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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第七十一話・黒い伏線

嵩都「くっ、やるな!」

プレア「まだまだだよ! 必殺、ポテトサラダ!」

嵩都「なんの! DXパフェ~苺チョコレートを添えて~!」

プレア「ううっ! 流石は嵩都だね!」

グラたん「料理対決はもう良いですから本遍行きましょう」

~嵩都

 色々とハプニングはあったが筑笹たちに協力を取り付けることに成功した。

 思ったより内容がばれたが今まで伏線がなかったのをここで清算したと思えばいい。

 だからと言って俺たちの計画に支障が出るわけではないが。

 さて、そんな俺は今、邪神軍のいる西門に来ていた。

 制圧は既に終わっているようだ。魔王軍も人間の捕虜を得たようで引き上げて行った。

 ――特に援護はいらなかったな。

 そう思っているとフードを目深くかぶり仮面をしたウリクレアが報告をしに来た。



「スルト様、辺り一面の制圧を完了しました。捕虜は一か所にまとめております」

「ご苦労。捕虜は――」

「はい。全員釈放ですよね」



 邪魔だから縄を解いて――という前にウリクレアが言った。

 俺の思考を先取りしたことは褒めてやろう。

 まあ、俺が前線に出れば大抵は全滅させるから対比としてはいいか。

 こうすることによって投降兵が出てくれれば後の戦が幾分か楽になるのだが。



「スルト様?」



 ちょっと理想的なことを考えていたらウリクレアに不審がられてしまった。



「ああ、そうしてくれ。よくやってくれた」



 そういうとウリクレアは満足そうに笑顔で了解して投降兵の元へ向かった。

 様子を見に俺も向かう。――やることは何もないだろうがな。

 現場の上空に着くと投降兵が恐怖に青褪めて座っていた。


「全員を解放しなさい」



 ウリクレアが兵士たちに命じて縄を解かせた。

 すると死を覚悟していた投降兵はわけがわからずにウリクレアを見た。

 ウリクレアはそれを予想していたように投降兵に言い聞かせた。



「私たちの神である邪神スルト様は慈悲深い。別段そなたらを害しようとは考えてない」



  ――いや、慈悲深いのはウリクレアで俺は虐殺専門だ。

 さっきも慈悲がなんたらと言ったが実際は外法の技だ。

 生死を思うままに操れるから慈悲もヒヒもない。

 ウリクレアの発言を聞いてそう思った。



「今よりそなたたちは自由だ。どこへなりと行くがよい」



 ウリクレアがそう締めくくると投降兵は騒めきだした。



「本当か?」

「いや、そう見せかけて奴隷にしようと考えているのかもしれん」

「分からんな」



 そんな投降兵を置いてウリクレアは兵士たちに帰還命令を出した。

 浮遊大陸の一部が降りてきて、兵士たちはそこに乗った。

 そうして次々と帰還していく。



「あ、あの」



 とある投降兵がウリクレアの前に立った。



「何でしょうか?」

「ほ、本当によろしいのですか?」


 投降兵が困惑気味に言うとウリクレアは聖母の笑みを浮かべて言った。



「ええ。そなたらは自由です」



 ウリクレアがそう言うとその投降兵はウリクレアの前にひざまずいた。



「貴方の寛大なお心に感謝致します」



 投降兵がそういうと他の投降兵が野次を飛ばした。



「貴様、邪神軍に魂を売る気か!」

「騙されるな! そう言って良いように利用されるだけだ!」



 だが、その投降兵は他の奴らの言葉を聞いてもただ畏まっていた。

 ……解放するって言っているのに何処をどうすれば利用出来るんだ。

 というか解放したのにそういうことを言われると是非とも殺したくなる。



「私たちは無益な殺生を好みません。利用もしません。さあ、お行きなさい」



 ウリクレアがそう言うと他数名の投降兵もウリクレアの前に跪いた。

 そして彼等はその場所から何処へと消えた。それを機に一人二人と行動し始める。



「貴様等、それでもハイクフォックの兵士か!」

「我等は下らんぞ! この場で死を選ぶ!」

「邪神軍に魂を売るな! それでも武人か!」



 一部の――鎧からみて将軍や近衛と思われる投降兵が散って行く兵士を留めようとしている。

