがとう」

「よろしい」


(……なんだか調子が狂うな)


 振り回されているように感じつつも、悪くないような気がしてしまうリベルであった。


 そしてパフェを頼むなり、二人は向き合う。


「えっとね、大事な話があるんだ」


 アマネが告げると、リベルは息を呑んだ。


 大事な話がある、とアマネは言った。

 であれば、内容は明らかだ。


「パフェにかけるのはやっぱりイチゴソースだと思うの」

「いや知らんがな」


 すっかり出端をくじかれてしまうリベルである。

 空気を読んだのか店員がやってきて、


「お待たせしました」


 と二人の前にパフェを置く。Sランクのパフェだけあって、見た目も綺麗だ。

 そうなると、真剣な雰囲気も霧散してしまう。


「いただきます! うんうん、デザートは別腹だよね。……んー! 甘くておいしい!」


 アマネはパフェを頬張ると、尻尾を揺らす。

 なにを考えているのか、とリベルが悩んでいると、アマネは続ける。


「ミレイさんには、あたしのほかにもう一人、会う予定の転生者がいるって聞いたんだ。リベルくんでしょ?」

「随分さらっと言うな」

「腹を割って話すって言ったじゃない」

「そうだけどさ」


 いきなり言われて戸惑いを隠せないものだ。

 とはいえ、彼も切り替えは早い。


「俺はたいしたことは言われてないぞ。俺のことを知っている、そして見込んでいるということだな」

「……惚気?」

「そんなわけあるか」

「随分、期待されてるね。あたしは強くなってね、って感じかな」

「それは俺もあったな。強くなって、会いに来てって」

「うわあ、リベルくん、女たらしだね」

「なんでだよ。まったく身に覚えがないぞ」

「そこまで夢中にさせておいて無自覚なんて、ひどい男もいたものだね」


 リベルは眉をひそめるも、アマネは気にした風でもなく、スプーンをくわえて笑顔になっている。


「そういえば、最年少でSSSランクになったと言われたな」

「そうなんだ。頂点を目指すなら組むといいって言われたけど、それが理由かな?」

「……アマネとミレイの会話だってのに、俺の話が多くないか?」

「うん。だから頼りになるのかなって思って。でも実際に会ってみると」

「情けなかったわけか」

「あまり男らしくはないかも」

「悪かったな」

「でも大丈夫。今すぐ頼りがいのある男になれる方法を教えてあげる」


 アマネはとっておき、とでも言いたげな顔で――すっと伝票を差し出してくる。


「無収入にたかるなよ」


 リベルはさっとその手を止めた。


 半年分の生活費があるとはいえ、装備を買ったらあっという間になくなってしまう。豪快に使ってもいられない。


 前の世界にいた頃とは違うのだ。


「ともかく、理由はわからないが、俺たちに戦ってほしいようだ」

「リベルくんはそのためにこの世界に来たんでしょ?」

「ああ。アマネは?」

「えーと……まあ、そんなとこ」


 彼女はあまり言いたくなさそうにしていたから、リベルも追及はしなかった。

 なんにせよ、これ以上話してもわかることはなさそうだ。


「食べ終わったら、装備を探しに行くか」

「そうしよう。これからどんどん、活躍しちゃうんだからね」


 リベルはアマネを見つつ、パフェを頬張る。

 二人で食べると、それは甘かった。


 そしてまた、これで装備を買いに行けると思ったリベルの見込みもまた、甘いのであった。


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