第六話・魔物襲撃
グラたん「第六話です!」
プレア「あれ? 嵩都は?」
グラたん「しばらく出しません」
突然左の方から悲鳴が聞こえた。
俺は意識を切り替えて悲鳴があったほうに飛ぶ。
「皆さん、落ち着いて迎撃してください! 五人一組で円陣を組み、死角を作らないでください!」
魔王が適切な指示を出し、周りは混乱しながらも対処しようと円陣を作る。
「プレアは地上を頼みます!」
「分かったよ!」
プレアが地上に行くなら大丈夫だな。雑魚相手で遅れは取らないだろう。
「魔王さん、俺も戦いますよ!」
魔王に進言してみるがダメと言われたら地上に向かおう。
「……分かりました。では、私が足を止めるので前衛をお願いします!」
「了解です!」
俺は魔物の近くまで最大速度で飛び、聖剣ヴァルナクラムを構える。
俺が最も得意とするのは背後からの首落としだ。
暗殺も割と技量の要る仕事だったからそこらへんは自然と身に着いた。
障害物が無くても気配を消すことくらいは出来る。
「我が敵の足を凍らせ、進行を止めよ、エル・ファリス・ドライ!」
俺が移動し終わるのを見越して魔王が足止めの魔法を放った。
魔法だ。初めて見た。
見た感じは氷魔法かな? 空気中の水分が固まって魔物の羽や足にくっついて動きを鈍らせているという感じか。
魔物との距離を一気に詰めて剣を振り下ろす。肉を裂き、骨を断つ音が聞こえた。
そのまま魔物の胴と首を二つに両断して――魔物の死体はそのまま地上に落ちた。
ーーーーベチャ!
『ギャァアアアアア!!!』
すまん、皆。空中で戦うということはこういうことだ。つまり事故だ。
そう考えながらも降ろした剣を今度は水平に左にいた魔物に当てて斬る。
魔物の首を断ち、返し刃で右の魔物の首も刎ねる。二体が地に落ちた。
ーーーーベチャッ!
魔物の返り血は赤い。新調した服や剣にこびりつく。
剣に付いた血を払い、最後の一匹に集中する。
『ギャハァアアアァァァ……』
何か地上のほうから気になる悲鳴が上がった。
……おい? 最後の方なんか小さくなったぞ? 大丈夫か?
そこへ一番の体躯を誇る鳥の魔物が俺に向かって来る。
魔物の攻撃は安直過ぎて次にどう動けば良いか少し悩むが、迎撃することにした。
俺は半歩避けてすれ違いざまに剣戟を叩きこむ。
「ギャッ!」
鳥が悲鳴を上げて一度俺から距離を取る。傷は浅いがダメージは入っている。
鳥の緑のHPが四割ほど無くなっている。ダメージを与える前は三割だったから一割のダメージを与えたわけだ。つまりあと六回同じ攻撃をすれば俺の勝ちだ。
……そうだ。せっかくだから何かスキルを使ってみよう。
視点を魔物に合わせつつメニューを開きスキル欄を開いて現在使える技を選ぶ。
ソニックソード(上):10mの距離を一瞬で詰めて上段振りおろし攻撃するスキル。
よし、距離もちょうどいいしこれにするか。発動の仕方は……声に出すと。
メニューを仕舞い、技名を声に出して見る。
「ソニックソード!」
……なにも起こらない。あ、もしかしてモーションしてから声に出すとか?
上と書いてあったので上段に構えてもう一度叫ぶ。
「ソニックソード!」
すると今度は剣が青色に輝く。
狙い良し。一歩踏み出す――そうすると俺の体が加速して魔物の正面に近付いていく。思ったより早いことに驚きながらも降ろすタイミングはバッチリだ。
――ブチャッ!