 ――それもあまり効果は無いように思えた。



「ええい、武人ならこの場で死んで行け!」

「うわっ!」



 そしてその内の一人が何処かへと行こうとした兵士に斬りかかった。

 一瞬、助けようかと思ったがそれは杞憂だった。

 ウリクレアが飛び込んでその兵士を庇って刃を受けた。



「くっ……」



 庇った代償として腕を浅く切られ、出血した。



「なっ!」



 助けられた兵士は驚いてウリクレアを見ていた。



「ちょうどいい! 今この場で我が軍団の無念を晴らしてくれん!!」



 そう言って将軍投降兵がウリクレアに向かって剣を振り下ろした。

 キンっと刃と刃がぶつかる音がした。

 別の投降兵が将軍投降兵の剣を受けてウリクレアを庇った。



「はっ!」



 また別の所から投降兵が将軍投降兵に斬りかかって鍔迫り合いになった。

 その隙を突いて数十人の投降兵がウリクレアを守るように円陣を作った。

 完成したのを見て、鍔迫り合いをしていた投降兵が一度下がった。



「なんだ貴様等……邪神軍を庇うとでもいうのか!」



 将軍投降兵は怒りの混じった声をあげて円陣を組んでいる投降兵を睨んだ。

 そしてその内の一人が抗議した。



「そうだ! 俺たちはウリクレア様の御言葉に感銘を受けた!」

「俺たちはウリクレア様のお味方をすると決めた!」

「それを敗将にとやかく言われる筋合いはない!」



 次々と講義の声が上がり、将軍投降兵は怒りの雄叫びを上げた。



「なっ、なっ、貴様等ぁあああ!!!」



 そしてそいつらに向かって突進した――頃合いだな。



「そこまでだ」



 俺はそいつらの間に降り立って、両方の剣を指先で抑え込んだ。

 『防御スキル:断撃』。斬撃を完全無効化するスキルだ。

 もしも剣が折れたら指で剣を止めるという机上の空論の技だ。

 一般人がやっても成功率は限りなくゼロに近いスキルだ。

 つまり、これが出来ちゃった俺は人外だな。既にそうだが。



「誰だ貴様は! そこに立つなら容赦はしないぞ!」



 俺の登場に投降兵は驚き、もう片方は怒りを隠さずに俺に剣を向けた。

 キン――――何度叩き付けられようと結果は同じだ。あくび交じりに剣を受けた。



「くそっ、このっ、なんだ、なんなんだ貴様はぁ――!!」



 怒り狂った投降兵に俺は仮面の奥で嗤い、言った。



「邪神だ」



 瞬間的に加速し、投降兵の背後に回り込み、右手で首に手套を振り下ろした。

 そして――加減したつもりが、そいつの首肉を裂き、脛骨を切断し、手には赤い血を浴び、そいつの首を容易く斬り落とした。

 俺の所業によって円陣を組んでいた奴らは無言でへたり込んだ。



「――ミスった」



俺が自分の失敗を舌打ち交じりに言うと、それを耳敏く聞いた奴が俺を見た。



「あの、今ミスったって――」

「何の事だ?」



 あくまでとぼける。そこにウリクレアの援護射撃が入った。



「いえ、聞きました。確かにミスったと――」

「言って無い」



 俺はなにも言っていない。

 ウリクレアたちも察してくれたのか追及はもうなかった。



「ば、馬鹿な……将軍が一撃で」

「化け物め!」

「慈悲深いのは嘘だったのか!」



 その他諸々がうるさく抗議した。



「……何を勘違いしているのかは知らないが、慈悲深いのはウリクレアだ」



 そう言うとウリクレアはそっと頬に手を当てた。何を照れているのだか。



「ともかく後は任せた」

「はい」



 ウリクレアに後処理を押し付けて俺はさっさと上空に逃げた。

 そして影武者が戦っているところまできて俺の影武者を引っ込める。

 敵役のハーデスもどきは一時止めて、俺は邪神の姿から勇者の姿へと変わる。

 さて、下の大聖堂ではなにやら亮平と王子が揉めているようだ。

 俺が落ちれば多少は止められてシリアスな雰囲気になるだろう。

 ……それはそうと俺とハーデス、魔王軍の因縁はどう説明しようか。

 ……。

 …………。

 ―――着くまでに考えて置こう。

 俺はハーデスもどきの位置を俺の真上に移動させて俺は飛翔飛行を切る。

 即座に自由落下し、落ちる前に物理防御魔法と衝撃緩和魔法を背中にかけておく。


 ひゅるるるる……どっかーん!


