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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第九十話・軍国バルフォレス

グラたん「第九十話、ラストスパート開始です!」

~嵩都


 亮平たちの協力を得ることに成功した次の日。

 正午になり、俺たちは謁見場へと向かった。

 謁見場では亮平たちが待っていた。

 俺は改めて筑笹とサフィティーナさんを連れて謁見場を訪れた。

 プレアはハーデスとして仮面と魔剣を用意したままルーテの背後についている。

 無論、ルーテはそれを知る由もない。



「なっ、サフィー!?」



 俺たちの入場に国王が驚きのあまり腰を浮かせた。



「ええ。黄泉の国から生き返りましたよ」

「そういう契約だったからな。前払いだ」

「そ、そうか……」



 そう言って再び玉座に腰を落ち着ける。いや、驚いて腰が抜けたのかもしれないな。



「さて、あまり時間もないことだ。さっさと終わらせようぞ」

「そうだな。早速行こうか」

「亮平、嵩都は待たなくていいのか?」



 亮平の言葉に大典がわざわざ演技を買って出た。

 打ち合わせにはなかったがこれもルーテを騙すためだ。

 ……あれ、何か心が痛い。



「あいつは間に合わないとリンクがあった。明日には戻ってくるらしい」

「分かった。潜入の人数はどうするんだ?」



 その問いには俺が答える。



「今回は余、田中亮平、鈴木博太の三人、少数精鋭で行く」

「そういうことだ。筑笹、帰ったばかりで悪いが後を頼むぞ」

「了解した」



 既に置いてけぼりを食らっている国王は置いて俺たちは転移を開始した。

 筑笹たちは俺たちが行っている間に俺が選定した三十人にマークをつけて貰い、万が一に備えて――かなり 現実味があるので何とも言えないが、備えてもらう。

 大典たちST組は最後の砦である城門を守って貰う。

 最悪、STに乗ったまま転移することになるだろう。

 フェルノは家にいる両親と共に居て貰い、時が来たらすぐさまこちらに来てもらう。

 クロフィナさんとサフィティーナさんは国王を説得して、ダメなら強引に黙らせることにしている。

 シャンたちにはプレアが連絡するようだ。

 ツクヨミは魔王軍で赤髪の第一位ジェルズ、知恵袋のベラケット、あまりコミュニケーションを取らないクリエテイスと共に前線指揮を執るらしい。

 確認が終わったところでバルフォレスに到着した。

 バルフォレスは鉄の城壁に囲まれた鉄臭い城だ。

 ただ、財政はよろしくないのか徴収されているのか、民家などは木の家だ。

 住民は戦前の日本よりは少しマシな木綿の服を着ている。

 火事になったらさぞかし良く燃える事だろう。

 冒険者や商人たちはその限りではないが……城門前にいる俺たちのすぐ後ろでは追剥や盗賊が馬車を襲っている。城兵はそれを見てみぬ振りをしている。

 このためか町中も治安はよろしくない。ま、なんにせよ俺たちには関係のない話だ。

 関係があったらこの辺一帯は隕石が落ちたような焼野原になるのだが。

 そんな俺たちはバルフォレス城の街門入口に来ていた。

 ちなみに邪神の衣装は転移中に脱いでストレージに仕舞ったぞ。

 流石に黒一色は怪しまれるからな。今は着流しの状態だ。

 転移し終わると同時に威圧を全開にして盗賊共を追い散らす。

 ある程度終わったら街門に近づいていく。



「止まれ、冒険者か?」



 案の定兵士に止められた。しかも人相が悪い男だ。



『嵩都、こいつは盗賊の仲間じゃないか?』



 亮平も同じように思ったらしくリンクで話しかけてくる。

 俺はそれに目線で頷いておく。



「いや、アジェンド城の使者として送られてきた者だ」



 そういうと兵士が薄ら笑った。こちらを馬鹿にするように嘲笑する。



「あん? ああ、あの平和ボケした国か」

「ハハハ……軍国さんにはそう見えるよな」



 そう言いつつ賄賂を握らせる。

 男は目ざとくそれを受け取って悪い笑顔で頷いた。



「止めて悪かったな。通って良いぜ。そっちの二人もだ」

「お役目ご苦労さん」

「いえいえ。へへへ……」



 兵士をしり目に俺は二人に合図して追従させる。



「……今の賄賂だろ」



 城門をくぐっていると見咎めたように博太が言う。



「あの面を見れば分かるだろ。話して、相手を見ればあの手は割と有効だ」

「……アジェンド城が如何に上手く統制されているかを思い知らされるな」

「だな」



 街門を抜けて宿屋に行き、二人分の客室を取る。

 次に戦争になった際に攻める箇所を逐一回っていく。

 大抵、教会にある結界装置を予め時限爆破出来ればそれに越したことはない。

 結果を破ることが出来れば魔法が通るから陥落しやすくなる。

 それだけで時間稼ぎになる。あとは住民の様子とかだな。

 ギルドにも顔を出して依頼の難易度や冒険者を見てどれくらいの強さかを図る。

 結果的に最高Bランクということが分かった。雑魚共め。

 中央通りを少し威圧しながら抜け、城門に来た。

 時刻はもう夕方に差し掛かっている。



「それじゃ、頼むぜ」

「任せろ」



 打ち合わせ通り、俺は最上級であるラスサアル・スニークで姿も声も音も何もかもを消して亮平たちの背後に付く。最初から二人でしたという方が辻褄が合うからな。



「止まれ、何者だ!」



 こっちは多少金をかけているのか装備と人相が良い普通の兵士だ。

 だが、煉瓦の影に隠してある酒の匂いまではごまかせないな。



「アジェンド城からの使者だ」

