第六十七話・奪還計画
?「第六十七話、いざ開幕!」
嵩都「一閃(居合切り)」
?「ギャー!」
~ペル王子
俺は現代最強を名乗る騎士に生まれて初めて負けた。
勝負を仕掛けたきっかけは俺も腕に自信があったからだ。
それに、俺が明日死ぬとかほざき尚且つ俺を守るようなことを言ったからだ。
「俺とも勝負しろ!」
俺は怒りのままに奴に決闘を仕掛けた。
「姫、よろしいですか?」
「構いません」
俺はその言葉を聞くや開始合図なしで強化魔法を自身にかけて抜刀した。
卑怯? 戦闘に卑怯なんて言葉は存在しない!
キィン―――
まるで俺の行動を読んでいたかのように俺の剣が弾かれた。
「んだよ……」
あいつが何時抜刀したのか全く分からなかった。
速すぎる――その一言に尽きた。
「お前……今、何をした!?」
「何って、ただの居合ですが?」
居合――剣スキルLv7で習得できる溜めからの最速の剣技だ。
「どうぞ、拾ってください。ああ、それと剣スキルはまだ使ってませんので」
「はっ!?」
大層間抜けな声が出た。
あれでスキル使ってないのかよ……。っていうか心を読むな!
剣を拾っ――俺は剣に手をかけて反射的に左に飛んだ。
左の頬と耳、それに髪が僅かに持っていかれ、血を流す。
背筋に寒気が走った。
ザシュッ――
横目で俺の背後にあった城壁を見ると簡単に切れていた。
「なぁ――っ!?」
少なからずこの城の煉瓦は城の最高職人の手によって作られた強度で作られている。
その職人の腕は俺の剣を叩いたことから知っている。
というよりこの城の兵士の剣を打っているのが彼とその弟子たちだ。
それをこうも簡単に切ったとなれば、先の一撃を食らえば顔面に大きな傷が出来ていただろう。
「さあ、戦闘に卑怯なんて言葉はありませんよ」
さっき思ったことがそのまま返ってきた。
しかも、口端が吊り上っているのが尚更腹立つ。
「この野郎……」
普通、恰好だけや国内で生産された騎士は魅せるための剣技を学ぶことが多い。
どうせ勇者と言っても動物殺しの経験しかないんだろ。
俺も今の攻撃を見るまではあいつのことをそう思っていた。
だが、煉瓦に刻まれた斬撃は間違いなく俺の首を狙っていた。
間違いなく、こいつは本物だ。対人戦をしたことのある手練れだ。
俺は体勢を立て直して奴を睨む。
「さっきのは悪かったな。お前がボンボンじゃないってことはもう分かった。だから、本気でいくぜ!」
俺は剣を肩に担ぐように構える。
剣スキルLv9、アークセイバーを発動させる。
これが現状俺が繰り出せる最高位の剣技だ。
構えると剣が赤く光り、準備が整う。
「Lv9……流石は王子。そこらの騎士より強いな」
当たり前だ。俺はお飾り王子が嫌で度々城を抜けては実践を積んだんだ。
抜け出す度にばれて親父から怒られたけどな。
だが、そのおかげで今の俺がある!
