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お宝は My Memory  作者: シキナミ
第一章 さあ、都へ行こう
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(8) アインシュタイン 

 はぐれをけしかけたかもしれない謎の相手が、単純に私たちを追い払いたいという私の意見は、可能性が低いというより全く無いのだそうだ。


 それなら最初の一頭だけで良い。


 では、あとの七頭の意味は。


 ペットで追い込まなければバラバラに動いていた。


 この森を移動する四人組なら、はぐれ一頭で大きな被害を受けるはずはないという。


 とすれば足止めかな。一度に退治したので今の静けさ……

 では、そろそろ結果を見に現れるだろう。

 

 できれば簡易砦と化したここで相手を待ちたい。

「では、出立の準備のふりをしよう」

とユリアは決断した。


 連絡がくるのにさほど時間は、かからなかった。

 しかも、二ヶ所……

「ヴィク、報告を」

「はい」

 姉妹に映像をまわしながら、

「はぐれを見つけたあたり、東北東5kmに人、8名。西10kmに大型ミノタウロス、はぐれの倍はあります」

 人にはサルとイヌが、未知のミノタウロスにはトリがついている。


「ストロンガーだね」

と画像を確認したエスター。

「ああ、間違いない。ミノタウロス・ストロンガーだ」

 ユリアが応じた。


「えーっと?」

と私。


「ミノタウロス・ストロンガー。魔法耐性が強く、驚異の再生力の面倒な相手ねぇ」

 なんだか、電気耐性が特に高そうである。


 ストロンガーは、はぐれと同じく群れを離れた個体なのだが、素性が全く違う。


 はぐれが群れからの落ちこぼれであるのに対し、ストロンガーは将来のエリート、ロードやキング候補であった。

 しかも、うろついているのは大きさから言ってキングサイズらしい。


 などとエイダから説明を聞くうち、こちらに向かっている人の集団から二羽のカラスが放たれた。


 カラスの一羽はストロンガーに、一羽はこちらへ。

 エスターの求めでデータを。

「方位、55,マーク15、距離800m」


 ユリアからは、

「脅すだけにして」


 うなずいたエスターが放った鏑矢はカラスをかすめ、おサルさんを脅かして消えた。

 スピード違反である。


 8人はこちらに急ぎ始め、ウロウロしていたストロンガーもカラスを追って、こちらへ来ると決めたようだ。


 打ち合わせでまず私が人に対応することに。

 ストロンガー登場には8分ほど間があるが、姉妹は万一に備えていた。


 8人は、集団で堂々と現れた。害する気が元々ないのか、こちらの偵察に気づいたのか。


 先頭に立つツルピカの2m近いゴリラのような剣士がリーダーらしく、魔法職は少し小柄な二人、灰色と黒のローブにとんがり帽子、短弓使いが2,盾2,槍1の構成だった。


 ドウェイン・ジョンソンは一番リーダーらしいユリアを見たが無視されているので、私を見下ろした。

 ジャングルがにあいそうな男である。


「カオール」

と右手を上げる。


 カヲルという名前では……あいさつ? この世界の言葉ではなさそうな――バカにしてる?


 なら、

「にゃんぱす~」

と返した。


 大男は少し驚いたようだが、なんとか持ち直し。

「君たちは状況を承知してるのかい?」


 彼らは一番若そうなやつでもユリアより年上に見え、だいたい30才台な感じ。

 だからやむを得ないのかもしれないが、私はかちんと来た。


「ありきたりなセリフだけれど、まず名乗っては? そうでないなら、勝手に名前をつけますよ。23号とか」


 ストロンガーの接近が気になるのか、リーダーは頭を下げた。


「すまなかった。番号は囚人じみているから止めてくれ。俺はドン・ジョンソン。この8人の冒険者グループのリーダーをしている」


 ジョンソンなのかい。まあ、ともかく。

「ヴィクと呼んでください。大きなミノタウロスが近づいているのは知ってます」


「それなら、話ははやい。ヴィク、俺たちとパーティーを組まないか? 俺たちは全員ランキング三桁だし、3人は100台だ」


 冒険者のスキル、『パーティー』は6人まで参加できた。支援・回復魔法や防御スキルの効果が上がるので、とても便利である。

  

