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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第九十二話・七と八番目

プレア「第九十二話」

プレア「ごめんね、ルー姉。恨んでくれて良いよ。さようなら……」

~プレア

 

 時間は嵩都たちが軍国に向かった後に遡る。

 謁見場に兵士が飛び込んできた。



「申し上げます! 魔王軍が攻め込んでまいりました!」

「――至急、迎撃せよ! STに応援を頼め!」

「ハハッ!」



 兵士はすぐさま踵を返した。

 アルドメラさんも了承したため動きやすい。



「私も出る!」



 宰相や大臣もここにはいない。つまり、国王が指揮を最前線で取ることになる。

 宰相や大臣はこの計画を知らない。身内のみが知っている。

 アルドメラさんはボクたちに頷き、大斧・マルドミワーズを担いで謁見場を後にした。



「ボクたちも行こう!」

「ええ」



 ボクの後に続いてクロフィナさん、ルー姉、サフィティーナさんが続く。

 テラスに出た。天候は快晴のはずだったのに何故か曇っていた。

 戦況を見るふりをしてボクは魔剣トゥールイクシミリアを取り出す。



「南門からは魔王軍、西門、東門からは邪神軍……」

「ボク、南門を援護するね!」



 北門も攻められてはいるが助攻だというように手ぬるい。

 各門にはSTが駆けつけていた。あの大型兵装は量産されていたようで十基ほどある。

 魔剣は腰に帯剣し、弓を担ぎ直線状にある南門に向かって撃つ。

 ルー姉はルー姉専用の特注品のロンゴミニアドという杖を持ち、元魔王にふさわしい生まれつきの魔力を練り、東門の草原に向かって大規模な氷塊をいくつも落としていく。

 サフィティーナさんとクロフィナさんが城全体、兵士たちに向かって支援魔法を飛ばしているようだ。

 しばらく戦っていると転移の兆候があった。嵩都が戻ってきたようだ。

 それと同時くらいに小雨だった雨が本降りになり、雷が走った。

 ボクは弓を手放し、魔剣に手をかける。

 ルー姉は東門を援護するのに全精神力と魔力を注いでいる。



 ――ぐちゅっ



 だから、ルー姉は自分の心臓を貫かれるまで周りに気が付かなかった。



「えっ―――」



 ルー姉の体勢が崩れ、東門に展開していた魔法陣は霧散してしまった。

 魔剣に固有魔法が吸い込まれ、輝きを灯した。



「プ……レア……?」

 ルー姉があり得ないというように口から血を出しながら驚愕している。

 ここからは毎回恒例の大根な演技をするだけだ。



「これで……これで魔神が復活する。長かった……」


「そん……な……」



 ルー姉が地面に倒れる。うう……やっぱり凄い罪悪感……。



「プレア!」



 そこへ嵩都が憤怒の演技をしながらボクの方に突撃してくる。

 嵩都の手にはボクを魔神へと至らせる魔剣、リミルティアが握られていた。

 スキル無しの最速抜刀、居合で一気に距離を詰めてくる。

 ボクは同じ魔剣で受け――――テラスの外に吹き飛ばされた。

 ねえ、ちょっと待って。演技の域を超えているよね?



