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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第九十一話・六番目

嵩都「第九十一話だ」

聖女「おお、神の導きがあらんことを……」

スルト「余が……神だ!」


 終焉の日。今、ここに来たれり!

 さて、簡単な筋トレを済ませて朝食を食べ、バルフォレスを観光しつつ城へ向かう。

 軍事国家特有の質素と倹約のせいで食事は値が張る宿を取っても質素な物だった。

 ちなみに普通の宿は栄養価の高いレーションらしい。泣ける。

 正午になったので宿の部屋を出る所から俺は音消しをかける。



「いくぞ」

「おう」

『おう』



 宿を出て昨日来た城門前に行くと安藤が待っていた。



「よっ、今日の案内は念のため俺が行うことになったからよろしくな」

「こちらこそよろしく」



 城内に潜入し、俺は亮平に盗聴妨害をしてあるリンクを飛ばす。



『それじゃ、作戦開始!』



 亮平たちと別れ、半重力で浮遊しつつ聖堂へ向かう。





 HAHAHA、ザル警備だな。聖堂前に来ちゃったぜ。

 とは言え、流石に聖堂前には兵士がいる。

 それに亮平たちが来たことによって見回りが多い。

 それによって殺害もしくは気絶させると早々とばれる可能性がある。

 どうした物かと悩んでいると、そこへ正面から給仕と思われる侍女がやってきた。



「聖女様へのお食事をお持ちしました」

「ご苦労。入れ」



 ラッキー。扉が開いて中へ侵入できた。

 ちなみにこの聖堂限定で強力な対魔結界が張ってあるため壁抜けや転移が出来ない。

 強引に壊せば間違いなく警報とか激しい音を立てて壊れると思う。

 食事を持ってきた侍女は聖女の前に食事を置くと静かに下がった。

 扉が閉まり、この空間に二人だけ取り残される。



「これが……最後の食事かしら? 毒でも入っていたりして」



 何か不吉なことを言ってお祈りを済ませた聖女は背後に置いてある食器を手に取った。

 食器に入っているのは四角い物体だ。

 ……仮にも聖女に食わせるのが味のないレーションってどうなのよ。



「なんてね。主、軍神オーディンよ。感謝を……」



 せめてもの情け、食事が済むまで待ってやろう。

 ――と、言いたい所だが台所奉行の俺としてはあまりにも貧相な食事に一輪の花を盛ってやった。

 ストレージに入っていた白銀桃だけどな。

 形は映えるように華の形にしてある。大きさは食べやすい一口大だけどな。

 当然、そんなことをしたらばれるが別にもうばれても良いだろう。



「姿は見えませんが優しい方なのですね。わざわざお食事を待ってくれるなんて」



 魔剣ニーヴェンベルグを取り出し、気配を消し、限定的に二人だけに会話を絞れる声消し魔法を使う。



「それで、あなたが私を殺す人ですか?」



 姿を現した俺の目に視線を合わせ、聖女は問う。



「如何にも」



 シャクっと桃を齧る良い音がする。



「ああ……何年振りかしら味のするものなんて。美味しいわ」



 なんか凄く同情したのは俺だけだろうか?

