表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
96/466

第八十九話・暴露

亮平「嵩都……嘘だと言ってくれよ」

嵩都「……」

亮平「嘘なんだろう!」

嵩都「……もう、何もかも手遅れさ。もう戻れやしない」

亮平「そんな第八十九話だ」

嵩都「見事に誤解しそうだな」


~亮平


 修行を終えて戻ってきた俺たちは今日の正午のために一度俺たちの家に集まっていた。

 正午に邪神と共にバルフォレスへ向かう予定だ。

 しかし、六人目を殺害するにしてもどうやって殺害するのかを何も知らない。

 いや、皆と推測した結果として魔剣で殺すくらいは分かっている。

 だが、それ以上のことは分かっていない。それに筑笹の行方も進展はなかった。

 それにしても嵩都とプレアさんが帰って来ないな。何処に行ったのだろうか?



「お、おい! 床に魔法陣が!」



 猛が叫ぶと同時だろうか、俺の視界は真っ白に染まった。



「何が――」



 視界が戻るとそこには嵩都、プレアさん、筑笹、魔帝様の姿があった。



『―――はぁ?』


 俺たちの第一声がそれである。こればかりは何がなんだか分からん。



「ちょうど皆いるようだな。とりあえず、久しぶり」



 次の言葉を発したのは嵩都だ。それにプレアさんも一緒――気のせいかまた密着度合が近くなっている気がする。



「あ、ああ。久しぶりだな、嵩都――じゃなくて! なんで死んだはずの魔帝様や行方不明になった筑笹がいるんだよ!」

「それは私から説明しよう」



 筑笹が告げつつ、魔帝様を席に座らせる。

 それにしても魔帝様が生きて動いている。



「ま、魔帝様?」

「サフィティーナさんと呼んでください」



 加奈子の言葉に魔帝様――じゃなくてサフィティーナさんが最後にあった時より穏やかな声色で間髪入れずに言う。



「えっと、サフィティーナさんは死んだはずでは?」

「生き返りました。嵩都さんの手によって」



 ――嵩都の? 駄目だ。さっぱり分からない。



「……加奈子も、皆も説明するから落ち着いてくれ」



 嵩都が合間を取り持ち、皆を落ち着かせる。



「あ、うん……」



 何がなんやら。取りあえず帰ってきた四人にお茶を出して俺たちも座る。

 筑笹が一通り見渡して皆の注目を集める。



「オホン。それじゃ、始めるぞ。理解が追い付かないと思うが今から話すのは全て真実だから良く聞いてほしい。まず――そこにいる嵩都は邪神だ」

「……は?」

「邪神だ。この一連の流れの元凶とでも言うべき人物だ」



 何を言いだすのかと思えば質の悪い冗談だ。



「――筑笹、お前……遂に頭がイカれたのか?」



 大典でさえも言葉は悪いが心配かつ同情的に筑笹を労わる。



「失敬な。次に嵩都たちが行おうとしていることについてだ。ぶっちゃけ、この世界は明日で終わるそうだ。それを食い止めるために嵩都たちが動いている」



 驚く声はない。むしろ筑笹を労わるような視線が増えてきた。

 それからも筑笹の説明は続き、俺たちの視線は温かい物になっていく。



「要するに邪神だった嵩都たちの手伝いをしてほしいということだ」



 筑笹の妄想虚言が終わり、皆を代表して俺が筑笹の肩に手を置いた。



「分かったよ。筑笹、疲れているんだろ? ゆっくり休んだ方が良いぞ。お前らしくも無い」

「何でだ!? 何でそんな暖かい目になるんだ! 嵩都、証拠を見せてやれ!」



 筑笹が半場癇癪を起しながら俺たちは嵩都を見る。

 ――ほぼ反射的に俺はエクスカリバーを抜いていた。

 そこには黒い魔力をわずかに纏った嵩都が優雅な動作で紅茶を飲んでいた。



「それは――邪神の魔力!」



 忘れもしない。ハイクフォックや牢獄に居た時に見た魔力と同じだ。

 嵩都が魔力を消す。あれからだいぶ強くなったはずだったがまだ冷や汗が出た。

 俺と嵩都の距離はまだ縮まらないのか……。



「そういうことだ。今まで黙っていて悪かったな」



 全く悪いと思っていない様子で嵩都は言った。

 ……少し考えよう。これで筑笹の話を本当だと仮定して、明日に世界が終わるとする。

 ならば何故、嵩都は二人を連れて現れた?