「アネルーテ様!」



 そこへ示し合わせた鹿耶さんたち勇者が到着し、遠慮のない魔法攻撃を撃ってくる。

 ボクは当たるまいと避けるが思ったより攻撃が激しい。

 嵩都はルー姉を支え、必死に傷を治そうとポーションや魔法を使う。



「くそぉ!」

「アスト……」



 ルー姉が血を流しつつ嵩都の手を握る。





 ――この物語のメインヒロインは本来ならば嵩都の隣にいるのはボクではなくルー姉だった。

 勿論、ルー姉が恋心を嵩都に抱いていたのをボクは知っていた。

 好きになっていたのは最初の出会いから。出会う機会は少なければ少ないほど相手を美化させる。嵩都はその美化されたままの現実像になって行った。

 嵩都はボクに夢中で気が付いてないように見えた。

 学校にいる時のルー姉はほぼ無意識に嵩都のことを見ていた。

 だけど、すぐ隣のボクとの関係と板挟みになり、ルー姉は壊れるのを恐れて身を引いてしまった。

 ……全部、全部知っていながらボクは敢えて無視をしていた。

 だからせめて今くらいは邪魔をしたくない。例えすぐ生き返るにしても。



「私……本当は……」

「ルーテ! 死ぬな!」



 ルー姉は雨粒に打たれながら、唇を震わせつつ言葉を続けた。



「貴方の……ことが……好きだったの……」



 嵩都自身は感づいても知る由はなかった。知っているのはボクだけだったから。

 そういう風に全て誘導していたから。独占したかったから……。

 その言葉を聞いて嵩都は、多分演技でなく本当に涙を流した。



「ルーテ……」

「ごめん……ね……。もっと…………早くに…………」



 嵩都はルー姉の生気が無くなるのを感じ取ったのか手が震えた。

 そして何かを決意したような表情になった。



「まだだ……勇者スキル、代償蘇生!」



 嵩都はボクが知らないスキル名を叫んだ。

 次の瞬間、嵩都は全身から血を噴き出した。



「ガア――――ッ!!」



 何をしているの!? 蘇生なら邪神スキルを使った方が危険はないのに!

 ――ううん、本当は分かっている。何で使わなかったのか、その理由を。

 それは、ルー姉を人間のままで居させるため。

 邪神スキルで生き返った人は邪神の魔力を供給するため、例外なく邪神の眷属になってしまう。

 嵩都はルー姉に人間として生きて欲しいと思ったから勇者スキルに変更したんだろう。

 代償は自分の血肉。今、間違って何が嵩都に当たりでもしたら嵩都は簡単に死ぬ。それだけ嵩都は弱っている。多分、最初で最後の弱みだ。

 代わりにルー姉の心臓が再生されて、肉が繋がり、鼓動した。

 極まった自己犠牲のスキルだ。

 だけど、それは嵩都にとってルー姉は大切な人になってしまったということだ。

 ……少しだけ、本当に少しだけ嫉妬してしまった。

 嵩都は何とかポーションを手に取り、自分に振りかけた。

 少し待つと嵩都のHPが回復していく。ある程度回復すると嵩都は立ち上がった。



「サフィティーナさん、ルーテを頼みます」



 嵩都の言葉にサフィティーナさんはルーテを支えた。

 嵩都はルー姉に背中を向け、ボクに視線を合わせた。



「ルーテ、ごめん。本当は――俺たちはルーテを騙していたんだ。これは全て決められた予定通りの演技。誰が死ぬのかも全部分かっていた。ルーテ以外皆知っているんだ。この戦いは俺たちが思い描いた演技だ。魔王軍も邪神軍もプレアも……本当は皆、敵じゃないんだ」

