(2) ギルド館
村の中心部までは馬車で約30分、15kmほどの道のりになる。ローマ街道のように舗装されているのは、かつてこの王国を含む大陸北部全体を支配していた大帝国の脇街道であったからとヘルプにはある。
道に現れる雑魚を三匹がなんなく倒していくのを確認したので、装備ウィンドウを再確認する。
農作業用の道具の中で武器として選んだのは草刈り用の大鎌予備武器は屠殺用の長柄のチョッパー、サイドアームは解体用のロングナイフ(クリス)、飛び道具は投石機、もちろんカタパルトではなくスリング、えーっと抱っこ紐のベビースリングじゃなくて、羊毛で編んだ身長ほどの紐の中央に石を挟む幅広の部分がある武器。羊飼いが害獣退治に使用する道具だが、アナバシスに出てくるように古代から兵器としても使われている。武田も雁殺しをつかったのかな。
農婦のパワーと6日間の練習で狩りには使えた。問題は対人だろう。
戦いに使えるペットは三匹までなので彼らに頑張ってもらうしかない。
キビ団子を作っておくべきだっかも。
村はささやかながら塀や狭い堀で防御体制が整えられており、門には顔見知りの老人が立っていた。(実際会うのは初めてなのだが)
「やあ、ヴィクちゃん」
「ちゃんは止めてください、スミスさん。もう17なんですよ」
「レディーは軽々しく年齢を言わないものさ」
「もう!」
「ふぉふぉ、ふへ」
入れ歯が飛び出すのはお約束のギャクなのかな。
歯を拾い上げた爺さんの手元に生活魔法で洗浄用の湯をかけ、村に入った。
三匹はすでに馬車の荷台で休憩している。
村の中央には広場があり、それを囲むロータリーに沿って役場、様々なギルドがテナントとして入っているギルド館、公設市場、集会場、演芸場などが集まっている。
もっとも役所とギルド館以外は常設ではなく、忙しい今の時期の昼間は村民が耕地や牧場や山で働いており閑散としていた。
馬車止めで降りて荷台の給水器に冷たい飲料水を召喚する。犬と鷹にはジャーキーを、猿には……
猿は足元にジョッキを置き揉み手をしていた。
だまって赤ワインの瓶を渡すとペコペコお辞儀を繰り返す。ほんとに猿は調子のよい。
飲みすぎぬように声をかけてギルド館に入る。
ひんやりとした空気が春の陽気で少し汗ばんだ体に心地よい。
入口近くの生産系ギルドの顔見知りに会釈して奥へ進んだ。
奥左のフードコートは無人だ。この時期開店は夕刻からになる。
その右隣から冒険者ギルド、商人ギルド、少し離れて銀行支店となる。ここは王立銀行だけでなく王国南部組合銀行と北部商人同盟銀行の口座を扱っていた。
冒険者ギルド受付で髭のむさいおっさんがこっちを睨んでいる。オランダの民族衣装を地味にした服を着た農婦が冒険者のわけがないでしょうに! 感じ悪い。
「あら、ヴィッキー。売りかな」
と声をかけてくれたのは商人ギルドのハルカさん。
「ワインとリンゴを。でも、その前に」
両親の情報がホルスにあると旅人から聞き、確かめに行きたいので管理人を探していることを説明した。
「希望はわかったけど、あなたの代わりとなると……」
「動物たちは大丈夫。連絡もとれるから」
「それなら、あとは農業魔法か」
ハルカさんは後ろの棚から大きなバインダーをだして繰る。
「中級のご夫婦なの」
記載を見ながらしてくれる説明では魔法能力は充分らしい。
少し予算を超えるのはワインの現物支給で話がついた。コーンウェル家のワインの力である。
価格交渉は難航した。
高級ワインはほぼ希望価格なのだが、その他は特にリンゴがひどい。理由はわからなくもない、輸送コストだ。
それなら、
「都に向かうとき運ぼうかな」
「あなたが!」
「ええ」
「じゃあ、輸送契約を」
ハルカさんは、ほぼ希望通りの価格を示し、さらに輸送料を上乗せした。
好条件である。直接都で販売できればさらに5,6割増になるが、販売できればである。
一部の特権商人を除けばギルドを無視して商売はできない。
結局、高級ワイン以外はこのまま自分で運ぶことになる。高級ワインも含めると保険価格が高すぎた。
輸送の打ち合わせをしている間に3人の女冒険者が入って来た。金髪碧眼のよく似た美女だが、元気があふれているらしく、とてもかしましい。
三人は大きな瑠璃をはめ込んだおそろいのブレスレットをつけていた。
ギルドが奥にあるのに気づいたようでこちらに向かって歩いて来る。
「第一村人発見!」
えっ、私? スミスさんはどうしたんだ。