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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第五十八話・リーナ

プレア「フフン、フンフフン」

嵩都「(プレアがやけに上機嫌だ。何か良い事でもあったのか?)」

プレア「第五十八話、どうぞ!」

 


 初戦の相手はペアだった人、つまりプレアとの戦いだ。



「それではルール説明しますね。審判は私がします。基本槍の攻撃、隙があったら魔法を使っても構いません。槍が落ちたらその時点で落とした人が負けです。また、相手に降参と言わせればその時点で言わせた人が勝ちです。あと危険だと思ったら私が介入します」



 まあ順当なところだろう。



「それでは五組まとめて開始!」



 見れるのかと不安になるが出来るのだろう。



「行くよ!」



 すかさずプレアが渾身の突きを俺の股間に放ってくる。



「うおっ、なんてことするんだ!?」



 驚いて力の入れ具合を間違えた。

 プレアの槍をはじくとその槍が天高く消えていった。

 落ちてくるのに二十秒前後かかったことからするに相当上空まで行ったな。

 それはそうとはじいた反動でプレアの体勢が崩れ、前かがみに倒れる。



「っと、しまった」



 倒れる前にプレアを支える。

 プレアの髪の毛が鼻にかかって良い匂いがする。

 思わず心拍数が跳ね上がり、顔の熱が上がるのが分かる。



「わっ」

「ごめん、大丈夫か?」

「うん。ちょっとビックリした」



 そして槍が地面に落ちてクレーターを作る寸前、俺の槍で受け止めることに成功した。



「はい、嵩都さんの勝ちです」



 ヴェスリーラの声が聞こえてくる。

 プレアを抱き起して立たせる。



「う~ん。やっぱり嵩都には敵わないね。渾身突きだったのに」

「ははは、プレアさんや、男性の股間を狙うのはやめようか。当たったら洒落にならん」

「やだ」



 とても清々しい笑顔で言われて俺は苦笑いしか出来なかった。

 二戦目も順当に進んで残ったのは俺、筑笹、キャンスの三人だ。

 筑笹はともかくとしてキャンスが残ったのはある意味当然だ。

 だって戦っていたのが全部取り巻きだからだ。そりゃ勝つわな。



「それでは決勝戦、始め!」



 ヴェスリーラの声が響き、筑笹がキャンスなど眼中にないと言わんばかりに俺のみに集中しているようだ。



「ふっ、朝宮。お前とは一度本気で戦ってみたかった!」



 その根性は嫌いじゃない。乗ってやる。



「いくぞ!」

「来い!」


 筑笹が深く踏み込んで一騎に距離を詰める。

 突き、二段突き、薙ぎ払い。どれもが実戦で使っても使えるレベルの技を打ち込んでくる。

 対して俺は避け、受け、斬り払いをしていた。



「なんの!」



 筑笹が更に半歩踏み込んで頭、首、心臓を狙った渾身の三段突きを放つ。

 だがこれに対しての対策は実に簡単だ。長物を縦にして受ければ一度に全て受けられる。



「くっ、これもダメか」



 筑笹が歯噛みするように呻き、一度距離を取る。



「流石は万能の異名をとるだけのことはあるな」

「ふん、お前を倒せない限り私は器用貧乏のままだ!」



 いや、本当に万能と呼ばれるだけの努力はしていると思う。

 少なからず俺はその現場を見ているからな。素直に尊敬できる。

 そしてまた筑笹と数合打ち合う。今度は二段、三段突きの連携技だ。

 受ける分には楽だがこのままでは埒が明かない。少しだけ隙を見せる。