 軍神を退けて祭壇の台座に座り、聖女が食べ終わるのを待つ。



「まあ、その鉄の像は軍神オーディン様なのですよ。神罰が当たりますわ」



 知らなくて当然だが笑えるな。



「残念だが、オーディンは既に死んでいる。余の同胞が殺した」

「まあ!」

「根拠はオーディンはお前と同じ固有魔法持ちだったからだ」

「まあ!」



 今度は恐れ多いというように口元を抑えた。

 軍神像を片手に持って空中に投げ、落ちてくるのを受け止め、また上空に放る。

 聖女が食べ終わったようなので軍神像を台座に置き、聖女の前に立つ。



「ありがとうございました。最後に美味しい物が食べられたので満足です。さあ、煮るなり焼くなりお好きなようになさって」



 聖女は両手を広げ、目を閉じ、僅かに起伏している胸を張る。

 ――なんか可哀想だな。



「その前に聞いておく。未練はまだあるか?」



 俺の言葉が予想外だったのか聖女は目を開いた。



「もし第二の生を歩めるのなら、歩みたいか?」



 聖女は少し考え、頷いた。



「もし次があるのなら……こんな力のない、普通の少女として生を受けたいです」

「その願い、聞き届けた」



 次の瞬間、俺は魔剣を聖女の心臓に突き立てた。

 魔剣ニーヴェンベルグが聖女の固有魔法に共鳴し、その力を吸収していく。

 終わると聖女はうめき声を上げ、静かに骸となった。

 俺はすぐさま蘇生をした。そしてただの少女と成り果てた矮小な存在が俺を見上げた。



「お前の役目は終わった。今より、第二の生を歩むが良い」



 少女は俺を見上げたまま動かない。右手を自身の心臓に当て、鼓動を確かめる。



「道を作ってやろう。行きたい場所はあるか?」



 少女は何も答えない。状況に戸惑っているのだろう。

 やがて状況を理解し始め、目に涙を浮かべた。



「でしたら、ハイクフォックとの国境にあるリエンという町へお願いできますか?」



 俺はその位置へゲートを開く。その先には小奇麗な町があった。



「さあ、行くが良い」



 少女の背中を押してゲートへと進ませる。



「あ……せめてお名前をお聞かせください」



 むっ、名乗ってなかったか。



「余の名は邪神スルト。聖女だったお前を殺した名だ」

「じゃ、邪神―――――!?」



 少女を突き放し、ゲートを閉じる。最後の驚いた表情は今まで見た中で一番人間味があった。

 さて、用事は済んだ。

 せっかくなので軍神のパーツをバラバラにして台座に丁寧に置いていく。

 そして実は中身は木彫りだった軍神の首を外し、聖女の血を魔法で培養し、綺麗なステンドグラスに血文字を刻み込む。

 門前にいる兵士の意識を刈り取り、亮平たちにリンクを飛ばし、見回りが来る前に気絶した前後の記憶を弄って俺は退散した。

 ちなみに亮平たちは事前に転移結晶を持たせてあるので後から帰ってくる。

 転移し、俺は一足先にアジェンド城へ帰還した。







~亮平


 嵩都と別れた後、俺たちは謁見場に連行されていた。

 そして眼前には厳ついおっさんと腹黒そうな宰相がいる。

 左右には博太よりも弱い勇者の小粒が勢ぞろい。



「よく来たな、話は聞いているぞ」



 別にこいつに敬意を払う必要性を全く感じないのでタメることにする。

 ぶっちゃけここに居る全員と戦っても九割俺が勝つ。

 強くなると自然と態度もでかくなるな。



「して、話とはなんだ」



 こいつはどうでもいいので無視し、俺は左右にいる元学友を眺める。



「皆、よく聞いてくれ。俺たちは元の世界に帰る方法を見つけた」



 俺の一言は元学友たちを非常に驚かせた。



「マジかよ」

「マジだ。筑笹たちはアジェンド城から居なくなったお前たちを見限ったが俺たちは違う。世界の何処に居たって俺は皆のことを友人だって思っているぜ」



 我ながら大根だと思う。実際に帰還方法を知っていたのは嵩都だから筑笹たちは何もしていないんだが、まあ被害を被って貰おう。

 王と宰相の苦い面が拝めたのは得役だな。

 こういうのも中々爽快な気分だ……それで良いのかと自分に少し疑問を感じた。



「そ、それで、どうやって戻るんだ?」



 皆が少し緊張した趣で切り出した。



「そのために使者としてきたわけだ。元の世界に帰る条件としてアジェンド城国王と俺たち勇者はお前たちに戻ってきて貰い、バルフォレスとは恒久的な不可侵条約と冷戦状態にある現状を打破し、停戦を結びたい」

「そんなことで良いのかよ! さっさと結ぼうぜ!」



 勇者たちは完全に俺たちのペースに呑まれ、王を見た。

 ぶっちゃけ敵戦力をそぎ落とす離反の策だ。勇者たちにこれほど都合の良い条件はないだろう。

 だが、国王と宰相は怒り心頭だ。

 もし、俺が敵にやられたら今の国王のように怒る、敵にとっては最悪の一手だ。



「なっ―――!」

「たったこれだけで良い。さて、不必要な問答は抜きにして答えを聞こうか」



 時間を置かず俺は一気に攻め立てる。

 ちなみにここで国王が是と答えれば嵩都7:俺たち3の手柄になる。

 否と答えれば勇者たちに総批判を食らう。どっちにしてもはらわた煮えくり返ることだろう。



「さあ、答えは如何に?」

『否だ!!』



 国王と大臣が必死の形相で否定する。

 うわっ、マジか。二人して振られるとは思わなかった。



「仕方ない……。皆、この話は無しということで」

「王様!」

「国王!」

「王!」

「ぬぅぅうううう!!」



 今にも怒り爆発しそうな感じになったところで嵩都のリンクが飛んできた。



(終わったぞ。そっちはどうだ?)