 漫画だったらそんな擬音が付きそうな盛大な落ち方をした。



「……の野郎ッ!」



 俺はヴァルナクラムを手に持ってハーデスを睨む演技をする。

 ハーデスはそのまま空中に消え去った。

「くそっ! 逃げられたか!」



 俺は地面を叩いて悔しそうに言う。

 瓦礫を退けてヴァルナクラムを仕舞い、立ち上がる。

 見れば魔王軍と邪神軍は悠遊と魔界へ帰って行った。



「アスト!」



 クロフィナさんを置いてルーテがこちらに駆けつけてくる。



「ルーテ、そっちは大丈夫だったか?」

「アストが戦っている間に此方に邪神が出たのよ」

「邪神が? ……そうか、あいつら手を組んだのか」

「アストは彼らのことを知っているの?」

「……まあな。あいつはなんて言っていた?」

「それが……」



 ルーテは俺が言ったことをそのまんま俺に伝えた。



「共闘か。確かに軍国の戦力を減らすという意味では最強の味方だな」

「嵩都……」



 そこへ亮平と王子がやってくる。

「おい、亮平。お前……その姿はどうしたんだ?」



 亮平の腕や首、爪の一部が魔物化している。

 俺は当然知りながら驚いておく。



「……嵩都、俺は……もう人間じゃないんだ」



 俺は亮平の胸倉を掴んで叫ぶ。



「何があった? まさか……奴等にやられたのか!?」

「違う! 違うんだよ……」



 亮平は即座に否定する。それも、辛そうに。苦しそうに。



「俺は、自分の意志で魔物になってしまったんだ。お前に勝ちたいばっかりに」

「馬鹿野郎が!!」



 俺は思いっきり亮平を殴り飛ばす。



「確かに国王に命令されてお前と相対したが……時期を待てよ! 何のために俺がわざわざ国王に次点婚約を頼んだと思ってんだ!」

「おい、ちょっと待てコラ。その言いぐさだとまるで俺が死んでこいつが姫さんと結婚するのが確定していたかのようだな」



 そこへ王子が口をはさんだ。

 俺は表面上に笑みが出ないようにするのに苦闘しながら伏線を回収する。


「そうだが? そのために下準備まで整えておいたんだぞ」

「なっ―――!?」

「お前―――ッ!?」



 亮平と王子が絶句している。

 そこへ国王たちとクロフィナさん、筑笹たちが来る。



「つまり、この一連の流れは嵩都殿の手のひらだったと?」

「王子が生きているのは予想外でしたけどね」

「ほほう、策士だな。なら、私たちも策に乗って今回の責任を取ってもらおうか」



 国王が亮平とクロフィナさんと交互に見て宣言する。



「此度の政略結婚は完全なる失敗に終わった。王子が生前に言っていた遺言に従って王子とクロフィナの婚約は破棄される。しかし、このままではクロフィナの婚約者が遂にいなくなるので次点婚約者であった亮平殿を繰り上げして婚約者に命ずる」

「断る」



 国王がそう宣言すると亮平が間を置かずに返答した。

 一瞬、もう一回殴ってやろうかとすら思った。



「……しかし約束した手前破るわけにもいかん。了承せい」

「脱獄、王女誘拐、同族殺しをした俺が認められるわけない。実際にレッドカーソルついているし」



 どうせも良いが、力を手に入れたせいか亮平が敬語を使わなくなっている。



「それにフィーの気持ちはどうなんだ。政略結婚じゃないからそっちを尊重すべきだ」



 皆の視線が一斉にクロフィナさんに向けられる。

 クロフィナさんは一度目を瞑って亮平に向かって歩いていく。

 亮平は顔を背けて俯いた。。



「リン……貴方は化け物になっても私を守ってくれたね。例えリンが化け物でもリンの気持ちは人間よ。リンがそんな姿になったのも私を守りたかったからなのよね?」



 クロフィナさんに問われて亮平は小さく、しかし確かに頷いた。



「ああ……。あの日、嵩都に負けて俺は悔しかったんだ。もう二度と負けたくなかったんだ。だから……俺は邪神の甘言に負けたんだ……。俺は弱いんだ……弱くて惨めで馬鹿なんだよ……」