「アジェンド城? 一体何の用だ」

「そちらにいる勇者たちに教えたいことがあるので取り次いでくれないか?」



 これは勿論、転移の件を交渉に使うつもりだ。

 交渉にはどちらが行っても良いようにある程度戦略を立ててある。

 城に来たのは城の最も清潔にしてある軍神とやらを祭る聖堂に聖女が居るからだ。

 何時会っても良いように腰には魔剣を装備してある。

 銘はニーヴェンベルグという赤い刀身の魔剣だ。



「残念だが勇者様方は―――」

「あれ、亮平じゃないか! 久しぶりだな!」



 兵士がそう言おうとした矢先に背後から裏切り者の一人である安藤の声がした。

 その背後には安藤の女と思われるメスが三人ほどいた。

 しかも種族が全員違うし性格的にも別々だろうな。

 上手く丸め込まれて何処かの令嬢を宛がわれた感じだな。



「安藤じゃないか。良かった、他の皆は?」

「多分、城内か自宅にいるんじゃないか?」

「そうか。なら、明日までに集めてくれないか? 教えたいことがあるんだ」

「それだったら俺が口頭で伝えておくけど」

「いや、万が一この世界の住人に聞かれると色々危険なんだ。頼む」

「……良く分からんがいいぜ。時間はどうする?」

「明日の正午頃はどうだ?」

「正午だな。分かった。ってかお前からリンクすればいいだろ?」

「すまん、皆の波長が分からん」

「あ……そういうことか。了解」

「すまんな。それじゃ、明日の正午にまた来る」

「おう」



 安藤たちと別れ、俺たちは宿屋へと戻った。

 今日見た結果をリンクで筑笹たちに伝え、記録してもらう。

 国王の方は何とか説得したが、非現実的過ぎて受け入れに時間がかかっているらしい。

 母と再び会えたルーテは非常に喜んでいたらしい。

 リンクを終わらせて亮平たちと最終打ち合わせに入った。

 明日は一応亮平たちにアリバイが出来るように正午に城へ向かう。

 亮平たちが勇者の誰かと出会うまで見届けてから行動開始する。

 亮平たちが出来るだけ時間を引き延ばす間に聖堂まで行き、出来れば簡単に死んでくれると助かるので背後から強襲。万が一スニークがばれた場合は会話して説得。無理なら多少強引に押し倒してでも殺す。

 殺し終えたら亮平たちにリンクして合図し、交渉を終わらせて城の外へ勇者たちにお見送りして貰う。

 完璧だ。完璧な完全犯罪だ。

 打ち合わせも終わり、俺たちは眠りについた。







~聖女


 深夜十二時の少し肌寒くなる刻。

 嵩都たちが就寝した夜、軍神を祭る聖堂にて聖女は信託を受けた。

 聖女はエンという少女だ。外に出ないため肌は青白く、髪も白くなってきている。

 食事は質素で栄養があまりないものが与えられ、一日を聖堂で過ごすために不健康状態に陥っていた。



「そう……ですか。遂に明日なのですね」



 聖女は立ち上がり、手ごろな席に腰かけた。

 その手や足はやせ細り、仮にも聖女とは――否、年頃の少女のものとは思えない。

 深夜の聖堂には誰もいない。静かな闇と静寂、星々の煌めきがある程度だ。

 祭壇には軍神と思われる石造が鎮座している。



「明日……私は死ぬ……。怖いなぁ」



 聖女は元々町民だ。

 とある紛争の際に能力が目覚め、それを兵士に見つけられて聖女に祭り上げられたのだ。

 今では軍国で崇め称えられる奴隷だ。



「お父さん、お母さん、皆……私、死にたくないよぉ……」



 その日、聖女は誰もいない静寂の中で一人泣き続けた。

 慰める者はいない。この城に彼女の味方は誰一人としていない。

 苦しく、辛く、悲しくても彼女に選択肢はない。

 その泣き顔を軍神の像が無情に見つめていた。










~アネルーテとプレア


 アネルーテとプレアは生き返った元魔帝・サフィティーナ、クロフィナと共に団欒としていた。

 尚、今はアルドメラは除外されたガールズトークだ。

 そのアルドメラは現在、サフィティーナが蘇生したことによって狂喜乱舞して中庭で奇声を上げている。

 周りには見張りの兵士たちがいるが、遂にご乱心になられたと憐みの視線を向けている。

 そんなアルドメラを置いて四人は楽しく話していた。

 突然、アネルーテとプレアは天井を見上げた。



「二人共、どうしましたか?」



 クロフィナに問われ、サフィティーナは住まいを正した。



「遂に、来てしまったようですね」

「何がでしょうか?」

「天啓――とでも言うべきなのでしょうか? 前に私が殺された時も同じことがあったのです」

「――ということは、まさか二人が?」

「固有魔法を狙った物だとしたらそうなのでしょうね」



 この会話はアネルーテが聞いていた時を想定しての会話だ。

 無論、固有魔法や天啓の事は既にクロフィナは知っていた。



「ルー姉……」



 声がする方を見ると自己体温を下げて顔が青ざめているプレアが居た。

 その表情はアネルーテからみれば今にも泣きそうな表情に見えている。



「プレアも? お母様……姉さま……」

「わたしたちがまもりますわ」

「そうですわね」



 知らぬはアネルーテだけである。

 半場棒読みに近い二人の言葉も、この時のアネルーテには温かく感じられた。

 夜が、更けていく。



グラたん「次回、六番目」

嵩都「あと四話か……」

グラたん「予定ではそうですね……」

嵩都「やっと読者さんたちが増えて来たところなのに残念だなぁ」

グラたん「ええ……まあ。いや、こっちは良いので仕事してください」

嵩都「はいはい」



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