(王様が提案拒否して大荒れ)

(ある意味予想を裏切らなかったな。それじゃ、先に行くぜ)

(了解)



 リンクが切れた。俺は一度収集を付けるため拡音した拍手を一発撃つ。

 ドパン!

 力加減を間違えて兵士数人が気絶した。



「オホン。そちらの意見は分かった。一応こちらの意志を言っておくと、この件については国家間損得無しでの情報提供する。俺たちはこの後予定があるのでこれで下がらせて貰う。皆の賢明な判断を祈る」



 言いたいことは言ったので俺は外套を翻した。

 博太がその後に続き、転移結晶を取り出す。



「ま、待ってくれ! 地球に帰れるのは俺たちだけなのか!?」



 安藤の問いに俺は嵩都から聞かされた切り札を切る。

 嵩都と筑笹の推測では、これで半数が戻ってくるらしい。



「いや、転移と一緒で連れも行けるらしいぜ――じゃあな。転移!」

「転移」



 俺たちは学友を後目にして転移した。







 転移が終わるとそこは戦場だ。エクスカリバーを抜刀し、嵩都の元へ行く。

 謁見場を抜け、殺意と威圧が戦場全体を覆う特異な戦場――テラスへと出た。

 全てが静まり返った静寂の世界。その広いテラスに皆は居た。

 嵩都の後方二十mにはアネルーテさんと膝枕しているフィーと魔帝が居る。

 アネルーテさんは意識があるようで目を見開いたまま嵩都の方向を見ている。

 その方向を見ると、この静寂を作り出した原因の邪神化した嵩都。

 そして……形は変われど夕日色の髪で辛うじて分かるほどの化け物となったプレアさんがいた。

 嵩都の背後には七本の剣が浮いている。どれもが禍々しい気を放っている。

 手にはヴァルナクラムと魔剣が握られている。額には二本の禍々しく捩れた角。

 プレアさんは全身が漆黒に包まれ、背丈が嵩都と同じくらいになっている。

 手足は鉤爪。目は赤と黒に染まり、背中からは飛竜のような翼が生え、更に四本の触手がうなっていたようだ。既に片翼を失い、触手が四本とも斬られているようだ。

 極めつけは長い二股に分かれ、先が鋭い刃物になっている尾だ。

 聖書(エロくない本物の経典)とかに出てきそうな悪魔か堕天使みたいだ。

 この短時間で何があったのだろうか? 邪神となった嵩都が肩で息をするほど疲弊している。プレアさんがそこまで追い込んだのだろうか?

 確かにあの状態のプレアさんは俺じゃ勝てないな。

 いや、ここにいる俺たち、魔王軍、邪神軍が束になって倒せるかどうかくらいだろう。

 その強さは一目で分かる。

 嵩都の背後、アネルーテさんの城の背後にある草原一帯が凍原となっているのだから。あれが固有魔法の威力だというのだろうか?

 で、その対極が煌々と大炎上しているのは何でだろうな?

 ハハハ……乾いた笑いしか出て来ねぇ。これがこいつ等の戦いか。

 だが、それももう終わる。俺たちは本当に最後の場面に立ち会ったらしい。

 言葉を発することなく、嵩都は聖剣で襲い来る爪を弾き、左手に持っていた魔剣を突き刺した。そして追い打ちをかけるように背後に浮いていた七本の魔剣がプレアさんに刺さる。

 全員が息を飲み、全身を貫かれた痛みを共有したかのように顔を歪めた。

 そして魔剣から大規模な魔法陣が発動した。

 光り輝く魔法陣は嵩都とプレアさんを包んでいく。中の様子はここからでは分からない。









 一分ほど経つと魔法陣が消え、そこには嵩都だけがいた。



嵩都「急激な話の進め方だな」

グラたん「所詮バルフォレスですので。扱いは程良く『雑』にします」

嵩都「つまりモブ扱いか」

グラたん「一概にそうとは言えませんけどね」

グラたん「さて次回、七と八番目」

嵩都「……」

グラたん「……まあ、頑張ってください」


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