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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第六十九話・希望を刈り取る化け物

グラたん「では、第六十九話始まります!」


~全体


 嵩都たちが上空で戯れている間、各城門では壮絶な合戦になっていた。

 北門では筑笹率いるSTが無限に出てくる魔物を切り伏せていた。

 殺害した数など既に千を超えるだろう。



「くそっ、キリがないな!」

「口より手を動かせ、源道!」



 源道の弱音に筑笹が叱咤する。

 そのコックピット内ではコントローラを熱く握りしめてスイッチを長押ししている。



(だが、確かにキリがない。予想外過ぎるぞ、これは!)



 筑笹たちは魔王軍が侵攻してくるなど予想もしていなかった。

 そのため奇襲に対応しきれていなかった。

 エネルギーパックも残りと予備を含めても数は少ない。

 そもそも魔王軍が襲来することを何のフラグもなしに筑笹たちが分かるわけもない。

 嵩都たちが完全に情報統制していた性でもある。



『魔王自らぬけぬけと出てくれるとは好都合! ここで因縁に決着をつけてくれる!』



 嵩都の声が辺りに響き渡った。

 その言葉は戦っている戦場すべてに聞こえていた。



(嵩都?)



 筑笹は満月を一度後方に下がらせ、大聖堂を見た。

 フォーカスを合わせ、倍率レンズを上げていく。

 筑笹は嵩都を探し、視界を彷徨わせて、発見した。

 筑笹が魔道砲で破壊した大聖堂は原型を留めておらず、その上空に嵩都と他二人がいた。

 次の瞬間にその内の二人が動いた。

 ヴー、ヴーと警報が鳴る。筑笹はやむなく中断して魔物の迎撃に当たる。

 そしてふと見えた東門の方面に、自分たちの機体より背の高い魔物がいることに気付く。

 そしてその魔物は一直線に大聖堂へと向かって行った。



(あれは……不味いな)



 筑笹はその魔物の脅威性を一瞬にして悟った。

 ここらにいるどの魔物よりも脅威であり、空で嵩都と戦っている魔王や幹部並みの力量を感じ取っていた。

 すぐさま優先順位を考え、オープンチャンネルを開いた。



「源道、三井、加奈子! 東門内にやばい奴を発見した! ここは兵士に任せて私たちは大聖堂に向かおう!」



 筑笹の言葉に源道たちが手を止めて化け物を確認する。

 そして三機は手を挙げて了解の意を示した。



「魔王は深手を負った! 皆よ、もうひと踏ん張りだ!!」



 嵩都の声が戦場全体に響く。大聖堂を見れば先の空にいるのは一人のみとなっていた。

 嵩都から少し離れた位置には魔王と軍師、追加で二人。計、四人いる。

 そして軍師たちは魔界へと戻り、追加の二人が動き出した。

 筑笹はコントローラを握り、大聖堂に向けて急行する。



「鹿耶ちゃん! 西に浮遊する物体があるよ!」



 加奈子の声が筑笹のコックピット内に響く。

 筑笹はメインカメラを西へと向けると確かに巨大な物体が浮いていた。

 傍目には小粒のような物だが、距離にして換算してみれば膨大な物体だ。

 そしてその城から四人出てくるのが見える。

 四人は各門に散り、黒い靄から新たな援軍を出現させた。



「聞け、同胞たちよ! 私は邪神軍四天王カルラッハ! 魔王軍よ、我らに続け! 例え魔王殿がやられようと数ならば我々が上であるぞ! 我らに続け!」



 劣勢だった魔王軍は援軍である邪神軍を見て多いに士気を上げ、士気は五分になった。

 そして邪神軍が動くや今度は人間たちが劣勢になった。



(魔王軍? 邪神軍? 一体何が起こっているんだ? 朝宮は――あいつは何を知っている?)



 状況が著しく変わる中で筑笹は多くの疑問を抱えた。

 不可解な状況。それにすぐに対応出来、未来を知っているかのような嵩都の言葉。

 それらを全て振り払い、筑笹は満月を進ませた。








 東門では化け物による大虐殺が行われていた。



「フィィィィ!!」



 無双――その言葉が似合うくらいその両手の鎌で兵士や冒険者たちを薙ぎ払っていた。

 元々の巨体もあってさえぎる物はほとんどないに等しい。

 そして亮平ばけものは愛しい彼女の愛称を叫びながら大聖堂へと走っていた。

 そして間もなく正午。

 ――役者が揃う。





~幕間


 戦の最中で後藤と青葉は魔王軍に囲まれ、両名ともMPが切れて動けずにいた。

 彼女たちは遠藤と共に救出部隊に志願し、城の城門前で魔王軍と相対していた。

 『勇者』の力を持つが故に彼女たちは善戦した。

 耐えきれば援軍が来ると、そう思っていた。

 だが、今、正に力尽きようとしていた。



(なんで逃げなかったの!)



