第四話 光の輪
紅悠さんと、僕は、六款さんに勇魚風呂の礼をして、水時計に戻った。
シードルをニ本渡し、寝てしまった剛駿さんには、後程、加薬飯をお届けしますからと、メッセージを下げて、クレソンの束と、器を抱え、僕達は水時計に立っていた。
置いてある自転車を見ると、まだ行司さん達は刷り場にいるらしく、水を飲みに来た小鳥達が楽しそうに歌っているだけで、水時計の辺りはとても穏やかだ。
「六款サンとお話されてマシタネ。」
「勇魚に出会えて、感激ですよ。
あんなに巨大な作品、何かスケールの違いを感じたと言うか。」
「ソウでゴザイマショウ。アノお方ノ分身デスヨ。たーだーしィ、反復ぅ横飛びィ、未来ノ針ハ同じ時をォ指さし振リ子かぁホロホロホ-。♪」
「何ですか?それ。」
「お望みのー安全かーくにんデス。ご自身デ。」
♪
「♪蟹を追いかーけてェ、沢ヲ走ルかぁイ?うーみーを駆ケ足、岩場デもぉがクゥかーー♪
新境地ヲ走りマスカ?掴まえて下サァーい。ワタクシ、紅悠リ-ンリン、自由に空ヲ飛ビ回ル、小鳥達トノ競演ヲご覧アレ。」
紅悠さんが、指笛を吹くと小鳥達が水時計に並び、笛の合図で一羽ニ羽と片腕に止まって行く。
一列に数羽止まるとその場で空転。
正面を向き笛を吹くと、止まっていた小鳥が一羽づつ頭の上に飛び、笛の合図で、水時計に戻っていった。
僕も水時計に寄り、指を出してみると小鳥が一羽、手に乗ってきた。
「掴まえましたよ。蟹も捕まえろと?」
「♪小鳥デナク、鷲鷹ぁコンドルさえ追エといーえバ、捕マエルカ、捕マエタイノかなぁーホロホロホ。♪」
紅悠さんは、水時計に並ぶ小鳥達を、見事な技で進めたり、飛び交わしたりさせる。僕は勿論、コンドルなど追っていない。
勇魚での感動を伝えただけなのだが、紅悠さんを見ていると、心の秒針のねじが巻かれているような感じがするのだ。
「ほーっほーっ。小鳥達も懐いておりますな。紅悠さん、御髪を整えられ、ヒルガオ香り美しくそのご様子ですと、勇魚風呂に参られたかな。」
「六款サンノご好意デス。木枝、薪作りヲやらせて頂キマ・シ・タ・ノデ。」
「すると剛駿は、玉の緒を繋ぐべしと、身体補填されておると。三日、四日と寝り続ける事もありますが、それ程ではございませんでしょう。」
「湯ハかながき、六款サンノ事デスカラ創作ノ気病みを野草デ取り払っテ下さってマスヨ。」
「ほーっほーっ。言継さんは、勇魚の主にお会いできたと。ご発展はございましたか?」
「はい。」
撰り抜きした器を行司さんに見せると、喜・産・創の絵文字に
「まずは、ご発展されて、喜ばしいですな。のちは、洋洋にてか、遠き未来か。暫くは、この器を使いましょう。」
考・動・実の器、古い器も確認すると、水時計から流れる水で洗い
「組み立て行く、楔一つ一つが大事ですぞ。さて、風姿も勇ましく、前身あるのみ。見集めた落とし物はございませんか?」
頭に巻いたタオルを外し、染め場の葦編み帽を被ると、僕の秒針のねじは、目一杯巻かれた。
†
「お待たせしてしまいましたかな。」
草野風さん、背高さんも刷り場から戻ってきた。
「さあ、これからの宴も楽しませて頂きますよ。夕暮れ山影も現れるのではないですか。はい、急ぎましょう。」
僕を先頭に、再び自転車で円形広場までの水路林を走って行く。
水車はもうフル回転だ。
広場に出ると、人々が円形に添って集まっていた。広場の中心では、大きな釜と、火を焚く人々。湯気や煙りが立ち昇り、足元には、燈取りだろうか、木彫り河童のランプシェード。
「ドンッすーがーたぁ、あーたーまがぁでたか。」
円形建物の窓から、中にいる河童と、その他も河童の面を被り、一人、外で指揮をとる河童の足踏み音に合わせ、声を出す。
「ドンッドンッひーなかに舞えば、嘲るか。」
「山の如しと洋洋に、かーおーをだーさーれりぃ酸葉もぉ食うは、好きずきとぉ。」
「おいでください。ホドの釜飯ぃ。」
「ドンッ目ぇが出たかぁ。」
河童達の調子に合わせ、日が沈んでいくと山影から丸い頭が出て、重なる森との窪みの影で、大きなだるまの姿を現した。
「洋洋雨も降らせれば、だるま様も実が付くとぉ、
詠歌聞くはぁ楽しまれりぃー。」
だるま様は、中央の釜飯を包み込むと、夕日と共に消えて行った。
「ほーっほーっ。河童が燈を操りますぞ。」
「火灯し頃になぁりました・た・た・た。」
