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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第七十二話・獄中

嵩都「第七十二話か……随分来たな」

プレア「そうだね。目指せ百話!」

嵩都「……このペースで百話行けるのか?」

グラたん「何故私を見るのですか?」

嵩都「さてな?」


 全く予定になかったことを急遽やることになって俺は後になってから国王に了解を得た。

 生き返った王子は未熟さを知って武者修行に出るらしい。

 その王子と海広だが筑笹から計画を聞いて王子が許し、仲直りをした。

 それで、筑笹たちはクロフィナさんを奪って逃走するつもりだったようだ。

 計画自体は悪くはなかったが、想像力が足りてないな。

 俺は大典たちとも仲を直し、国王については帰り次第審判を下すようだ。

 さて、ここで亮平たちの次に連続で結婚式を挙げる夫婦がいる。

 博太とフェルノだ。この前の巨竜撃退の時のお願いで得たものを使うようだ。

 おかげで大聖堂の修復がアジェンド国持ちとなり国王は涙目になり、ハイクフォック王と宰相は非常に喜んでいた。大聖堂は日夜を通して一か月で治すらしい。

 かなりの突貫工事だが丁寧と静粛さ、頑丈さを再設計した聖堂になるそうだ。



 さて、時間は巻き戻って襲撃後の夜。

 概ね全て上手くいって気分は上々。ハイクフォック城では魔王軍を撃退したことにより宴が開催されていた。

 しかし、安心感と少々疲労からある程度騒いで解散となった。

 俺も気分よく寝られると思っていたところにカルラッハからリンクが入った。

 邪神の衣装に着替え、仮面を被り、いつもの恰好でムスペルヘイムに来ていた。



「なんでこうなった」

「申し訳ありません」



 来てみれば城下町や近隣の村で戦勝の宴が開催されていた。

 見解の相違だろう。情報と見方が違えばそうなる。

 その中に四天王の姿はなく、本城に顔を出してみれば部下に休養を取らせている間、自分たちは書類に忙殺されていたということだ。

 ――いや、正しくはカルラッハが一人で書類に忙殺されていた、だな。

 カルラッハが他の三馬鹿に気を使ってそう報告したから四天王という評価になっている。

 フェイグラッドは性格上から兵士たちの酒相手をしていて、ヴェスリーラとウリクレアは女官共と愚痴や恋話をしていた。

 その中で唯一カルラッハだけはクソ真面目に戦後処理の書類を片付けていた。

 偉い。誉めてやろう。

 それで、リンクの内容は単純に手伝いの手が欲しかったそうだ。

 流石に量が量だ。何体か仮初めの人形を作って手伝わせる。

 カルラッハは遠慮したが、そこは俺が許さなかった。



「お前のその勤勉且つ真面目なところは称賛に値するがこんな時くらい休め。過労死するぞ、本当に」

「お言葉痛み入ります。ですが、何も邪神様が業務をすることはありません。こんな書類は私共にさせておけばいいのですぞ、HAHAHA」



 いかん。カルラッハは真面目に答えているつもりだが目がイってしまっている。

 具体的には両手両足でペンを持って書類を片付けながら顔だけこちらを向いている。



「……カルラッハ、もう一度有給をやる。一週間ほど休め。これは命令だ」



 カルラッハが我がダークネス企業に浸かり過ぎて壊れだしている。

 きっとこのままだと過労死の未来が待っている。



「ありがたきお言葉ぁぁ、ああ、カタカタカタ、ハハハハハ……脳が震えるぅぅ」



 カルラッハは壊れた笑いをしたまま命令を了承した。

 下手したらまた明日もこの状態でくるかもしれない。

 もう少し来る頻度を増やそう。カルラッハが精神的に死ぬかもしれない。

 いくら邪神の力があっても精神が崩壊した場合、治せないこともある。

 俺は時間ぎりぎりまでカルラッハの書類を手伝った。









 さて、皆が宴をしている中を抜け出して俺は魔界にある魔王城に向かった。

 目的は今回の件の最終的な報告と戦果の確認だ。

 魔王城の方でも目的達成の宴が開催されている。

 やはりそこら辺は魔族も人間も変わらないようだ。

 そして俺は今、魔王城の謁見場に来ていた。



「待ってたよ、スルト」

「まずは戦勝おめでとうと言っておこう」



 正面にはシャン。隣にはポノルがいた。

 服装はドレスだが、少々露出が多く、目のやり場に困る。

 仮面をつけていなければ目を逸らしていることがばれていただろう。

 そして二人だけでなく、幹部たちも礼服に着替えている。

 両端にはハーデスたちが控えているが、その中には第一位の姿はなかった。

 さて、本題に入ろう。



「今回の戦は満足したのか?」

「んー、初戦としては上々って所かな? あっちの人間を調べるためにも百人単位でつ捕まえてきたしね。それに偶々運よく勇者とやらも捕獲したよ」

「勇者を?」


 聞き逃せない内容がシャンの口から零れた。

 はて? 誰か捕まっていただろうか?