 それを見ていたのは第二位バウゼンローネ……琴吹悠木だ。

 悠木は聞こえない程度に舌打ちして魔族兵士たちに近づいていく。

 無表情で感情的にならないように抑え、無感情の声で口を開いた。



「何をしているの?」

「だ、第二位様。ええ、この人間共がいやに抵抗するのでどうしたものかと」



 魔族の一人がそう答えると悠木は青葉たちを見た。

 当然、何も知らない青葉たちが悠木の正体に気付くことはなかった。

 彼女たちは唐突に現れた桁違いの相手に怯えた。



「――そいつらは勇者ね。情報を知るには良いわ、捕らえておきなさい。間違っても傷なんてつけないでね。後で可愛がるから」

「――ハッ! お前たち、運が良かったな。死ぬことは多分ないぞ。大人しく捕らえられておけ。なんといってもバウゼンローネ様はお優しいからな」

「それくらいにして。恥ずかしいから」

「申し訳ありません。それ、捕らえよ!」



 MPの尽きた彼女たちはあっという間に捕まってしまった。



(とは言っても先に軍師様の方が先ね。残念だけど……軍師様が実験を口にされたら死ぬわね。それもぐちゃぐちゃにされて。下手したらこの世界の住人じゃないこともばれるかもしれない)



 だから何だと悠木は思った。

 別段、ばれたところで彼女には何の痛みもないのだから。

 ただ、悠木は彼女たちとは仲が良かった。そのよしみで助けてあげようと思っていた。

 青葉たちは簀巻きされて魔界へと連れ去られた。

 