河童達は、林の先に小さな姿を燈すと、一斉に明かりを付けた。足元のランプシェ-ドは、道を指し、さらに大きな松明に炎を付けると円形建物のプロペラも回り、窓から明かりが照り輝いた。
河童は、明かりをかざし光を揺らす。
円形建物からの照明と合わせ、場内はフラッシュ。腰から下げた筒に火を付けると、火薬花火が打ち上がった。
「盛大ですな。」
「河童ぁのホド飯、加薬飯、ヒドコに集まり、お温まり下さいまーせ。」
「ほんの一瞬なんですね、だるま様。」
「元々《モトモト》アノ山姿なノデ、通称だるま山ト呼ばれてイマス。」
土管に横たわり目の前に落ちると見えたのは、この山影だったのだろう。
古道で道に迷ったが、方向を指す目印になり、落ち着き払った、堂々としただるま山は、大きな瞳で洋洋村、桔梗坂町も見据え、木々を育てている。
「河童加薬飯ぃー。スイスイゴンボ、ツクシ、ツユクサ、ノビノビノビル。明日もお会い致しましょう。
アシタバ、フキフキ、カワエビ、ヤマメ、生姜ピリリと、ワサビツン、ネギ坊主と山ゴボウ、山の芋をとろりとかけて、ごま、きのこに、かにも来る。
川太郎ー、まだまだ川幸、山の幸、洋洋米と見合さってお持ち致しました。本日の洋洋具沢山、加薬飯でございます。」
お盆を首から下げ、二十センチ程の長方形の木箱が、何段か重ねられていた。
炊きあがった釜飯を河童達は木箱に詰めると、束ねた箸を持ち、広場の人々に配った。
「まず、木箱も箸も拘れてますね。」
「ほーっほーっ。河童は、蕎麦、加薬飯を洋洋食文化として、このような宴の会では、持て成し、伝承していく役処なのですが。
本来は、木彫り職なのですよ。」
「うん、ほろ苦い山菜の味も良いですね。このお箸に彫られているのは、河童?」
「ですな。ほーっほーっ。くるみの木で創られています。」
「では、一組、二本で創作の意もご活発にされておるのでしょう。」
長目の箸に河童が彫られ、木箱は木目を生かし、滑らかな長方形に彫られている。
「あの盆を拝見。」
草野風さんは、釜に行き、立て掛けてあるお盆を 手に取ると、こちらに戻って来た。
「繊細な頭状花の彫り物ですなぁ、持ち手とこの鳥や葉の形、細やかな創作品ですね。」
と、そのお盆は、小さな花が集まって、一つの大きい花に彫られ、周りには網目の様に細かな草葉と鳥、花蔓が彫ってあった。そーっと持っていなくては、割れてしまうのではないかと、僕は冷や冷やしていた。
「加薬飯は、お口に合いましたでしょうか。どうも、私、緑丸です。木田緑丸と申します。
そちらの盆は私の作でして。」
河童の面をくるりと外し、他にも二、三、盆を持ち、蕎麦を振る舞っていた河童とは、また別の河童が現れた。
「野草や川エビ、カニ、きのこ、マナも入れば、洋洋山の御馳走と、宴も楽しく黄昏れ時でございますれば、
もう腹鼓を打つしかありません。私、緑丸、木彫り丸盆、鼓みをお持ちでございましたら、木飾り模様もお創り出来ます。」
「ほーっほーっ。河童の誰そ彼か、こちらの丸盆を彫られた、緑丸さんでございますよ。」
「細かな緑の花蔓など、形取りが美しい盆ですな。」
黄昏れ時に河童のたそかれ。バスの運転手さんが言っていた、たそかれとは、そういう事だったのだ。きつねも河童も誰そ彼だ。
えっ?僕は、、、、、。」
「この盆は、祝いなどでも喜ばれるでしょうね。使い込んでいくと味わいも出てくる。」
「その通りでございます。
普段から、お使い、飯度、茶飲みから、鼻の油もちょいとって、角も取れてくるのです。」
「夕づつも夜空に輝き、こんばんは。私、加薬飯には欠かせない、河童箸の春中です。」
「このお箸を創られた?」
「はい、山河春中木彫り箸を創っております。」
「河童の姿がスマートですね。」
「それでもって、角度も少し傾いている。長さがありますが、菜箸でもない。」
「私、箸を長目に持つのが洒落者か、なんて勝手な美意識ですが、実は私、タロ芋の葉っぱもびっくりの。」
春中さんは、いないいないばぁをして、大きな手の平を見せた。
「使い心地を追及しましたら、この形に辿り着きまして。」
「なるほど。私にもしっくりきますよ。」
背高さん、と僕は勝手に背が高いので、この人の事は「せえたか」さんと呼んでいたが、大きい手の人には丁度良く、僕でも持つと、どこかエキゾチックな雰囲気もあり、スマートだ。
「ほーっほーっ。金星あげられますかな。」
