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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第八十六話・竜の文化

嵩都「第八十六話だ」

コウクラーナ「さあ、者共、食らうぞ!」

竜族「うおお!」

嵩都「(逃げる)」

 

 ――静けさが戻ったが、相変わらず外は騒がしい。



「一体、今日は何の祭りだったのだろうな」



 参加したかったな、と呟き、嵩都は外を見ていた。

 町には篝火や灯りが灯り、酒や肉を頬張り、空には星と月が輝いていた。

 その節にプレアやルーテ、亮平にクロフィナさん、博太にフェルノそして、実の妹である夕夏のことを思いだした。



「夕夏……今頃どうしてるかな?」



 少しだけ今の家の状況を推測してみる。

 きっと食器が溜まり、洗濯機に洗濯が山のように溜まり、部屋には埃が被さっているのだろう。

 家事は俺がやっていたからな。……夕夏、栄養偏ってないと良いけど。

 ぼんやりとこの光景を見ながら思い、心配になった。



「寝ようかな」



 寝床に横になり、星を見ている内にいつの間にか寝入っていた。








 次の日。

 朝食を頂いた俺はコウクラーナに呼ばれていた。

 謁見場に来ていた。あらかじめレニールから何をするのか教えて貰っていた。



「さて、嵩都よ」



 開口を切ったのはコウクラーナだった。



「昨夜レニールの進言により、竜の武術を其方に伝授しようと思う」



 竜の武術。簡単に言えば、スキルを使わない攻撃だ。

 要は自身の握力や足で敵を倒す技術で、これは竜族の者なら幼児から習わせるのがしたきりらしい。



「どうかの? まあ、お主ほどの強さなら必要ないとも思うが……」

「いえ、有り難く教えを受けます」



 すると蚊帳の奥でコウクラーナが僅かに笑った。



「ついでと言ってはなんじゃが、其方の城では闘技大会があったというではないか」

「――……まさか」



 すると一気に蚊帳が開き、昨夜同様の服装のコウクラーナが現れた。

 そして手に持っている扇を開いた。扇には『開戦』の二文字が書かれていた。

「うむ、我々も真似て興ではないか!!」



 瞬間、ウオオ! という雄叫びがそこらかしこから上がった。



「当然、私も参加する。実はお主の先の戦いを見て闘争心を燃やしたり感動した者たちが直に戦いたいと申してな――」



 等々、俺の戦いの一部始終を見られていたようだ。

 先日からの騒ぎは俺が原因だったと納得した。



「そうそう、それとお主と正式に同盟を結びたい。お主は私が知っている邪神の中でも特段に強い。どうじゃ、嵩都殿?」



 そう言われて俺は即座に損得勘定を済ませる。



「同盟、承る。それと嵩都で良い。その方が余――いや、俺も楽だ」

「決まりじゃな! では、早速習得訓練と行こうかの、嵩都!」



 異様に密着するコウクラーナに引っ張られて俺は外に連れ出された。





 習得訓練は野外で行うようだ。

 澄んだ空気、薄い酸素、山脈が連なる良い眺め――要は空中だ。

 俺たちがいる遥か上空には広範囲のフィールドが張られていた。

 その中を俺は必死に逃げ惑っていた。



「こなくそぉおお!!」



 竜の形態になった神々しい竜のコウクラーナを含めた千匹程度が一度に襲い掛かってきていた。

 特大の火炎を吐かれ、鋭い爪を振り下ろされ、小癪にも所々でスキルを撃ってくる。

 それらを間一髪で避け、避けて、避けていた。

 何故反撃しないか。簡単だ。武器が無い。というか禁止されて防具もつけていない。

 ここまで戦って、ようやく三時間が経過した。



「そらそら、食らうのじゃ!」



 風を切る、なんで生易しいものじゃない。大気爆風を切り裂いてコウクラーナが爪を下ろした。

