(7) やっておしまいなさい
私たちは、まだ同じ場所に立っていた。
いつもなら即断即決のユリアが動かない。
しびれを切らしたのはエイダ。
「ちょっとぉ姉さん」
「ごめん。さっきのはぐれ、おかしかったんだ」
「確かに弱すぎた気もします」
と私。
「いやいや、弱いわけじゃなくて充分な一撃だったわよ。石は重いから打撃力は私の矢と変わらないわ」
いえいえ、運動エネルギーは速度の二乗に比例なんですよエスターさん。
「どうおかしかったの。私にはわからなったけどぉ」
「近づかないと見えないし、それに高い位置だったから、倒れ始めたときオヤっと思ったけど体が消えちゃってさあ」
「それでなんだったのぉ?」
「頚部のケガ。奴らの治癒能力から考えればごく最近のものね」
「手負いだったなら街道までのこのこ出てきたのも頷けるわね」
「でも、皆さん」
と私は疑問をていした。
「かなり広い範囲で再偵察しましたが、他のモンスターは見当たりませんが」
三人は一度顔を見合わせる。
エイダが説明してくれるようだ。
「人かもしれないのぉ。このあたりは、モンスター狩りのパーティーが来ることは話したでしょう?」
「はい。中級モンスターを狩る力があれば、良い稼ぎだと」
「まあ、そういう輩がこの近くに基地キャンプを張って狩りをしていたならねぇ」
「私達が邪魔なので追い払うということですね」
ちょっと、やり過ぎな感もある。姉妹なら私がしゃしゃり出なくても簡単に倒せるようだけど、隠れている相手がこちらの力を知っているはずもない。
「ところで先日ヴィクが見せてくれた魔法が強力だったので言うの忘れていたけど」
「素人です」
「まぁ、素人というには強力すぎるし……ああ、そうそう人前では無言で打たないでねぇ、魔法」
「農場には一人きりでしたし、果樹園に水をやったりする作業だったので……それにエイダさんだって」
「私は声には出さずともちゃんと詠唱してますぅ。これでも学院の優等生なんだから。ヴィクは目立ちたくないんでしょぉう」
「まあ、ええ」
「年上の忠告は聞きなさい。ねぇ」
「はい」
中身、おっさんですけど。
魔法が強力で即発動するのは、プレイヤーキャラクター的優遇なのだろう。
もちろん一応説明のつく設定は用意されていた。
ヴィクが12才の時姿を消した母親が帝国以前から続く魔女の系譜だったこと、15才のとき母を探して旅に出た父親が『ドリトル先生』的能力の持ち主だったことである。
母はいなくなるまで農場で必要な魔法を詳しく教えてくれたし、ささやかな私の調教能力は父の指導で比類なき(と父は言っていた)レベルまで達している。
沈黙の中、ユリアが私を見た。
「なんでしょう」
「偵察範囲に何か異常はないのかな」
「実は今も調査中なのですが……」
嗅覚には、他の感覚にない特徴がある。
一つはにおいが、かなり長時間残ること。村なら半日は可能だ。
もう一つは風向きに左右されるものの森のような障害物なら難なく感知できる点だ。
「はぐれを初めて見つけたあたりにいくつかの嗅跡があります」
「イヌ君に種類は分かるのかな」
「はぐれが何頭かと、あまり薄くて判別不能なものがいくつか」
「どこへ続いているのかわかる?」
「そこでプッツリ。まるで見えない川が流れているように」
「エイダはどう思う?」
「ちょっときな臭いかなぁ。追い払うだけにしては、凝ってるもの」
追跡を断ち切るかなり手間のかかる魔法がかけられていると言う。
エスターは弦のチェックをし、矢の追加分をアイテムボックスから出している。
ひょっとして、やばいのか。自分はともかく姉妹に怪我をしてほしくない。
「ヴィク、ペットたちは戻して餌を与えた後、周辺警戒させて」
「わかりました」
「今日の午後は動かず、ここに留まってキャンプする。守りやすいからね」
私はペットの世話を、ユリアとエスターは切った木で簡単な矢盾や柵を作った。
エイダも魔法で発火させる煙幕や催涙装置を周辺にしかけ、敵の隠密魔法を解除する結界を張った。
ペットたちは食事もそこそこに偵察任務にたち、準備を終えた私達四人は待つ。しゃべくり倒しながら……良いのかな。
30分後、三匹からほぼ同時に連絡が来た。
「来ました」
そう告げてパーティーの連絡網に映像をながす。
嗅跡の途切れた付近から急に現れたはぐれミノタウロス7頭、悪意しか感じられない。
ここは、
「わ、私が!!」
「び、びっくりしたなぁ、もう」
「あわてないでね」
「もともと今回先陣はヴィクに任せるつもりだったよ」
「魔法でやっちゃってぇ。私が」
「ああ、バックアップはエイダだ」
「おまかせぇ」
「フォーメーションは∀(ターンエー)」
前方左右にエイダと私、後ろの要はエスターで、中央にユリア。
範囲魔法を放ち、弓の援護を受けて剣士が飛び出す作戦である。
雷で行こう。森で火は危険そうだし、強い風魔法にはペットが近すぎる。
それに準備時間があるので、雲を呼び静電気を発生させておけばほとんど魔力を消費せず、言い換えれば疲れずに強い魔法が打てる。農民の知恵なのだ。
三匹は私の指示に従って、安全な距離からはぐれを集めてこちらに引いてくる。
家畜を狙う狼やネロネロを扱うのと同じ作戦だった。
農場で害獣を倒すのは女王率いる虫たちの役目だったけどね。(と言っても実際に私が参加したわけではなく、ヴィクの記憶にあるだけなのだが)
森から跳び出してきた三匹は私の足元へとスピードを上げる。
姉妹のブレスレットも輝き始めた。能力アップとかの加護つきなのだろうか。
用意したミニ積乱雲では雲放電が始まっていた。
来た。七頭いる。
よし!
まばゆい閃光と轟音とともに窒素化合物が……じゃなくて、雷槌がミノタウロスを襲った。
しまった! 何か呪文だっけ。
「ギガワット! ……あ、あれ?」
あとに残った七つの消し炭がしばらくすると消え、七つのクリスタルが残った。角も消えたようだ。
三人の感想は、
「やれやれ。まあ、見事と言うしか」
「過ぎたるは……ですよね」
「呪文が変。それに手加減ていうものを知らないのかしらぁ」
では呪文をピチカートにしようかな。