「……うそ……」

「俺だって本当は勇者じゃない」



 嵩都は黒い魔力を全開にして殺意と威圧の奔流を辺り一面に垂れ流した。



「俺だって本当は邪神なんだ……」



 いきなりの言葉にルー姉は驚愕し、必死に理解を拒もうとする。

 だからこそ嵩都はルー姉に本心から謝っていた。



「ルーテ……君の気持ちは嬉しかったよ。でも、俺はその気持ちには答えられない」

「アスト……」



 二人は一言だけ声を掛け合い、沈黙した。

 流石に時間が押しているのでお涙頂戴はそこらへんで終わって貰おう。

 ボクの固有魔法、凍原雪羅を起動し、完成と同時に嵩都に撃つ。

 嵩都はそれに気づいたようで何処からか魔剣を取り出した。



「レーヴァテインに封じられしその魔法よ、全てを焼き尽くせ!」



 ボクの凍原雪羅に対し嵩都は魔剣レーヴァテインに封じられた魔法、つまりサフィティーナさんが持っていた固有魔法、業炎滅却。

 ボクの全てを凍らせる魔法に対し、全てを焼き尽くす魔法が発射されたわけだ。

 拮抗はほぼ一瞬だった。お互いの横を通り過ぎ、背後を凍らせ、焼き尽くした。



「―――行くぞ、プレア」



 時間が来た。ボクの化け物が目を覚ました。

 全てがプログラムされた通りに動き出した。

 嵩都はそんなこと関係ないというように容赦なく殺そうとして来る。

 何時の間に召喚したのか背には七本の固有魔法を封じ、全ての固有魔法を何回でも使える最悪の武器が並んでいる。それに聖剣まで持っている。

 だけど、本当に殺す気で来てくれないとボクが殺しちゃうから。

 ――全身凶器と化したボクは爪を振り、尻尾を振り回して嵩都を攻撃する。

 この状態の攻撃は全てが致命的な猛毒等の状態異常攻撃だ。生体兵器と言うのも納得がいくと思う。

 変わって嵩都は邪神化すると邪神化を解くまで無敵に近い存在となる。

 HPやMPも例外じゃない。HPは有限だけどMPと魔力に底はない。

 つまり、長期戦になっても邪神化した嵩都は一切衰えのない攻撃をしてくる。

 邪神時のHPはレイドのように五段のHPバーがあり、更に一段減るごとに能力値が上昇する。

 とは言っても、先ほどのポーションで回復しても残りHPは一段の30%くらいだ。

 ボクと嵩都の力は拮抗していない。他からみればいい勝負かもしれない。

 だけど、嵩都はまだ本気を出していない。いや、出せない。

 本気を出した嵩都ならばボクの存在を消滅させることくらいわけない。

 時間も空間も自然も隕石も超新星爆発も全部使って殺しに来たらこの星ごと消えるだろう。

 ボクはせめてもの抵抗で攻撃してみる。時折わざと当たってくれる。

 一方的に攻撃できるのにしない。優しい過ぎるが故に残酷だ。

 当たってくれるのはボクが神の元に向かう時間を調節するためだ。



 そして、遂に時間が来る。嵩都は狙い通りに魔剣をボクの体に突き刺す。

 同時に残りの七本もボクの肢体を貫いた。

 痛いよ……。

 魔法陣が展開された。魔法陣はボクたちを飲み込んだ。

 嵩都はボクの視線をしっかりと捉えた。



「プレア……」



 嵩都が何を言いたいのか、それは言わなくても分かっている。

 突き刺さった八本の魔剣はボクの体に莫大な魔力を送り込んでくる。

 少しずつ、ボクのこの体は光に包まれていく。

 魔剣に封じられていた魔力が消えると魔剣は音もなく崩れた。

 それと同時に胸の傷も癒え、痛みも無くなった。



「嵩都、ボクを選んでくれてありがとうね」



 嵩都はボクを殺したことで自己嫌悪しているのか顔色が悪い。

 それでも嵩都は言葉を振り絞って、震えた声で言う。



「俺は何百年でも何千年でも待っているから、必ず戻ってこい」

「分かったよ。……嵩都、本当のことを言っても良い? あ、大好きなのは変わらないから安心してね。ボクが言いたいのはこの物語の本当の話の内容」



 嵩都は少しだけ躊躇い、頷いた。

 ボクは嵩都を見つめ、少ない時間で語る。

 嵩都の隣に本来いるべきなのはルー姉だったこと。

 この物語の本当の最後の結末。そして、ボクが本来出会うはずだった時間。

 言い終わると同時くらいにちょうど全身が消え始めた。

 本当に残り僅かな時間だ。



「……これで全部だよ。黙っていてごめんね。嵩都、これは我儘だけど、ルー姉を愛してあげて。押しつけがましいけどね」

「……ルーテはただの人間だ。俺は愛せない」



 嵩都は首を振って否定した。



「言ったでしょ。本来、嵩都の隣にいるべき人はルー姉だって。ボクはそれを横取りしちゃったから……せめて少しだけでも答えてあげて」



 嵩都は何も答えない。ただ、立ち尽くしていた。

 ボクは本当に消え始める。



「嵩都……ルー姉が死にかけた時、自分の気持ちに気付いちゃったでしょ? 例えそれが物語に設定された物だとしても、嵩都はそれを本物としか感じられない」



 少しして、嵩都は頷いた。



「これからはちゃんとルー姉を見てあげてなんて……ボクが言っても説得力ないね。ずるいもんね。全部分かっていたのに黙っていたんだから。……でも、その気持ちを偽らないで。お願い……」