 それも連続で子気味良いフットワークで繰り出していく。



「竜装甲!」



 それに対して俺は、竜に比べたら今にも折れそうな腕を出し、なんとかその爪を受け止めた。

 その斬撃はギィンと耳障りな音を立てたほどだ。

 今、俺の腕は一時的とはいえ、緑色の魔力から生成した装甲が出てきて竜の様な腕になっている。

 これは俺が数度攻撃する度に竜共が防御するのに使ったスキルを憶えたのだ。

 例によって理解習得を使ってだ。じゃないと無理。やってられないし死ぬ。

 俺はその腕のままコウクラーナに殴りかかった。

 竜形態では鈍重になると思いきや全然そんなことはなく、むしろ攻撃も速度も増している。

 そのためコウクラーナは俺の拳を難なく躱した。



「ほう、やるではないか」



 素直な称賛をコウクラーナは投げかけるがそれどころではない。

 左右から迫る竜の爪を手足で防ぎ、上空から飛んでくる魔法や炎を避ける。

 それを見越したように正面から別の竜が人型に変わって蹴りを入れてくる。



「セイッ、ヤッ!」



 その姿は幼い少女であるにも関わらず、蹴りは正確に首や胴を狙ってくる。

 中段と見せかけて上段に撃ち、そこに拳を入れてくる。

 それを掌底で払う。どれも、いくら俺でも当たればただではすまない。

 防がれていく攻撃に業を煮やした少女は正面から蹴りを入れ――それを防がれ、空中で足を上げて嵩都に多段蹴りを入れ――それも防がれ、払われた手に足を乗せ、宙返り――と、見せかけてかかと落としをした。



「くっ」



 最後の一瞬を読み違え、両手でかかと落としを防ぐことになった。



「今!」



 少女が合図を送ると、左右の岩陰から別の少年少女が襲ってきた。

 少年は大振りで俺の脇を狙い、少女は足に向かって下段を放った。

 俺は左右を一瞥し、大きく息を吸った。



「離れよ!!」



 俺のしようとしたことを先読みしたコウクラーナが少女たちに向かって注意を飛ばした。



「――――――――ッ!!」



 だがそれは一手遅く、吸った息を俺は耳の良い竜族には爆音とも言える超高音を放った。

 これは竜が炎や氷を吐く理論と同じで、それを少し応用しただけだ。

 獣類にもよく効くようで辺りにいた狼とかが気絶している。

 咄嗟に耳を防いだコウクラーナ以外は全員が地に落ち、均衡感覚を狂わされた様に起き上ることが出来なかった。

 コウクラーナも例外ではない。耳を塞いだとは言っても聞こえなくなったわけではない。

 僅かな悲鳴を上げ、全員に力が入って固まってしまった。

 ――その隙を俺は逃さない。



「加速」



 瞬間移動とも言えるほど加速した俺はコウクラーナに飛び蹴りをかました。

 しかしそれをコウクラーナはギリギリでガードした。恐るべき反射神経だな。



「これまでじゃ!」



 コウクラーナがそう宣言し、俺たちはゆっくりと下降していく。



「いや、これは参ったね」

「うん、装備なしで負けるとは思わなかった」

「うんうん」



 先程の少年たちが起き上がって感想を並べた。

 少年の名はエルダ、少女はクエラ。相槌を打ったのはエレハという少女だ。



「やれやれ、我々が勝てないのですか」

「やっぱり最後の所がまずかったですかね」

「そうだな」



 各々が反省と感想を並べながら休憩を取っていた。

 そう、これは模擬戦であり、この里の主力との戦いでもあった。

 ここに居るのはその中でも精鋭とされる十一名である。

 それは少年少女であろうとも、例外は無い。



「それにしても嵩都さんの学習能力には驚きますね」



 そう言ったのはレニールだ。彼女もこの中の一員である。

 現在ではだいぶ打ち解けて嵩都さんと呼ぶようになっている。



「そうじゃな。習うより慣れよ、里の掟だったのじゃか……改定すべきかの?」



 そう。俺はこの数時間の戦いの中でほとんどの技を習得してしまった。

 