「毎度、毎度の加薬飯かと、飽きさせません、河童飯は食べる程にお味も変わるのでございます。皆様、おかわりのご用意ありますが、木箱が寒いと言っておりませんか?温めましょうぞ。私、ご挨拶遅れましたが、木箱創りの、滝仁と申します。」
「次ぎにも、いらっしゃいましたな。」
「河童の木彫り職も座り仕事なものですから、宴が開かれる時には広場泳ぎ回ります。選手宣誓、我々はぁ、代表致しまして、洋洋林泉、木を守り、育て、日々全身全霊を賭け、木に学び木と共に、戦い支え合って行く事を、芽姿滝仁、選言致します。」
「芽姿さん、木箱、私は気に入りましたよ。」
「箱と言えば箱ですが、くり抜かれているのですなぁ。大きな豆、鉈豆かな、底に丸く三つ窪みがありますが。」
忠実忠実しく、河童木彫りも、ホドを作り、飯炊き、煮炊きとされており、洋洋総菜盛り付けされるに、実用も兼ね備えておるのですよ。」
「行司様、卯多彦をお呼びしても宜しいでしょうか。」
芽姿さんは、釜で焚火に忙しい河童を連れて来た。
「卯多彦でございます。」
卯多彦さんと呼ばれる河童は、小柄な人で、火炊き竹を手に持ち、面を外すと顔中汗まみれで、腰に巻いていた刺し子の布をすっと取ると、顔を拭い首に巻き、にっこり笑った。
「オッカ、オッカ、ケムさぁ、熱がれば、火もぬたうつ。ドンブリガエリするから、三宝荒神様、暴れないで下さいませと、火吹き竹を、合わせ持って風を切りイロリました。」
「ほーっほーっ。兜巾を被られれば合点が行きますぞ。」
「ホドの火神もやんちゃんでございます。」
「火シドもないと、力戦を読まれてしまいますぞ。」
「クドクド言うが、オッカオッカさぁ。」
「まだ、宴もこれからですよ。と、卯多彦は若河童でして、私、滝仁と共に木彫り職をしておりますが、見習い中の身の者。
しかし、好機も栄えの内、一つ卯多彦の活路を開く為にもこの者にもご挨拶させて頂きたいと思いまして。」
「ほーっほーっ。お創りになられた作は?」
「こちらです。」
滝仁さんは、小さな手の平に来る位の長丸い彫り物を出した。
半分に切れ目があり、引くと蓋が開いて中が《クウドウ》空洞になっていた。
何か小さな物を収める事が出来る入れ物だ。
表面にはとても細かな蝶や花蔓が彫られ、装飾されていた。
「石ですか?」
背高さんが、興味有りげに聞いた。
「滅相もない。木でございます。
さまざまな木を組み、埋め込んでおります。」
「石を入れて置くのに良いではないですか。お若いのに、古雅な手仕事ですなあ、
このままか、、、、。」
「ほーっほーっ。ホドに戻られるか。これも解らない所でございます。」
「ドンブリガエシならば、火吹き竹も気取らせさぁ。」
喜んでいる様子だが、卯多彦さんは、何を言っているのか、さっぱり解らない。行司さんは、宝珠の玉入れとも、樹の種入れとも。
「卯多彦の現れは何処に映るか。柿辰はおられますか?芽姿さん、柿辰をこちらへ。」
と言って、卯多彦さんの創った彫り物を袖の中へ仕舞った。
「ひぁあ。絶品ですぞ。これはこれは、毎度の事かと、んぅーん上手い。騙されたと思ってぇ、騙されたかもぉ。
っつーて、と思ってこりゃぁ美味しいぞぃ。あにぃあにぃと聞かれましても、私天才なんでございます。後ろぉ向いての目ぇつぶり、必ず決めますコーナーワーク。
大歓声のシャワーを浴びまして
あら、美しみづらに髪を結んだら、ニュースタイルと麗らかに、
うららぁキュービズムの新面目かぁ、
新鮮ぐぅみぃ、
ピチッとぉ、
弾けまぁす。」
柿辰さんと呼ばれる河童は、河童だが面が違う。
眉毛はうねり、丸く盛り上がっていて、頬もふっくら。大きな口は三日月でトンガリ、切れ長の目は垂れ、まつげが刻まれている。
全体的に笑っているのだが、木の質感が重く堅く、木目と深い木の色合いでとても味わい深い。
二つに結ばれた髪型が、また独特の奇妙な河童を演出している。
「ほーっほーっ。本日は柿辰さんの鏡心面の中でも、高揚して参りますなぁ、気持ち高高と。風雲の志で面創りにも油が乗って来ているのでしょう。
こちら、柿辰と申しまして、洋洋の仮面役者か、恵比寿面、お多福面、ご存じ、きつね、河童面と、全てこの者が創ったのです。
なかなかの調子者でございますがお見知りおきを。」
「オレのぉ、河童面さぁ、目の子がぁ、こまっちゃくれてるもんでよぉ、大きやかに決着下さいませんか?