「今ならまだ関係修復が可能だと思ったからだ」



 俺は思った疑問をそのまま口にしていたようだ。



「……そんなことが出来るとでも思っているのか。お前が人々をどれだけ苦しめたのか知らないわけじゃないだろ!」

「どう苦しめたんだ?」



 ぬけぬけと――思い返せばいくらでもある。



「まず、サフィティーナさんを殺害した。次に弱った俺の心に付け入って化け物にした。そして何よりオーディンの爺さんを殺した! それにハイクフォック戦において兵士は消耗して近くの村だって焼けたんだぞ!」

「……亮平、それほぼお前の私怨じゃないか? 現にサフィティーナさんは蘇生したし、オーディンを殺したのは俺じゃない。ハイクフォックを攻撃はしたが邪神軍は投降した兵士は解放したぞ。邪神軍は魔王軍と同盟関係にあるからな、断るわけには行かなかった。まさか、相手が人間だから殺すなとか言わないよな?」



 確かにそうだな。……その分は引いてやろう。あれっ、俺の私怨だけ残ったぞ!?



「なあ、俺がどう人々を苦しめたんだ? それにその力はお前自身が肯定しただろ?」



嵩都が異様に人を食った笑いをしながら問いただしてくる。



「――――くそぉ……」

「おい亮平!?」



 大典が叫ぶが俺にはもう邪神を敵視する理由が見当たらない……。



「亮平しっかりしろ! 蘇生したとしてもサフィティーナさんを殺した罪は消えない! それだけでも十分嵩都を責める口実になるんだぞ!」



 大典の言葉に他しかにそうだと思い直す。



「では、私は元々死んでいなかったことにしては如何ですか?」



 だが、その当人であるサフィティーナさんがそんなことを言った。



「そんな無茶な……」

「無茶でも何でも、私はもう彼を許しましたから」



 大典が納得いかないという表情になり、そして『ああ、そういえば嵩都は理不尽の塊だった』と諦めて呆れたような表情になった。



「他、誰かいるか?」



 嵩都の言葉で思い返したのだろう。全員が俯いた。

 誰も反論できない。くっそぉ…………。



「そういうことだ。ほぼ全員、多少なりと痛い思いはしているがそれはもうとっくに許しただろ? そういうわけで明日は私たちも計画に乗って行動しようと思うが異論はあるか?」

「はい」



筑笹の言葉に琴吹さんが手を挙げた。



「どうぞ」

「明日六人目を殺すとして、七人目はアネルーテ様なんでしょう? 実の子を殺されるのをサフィティーナさんは許容するの?」



 俺たちの視線がサフィティーナさんに向かう。

 ……今思ったが、俺たちの関係上だとお義母様じゃないか? まあ置いておこう。



「蘇生と貸し一を条件に許容しています。アネルーテには内密にお願いしますね」



 政略結婚より生の現実を見せられて俺は少々絶句した。

 ちらりとフィーを見るが、なんだか頷いている。

 マジで? 王族って皆こんな感じなの?



