(6) 黒い森の戦い
トリが見つけたのは森の獣より大きなもの。こちらに近づいて来る。
森の奥には中級モンスター多いのは確かだけれど、基本的に街道には近づかない。
商人や冒険者を襲っても見返りは少ない。それに、ここには中級者モンスターで稼ごうとする正統派ではない上級冒険者も来るらしいから。
イヌとサルからの報告を待っていると変な音? 音楽が聞こえてきた。
「なにかしら?」
と問うても三人には聞こえないらしい。
どこかで聞いた……[ANGEL ATTACK] か
「報告きました。パターン青」
「え?」
「なによ、それ」
「意味わからないぃ~」
えーっと、岡本喜八監督の作品から話せば良いのかな。
ふざけた態度は緊張のため。知る限りこの世界での死は遠回りになるだけで、大きな問題はない。しかし、この世界の住人である姉妹なら……
わずか数日で彼女たちがすっかり好きになっていた。
「ちょっと、ヴィク」
ユリア、ちょっと怒ったかも。
「はぐれミノタウロス一頭、速度を上げて接近中、5分後に接触します」
「了解。フォーメーションΛで待機」
攻防に、特に防御に優れたユリアがリーダーで頂点、左後方には攻撃特化のエスター、二人の間にバランスのとれた魔法使いで分析力の高いエイダ、私は右後方だけどラムダが目標に対して右向きなのでも分かるように、おじゃま虫である。
しかし今後もクエストのために冒険者として活動するなら、単なるポーターでは参加できるパーティーがかぎられる。私は戦いに参加することを望み、彼女たちは受け入れた。
ユリアはレザーアーマーにクレイモア、防御役は敵から一番危険と認知される必要がある。プレートアーマーに金属盾の木偶では、先にエイダが襲われて、お終いだ。
優秀なエイダは三つの魔法をチャージすることができ、さらにパーティー全体に防御力アップをかける。
攻撃の要、エスターの弓はエルフトネリコの木をベースに前方にユニコーンの腱、後方(弦側)に竜の骨を貼り付けた複合弓で、外見はトルコ弓に似ていた。凄まじい攻撃力で鹿なら軽く四頭の胴を貫通するという。縦に。
つがえる矢、二の矢ともにシャフトに貫通せぬための可変ストッパーと血を抜く溝があった。中級以上では胸奥のコアを狙う方法もあるが、頸動脈と大腿動脈狙いだ。
そして私はスリングにテニスボール大の石、200個ほどをアイテムボックスで平均化して表面は凹凹だけれどもほぼ球形になっている。
イヌからの情報を伝える。
「きます! 10,9……」
「全員集中!」
とユリア。
三人の腕の瑠璃がにぶく光る。
ユリアは右手でクレイモアをもち左拳を腰の後ろにまわして人差し指を立てた。
サインにしたのは、知能があるとされる中級以上のモンスターはある程度人語を解すると説明を受けた私のアイデアなのだが、なんだか部活っぽい。
あっと、このサインは私だ。
「5,4……」
見えた。身長2.5m、成体のミノタウロスとしては最小らしいが充分でかい。
スリングを二回転させて、固定していない側を手放した。
「そーれ!」
スリングの射程は400m、初速はワールドクラスのテニスサーブに匹敵するはずである。
ゴスっと妙な音がして石ははぐれの額ではね後方へ。
だめか! 頭が傾斜装甲とはね。
あきらめて長柄のチョッパーを持ち、エイダの横へ。サイスは薙ぎ払うのが専門なので、この位置では危険すぎて今回は封印。
はぐれが動かないせいか、ユリアは全員待機のサインをだして近づいていく。
「ちょっとぉ、姉さん」
エスターは無言のまま弓を引き絞った。
ユリアは返事することなく、はぐれをコアもろとも一刀両断し後にはクリスタルと角だけが残った。
心の中でサキエルくんと名付けたミノタウロスの冥福を祈ろう。
まるで試合の後のチームのように私達は円陣状に立っている。
「君の初討伐だ」
ドロップ品が私に差し出された。
「やるじゃないの」
「おめでとぉ」
私は角を一本だけ受け取り日付と四人の名を刻んで記念品とし、あとはパーティー所有であることを確認し、アイテムボックスに収納した。
中級以上のドロップであるクリスタルは魔力を用いる作業の必需品、魔法触媒のもとになるので高価である。
三人の表情を見るに少しは仲間と思ってもらえたようだ。
これでよかったのだろう。
[ANGEL ATTACK] はいつの間にか消えていた。