 またランキングは、AGP(冒険者ギルドポイント)で決められる順位で、リアル世界のATPポイントとそのランキングに似ていた。

 ギルドクエストには難易度に応じてポイントが付与されており、1年間の獲得ポイント合計で順位は決まる。

 

 ちなみに姉妹は超一流だ。


 私たちの意志は決まっているものの、パーティーに関する権限は私にはないので、ストロンガーの進行速度を確認し終えたユリアに任せる。


「野良パーティーでは連携が取れません」

 キニスン姉妹を知っているらしく答えは。

「しかし、俺の推理では君たちなら」


 何が推理だ。ゴリラ探偵ムッシュバラバラかってーの。


「それに、まだ5分くらいはあるようです。ここは逃げて隠れるのもよいかと」

「街道筋に巨大ミノタウロスを放置するなど、冒険者に許されることではない」


 反論しようとしたがエイダにこづかれ止めた。

 確かに口を挟む必要はなかった。


「私はあなた方に言っているのです」

 ユリアは情け容赦ない。

「な、なんだと! 俺たちだけで充分だ!」

「戦うなら共闘を」

「必要ない!」


 それでもエイダは魔法用のしかけを二人の魔法職に伝えた。

 

 元々、彼らは雑魚殺しでの疲労を避けるため、各個撃破する作戦だった。


 デカイやつが残ったところで、安全策をとりパーティーを組もうとしたようだ。

 倒す自信はあるものの、リスクの高い戦闘になると推理とやらをしたのだろう。


 しかし、姉妹の力を認めるなら、戦闘だけでなく、判断も尊重すべきだ。

 

 ストロンガーもピンきりで、もしこいつにキングを倒す実力があるなら若い分、ミノタウロス最強のはずなんだけど。


 姉妹と私は臨戦態勢のまま、街道を挟んだ東側に下がる。

 攻撃の巻き添えはごめんだ。


「どうなんですか、彼らは」

 同情する気はないものの、目の前で倒されるのは見たくない。

「実力もあるし、手慣れている」

 様子からして知り合いも含まれているようだ。


 ユリアの説明を受けて見ると。

 前衛はゴリラの両脇に盾、数歩後ろに槍、後衛に魔法職、更に離れて弓2。

 