細細しいは、難物でありますから、のみ持ち、蚤、蚤とっぉ、彫れませんで、柿辰様、卯多彦の面、ここらで大きやかにしてくださぁい。」
「卯多彦は、まだそのままで宜しいですよ。あにぃあにぃと聞かれる のはぁ、ご免ですぞぉ。」
「大きやかにと、玉入れをリンゴ入れにと創るのですか?春中サイズに創るのは、まだ、だぼらですよ。」
「木目を読むのです。木を育て、木の年月をと、木彫り処におりなが ら、卯多彦は百万だらも右から左へ,
じっくりと見集めたものをどうするのですか!」
春中さん、芽姿さんと柿辰さんは、卯多彦さんに呆れた様子だが、きっとこれも修行なのだろう。
「ほーっほーっ。ごてられておりますな。卯多彦も。柿辰はしっかり見ておりますぞ。」
「あーい、アプゥリオーリィ、と持ってイルなーらー、お急ぎ無用ォ。リンゴぉ木箱も嬉しいがァア、ユルリと走ってキテクダサァ-い。宴タケぇなわァト、シードルで、喉潤ワせてゴーイング・マイウェ-・ゴーヘー!」
紅悠さんは、お手製のリンゴ酒の瓶の玉冠を木箱についた栓抜きで、勢い良く開けると
「杯ヲお出しクダぁサーイ。リンゴ香ル泡酒ヲおツギ致シマ-ス。」
芽姿さんは
「卯多彦、寅翼に木杯を頼みます。」
と言って、皆の木箱の窪みに、葉で包まれた山鳥の薫製、俵握り飯、きび餅を置いた。
しその間に、ネギやノビルなど香菜が挟まれ、薫製なのにとてもジューシーだ。
握り飯も加薬飯が火で炙られ、香ばしい。きび餅は、ほんのり甘くいくらでも食べられそうだ。
寅翼さんなのか、河童面は既に外され、木箱から木杯を取り出している。
僕は、六款さんから頂いた絵文字器で飲んでみようと木杯は遠慮した。
「ほーっほーっ。では、私も。」
と行司さんも絵文字器を使う事に。
河童木彫り職の面々、皆にシードルが注がれ、杯を上げると、寅翼さんが一言。
「奇才、鬼才と木材あれば、私、気さくにお創り致します。一期末代長ーく、おつき合い、お使い出来ますものを。
皆様の出合いに、幸あれと、乾杯致しましょう。」
僕は改めて、この洋洋村でのさまざまな人々を思い、乾杯した。
木杯は、ずんぐりと厚く、足も太い。
古代の勇者が酌み交わす杯みたいだ。
ピリリと喉の奥が辛くなるシードルは、細かな気泡に身体も包まれ、自然と軽く解されて、卯多彦さんの河童の面を見ると、笑いが止まらなくなってきた。
「追い越せ、追い越す、おいど、おいど。」
卯多彦さんは、河童の面を僕の顔に付けると
「せーんどぉするもぉ、プロパガンダァの焼き付けかぁ。」
と歌い、葦笛を吹き、歩き回る。
腰を曲げ、首を突き出し、笛を吹く姿が可笑しくて、僕は器の入った木箱に座ると、火吹き竹を叩き始めた。
他の河童も面の下から、面を外しと、葦笛を吹く。河童の葦笛隊は、一列に並ぶと、面をしっかり付け
「緑丸丸盆、春中箸、芽姿木箱、柿辰面、寅翼杯にぃ卯多彦ぉ宝珠の 玉入れかぁ、椀屋誰かと、木皿探して、まだまだ河童の木彫り人は、照らす燈の多い程、お役に立ちます、いついつまでも。」
楽しい宴の河童隊に拍手喝采と盛り上がる中、僕は卯多彦さんの所へ 行き、面を返した。
「ゴンタかぁ、おめぇ、オレはヲコかぁ、勇者になれよ、オレが怖いかぁ。」
突然、卯多彦さんに、なじられて、固まった。
言葉が出ず、頭に浮かんだのは
「素描」だった。
何か解らないが、僕は、紅悠さんから、大瓶のシードルを貰って、林の奥の、建物に、一人走って行った。
水路添いばかり走って来て、最初のこの道の美しさに、まったく気が付いていなかった。
勿論、水路道も水の流れや、草花、小鳥と安らぎがあり、その場の個性ある通り道なのだが、林の木々と広がる土の青やかさ、空気の澄んだ静けさは、壮観だ。
僕の走る足音だけが、綺麗に均した道の上から林全体に響き渡る。
木造ブロック造りの時計塔が見えて来た。立ち止まり、一番上にある文字盤を見上げるが、高過ぎて時が解らない。
振り子を覗くと、忙しそうな人の話し声が聞こえてきた。
広場では、河童隊加薬飯の宴も開かれているのに、からくり煎の人達は、夜になってもまだ働いているようだ。
すると、振り子の奥から、男の人が現れて、また僕に
「はい、どうぞ。」
と今度はL字型の木で出来たレバーの様なものを渡された。
直ぐに奥に戻ろうとするので
「ツリーハウス!見ましたよっ」
僕は、大きな声で呼び止めた。
「中には、入っていないんですが、、、。時計塔の修復をしていると、剛駿さんが言っていましたので、そうではないかと。」
「ツリーハウス、ご覧になったんですか。
野リスにかじられてはいないようですね。
中に入っては見ていないと、、、。
えーそうですよ。
私がツリーハウスを建てました。わんさか時計塔もです。」
「あの、、、、ブロックと、中に入っていた滑車は、一体なんなんですか?それと、このレバーも。」
「唐突に、君はなんだ!