「嵩都さんが異常なだけだと思います」



 そう毒を吐いたのはエレハだ。

 しかし彼女は彼女自身が毒を吐いているつもりはない。

 ほぼ無自覚であり、それが里に結構な被害を出しているのは彼女の知らず所だった。



「これ、そんな本当のことを言ってやるな」



 コウクラーナに追い打ちを掛けられ、表面が少し崩れたがなんとか持ち直した。



「まあまあ、そのくらいにしておきましょう」



 これ以上は猛毒になると判断したレニールが止めに入り、話題が打ち切られた。





 それから夕方までメンツを入れ替え差し替えで戦った。

 修練が終わり夕食を頂いたが、見た目は竜好み――つまりほとんどが丸焼きであり、味つけはほぼ生である。

 だが、人間の文化も尊重していてパンや野菜もある。味の方も多数あった。

 鎖国的ではなく時折姿を変えて人里に降りて交易もしているようだ。

 交易は主にアジェンドや川城商店らしい。

 コウクラーナやバウムンたちは豪快に丸かじりで、レニールや子供たちは切り分けて骨ごと食べていた。 流石は竜の食事だな。

 そして内臓や頭も例外ではなく、しっかりと食べられていた。

 彼ら竜族の大好物は人間の肉だ。タンパク質と脂質が豊富で美味しいのだとか。

 俺たち人間が牛や豚などを等級分けするように人間にも等級があるようだ。

 1位は赤子。肉が柔らかく美味しいらしいが食べると人間の数が減るので出来るだけ食べないようだ。

 むしろ拾って家畜のように育て、男なら性処理したり食べたりし、女なら孕ませて子を産ませて増やしたりするようだ。

 2位は女性の肉。3位は子供。4位が油の乗った適齢期の男。最下位が老人らしい。

 ――そこで思いついたのだがこの後バルフォレスと戦争する際にお食事会と称して竜族をご招待したらどうだろうか? 無論、自軍の被害も甚大だろうけど。

 さて、そんな中で俺はと言うと朝食、昼食を経てすっかり野生が目覚め、流石に骨までは食べられないが豪快に肉を齧っていた。

 それとセットに酒も飲まされていた。常人ならアル中で死んでもおかしくない量を竜は普通に飲むのだ。

 こればかりは俺も真似ることは出来ずちびちびと飲んでいた。

 彼らも人間の生態を知ってか無理強いをすることは無かった。

 次に風呂だ。これは竜も人間も変わらずだ。

 そして就寝――と思いきやコウクラーナが布団に入って来て一晩同衾しようとし、レニールに見つかり、強制退出されたりした。そんな賑やかな日々が続いた。


 次の日には飛び入り参加ありの闘技大会が開かれた。

 結果的に俺が優勝したが、コウクラーナが『無礼講じゃ! 全員で嵩都を食い散らかせ!!』とあり得ないことを言いだし、俺の肉体と貞操を狙った奴らが一斉に襲って来た。

 それはレニールが止めに入るまで続いたと言っておく。

 闘技大会が終わった次の日、俺はコウクラーナに帝龍スキルの龍化について聞いてみた。



「ほう、龍化とな」

「ああ」



 実際に角を生やしたり手を変化させてみた。

 コウクラーナがとてもお熱い視線を向けてくるのは気のせいだと思いたい。



「これは竜武と何か違うのか?」



 時折使ってみるが竜武より火力がある。が、反面防御が脆い。



「オホン。それは、そのスキルは竜武の原初と言った所かの。竜武は元々生き残るために磨かれてきた技ゆえに防御面を重視する傾向にある。無論、攻撃面が少々劣ってしまうがのぉ……。それはそうと、その帝龍とやらは炎を吐いたり全身龍になったり出来るのかの?」