「その努力と研鑽を素直に称賛し、敬意を払おう」
あいつは居合の構えを取った。
そして剣に黄色の光が灯った。
つまり、俺はあいつにスキルを使わせることが出来る程度の強さはあったわけか。
俺が見ている中で、あいつは一度も剣スキルを使ってはいなかった。
自然と口元の角度が上がる。Lv7の剣技と言ってもあいつが使うなら威力はもっと上を行くだろう。
俺は更に腰を落とし、一撃を当てるべく突進する。
「うおおおお!!」
「一閃」
カランと乾いた音がした。
手元を見れば俺の剣が、この国で最高峰の一振りが根元から綺麗に切断されていた。
「ははっ……ありえねぇ……」
ツェニーラダイト。世界第三位に入るほどの固さを持つ鉱石を見つけ、鍛錬し、俺と共に鍛えてきた愛剣は容易く切断された。
俺の手や体ではなく剣を正確に狙って――。
「王子、貴方の強さは確かなものだ。伸びしろはまだある。努力すれば勇者にも匹敵する強さを持っただろう――明日死んでしまうのが惜しくてならない」
振り返り、あいつの姿を見ると同時に俺は視界が暗くなった。
峰打ち――剣を切った直後に峰内したってのかよ……。
常識外れの攻撃。これも俺が生きてきた中で初めてのことだった。
暗闇の意識の中で昔の風景が蘇る。
どいつもこいつも俺が王子だから手加減し、勝利を譲られ、煽てられる。
王子らしくしろ、王子らしく振舞え、王子らしく――と何度も言われる。
それこそ一日に五回は確実に聞いている。
この国はよくわからない宗教を崇拝する国家だ。
居るのかどうかも怪しい神を称えるなんて正気とは思えない気持ち悪さがある。
しかも、国家内でも宗教は三つある。――正確には四つか。
一つはオーディンを崇める『オーディン教』。
一つは自然現象と神の仕業とかよくわからないことを抜かす『自然教』。
一つは俺たち王族を称える『ハイクフォック教』。
そして最後の一つはその三つの宗教から、いや世界的に悪とされている『邪神教』。
あれは『自然教』よりも頭のネジが飛んでいる。
確か、はるか昔に存在したという邪神を復活させようとか画策している団体だ。
何回か討伐隊が結成されて潰しているのだが、どうにも数が多くてしぶとい。
それこそ厨房の黒い悪魔のようなしぶとさだ。
そんなことはどうでも良いな。俺が言いたいのは王子という枠に縛るなと言いたい。
毎日毎日毎日飽きもせず言い続ける大臣や貴族、婚約をせまる貴族共。
そういうのはもうウンザリなんだ。マジで鬱陶しい。
だから、あいつみたいな奴――冒険者と呼ばれる奴らとは実に気があった。
辛い事も苦しい事も共有できた。時には騙されたこともあったがそれも良い経験だった。
目が覚めるといつもの天井だった。
ああ、やっぱり負けたんだなと実感する。
「目が覚めたか?」
親父の声がする。親父も口うるさい割には心配性なところがあるからな。
床に手をついて上体を起こす。
そして少しだけため息を吐いた。
「ああ……」
「珍しく大人しいな」
「そりゃ……あんな強さを身で食らえばな……」
俺は――。ふと、あいつの最後の言葉を思い出した。
「――なあ、親父。俺はまだ上を目指せるのかな?」
「……そうだな」
行ってみたい。あいつが見ている景色を見てみたいと強く思った。
だからこそ、そんな強さを持つあいつが言うからこそ信憑性があるのかもしれない。
あのうらやましいまでの強さ。嫉妬する。
勇者、とか言ったか。俺もなってみたいと強く思う。
だが、俺はもうすぐ死ぬ。誰とも知れない奴に殺される運命だ。
やりたいことなんて腐るほどある。世界だってまだ全部見てない。見たことのない景色だって見てみたい。親父みたいに国王になるのだって実はやぶさかじゃない。ずっと後の話だがな。
そう考えると、俺は泣いていた。
「親父……俺、まだ死にたくねぇよ」
親父はそっと俺の頭を撫でた。
「そうか……。最近のお前はどうも死に急いでいる気がしたが、気のせいだったか。まずはともあれ明日だ。なんとしてでも生き延びさせてみせる……」