君こそ一体何なんだっ!、、、、
私は修復作業が残っていますので、
これにて失礼。」
聞いては怒られた。
怒って、、、行ってしまった。
行司さんがいなかったからだろうか。
名前も名乗らずに直ぐに聞くなんて、やはり失礼だったのだ。
僕は、わんさか時計塔を出て、光の輪の揺れる建物に向かった。
洋洋村を照らす月明かりは、昨夜と同様に林の中を幻想的に映し出す。
《 願い事を唱えながら走り、光を吹き消すとほんの少し未来が見えます。あなただけに見える未来ですけど。》
行司さんの言葉が頭に浮かんできたが、大瓶のシードルを持ち、時計塔で怒られた事で気持ちがへこみ、十ケ所もある光の輪を、飛び跳ねて走る気にはならなかった。
正面玄関の前に着き、横の階段に向かったが、ふと足が止まる。
僕は河童隊加薬飯の宴たけなわ、卯多彦さんになじられこの場へ来た。
しかし、あの二人に僕は何を話せるだろうか。
使い道の解らないレバー、器の入った木箱とシードル、、、、、。
染め場に包まれた荷物を置くと、僕は振り向き、光りの輪を眺めた。
光の間で踊る彼女を思い出し、花の音が聞こえるかと耳を澄まし、手前に光る輪に近づき、体を屈める。
かすかだが、小さく燃える炎の音が聞こえたが、何も解らない。
その横の光の輪に行き、またその横の光の輪へ。
ちらばる十ケ所の光の輪の中を、僕は飛び跳ねていた。
時折、揺れる炎が「ポッ」と鳴り、おじぎをしてくる。
僕はくるっと回り、両足で輪の前に踏ん張り、腕を下から大きく広げた。
するとその輪は、小さく丸くなり、僕にウィンクをして、消えて行った。
消えてしまった。
羽の生えた炎がいるのか、光も僕と一緒に飛び跳ね、風の中に消えて行く。
光が走り出したそうに、大きく背伸びをするが、中心の芯に引っ張られ、抜け出せない。
僕は信じられない程の空転をし、その炎を吹き消した。
一筋の煙が空に上がり、自由に風の中へ。
僕も懸命に走り、風を掴む。
掴んだ風を輪に放ち、僕にも出来る、
出来るんだ!
と、輪を抱き抱え両手を前に伸ばし飛ぶと、腹ばいになって、炎に顔を近付けた。
目と鼻、口と小さな炎の熱を感じ、息を思いっきり吸い込むと、光りを吹き消した。
僕はその瞬間に、自分の大切な物が、少し、見えた気がした。
そして、急いで正面玄関に戻り、荷物をまとめ、二人のいる二階へ駆け上がり、ドアをノックした。
「こんばんは。どうぞ、中へ。」
ドアが開き、僕は部屋へ飛び込んだ。
「風を、風を掴んで、光の輪に、」
「輪は?」
「輪を抱えて、両手を伸ばして、」
「吹いた。」
「光は風と共に飛んで、全て吹き消した。そして、」
「見えたのは?」
「月と闇。
その、闇の中で少し見えたんですよ、
自分の中の、、、、。」
僕は乱れた呼吸を整えるが、一言では言い現せない気持ちで、上手く言葉が続かない。
「素描を見て少し気付いた時と同じなのでは?」
ドア越しに話をしていた彼は、納得したという素振りで、ドアを閉めると
「書き留めて置きますか?忘れないうちに。」
僕は、彼からノートと鉛筆を受け取ると、一心不乱に今の光りの輪で見えた事を書いた。
数枚ページに書き綴り、一通り書き終えると、大きく息を吐き出して、大の字に仰向けに寝転んだ。
肩の力が抜け、なぜか、ほっとした。
奥のテラスから、ワンピースにフードコートを着たあの女性が、グラスを持って現れた。
「紅悠さんのシードル、持って来て下さったんですね。私、大好きな んです。ピリッと少し辛くて。」
「あ、はい。美味しいですよね。細かい泡がいつまでも続いて。」
「、、、、ふふふ。同じね。私とおんなじよ。」
彼女は、にこやかにシードルのボトルを持つと °。゜。゜。゜。゜。
「テラスから外を、早く見てみて。」
。゜。゜。゜。゜。゜光の輪が全て消え、目の前には闇が広がる。
「時計塔の遠くの山から、明かりが照らされているでしょう。風の力を使ってる。人間の考える事は凄いですよ。」
「私も同じ人間だけど、ピアノを弾いてるわ。」
キャンドルにマッチで火を灯すと
「こうして、テーブルを照らす事と
゜。゜。゜消す事はね。
゜。゜。゜。゜。゜。今つけた明かりを一息で吹き消す。
「私がこの場を明るく照らす為にできる事。」
「願い事は、考えてたのかな。」
山の上から風車は回り、この洋洋を明るく照らしてくれる。ステージではまたきつねと河童の詠歌相撲が、行われているのだろうか。
僕の目にまっすぐ向かい、焼き付いた光の残像は、大空で輝く太陽の光りに、人間が考え、挑戦した光だ。