「ッ! 食らえ!」



 筑笹が渾身の気合いと共に俺の喉元に向かって突きを繰り出し、地面から一本の小さな土の矢が発射された。ほぼ同時の攻撃に俺は少し驚いた。

 まさかこんな短期間で最下位とはいえ土魔法を無詠唱で発動したのだ。

 並大抵の努力じゃないことは明らかだ。それほどまでに俺に対抗心を燃やしているのか。

 ――なら、俺はその上を行って筑笹の越えられない壁となるまでだ。

 瞬間的に背後に魔法防御魔法、リ・ウォールを展開し防御。

 正面の長物には一歩右にずれて半身で避け、筑笹の長物を叩き落とす。

 そしてとどめに横から寸止めで首を突く。



「そこまで!」

「くっ……」



 筑笹が奥の手だと思われる無詠唱を晒してまで意表をついたのに負けた悔しさを呻いた。



「く……まだ届かないのか」

「いや、無詠唱は意表だった。次が楽しみだ」

「ふっ。よく言う。次こそは負けない!」



 立ち直りが早いところも筑笹の良いところだ。

 さて、その戦いに入れなかったキャンス嬢は無様にも棒立ちになっている。

 俺は無言で槍を向けるとようやく反応した。



「くっ、食らいなさい!!」



 そういってわざわざ魔法を使う姿には呆れを通りこして尊敬さえする。

 だって長物で攻撃した方が絶対早いだろ、この場合。

 そして宣言したものを好き好んで食らう奴はM以外いない。

 俺にそんな性癖は多分ないので最下位の氷魔法で足と口を凍らせる。



「――ッ! ―――ッ!」



 そして優雅に一歩一歩近づいて槍を叩き落とす。



「はい、そこまでです。今日の優勝者は朝宮さんでした~」



 ヴェスリーラの声に合わせてまばらな拍手とキャンスの取り巻きからは嫌味が贈られた。

 ちなみに取り巻きはA、B、Cクラスと多学年に渡るため多い。

 彼女自身実力と才能はある。だが、ある意味化け物の巣窟と化しているSクラスにおいては劣等生だと言わざるを得ない。それこそ筑笹並にとは言わないが努力しないといけない。

 彼女がいつ自分がクラス内で劣等生だと気づくか見ものだな。

 今日の授業が終わって放課後になるとイの一番にキャンスたちが嫌がらせをしようと追ってくる。

 そのため終わると同時に俺がプレアをお姫様抱っこして窓から飛び降りなければならない。

 別段、窓側に有刺鉄線が張ってあろうと俺には関係ない。

 窓はしっかり鍵を開けてから出るため窓ガラスを割るという損害は出ていない。

 そうしていつものように空中を飛んでいるとプレアが首に手を回してきた。



「ね、嵩都」

「ん?」

「今日この後は暇?」



 急にプレアに言われて何もないことを確認する。デートか?

 特務の仕事はいつ入るか分からないが今は特にない。



「ああ、そうだな。帰りに市場にでも寄ろうかと思っていたくらいだ」

「そう。なら妹に会わせたいんだけど……いいかな?」



 あー、そういえば妹さんに挨拶してなかったな。ついでにお付き合いする報告も改めて言った方が良いだろう。



「うん、いいよ。――そういえば両親は良いのか?」



 そういうとプレアは少し沈んだ表情をした。



「お母さんはリーナが生まれた時に衰弱死しちゃったの……」



 ……しまった。悪い事を聞いてしまったな。



「そうか……お父さんは?」



 そう言ってから、背筋に悪寒が奔った。





「それは、誰の事なのかな? ボクと一緒に居たのはお母さんとリーナだけだよ」






 プレアはこれまで見たことがないほどの笑顔になった。

 ――やべぇ、超地雷臭がする。聞いちゃいけない類の事だッ!