 亮平が涙を流し、その心情を吐き出した。

 ここでばーかと罵っても面白そうだが黙っておこう。

 それにそれを言える雰囲気でも無さそうだ。



「それでも今度は守ってくれたじゃない。守れたじゃない」



 亮平はその言葉に僅かに頷いた。



「さっきはちょっと驚いたけど、好きなのは変わらないわ」



 クロフィナさんが亮平の首に腕を回して抱き着いた。

 亮平は更に涙を流してクロフィナさんを受け止めた。



「ふん、始めからそうしておけよ」



 王子がボソリと呟いた。

 そういえばお前もつくづく報われないな。完全に噛ませ犬だった。

 亮平たちに視線を向けるとその奥でお涙頂戴にやられたのか機体を下りた筑笹たちが涙を拭っていた。



「亮平、そろそろ返答してもいいんじゃないか?」



 俺の言葉に亮平は一度クロフィナさんを離し、その肩を掴んだ。



「フィー……俺も、フィーのことが好きだ。――こんな俺でも良いのなら、どうか俺と結婚して欲しい」



 亮平がそういうとクロフィナさんは目尻に涙を浮かばせた。



「――はい」



 亮平はそういうとクロフィナさんに口付けした。

 辺りからヒューヒューと茶化すような声が上がる。

 亮平たちは短いキスの後、照れくさそうに頬を赤くしていた。

 その後に続いて俺は亮平に近づいて頭を下げる。



「亮平、辛い思いをさせてすまなかった。言い訳にしかならないが人質を取られていて従うしかなかったんだ」



 頭を上げて亮平を見る。

 その顔つきは少々だらしなく鼻の下が伸びている。


「あ、ああ……その人質って誰なんだ?」

「プレアの妹だ。リーナと言ってまだ十歳くらいの女の子なんだ」

「概ねの予想は付くが誰に人質を取られていたんだ」

「……それは……言えない」



 と言いつつも俺はさりげなく視線を国王に向ける。

 この場にいる全員が白い眼で国王を見た。



「い、いや、本当にやるつもりはなかったぞ。それに私の方が――」



 国王がそう言いかけたので追い打ちをかけておく。



「亮平たちを逃がせばリーナを犯して八つ裂きにして城門前に掲げ終いには豚の餌にすると……」



 なんて外道だと言わんばかりに皆が睨む。



「そ、そこまでは言っていない」

「ええ。意趣返しに盛らせてもらいました」



 国王がなんのだというように悔し気に見てくる。



「と、とにかく過程はどうであれ嵩都殿は任務を達成したのでリーナは開放する。これでいいだろう?」

「ええ、二度とやらないで欲しいものです」



 国王との会話はこれで終わりだ。

 そこに筑笹が俺の肩に手を置いた。



「朝宮、私はお前を誤解していたようだ。すまなかったな」



 筑笹が晴れ晴れした表情で俺に言った。



「お前たちもそうだろ?」



 筑笹が後ろを振り向くと大典や博太たちが明後日の方向を向いて照れ隠ししている。



「悪いのは国王だ」

「そうだな」

「ああ」

「全くだ」

 


 皆が口々に国王を非難する。多少しか悪くないのに。



「さて、それはもういいだろう。式を挙げるならさっさとここを片付けよう」

「式? なんのだ?」



 亮平が本心では分かっているくせにわざとそう言ってくる。

 証拠に顔が少し笑っている。

 俺も亮平に対して不敵な笑みで言ってやる。



「決まってんだろ、お前たちの結婚式だよ」



 俺たちは笑いながら後片付けを始めた。






 その中に後藤と青葉の姿がないことに、この時はまだ誰も気付いていなかった。


アルドメラ「解せぬ」

グラたん「仕方ありませんね」

アルドメラ「ぐむむ……仕方ない。次回予告だ。次回、獄中」

グラたん「獄中……不吉ですね」


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