紅悠さんの真っ赤なリンゴ、そして、シードル。自然の中の剛駿さん、洋洋村の人達は戦い続けている。
背高さんは、ルビーを輝やかせ、太陽の光りの波の中、表現する人々。
そして勇魚をこの目で見た。
行司さんと走り、皆と出会い、僕に気付かせてくれた素描のこの地は僕に勇気をくれたんだ。
「月光の下で小手毬が跳ねてた。」
「私はとんぼカゲロウがダンスしている様だったわ。素敵よ。音が聞こえたわ。」
「花の音も、鳥の声も、僕を支え動かしてくれました。僕は、今のこの僕は、僕である事。
だから今書き留めた物を、この箱に入れて置きたい。そして、この地、洋洋村の絵文字チップ。」
「絵文字チップですか。」
「私に、見せて頂いていいかしら。」
彼女は、手に取ると美味しそうにシードルを飲み、曲を弾いてくれた。
「機嫌が良い。君も彼女に灯りを灯したのでは?」
「僕は、そんな、いや、できれば素描をこの箱に入れて置きたいですけど。」
。゜。゜。「月夜で見えたのならいい。」
「いつもこの洋洋に?」
「いいえ、清らかな冒険と、希望の結晶を固める為に、かな。」
「僕、言継幸男って言います。次に、洋洋に来たら会えるかと。」
「堵美野と由希。アトリエも気ままだが、青嵐も吹くからね。こちらへどうぞ。」
彼はグラスを置くと二階から外へ降りた。
一階のドアを開け、中に入ると、柔らかな色彩の花々、細やかな草草、そこに立つ、着物を着た女性のとても大きな、大きな絵があった。
僕の目に飛び込んできた、糸の様な柔らかい細い線は、葉脈の一本一本と、
美しい着物の装飾まで、とても繊細に描かれていた。
淡い色合いや着物など古風でもあり、呼吸の聞こえそうな女性の立ち姿はとても印象的だ。
僕は暫く時を忘れて絵を眺めていた。゜。゜。゜。゜。゜
「綺麗な絵ですね。」
「絵絹を洋洋で創って貰っているんです。日本画描いてるもので。
岩絵の具になる天然の鉱物も、少し洋洋にありましてね。」
「それで、ここに?」
「ええ、まあ普段の自宅は他に。
洋洋は別天地。由希が、澄んだ瞳の小鳥が羽を痛めて飛べなくなったと
手紙を受け取ってね。」
僕が、ここに来る事を彼らは知っていたのか。
「手紙って、猫が、猫が木箱で手紙を書いていた。その手紙、、、、 。」
「猫が手紙を書いていた。不思議で面白い。羽ペンを使ったか、大鳥とくぐいか、君は浪漫派だね。」
再び外へ出て行き、建物の裏へ向かうと、石板に水が流れ、土が置かれていた。
この場にも水路はあったのだ。
砂利が敷かれ、細かくなり、その奥にも小屋があった。
「水が豊かな村、洋洋とね。」
「洋洋と。」
「岩絵具、膠、天然の土と。」
深いざるに色土が洗われ、並んで置かれていた。小皿やいくつかの道具も。
「小瓶に入るのは、一握り。自分で掴むと。風を掴んだ時の様に、
解りますよ。」
僕は堵美野さんと再開を約束し、テラスから手を降る由希さんにも洋洋で会う事を約束した。
光りの輪は再び灯りが灯され、
林の中を走って行くと、灯りを持ち、歩く人の姿が見えた。
僕の足音に気が付くと、立ち止まり、こちらに向けて灯りを右左と揺らす。
「あなたが、言継さんですね。」
「はい。」
衿幅の高い細みの白いワイシャツに、小さなベストを身に付け、膨らんだ七分丈のパンツに、先の丸いブーツを履き、クセッ毛頭の上には小さなシルクハットを被り僕を待っていた。
「光を飛んでいらっしゃいましたね。」
「はい。」
「全て吹き消されて。」
「、、、、、はい。」
「私の燈火はお役に立ちましたか?」
「あの光りの輪は、あなたが?」
「ええ。」
持っていた灯りを顔まで上げ、僕の顔にその人も近づき照らす。と、その人は、年配のご夫人だった。
僕の顔も確認すると
「闇夜に眠り夢を見て、闇夜を創り夢を見れるか。燈火が無くは、困りますでしょう。どちらでも。
消えて解る事もあり。羨ましくは隣の庭かしら。」
このご婦人は、僕の心の中を見通しているのか、しわくちゃな笑顔でにこっ
と笑うと
「ご案内致しますので、どうぞ私に着いて来て下さい。」
と言って林の中を歩き始めた。
円形広場に戻るかと思いきや、左折して風車の照らすステージに向かった。
そこには、虎が二人で四つ手を組み、足を開き腰を屈め、小刻みに右へ左へと回り、取り組みが行われていた。
しかし、行司さんはいない。
虎は、互いの肩にバタフライ。両腕を進めで、突き合うと、そのまま小刻み
に動き出す。
それはまるで紙相撲。一人の虎が正面を向き、もう一人の虎は後ろ向き、手を振り、とその場で駆け足をする姿は、バスから見えた、あのスーツ姿の人物だ!