 キラキラと目を輝かせた期待の眼差しで俺を見てくる。



「――やったことないから分からない」



 な、と言い終わる前にコウクラーナに手を引かれて外に連れ出された。



「物は試し、やってみようではないか」



 少し考える。全身龍化して余波がどれくらい起きるか分からないが面白いとは思う。



「なら、万が一暴走するようなら力づくで止めてくれ。被害が甚大なようなら殺してくれていい」

「う、うむぅ……仕方あるまい。了承しよう」



 コウクラーナから少し離れ、俺は帝龍化を始める。

 今までと違うのは全身に少し痛みが走ることだ。体が大きくなっていくのが分かる。

 最初に胴体が太くなった。追いつくように手足が強靭な物となり、顔が変わっていくのが分かる。

 そして額からは二本の一層禍々しくなった角が生えた。

 四足歩行ではない。元が人間だからか二足歩行が出来るようだ。

 腰のあたりからは尻尾が生え、全身が緑の鱗に覆われていく。

 内蔵の位置や場所も多少なりと変わっているようだ。増えた器官もある。

 やはりブレス系統を使うための器官が備わった。

 最後に背中から巨大な翼が生えてきた。

 ――ちょっと理性が飛びかけている。どこからか恨み辛み等の負の感情が俺の一心に集まってきている気がする。

 体は竜族最大の巨体を誇るレニール以上だろうか? 七十……いや百mくらいだな。

 ちなみにレニールはガイア種と呼ばれる土系の竜らしい。

 逆にコウクラーナは空中機動と得意とする飛空種だ。俺も同様の飛空種だ。



「ど、どうじゃ? 意識はあるかの?」

「だい……じょうぶだと思う」

「そうか!」



 とは言っても理性を抑えるのが限界で動くと飛びそうだ。

 戦場で変化したら間違いなく本能のみで動くと思う。

 変化を解いて見ると体が縮んでいく。地味に痛い。



「はぁ……はぁ……!」



 しばらく動けずにいると目が猛々しいことになっているコウクラーナが襲って来た。



「その子種貰ったぁぁ―――!!」

「馬鹿な事を言わないでください」



 音も立てずに背後から現れたレニールがコウクラーナを絞めた。

 幾度となく聞いた『クエッ』という悲しい悲鳴と共にコウクラーナは連れ去られて行った。






 竜族の里では様々な事を知り、体験した。

 邪神が本来何をすべきかも知った。そして邪神教の本来の姿を知ることが出来た。

 元々の邪神教はよこしまな心を討つための宗教であり、間違っても善人や市民を虐殺するような宗教ではなかったそうだ。それがいつの間にやら変わり、虐殺宗教になってしまったらしい。

 そんな騒がしい日々も十九日という日で終わってしまう。

 皆に事情を説明して別れを告げ、城門前まで見送りに来てもらっていた。

 ……見送るまでの説明で夕方になろうとは誰が想像しただろうか。



「では、参ろうかの」

「何を言っているんですか」



 さらりとコウクラーナが出て行こうとしてレニールに首筋を掴まれていた。



「冗談じゃ。だから離して」



 パッと離し、コウクラーナが深いため息を付いた。



「はぁぁ……もう行ってしまわれるのか」

「あと二日で世界が終わるって時に遊んでいる方がおかしいだろ」

「それはそうなんじゃが――」

「またその内来るから」

「ほう。そうかそうか。なら楽しみにしておるぞ」

「そうしてくれ。それじゃ、そろそろ行くな」

「うむ、気を付けていかれよ」



 コウクラーナたちに見送られて俺は上空に飛び立った。


嵩都「次回、地球への帰還方法」

カルラッハ「久しぶりに邪神軍の登場ですな。HAHAHA」

嵩都「ふむ……」

カルラッハ「何か御懸念でもございますか?」

嵩都「いや、なんでもない。(何やら不吉な予感がしている)」

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