 記憶を漁る限りだと皆いたと思うが……。



「うん。人間のメスで片方は魔法使い、もう片方は回復師だったよ」



 ……俺が思う中でそのコンビは一組しか該当しない。

 よりにもよって魔王軍に捕まるとは……間抜けというべきか二人を捕えた魔王軍の実力を誉めるべきか。

 とりあえず場所だけでも聞いておくか。



「ほう、それでその勇者とやらは何処に?」

「興味あるの? 今は魔法無効化の牢獄に繋いであるよ」



 ご愁傷様。魔法が使えなければ彼女たちはただの娘っ子だ。

 自力での脱出は不可能に近い。最悪獄中死しかねない。



「そうか……後で見ても構わないかな?」

「うん、いいよ。だけど勝手に拷問とか解放とかしないでね?」

「無論だ。……ふむ、第一位の姿がないようだが任務中か?」



 俺は今気が付いたようにわざわざ傷口を抉るようなことを言う。

 シャンは当然顔を伏せて、代わりにポノルが説明する。

 うん、なんか凄い罪悪感がこみ上げてきた。



「第一位ジェルズは先の戦いで贄の自爆に巻き込まれて戦死しました」



 そう戦死報告をするポノルの口調も暗い。



「むっ、それは失礼した。では、何か彼の遺品はないか?」

「ではこれを――」



 打ち合わせたかのようにツクヨミが前に出て彼の遺髪を提供する。



「十分だ。……魔力接続は無しで良いな。……蘇れ、ジェルズ・ヴェカリス」



 俺は王子にやったように蘇生魔法を構築し、遺髪の情報を読み取って第一位の体を構築する。

 王子の時と同じように光り輝いて弾け、第一位が蘇った。

 魔力供給設定は要らないな。寿命は魔族と同じ程度に設定する。

 蘇生するのは簡単だが設定が面倒くさいからあまり使いたくはないな。



「ぬっ、ここは――魔王城? 私は死んだはずでは……」



 その光景にシャンたちが驚きを隠せずにいた。

 当然だ。そもそも蘇生は禁術。生死を操るなどしてはいけないからだ。

 だがしかし、邪神の俺ならば全く関係はない。悪い神様だから禁忌を恐れない!



「ジェ、ジェルズ? 本当にジェルズ・ヴェカリスなの?」

「は、はい。魔王様、これは一体どういうことですか?」



 シャンは玉座を立ち上がって駆け出し、思い切り第一位に抱き着いた。



「うああああ! 勝手に死ぬ奴があるか、馬鹿ぁ!!」



 ドスッ、ゴスッ、と嫌な音が第一位の腹で鳴り響いている。

 しかも握り拳に血管が浮き出るほど握られているためか威力も高そうだ。

 ついでに言うと打撃はすべて鳩尾に直撃していた。

 四発まで耐えていた第一位が口から血を流し、五発目で喀血して意識を断った。

 膝を付いて後ろに倒れ、それに驚いたシャンが第一位の顔の方に近寄って起きて起きてと涙目で頬を叩く。

 随分と快音が鳴り、頬が腫れていく。

 第一位は完全に意識がないのか叩かれる度に首が右に左に揺れる。

 それが、我に返ったポノルが止めるまで続いていた。

 そんな光景を幹部たちはただ恐怖して眺めていた。

 そして全員の意識は一つ、『絶対に死ねない』とまとまったそうだ。





 少しして第一位が目を覚まし、シャンが謝りつつ事情を説明した。

 その頬は赤く腫れ、氷袋で痛みを抑えている。



「そうでしたか……心配をおかけしました」

「うん、次は死なないでね?」

「はい」



 次いで第一位が俺の方へ向いて軽く頭を下げる。



「邪神殿にもご迷惑をおかけしました」

「良い。が、気をつけることを勧める」

「……ですね」



 先ほどのシャンの腹パンを思い出したのか顔が若干青くなっている。

 今もきっとその服の下は青痣になっていることだろう。



「よし、ジェルズも戻ったことだし六人目の攻略を練ろうか!」

「その必要はない」



 シャンがそう言ったので俺はそれを止める。



「何か策でもあるの?」


 