後ろ向きの虎には、やはりゼッケンが付けられている。
「理知遭遇」
正面を向いている虎は、振っている手を斜めに構え、胸をくり返し叩き、
ヒザを上げる。
「りぃーーーーーっ。」
ゼッケンの虎が叫んだ。
すると、両手を広げ波を現す。正面の虎は直立し、手を上に伸ばし合わせると
「りぃーーーーー。」
「私はリンゴを持っています。」
「ちぃーーーーー。」「ちぃーーーーー。」
「チューリップの花水溶けば。」
「そぉーーーーー。」 「そぉーーーーー。」
「私の双眸でスペクトルを合わせ見る。虹を彼方に。」
「うーーーーー。」「うーーーーー。」
「雲霞の軍勢に出会ったならば。」
「ぐぅーーーーー。」 「ぐぅーーーーー。」
「グラフィックスのメビウス輪、繋ぐ言葉は思想と現存、光の波長を形象表して、画報、印判、カタルシス。」
「うーーーーー。」 「うーーーーー。」
「歌音譜、世界共通海を超へ、感性の配列は二つと無い雪の結晶。
エネルギーの粒を掛けたら、一歩先へと並べ行く。太陽と共に。未来へ向けて。」
虎は腕輪を創り、両腕を広げ二人で組むと互いの腕輪を交互させチェーンを創る。
すると、手を横に伸ばし十字を創るとぶつかり合い、上に伸ばしてはぶつかり合う。
「プラ-ス、マイナース。」
又、交互させ、チェーン。
そして、何処からか音が流れ、ラジカセを担いだ紅悠さんが現れた。
紅悠さんは、後方で丸い玉に座りバランスを取っている。
虎は、腕をL字型に折り、空想の玉を回転させ、横に寄り歩くと、横の虎も横に押し出された。
「売り言葉に。」 「買い言葉。」 「隣の客は。」 「良くはちみつ食う客だ。」 「ああいえば。」
「来年の事を言えば。」 「笑う門に。」 「福来るか、笑い三年泣き三月。」 「雨降って。」
「地固まるけど、何処から降るの?」 「雲に汁。」 「思い立ったが吉日だけど。」 「塵積もりて山となる。」
「空から雲が落ちないのは、人のふり見て我がふり直せ。」
再び腕を交互させると、風車から強い光が照らされた。
「粒粒粒粒粒粒粒粒。」
光りの帯が差され粒粒と細かく空気中のスターダストが降って来た。
紙吹雪じゃない。
「走磁性ーー。方向を探知せよ!」
そして、駆け足、片手で手を振り、空を仰ぐと、手を繋ぎウェーブをしている。
「吸ってぇ、吐いて。」
「美度を映し、透過するのは、赤い花水。」 「黄の花水。」
「青い花水。」
と、右へ左へ、あっち、こっちと方向指示をしている。
「太陽に動かされ、プラス、マイナス。」
「地球に住み、誰が宇宙をかき回す?」 「人は皆地球人。」「神秘の極みは、身を滅ぼす天辺知。」
「水の恩ばかりは報われぬ。」「空のダストは、地球のダスト。」
「重力が宇宙を守ってる。」
「人が宇宙に勝手に置くのは?」「宇宙バランスかき回し、人間バランスかき乱れ。」
「アマルコライト、ツーツーツー。」「惑星からの超新星ボム。ウィトロカイト。大気圏突入せよ。」
「マグマグマ。熱がダストを溶かし出す。」 「大気に包まれ、気流は流れる。風でダストは消滅せず。」
「磁界の波が信号破壊、走磁性ーー、方向を確認せよ!」 「酸性は、 反対!」
虎は拳を二つ重ねると
「帚を持つが、帚星とは参りません。彗星のごとし現れて。」
「地球を美しく。」
「みィーずゥノ惑星、水面反射ァ。」
紅悠さんが、丸い玉の上でバランスを取っている。
「地球上の物体は、地球上に存在する。」「超微粒子、吸ってぇ、吐いてぇ。」
「物体がこの瞳に見えるのは?」
バランスを取っていた紅悠さんが、虎の面を付け、三人で並ぶと、中央に立ち、横の虎と両手でタッチすると、反対側の虎にタッチした。
その虎は、面を返し青虎に。
紅悠虎が横の虎にタッチで黄虎に。