そんな生々しい音が耳に残った。魔物の方を見るとHPが後一割を切っていた。
もう一度と思ってソニックソードを発動させる。
すると今度は鳥が俺に向かって飛んできた。
避ける。方向を転換してまた来る。避ける。
――五秒経った頃だろうか。俺の体が急に動かなくなる。
そう、硬直だった。スキルと言う概念に付き物の硬直。
この世界では終わった後と発動させてから五秒経つと硬直を課せられるらしい。
さて、現状死にそうだ。鳥がその爪で切り裂かんと振りかぶってくる。
「危ない!」
魔王の氷塊が飛んで来て後ろから襲おうとしていたボス鳥の羽に刺さる。
「ギョオオオオ!!」
鳥が悲鳴を上げて距離を取った。
「君、スキルをあまり乱発しちゃダメ! 硬直時間があるの!」
魔王の声が飛んでくる。確かに不注意だったな。
「すみません!」
残り一割ならスキルを使わずとも大丈夫だ。また懲りずに鳥が突撃してくる。
今度はスキルを使わず、一回目と同じようにすれ違いざまに斬る。
手首を返してもう一度斬る。
「ギャギャア!」
鳥が距離を取ったので真空波を任意発動。
軽く魔物に向かって二、三回振ってみる。
すると瞬間的に鳥の皮膚が抉れていく。
「ギョォォォ……」
そうして鳥のHPが完全に黒くなり、鳥はそのまま墜落していった。
ふむ、使い勝手が非常に良い。応用もありそうだな。
周りを見渡し、他に魔物が居ないのを確認して剣を納めた。
地上は既に殲滅が終わっているようだ。周りからの援軍もない。
初戦は危なかしげではあったが勝利を収めた。
「君、大丈夫? 怪我はない?」
魔王がこちらに飛んで来て俺の心配をしてくれる。
「大丈夫です。先程はおかげで助かりました」
魔王は少し照れくさそうに笑った。
「い、いえ、何にせよ無事でよかったです。地上に降りましょう」
「はい」
地上に降りると血と臓物の匂い、スプラッタな現場をみてグロッキーになっている奴らがいた。亮平も初戦とあってか気持ち悪そうだ。今はそっとしておいてやろう。
俺? 大丈夫だけど? 殺人しておいて死体は気持ち悪いとか意味が分からん。
「んー。少し休憩すれば大丈夫でしょう」
魔王は周りを見てそう言う。気持ち悪さは抜けないだろうけどな。
~地上・亮平視点
魔物が現れた。ゲームおなじみのスライムとゴブリンだ。
現在は五人一組で固まって撃退戦をしている最中だ。
かくいう俺もエクスカリバーを振るって参戦している。
「ギィィ!」
斧を持ったゴブリンが俺の脳天目掛けて斧を振るってくる。
受ける。拮抗は一瞬。押し返しゴブリンの首を突き刺す。それで奴は地に伏した。
ズゥゥゥゥン!!
そんな音が数秒に一回の割合で鳴る。
空中からプレアデスという少女が弓を撃っているのだ。
あの美貌からは想像も出来ないほどの殺戮矢を放っている。
矢自体には範囲攻撃のスキルが掛かっているようで地面にはクレーターが出来つつある。いや、むしろスキルじゃなかったら化け物だろ。
俺たちがそんなに苦戦していないのも彼女のおかげだ。
それにしても初戦闘だからか気持ち悪くなっている奴が多い。
当然、俺だって気持ち悪い。
この中でそんな感情が無いのは嵩都くらいだろう。
俺はあいつの過去を知っているからこそ言える。
これは俺が三年になってから後輩に聞いて知った話。
嵩都はあの高校の中でも裏で最も恐れられていた。理由は簡単で後輩が見ていた感じでは他校の生徒に絡まれていたウチの学校の生徒を助けるために喧嘩になったらしい。
――語弊があったな。喧嘩じゃなくて一方的な殺戮だったらしい。
あいつはそういうことに掛けては一切容赦がない。あいつの場合、喧嘩になったら敵を即座に殺すという理論で戦っているからな。
それはもう喧嘩じゃなくて殺し合いだろとツッコミをいれたこともある。
それでまあ、その時はその殺戮現場にいた後輩が嵩都に見つかって口止めされたらしいけど。
他にも噂では嵩都は理事長から裏の仕事を時々頼まれていて報酬を貰っていたとか。
嵩都に限ってそれはないと思いたいがありそうだから否定は出来ない。
さて、現実を見ようか。先生方含め吐いているのがおよそ八割。
というか俺もそろそろやべ……。
~嵩都視点~
勝利したというのに周りの雰囲気は暗かった。
それというのも犠牲が出ていた。ある意味仕方のないことだと言える。
「無事だったか、亮平」
その中でも亮平は五体満足で無事だった。
「ああ。こっちはプレアデスさんがやってくれたよ」
「そっか……」
初戦。この戦いで女子にモテようと最前線に突撃して行った馬鹿数名がそのまま帰って来なかった。
犠牲者は彼等を含めても8人。相当数の犠牲だと言えよう。
しばしの休息を取った俺たちは更に先へと進み、平原を抜けると森が見えて来た。
森の手前に差し掛かる頃には日も落ちて辺りが暗くなり始めていた。
「ルー姉、今日はこの辺で野営が良いと思うよ」
魔王はもう少し進んでおきたいと思っていたのか少し考えている。
「……森の番人と化している貴方が言うのだから間違いないでしょうね。皆さんにもそのように伝えてください」
――森の番人? 非常に気になるが本人が恥じらっているので追及は止めて置こう。
そんなやり取りを交わして俺はプレアと共に皆の元に向かった。
しかし……プレアは魔王とどういう関係なのだろうか。