 ――今は知る由もない。時に優しさは死よりも辛いことになることを。





~嵩都


 ハーデスと戦う内にはるか上空にまで来た。

 下は雲に覆われていて下からでは良く見えないだろう。

 分かるとすればスキルを使ったエフェクトぐらいか。



「ええい!!」



 プレアが大鎌スキルのベクターで俺の首を積極的に狙ってくる。

 ベクターは避けても時間差で切りつける三連攻撃だ。

 それを右から適当に振ってくる。

 これへの対抗策は剣スキルのソニックラッシュ。

 縦斬撃をその場で四回同時に行う実践では使えないスキルとして有名だ。

 はっきり言って熟練度を上げるために使われるようなスキルだ。

 俺はそれを迫ってくる鎌に向けて放つ。するとちょうど良く斬撃が避ける時間を作る。

 同時に俺は左手で得意の風魔法を小刻みに牽制用に撃つ。

 プレアが鎌を引きもどし、振り回して迎撃する。

 分かったことだがプレアは大鎌を使いこなせていない。

 肉体強化で誤魔化して戦っているような状態だ。

 この状態でこのまま戦い続ければ必然的に俺は勝つことになるだろう。

 だが、それでは意味がない。

 ある程度戦い、頃合いを見計らってプレアと鍔迫り合いをする。



「それじゃ、そろそろ影武者を残す。また後で」



 プレアは少し残念そうにしながらも頷く。



「うん。ボクは一回魔界に戻るね」

「了解」



 プレアと別れ、俺は自身を邪神の姿に変え黒き衣、天を突く二本角、仮面を被り黒い魔力を纏う。

 そして魔力とMPを使って影武者の魔物を二匹創成し、全力で戦わせる。

 次に俺は転移をして四天王たちが戦っている西門に姿を現す。



「あ、スルト様。遅れてしまい申し訳ありません」



 そう言ったのはヴェスリーラだ。正体がばれないように仮面をつけている。



「いや、ちょうど良かったぞ。さて、俺は大聖堂へと向かう。後を任せるぞ」

「は、はい。お気をつけて!」



 ヴェスリーラと別れ、俺は優雅に大聖堂へと向かう。

 同じように異変を聞きつけた筑笹たちと思われるSTが大聖堂へと向かってくる。

 亮平はもう間もなく到着するだろう。

 では、まずはゴミ掃除と行こうか。








 大聖堂に残っている彼らは困惑していた。

 ハイクフォック王は王子の死が的中したことに絶望し涙していた。

 衛兵たちは王子の死を悲しむと同時に王を守る陣を再構築していた。

 アジェンド王アルドメラは友国の死を悼み、表情を変えて自身の斧を取り出し、魔剣を回収しようとするツクヨミと交戦に入っていた。

 アネルーテは筑笹から聞かされていたこととは全く違う現在の状況に困惑しながらも姉であるクロフィナを守ろうと防御魔法を維持していた。

 ――そこへ死の帳が舞い降りた。

 衛兵たちは悲鳴を上げることも許されず息絶えて倒れた。

 それに最も敏感に反応したのはアルドメラだ。



「何者だ!」



 アルドメラが攻撃が来た方向に目を向けてくる。



「余は邪神スルト。全てを破壊する者だ」

「ぬあっ!」



 手を伸ばすと、それだけでアルドメラが吹き飛ぶ。

 城壁にぶつかり、息が詰まる。

 立つかなと思ったが打ち所が悪かったのか座って睨むだけで動かない。



「そこで大人しくしていろ、人間よ。余は今、非常に気分が良い。抵抗しなければ死ぬことはない。さあツクヨミよ、魔剣を回収するが良い」



 そう言えば第一位が死んでたな。後で生き返らせて魔王軍に恩を売っておくか。



『司、死んだ第一位ジェルズの遺髪も少し持って帰ってくれ。蘇生するから』



 リンクを繋ぐとすぐさま返答が返ってくる。



『分かったよ』

「ご協力感謝します」



 ツクヨミが礼を言って魔剣に触れ、そして第一位の散った遺髪を少し回収した。

 ツクヨミは魔剣を持ち、ゲートを開く。そしてその中に消えて行った。



「フィィィィ!!」



 化け物が到着した。化け物は大振りの鎌を邪神に叩きつけて退けようとする。

 俺はそれをやさしく二本の指で摘まんだ。



「!?」



 化け物は自身の力を止められた事に驚き、一瞬硬直する。



「源道! 海広を回収してくれ!」



 背後から筑笹の声が響き、もう一機がそれなりの速度で此方に向かってくる。



「おう!」



 砲撃が着弾すると同時に源道の半月がクロフィナを回収しようと動く。

 それとほぼ同時に博太とフェルノが遠藤回収に動いた。

 博太の方はどうでもよかったがクロフィナのことは両者とも見過ごすことはなかった。

 まず化け物が動き、その巨体に似合わない敏捷さで源道に向かって鎌を振るった。

 半月は強攻撃に吹き飛ばされて体勢を崩した。

 ――おっ、良い感じに固まったな。

 手をかざすと大々的な魔法陣が構築されて空中に浮かび、数瞬後に四名に向かって雷撃が落ちた。

 瞬時の判断で右腕を犠牲にしながらも源道は範囲外に出た。

 化け物はそれを感知して下にいるクロフィナたちを守るように両手を広げ、背を向けた。



「えっ!?」



 その行動にクロフィナは驚いた。

 雷撃が化け物を穿ち、焼け焦げた骨の匂いをまき散らす。

 土煙が晴れるとその姿は一層良く分かる。

 化け物の頭部はギルトロオスという致死性の猛毒蜂だ。本来のギルトロオスの全長は二十cm程度で群れを成して行動する魔物だ。それの頭部なものだから気持ち悪い。

 ついでに言うとギルトロオスは目が横長に三対あり、額からは黄色の角が生えている。

 両目の中はジバガランという鷹に似た魔物の朱眼だ。最高で十km先が見えるという。

 鼻は無い。口と顎はデスベクスターという鰐を採用している。その牙も猛毒であり、顎に食いつかれた者は徐々に弱り、死に至る。

 胴体にはアヴィルスカルスというアンデットの魔物を使い、鎖骨から肩にかけて横に長く、肩から長いねじまき角が生えていることで有名だ。見様によっては痛い肩当てにも見える。そしてアンデットのため胴体は骨だ。一つ一つが強靭かつ再生能力を持っているのが厄介な所だ。

 背中からオクターダスというタコの魔物の触手が生えている。全部で八本あり、先端は三本の鉤爪が付いている。鉤爪も人体を斬り裂く程度は容易い威力を持っている。

 腕は二本で古代兵器アダムスの腕を再現している。兵器と言っても生物兵器の事で、見た感じ地竜の剛腕と飛竜の瞬発力のある腕だ。手は大鎌になっていて、中には手が収納されている。

 足はケルスタラスというケンタウロスに酷似した魔物の足だ。四足で、最大マッハ28を叩き出す俊足を見せる。

 腰からは尻尾が生えている。ギミルトゥラーという致死毒の蠍の尻尾だ。基本的には地球に生息する蠍の尻尾と指して変わらないが、自由自在に伸び縮みする特性を持っている。

 そして背中にはギルトロオスの羽がある。羽を使う時は触手が使えなくなるという欠点があるが、その分飛行能力を得るので使い方次第だな。

 言い忘れたが地球産の蜂はは羽が二枚なのに対してロンプロウムは四枚持っている。この化け物の羽も四枚だ。羽には幾何学的な文様が入っている。

 化け物の最大全長は二十三mだが、まだ上手く制御出来ていないのか十mほど小さい。

 それらの魔物が混ざり合ったこの化け物は一種の究極体だ。

 いや、生物兵器と言った方が正しいだろう。

 そんな化け物が人間をかばったのだ。驚いて当然だ。



「フィィィィ」



 化け物がクロフィナたちをかばうように前に立ち、俺を睨む。



「ふむ、その姿になろうとも人の精神を残すか。そうだろう、ハーヴェスト・ホープ! ……いや、田中亮平の成れの果てよ!!」



 俺は大々的にそう宣言し、誰もが驚愕に染まっていく。

 そうして、局面は次へと進む。



邪神「ククク……フハハハハハ!」

カルラッハ「くぅ……邪神様の初陣をこの眼で拝めるとは! 何たる至福!」

ヴェスリーラ「スルト様……あぁ、なんて素敵なお姿!」

グラたん「ダメだこいつ等。早くなんとかしないと」

邪神「次回ィ、手を組むために!」

カルラッハ「イエス・マイロード!」


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