「……分かった」



 その言葉を聞けてボクは自己満足した。

 あと数秒で完全に消え去る。ボクは最後の言葉を嵩都に言う。



「ここまでありがとう、嵩都」



 嵩都は今にも泣きそうな表情を無理やり笑顔にした。



「行ってらっしゃい、プレア」



 嵩都に見送られて、ボクは旅立った。












 ―――

 ―――――

 気が付くとそこには白い部屋があった。

 赤い球体、青い球体、白い球体など様々な色の球体が浮かんでいる。

 目の前には光る少女が机に向かって分厚い本に何かを書き綴っている。

 ボクはそれが、その子供がこの物語を作った神だと分かる。

 ボクは衝動のままその子の頭を潰していた。

 光の少女が死ぬと、球体が消えた。そして白い部屋は黒へと反転する。

 そしてボクの正面に白い道が現れ、長身の人影が現れる。



『待っていたよ』



 その人はボクが来るのを知っていたかのように言う。



『知っていたとも。君が殺した少女は俺のアカウント……ま、分身体みたいなものなんだ。それはおいといて、改めて、完結おめでとう』



 何を言っているのだろう?



『ああ、ネタバレすると君たちが歩んだ物語は俺が最初に作った初作の書き直しの世界なんだ。つまり、君という人物を新たに作り、物語自体を壊したということだ。俺の事、見憶えないのも無理はないか。そのために幼少期に干渉したんだから』



 全く分からない。そうする目的も。



『君という人物を作り、設定をし、目的を全て入れた。君が本来の物語を知っていたのはそういうことだ。さっき嵩都にも言っただろ?』



 確かに言った……。まさか、あの結末は―――。



『そう、あれは俺の失敗作。思いつくままに書き、途中で目的を見失った矛盾した物語なんだ。強引に終わらせた結果があれだ。そんな結末は俺自身も望んでいなかった。だから書き換える必要があった。……一部予想外が起こったけど』



 つまり、全ての元凶はこの人だということだ。



『さて、そろそろ時間だな。俺の物語は――まあ良い方向に終わったよ。ここから先は俺も知らない物語。と言っても俺はもうすぐ死ぬけどな。ああ、寿命が来る前に終われて良かった』



 彼は大きく伸び、満足そうな表情になった。



『最後に少し強引にくっつけたけど問題ない……はずだ。多分』



 何か言って、彼は暗闇に消え去った。

 ……結局、何を言いたかったのだろう?



『要するに、物語攻略おめでとうと言いたかったのさ』



 どこからかそんな答えが返ってきた。まだ居たんだ。



『さあ、君を魔王城に送ろう。皆、そこにいるはずだ。それでは――さようなら』



 声が終わると同時にボクは深い眠りに襲われた。


~アネルーテ視点~

裏切られた。

一番親愛していたプレアに、一番好きだったアストに裏切られた。

酷い。

私だけ騙されていた。

皆、嘘つき。

勇者たちも、魔王軍も、邪神軍も、全部グルだった。

皆、知っていた。

私が七番目の生贄だったということを。

許せない。

許したくない。

でも……それでも、私はアストに助けられた。

偽善なのは分かっている。

それでも、私はアストが好きだった。

プレアを全部憎しめなかった。

どうしよう……どうしたら良いのだろう。

本当はもう答えが決まっている……と思う。

言葉にするのは少し難しい。

でも、言いたい。

空を見上げればそこにアストが居る。

アストだけがいる。

ずっと、最初から理想のままの人。

ずっと愛して止まない人。

私は、立ち上がった。

アネルーテ「次回、許し許され」




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