仮にも魔王はなんとか城の第二王女様らしいからプレアは侯爵令嬢とかそんな感じかな? だが言語や振る舞いは俺たちの様な庶民に近いし……となれば昔からの友人とか命の恩人とかか? プレアの実力から考えてもそのくらいは容易いだろう。実際の所は本人たちに聞かないと何とも言えないが。
そう考えている内に班分けが終わり、俺は鈴木、斎藤たちと共に料理班になった。
さて、今日の食材は現地調達だ。深入りしない程度に森に入り、数匹の草食動物や木の実を取りに行った。
俺たちの他にも料理班――もとい素材収集班がいるために持ってくる量は少なくて済む。だが、森に入った後に事件は起きた。
森に入って木の実を集めていると斎藤が近くに来た。
斎藤は亮平や鈴木たちと良く絡んでいるメンツの一人だ。
大抵はエロと馬鹿話ばかりだが男として話が合うのは楽しい物がある。
そんな斎藤が話しかけて来た。内容は当然――。
「なあ、朝宮。今日は野営だ。しかも森の中には泉がある。……言いたいことは分かるな? 男なら分かってくれるな?」
覗きだ。冷静に馬鹿だと思う反面、ヒャッハーと騒ぐ自分が憎い。
「なるほど。それで何処を回る気だ?」
どうせ目を付けた女子や女兵士たちを見たいから手伝えというのだろう。
「ふっ、馬鹿だな。王女様が直々に来ているのを忘れたか?」
だが、斎藤は俺の予想の斜め上を行っていた。
ば、馬鹿だ。ばれたら国家反逆罪とか不敬罪……いや、それ以前にその場で首を斬られ……もとい、矢で射抜かれるだろう。
「お前……流石にそれは不味いだろ。せめて他の女子にしろよ」
だが奴は俺をコケにするように笑いやがった。
「ハッ! 馬鹿野郎! ここで見なければ二度とお目にかかる機会はないんだぞ! 男ならやってナンボだろ!」
「いや、それはそうだが……それに間違いなくプレアが立ちふさがるぞ。正直言って俺たち雑魚が束になって勝てる相手じゃない」
委細承知というように奴はふと遠い目をした。
「絶対に勝てない相手はいない。勝負に100%はないのと同じことさ。そう、俺はどんな状況でも覆して見せる。俺の辞書に不可能の三文字はない!!」
その台詞の内容が覗きでなければ超がつくほどカッコ良かったが。
代わりにその信条にいっそ尊敬すら覚えた。
「……まあいいだろう。俺はどちらかと言えばプレアの方を見てみたいが」
貧乳も巨乳もどちらもいいが俺が一番好きなのはその中間だ。
すると奴は爽やかな笑顔で言い切った。
「任せろ。覗きは――ばれなければ犯罪ではない」
ばれなくても犯罪だ、馬鹿野郎。
夕食を終えた俺たちは焚き木を中心に集まっていた。
今回参加するのは俺、亮平、鈴木、斎藤、佐藤、源道、三井、ヒキ、遠藤以下数十名から構成され、更に王たち以下側近と隊長を含めて計三十人くらいの人数になる。
残念なことに残り数百名は全て女子だ。国王が連れてきたがために腕は立つし美人ぞろいだ。
要するにこれからすることは、それを全て敵に回すと言うことになる。
今回は口には出さずに手元のチャットを弄っての会話だ。
チャットはメニュー画面を開いた右の青い所を触ると起動する。
範囲は図っていないので不明だ。
チャット機能の中にスレッドという機能がある。
そこに参加すれば会話が出来るわけだ。
ちなみにスレに入っていないと会話がダダ漏れになる。
そして現在、俺たちは斎藤主催のスレに入っていた。
ちなみに他人からスレを見えなくすることが可能でスレをパスワード入力式にも出来る。今回はその機能を使用している。
『斎藤:さて、諸君。我等がラグナロクを始めようじゃないか』
『皆:サー・イエッサー!』
『斎藤:念のためもう一度確認をしておくぞ。女性陣は早朝に水浴びをすると匿名陛下よりお言葉を承っている。確かな線の情報なので間違いはない』
『皆:ウハハーイ!』
『斎藤:目的は女子の水浴びを覗くこと。湯気さんが活躍することは決してない』
『皆:たまんねぇな、オイ!』
『斎藤:だが我々の敵は多く、道のりは険しい。第一の敵は女兵士たち数百名である。第二に女子。その他に地形条件や天候条件があるが、この際置いておく。一番の難関は既に我々とは一線を凌駕する女子、プレアさんである。彼女の力は全員が身に受けた通りだ。彼女が阻めば勝利は遠のくだろう。しかし私には策があり、君たちという心強い戦力がある。知っている者もいるだろうが私こと斎藤博文は日本政府に対し正面から弓を引き、生き残った強者である。私の策によって奴ら政府の情報は全世界に発信された。つまりだ、敵にどんなに強吾な盾があり、知恵があろうとも私を上回れないと断言する。敢えて言おう、カスであると! 故に彼女等の裸体を拝めないということは無いのである。しかしながら全員とはいかないだろう。だが約束しよう。機会がある度に私は何度でも反逆の声をあげると! その上をご理解の上協力を承諾して欲しい。勝てば犯罪者、負ければ戦犯。これが嫌な者はそっと退出していただきたい』
良心が咎めたのか数人が抜ける。
皆もそこは分かるようで誰も咎めようとはしなかった。
『斎藤:良いな。では、現時刻を持って作戦を伝える』
そして俺たちの長い夜が始まった。
斎藤博文「フハハハ! 次回予告の時間だ!」
グラたん「次回、斎藤死す」
斎藤「すいません、止めてください」
亮平「次回、第一次ラグナロク。俺たちの聖戦が今、始まる!」
斎藤「うおおお!!」