「じゃあ、八人目は誰なの?」

「嵩都の隣に座っているじゃないか」



 自然とそちらに目を向けると当然ながらべったりくっついているプレアさんがいる。



「――えっ、マジで?」



 思わず聞いてしまうくらい驚いた。



「そうだよ」



 そして当人から呑気な声が返ってきた。



「本当だ。実際、この流れ上で一番辛い役割が嵩都なんだよ」

「どういうことだ?」

「その最後にプレアさんを殺すのは嵩都の――邪神の役目だということだ」



 ――何だと。



「仕方ないだろ。他人に殺されるくらいなら俺がやらないとな」



 ――正気か? 嵩都の立場を俺自身に置き換えて見る。

 嵩都が俺で、プレアさんがフィーで。アネルーテさんを殺して―――。

 否応なく最後の瞬間を想像していまった。

 自分の腕の中で生き途絶えるフィーの姿が浮かび、気持ち悪くなる。

 ――――パン。

 筑笹が手を打って注目を集める。

 助かった。このままだったら自己嫌悪じゃすまなくなる所だった。



「そういうわけだ。これも少し考えたんだが、もしも物語を破壊して世界だけが崩壊したらどうなる?」



 筑笹が問うと嵩都が少し唸る。



「……俺たちならば生き残れるが、他はどうしようもないな。空気がないと人間や生物は死んでしまうからな」



 かなりおかしい答えが返ってきたが、邪神ならば可能なのだろう。



「その場合、私たちはどうすればいい?」

「それは―――正直考えてなかったな。うーん」



 筑笹の問いが思いがけなかったのか嵩都は珍しく悩んだ。



「あ、いや、大丈夫だ。そうそう、地球か魔界に送ればいい」



 ――おい、今こいつなんて言ったよ。



「嵩都、地球って……帰る手段を知っていたとか言うなよ?」



 知っていたとしたら今すぐこいつを半殺しにしなくてはいけない。



「いや、知ったのは本当につい最近だ。最大三十人までしか送れないのが難点だが。ちなみにこっちの世界の住人も行けるぞ」

「嘘だろ……」



 一日に何度絶句すれば良いだろう。だが、俺たちは純粋に歓喜した。

 帰れる。また家族に会える。俺たちに隠していたということも、それで帳消しにしてお釣りが来るほどの喜びだ。



『良くやった! お前の全てを許そう!』



 全員の声が被るようにそう言った。筑笹もそれは知らなかったようだ。



「だが三十人か……。最悪、俺はハーヴェ化して魔界にお世話になればいいが……その帰還方法は転移か?」

「そうだ。魔王軍にいる軍師が開発したようで試運転は俺とプレアが見ているから大丈夫だ。ただ、俺個人の魔力だと片道一回が限界だな」

「……そうか。なら、今からその事態に備えて生き残る三十人を選別する必要がある」



 筑笹が深刻な表情で言う。その理屈はノアの箱舟と同じだ。



「筑笹、それは俺が決める。俺が使用するんだからな」



 言い方は独善的だが、これは選抜した人が後に後悔して死にたくならないようにするためだろう。

 少なからず憤りを感じている奴がいるから後で教えておこう。



「とは言え、魔界にいるのは人間嫌いの奴ばかりだ。亮平と悠木、あとはちょっと無理してサフィティーナさんとアネルーテなら大丈夫かな?」



 嵩都の疑問に対して不思議な言葉が聞こえた。



「ん? 琴吹さん?」



 そう、琴吹悠木さん――――いや、ちょっと待て。お前、何時から下の名で呼ぶ仲になったんだ?

 その疑問はついぞ解消されることなく話が進んでいく。



「あ、言い忘れていたね。私は魔王軍の幹部第二位だよ」

「ついでに学内にも潜伏している奴が多数いるぞ」



 衝撃の事実が発覚!



「それはともかく、現存では筑笹、源道、三井、山下、クロフィナさん、大典、博太、フェルノ、海広、川城の十人が確定だ。あと思いつく限りだとプレアの妹のリーナ、マベレイズさん、国王かな?」

「これで十三人か……。残り半分はどうするんだ?」

「そうだな……あ、フェルノの両親がいたな。これで十五だな。戦力を減らす意味でバルフォレスに使えば良い手札になるんじゃないか? それでこっち来たらさようならで良いだろ」

「お前……随分とエグイこと思いつくな」



 大典が呆れたというように肩をすくめた。



「だが悪くはない。そもそもサフィティーナさんの恩を忘れて敵になった連中だ。容赦は必要ないだろ」



 そこへ筑笹が言い、かつての学友を切り捨てた。

 その意見に関しては俺も概ね同意だ。



「そこらへんは任せる。それより皆には今回の動きを説明しておく。協力してくれるなら助かるが、万一にも邪魔するなら容赦はしないので注意してくれ」



 それだけの力量差を見せつけられて邪魔出来る奴は本当に勇者だろう。

 そして俺たちは時間いっぱいまで説明を受け、同意した上で策を練った。

 今回は俺たちの件だが、関連的にこの後にバルフォレスが聖女を殺したのがアジェンド城にいる勇者だとかなんとか言って難癖つけて本格的に戦争になるのは目に見えているので、午後は町を見たり、妨害工作をしたりする予定になった。



クロフィナ「リン、貴方のことは忘れないわ」

亮平「待ってくれ! 俺は!」

嵩都「もう遅いんだ」

博太「フェルノ、これがNTR(寝取られ)というものだ」

フェルノ「(嵩都の傍に行って)……博太、サヨナラ」

博太「おぉい!? ちょっと待ってくれ!」

マベレイズ「(便乗して)もう別れましょう、シュー」

大典「な、何を言ってるんだ、レイ!」

ペルペロネ「我、大いなる闇に飲まれたり。光の道を歩むこと無し!」

博文「いやいやいや! お前はそっち側じゃないだろうが!」

嵩都「……何か凄いことになってるが、ともかく次回、軍国バルフォレス」

プレア「(笑顔で弓を構える)嵩都、何してるのかな?」

嵩都「誤解です。話を聞いてくだ――(矢が刺さる)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