二人にタッチされ、紅悠トラは赤虎に。
すると、ステージの奥へ走ると、
大きな二重丸を描いた。
そして、紅悠さんは、バランスボールに立ち、その二重丸の中心に針を描いた。
長針と短針は時を刻む。
青虎と黄虎は、片手を伸ばし、片手のヒジを曲げ、小刻みに腕を時計の針に動かす。L字に曲げられた腕は前後と二人で逆回りに回転され、不思議と描かれた時計自体も回転を始めた。
紅悠さんが、バランスボールから下りると、青虎がバランスボールに座り、黄虎は時を刻む。
青虎は、
「少年よーー、青年よーー、一寸の光陰軽んずべからず。」
と、描かれた時計に、絵文字を描いた。
洋洋絵文字だ。
紅悠さんは
「朝ァ、昼ぅ、晩ンンーー。」
時計の中央にギザギザの滑車を描き、大きな太陽と月も描かれた。
黄虎は後ろに行くと、長い棒と短い棒を組み合わせ、その絵の中央の滑車に差し込み、身体ごと大きく回し始めた。時計の大きな文字盤は回り、紅悠さんもスライドしながら歩き出す。
アコーディオンの音が鳴り、気が付くと、燈火のご婦人が、メロディーを出していた。
闇夜に月が輝き、時が進むと太陽が顔を出し、それに合わせ時計もぱっと明るく照らされるが、アコーディオンのじゃばらが伸びると青虎が兵隊の様に動きだし、空気入れで自分も伸び縮み、膨らんだり、走っては屈伸し、じゃばらが縮んでは、辺りを見渡し遠くの風車を確認する。
続いて黄虎と交代し、黄虎も絵文字を描くとアコーディオンのメロディーに乗りながら、ライトを浴びる。
「風を測って、カエル飛び、二本足の思考距離と胸の奥の脈を測って、息を聞く。」
じゃばらが伸びては、忍者の雲隠れポーズを片足で取り、人差し指を伸ばして、後ろに下がったり前に飛び跳ねたり。
横に素早く動くと、後ろに描かれた時計に何か見える物がある。
青虎と重なり、部分、部分で二人並び、絵の前に立つと、巨大な一頭の象が二人の後ろに現れた。
大きな長い鼻を高く上げ、耳を広げ優しい瞳で立っている。
象は、雄大な自然の中で、力強くその大きさを現した!
紅悠さんは、再びレバーを中央に動かし、時を進める。
太陽が高く登り、月が隠れると、象の鼻から霧が吹き、草葉が芽を出した。
「芽吹きが歌うーーサササササ、果実もオハヨウ、ササササ。眠くなったらお手伝いー、エネルギーの光合成、ブクブク粒粒ぅドッキドキ-。」
太陽も沈み、青と黄虎が頭を抱え、上へ下へと震わせる。
積雲の、魔法のランプの大男。羽も付け、時も空も膨らませる。
「発想のポップコーン。種で芽を出し。」「種も膨らめ。」「種も育 だて。」「種も捲く。」
中央に虎達は立つと、時計の針に洋洋絵文字を指し、言霊を直線で結び、示唆している様だった。
その組み合わせで、言葉は広がる。
僕の器の考・動・実。でも、それだけじゃぁ、ないんだ。
繰り返し言葉の時を刻む虎を見て、僕も腕を伸ばしステージ場の文字盤に時を指した。
「言継さん、、、、言継さん、読み組みされていらっしゃいますか、
お気楽にね、
なさって下さい。」
ご婦人はアコーディオンを抱え、小さく僕の隣に立つと、婦人の小さな指で、文字盤を指していた。
「耳で音として聞く文字と絵文字とって、形象化した言葉は、楽しいでしょう。解らない文字もおありでしょうが、良いんですよ。それで。
そのお持ちの器、考・動・実。
何かお考えになりましたか?」
僕は、文字盤の絵文字を指しながら、知らずに器を持っていた。
「あ、いや、僕は、はい。」
「いつか、お話して下さいね。
良いんですよ。それで。
さて、夜も更けて参りました。
どうぞお休み下さい。」
ステージの月と太陽、紅悠さん、虎を合わせて象と風車、絵文字で時を指す三人を後ろに、僕は、高床式の
建物へ向かった。