 シャンが何かを期待する眼差しで俺を見てくる。



「ああ。これから向こう側にいる勇者共と協力して殺ってくる。幸いにも勇者たちも余と協力することで利益が得られるようだしな」

「ふぅん。それじゃあスルトに任せても良い?」

「問題ない。終わり次第七人目、八人目を同時に殺る。期間は今から二か月後の七月二十一日、それまでに戦の準備をお願い出来るか?」

「大丈夫……だよね? 姉ちゃん」

「――ええ。問題ありません」



 これで、最後の問題は片付いた。後は俺がしくじらなければ終わりだ。

 亮平たちにもある程度計画の内容は教えたが、実際そうでもしないとあいつらは何も知らないままつまらなく終わってしまう。勇者の意味がなくなる。

 はっきり言って俺が面白くない。勇者が出てこない話なんて邪道だ。

 あと二か月。この期間であいつらがどう動くか楽しみだな。

 報告と会議もほどほどに第一位の帰還のパーティーが始まった。







「教えすぎだよ」



 その裏で俺は魔王城で借りている一室でプレアに叱られていた。



「はい。……ごめんなさい」



 人間スキルが奥義、土手置下低頭正座。要するに土下座だ。



「確かに彼らが動いた方が面白いけどね。それで計画潰されたら意味無いの。嵩都だって分かっているよね?」

「はい、本当に反省しております」



 ニコニコとしながら怒ることができないプレアは語気を強めることなく発音する。

 この俺が怒ってないと分かっていても恐怖を感じている。

 だからこそ俺は全力で反省する。プレアを悲しませたくないから。



「いいよ。許してあげる」



 俺は恐る恐る顔を上げる。

 プレアは笑顔で自分の横のソファーを軽くポンポンと叩く。



「そんなに怯えないでこっち来て座って」

「分かった」



 俺は言われるがままにプレアの隣のソファーに腰を掛ける。

 何をされるのか、何をされてもいいように心の準備を整える。

 しばらくするとプレアが俺の肩に倒れて頭を乗せた。

 そしてそのまま俺の膝へと頭が下がっていく。

 どうやら甘えたまま寝てしまったようだ。俺もまどろみに身を任せて目を瞑った。





 朝になった。首が痛い。プレアを起こして朝食を食べて今日の予定を思い出す。

 そう、この城に捕まっている間抜け勇者共を調教――じゃなかった。勇者たちに会いに行くのだったな。

 そして俺とプレアは昼までにハイクフォックに戻って撤収準備をすると。

 そうと決まれば早く、俺は邪神衣装に着替え、仮面は着けずに部屋を出た。

 プレアはハーデスとしてシャンたちの方へと向かった。

 さてさてやってきました地下牢獄。アジェンド城とは違って想像通りの湿気た空気とカビの生えた冷たい地面と腐敗臭がする。

 コツコツ……長い長い階段を下り、看守に話を通す。

 牢獄の扉が開けられて俺は中に入る。

 ――居た。彼女たちは同室で、既に拷問を受けたようで痣や切り傷がある。

 衣服は無く一枚の布に包まっているため素足が舐めまかしく出ていた。



「……今度は何よ。情報なら言ったじゃない」



 下を向きながら後藤が口を開いた。



「それとも気晴らしの拷問? 好きにすればいいじゃない……」



 その言葉は暗く、絶望しているように淀んでいる。

 随分肉体的にも精神的にやられたらしいな。



「顔見知りに対して随分な言い草だな、後藤」



 俺がそういうと後藤は少し視線を上げて俺を見た。

 彼女たちの瞳孔が限界まで開かれる。驚いているようだ。



「あ、朝宮!? なんであんたがここにいるのよ!」

「咲ちゃん、どう考えても魔王軍側ってことだよ」

「ま、そういうことだ。お前たちが捕まっていることはあいつらに知らせておいてやるが多分救出は無理だぞ。魔王軍本城だしな」

「へぇ。ってことはあんたは裏切っていたってこと?」

「別に裏切った覚えはないな。それに俺だけがこっちにいると思うなよ」

「それはどういう――」



 これ以上教える義理はない。というか教えたところでどうにもならんし。



「さて、俺はもう行く。最後の助言としてとにかく二か月生きろ。そしたら外に出してやれる――以上だ。じゃあな」



 言いたいことは言ったので俺はその場を立ち去った。







~残された二人

 嵩都が去り、牢獄の中で二人は首を傾げた。


「どういうことだろうね?」

「二か月……何か意味があるのかもしれないわね」

「とは言っても何もできないけどね」

「とりあえず二か月間頑張ってみましょう?」

「そうね。わざわざそう伝えに来るくらいだしね」



 二人はそう決める。嵩都の言葉を信じ、待ち続ける。

 少しして、牢獄の扉が開かれる。二人は顔を上げて今日も来るであろう拷問に備える。

 目の前には四人の魔族。三人は部下で一人は幹部。

 そこにいたのは第二位バウゼンローネ。彼女は二人を憐れむような視線で下知を下す。



「出なさい。軍師ポノル様が実験を行います」



 それは、想像を絶する地獄の始まりだった。



バウゼンローネ「あの二人、どうなっちゃうんだろうね?」

グラたん「さあ……なんとも言えませんね」

バウゼンローネ「軍師の実験室ってあんまり入ったこと無いんだよね……」

グラたん「知らぬが吉という言葉がありますよ」

バウゼンローネ「そうね。それじゃ、次回予告。次回、復活のM」

グラたん「Fでは無いんですか?」

バウゼンローネ「著作権に引っかかるよ」

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