「弓だけでパーティーを組んでいるけど、あの弓であの距離では……はぐれなら大丈夫なんだけどね」


 そう言うエスターは貫通性の矢を用意していた。


 私も雲を集め始めている。魔法耐性のせいで倒すのは無理なのだが、足止めには使えると言われていた。


「ヴィク、もう用意はできてるのかしらぁ」

「はい」

「最大級?」

「さすがに、それは。畑全体に窒素化合物を撒く規模だと全員黒焦げになるので」

「さて、並のストロンガーなら私たちの出番はないけど、たぶん王殺し級よぉ」


「斜陣、右前からヴィク、私、エスター、エイダ。奴らが崩れそうなら、一発かまして、エスター!」

「ガッテンだ」

「もう! ヴィクが教えたのぉ?」


 さて念の為、詠唱をと。

「シャランラシャランラ、イエ……えっ?」



 ミノタウロスが現れた。

 両手にそれぞれ蛇腹剣を持ち咆哮する。そのまま蹴り上げただけで男たちの前衛は崩壊した。

 すかさずエスターが矢を放ち、違わず胸のコアの位置に刺さるが浅い。

 強敵にはコア狙いが基本である。


 ストロンガーは男たちを無視してこちらにダッシュした。


 また私だけに音楽が。これってやばいかも。

 蛇腹剣でこの音楽って……ゼルエルじゃん。

 私が零号機かも。いやいや、姉妹を信じよう。


 男たちが目を丸くして見ている。詠唱は丁寧にしよう。


「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ。喰らえ雷槌、ジゴワット」


 前回より激しい音と閃光がした。

 正直、ヴィクの記憶ではもっと離れて落とすので、私もびっくり。


「あれ?」


 ミノタウロスがまた消えたぞ。

 今度は灰もクリスタルもない。

 私が首をひねっているうちにイヌが心配そうに足元に来て、ワンと……

 消えたあたりに氷の破片……


「来ます。武器の用意」

「なんのことよぉ、ヴィクちゃん」

「ちゃんは止めてください。消えた位置に現れます。勘ではあと十五秒」


 ストロンガーはこの物語最初のタイムトラベルをしたのだ。


「なんなのよ」

「縦隊、私、エスター、ヴィク、エイダ」


 さすがユリアはよく見ている。最初の矢が浅かったので至近距離にエスターをおいた。なら私は。

 スリングを用意して回し始め、ストロンガーが現れた。

 姉妹の腕の輝きは今までで一番。


 エスターが矢を射るが、まだ浅い。


 ストロンガーは怒りにまかせ右の蛇腹剣を振り上げた。


 ユリアは腰を低く落とす。


 エイダの詠唱が響き、次々チャージされた。防御、移動、回復魔法だ。


 スリングを離れた石が矢筈をうち、シャフトがめり込む。


 動きが止まったストロンガーの胸にユリアのクレイモアが突き刺さった。


 巨大な角とクリスタル、そしてレアボールがあとに残った。


 


 戦いが終わり、エイダと二人の魔法使いはけが人の治療にあたる。


 元気なものは街道の敷石を修理しているが、私はユリアの許可をもらい傷だらけの二羽のカラスの治療をしていた。

 それほど深い傷はない。しかし疲労がひどかった。


 使い魔の扱いは私の知るペットとは違うようで、二人はもう新しい使い魔と契約しており、二羽は無職になった。


 治療と修理が終わり、全員が集まったところで、スルグーと甘い焼き菓子をふるまった。


 質問したげなゴリラにユリアは、先程の角とレアボールを差し出す。


「これは?」

「受け取って欲しい」

「冗談じゃない受け取れないぜ。恥ずかしながら、助けてもらったのは俺たちだからな」

「口止め料と思ってくれればいい」

「なんのことだ」

「そこのヴィクは行方不明の両親の情報を求めてホルスに向かってる」

「なるほど、騒ぎは困るってことか。俺の、いや俺たちの口は堅いぞ」

 

ゴリラは胸を張った。


「キングサイズの角とキングしか落とさないようなレアを私たちが売るわけにはいかないってこと」

「なーる。しかし」

「クリスタルも大きかったのは見たでしょう」

「まあな」

「きっぷの良い申し出には、応えるのも漢ってものしょう」

「なるほど。まあこれからは、俺たちのことを当てにしてくれていいぜ」

「せいぜい期待している。ところで最初、あなた達から敵対的な感じがしたけれど」


「それは、まあ、お前たちは怪しかったからな」

「どういうことかな」

「クチャ周辺に盗賊が出るって噂を知らないのか」

「初耳だ」

「まあ、噂だからな。しかし、俺の知り合いで、3組が消えている。商人ばかりだが、一人は護衛を3人雇っていた」

「厄介だわ。証拠がないのね」

「そういうこと、官憲は動かず。今回俺たちが雑魚刈り中にあんたたちが来たので、隠れた。そしたら意識の戻ったはぐれを一瞬でたおしたろう。怪しすぎさ」


「辻褄は合うけど、じゃあなぜ出てきたの」

「気づいてると思うが、俺たちは稼ぎに来たからさ」

「背に腹は、ってことか」

「そういうこと。ところで、お嬢ちゃん」


 誰のことだろう。

「ヴィク」

とユリアに言われ。

「わ、私か」

「両親探し、頑張れよ」

「はい、23号」

「それは止めてくれ」


 悪いやつじゃなかったようだ。

 ヴィン・ディーゼルの方が好みだけど。


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