俺はそれからしばらく泣きじゃくった。
悔しくて、怖くて、何かに怯えていた。惨めで無様に泣いていた。
そしてしばらくした後、俺は親父に言った。
俺は一つの決心を思いつき、それを言葉にしていた。
「親父、もし俺が死んだら姫さんとの婚約は解消してくれ。死んだ俺は何も守れないからな。遺言だと思って頼む」
親父は狸の顔から威厳のある表情で頷いた。
「……ペルよ。お前のその覚悟、しかと受け取ったぞ」
親父が部屋を出て行き、俺は明日の戦いのため、策を練った。
もし死ぬとしてもただでは死なん。死なば諸共よ。
あわよくば乗り越えてやる。俺の理不尽な運命から。
もしそれが出来たのなら、あいつの驚く顔も見れるだろう。
それはきっと、滑稽だ。ククク。
~筑笹
嵩都に惨敗したあの日から私はクロフィナ姫を奪還すべく計画を練っていた。
これに賛同するのは源道、三井、加奈子、佐藤、斎藤、鈴木、後藤、青葉、遠藤、川城、そして第二王女様の12名だ。
残念ながら悠木は予定があるようで参加出来ないようだ。
そこに朝宮、亮平を加えれば14人。つまり、これが現存する勇者たちだ。
私、筑笹鹿耶は現在ハイクフォック城に存在するST工房にて機体の最終チェックをしていた。
この間は機体が試運転状態だったから使えなかったが今回は違う。
ナガジェラスも復活し、強化されて万全を期している。
目の前にあるのは漆黒の機体。私の専用機で名を満月という。
ST製大型魔道兵装機構の第二世代機。つまりナガジェラスの後継機だ。
十m近い機体だが体型は細い人型だ。武装の基本装備はアームブレード。
時によって魔導銃や実剣を装備する。今回は対襲撃用に遠距離砲台を積んでいる。
背中にスラスターが付いていてジャンプも出来る。
機体の動かし方は遊び心かPS系のコントローラーに酷似している。
私としてはもっと違うのをイメージしていたが贅沢は言うまい。
隣にある三機は私の満月の兄弟機。源道、三井、加奈子が乗る漆黒の機体だ。
名を新月、三日月、半月だ。武装は私と同じようなものだ。
違う箇所は新月は遠距離型。三日月は接近型。半月は防御型ということぐらいだな。
半月には源道、三日月には三井、新月には加奈子が搭乗する。
その奥に銀色に光るのが第一世代機ナガジェラスだ。
強化されて額に一本角がつけられている上に二刀流になっている。
それで作成者である佐藤本人も自身専用機を作っているようなのだがここにはない。
戦場でお目にかかれることを期待している。
さて、機体に乗らない後藤、青葉、遠藤は大聖堂の守護をすることになっている。
川城は参加したものの商売の方が忙しいようでハイクフォック支店にいる。式にも呼ばれているようで、佐藤と共に出席するようだ。私たちは警護を名目としてついていくことになっている。
鈴木は実家が凄腕の料亭なこともあり厨房の手伝いをさせられている。
さて、私たちの作戦だが、簡単に言えば遠藤が結婚式場に乱入する。
それを守護する後藤、青葉が援護して攻撃する。
ここで亮平が来れば遠藤たちは即座に撤退し、セイレーン領に亡命する。
来なければそのまま姫を攫い、私たちが出撃して血路を開く。
ここで嵩都が出てくるのは間違いない。だからこそ私がいる。
要するにリアルタイムで遠藤たちとリンクを繋いで傍受し、状況を確認する。
嵩都が邪魔するようなら私が大聖堂に祝砲と称して魔導砲をぶっ放す。
何人かは死ぬと思うが嵩都を足止めするにはこれくらいする必要がある。
具体的には嵩都は国王に人質を取られていて命令は絶対。それ故に第二王女様の護衛を優先すると思うので瓦礫の下敷きになってもらう。
遠藤には川城と交渉して王族でも中々手に入らない転移石を使ってもらう。
そして脱出してもらいあばよ、とっつあんする。
亮平には後から事情を説明する手筈になっている。
うむ、我ながらよく考えた作戦だと思う。
さて、明日に備えてもう一頑張りしようか。
筑笹「では、行こうか。次回、五番目」
大典「おうよ! ST、出撃だ!」