 俺は、今年一番の戦慄をした。

 下手をすれば俺も彼と同じことになりかねない……気を付けよう。



「それで何処に向かえばいい?」



 その話題を強引に切り離して聞く。いや、何も聞かなかったことにした。



「初等部の女子寮。誘導するね」



 プレアが指定した場所――学校の初等部女子寮前に向かう。いや待て――。



「いや不味いだろ」



 よくよく考えれば初等部女子寮に入ったらロリコンのレッテルを張られることになる。



「ラウンジの個室だから大丈夫」



 俺のまっとうな意見は読まれていたようで俺は渋々プレアに連れられて行く。

 ラウンジに行き、個室の扉を叩くと中から鍵の開く音がした。



「あ、お姉ちゃん」



 顔を覗かせたのは身長120cmくらいの少女だ。

 茶髪赤目で少しおどおどして愛嬌がある。服装は学内で来ている制服だ。

 プレアの髪と目とは全く違う――もしかしたらプレアも元々はこういう色だったのかもしれない。

 俺はこっちの方が好きだが。



「お待たせリーナ。昨日言った通り嵩都を連れてきたよ」



 少女、プレアの妹はリーナというらしい。俺は丁寧に腰を折って挨拶する。



「始めましてリーナちゃん。俺は朝宮嵩都、よろしく」

「は、はい。こちらこそ末永くよろしくお願いします」



 ――末永く?



「あ、言い忘れていたけど嵩都が婚約者なことはもう伝えてあるから」



 ああ、もうそこまで伝えてあったのか。手間が省けた。



「そうか。あ、これ良かったらどうぞ」



 そういって俺はストレージから未使用状態の白銀桃を綺麗な籠に持って取り出す。



「わあ、これって白桃ですよね? 凄く高いし希少だからあまり市場にも出てないのに……あ、立ち話もなんですので中に入って下さい」



 そうなのか。迂闊だったな。

 リーナに促されて中に入り、椅子に座った。



「お姉ちゃん、早く剥いて剥いて!」

「はいはい」



 リーナにせがまれてプレアが実に慣れた手つきで桃を剥いていく。

 しかもやり方が俺と全く同じだ。

 この桃を簡単に剥けるということはプレアは俺と同等かそれ以上のスキル持ちだ。

 桃が剥き終わり紅茶も入ったところで俺たちの紹介の続きが始まる。



「へえ、リーナちゃんは召喚士なのか」



 召喚士は魔法師以上に数が少ないレアな人材だ。



「と言っても代わりに魔法も武術も出来ない。家事も壊滅的、と」



 プレアがすかさず余計な情報を吹き込んでくる。



「う……で、でも成績はいいもん!」

「筆記のね」

「うう……」

「それくらいにしてあげなよ、プレア。向き不向きは誰にでもあることだ」

「全部できる嵩都が言っても説得力無いよ」

「いや、時間逆行とか人体蘇生、時空移動は無理だ」



 邪神時なら話は別だが。



「うん、そんなの誰にもできないね」



 最もな正論を言われて俺は黙るしかない。

 話題を転換して雑談に興じる。

 少し経つと固さも取れて俺はリーナのことをちゃんづけしなくなっていた。

 分かったのは姉妹揃って他女子からやっかみを受けているということか。

 そんな話をしていると部屋の扉が開いた。



「あらぁ? なんでプレアデスさんがここにいるのかしら?」



 言わずともキャンスだ。部屋を間違えたのか?



「あ、落ちこぼれのリーナちゃんだ!」



 そう言ったのは妹らしき少女だ。



「コラ、そんなことは言うもんじゃない」



 少女をたしなめたのは厳格な人物、堅物みたいなおじさんだ。



「鍵閉めてなかったのか、リーナ?」

「あ、ごめんなさい」

「無視しないでいただけるかしら?」



 俺たちが会話しているというのにキャンスが割り込んでくる。



「それでそちらさんは何の用だ?」

「ふん、用も何も今日はわたしく達がこの部屋を貸し切りにしていたのですよ?」

「そうなのか?」



 リーナの方を見て俺が問うとリーナは首を振った。



「ううん、そんなはずないよ。ちゃんと管理人さんに聞いたもん」

「ふむ。じゃ、確認してくる」



 俺は部屋を出てカウンターに行きあの部屋の使用状況を聞く。



「はい? あの部屋はレアハイアー家が使用しているはずですが?」

「その前にリーナっていう子が使用していたと思うんだが」

「……少々お待ちください。……あ、ありました。ええ、確かにありますね」

「時間制限でもあったのですか?」

「ええ。その通りです。もう時刻は過ぎていますよ」

「了解です。ありがとうございます」



 俺は急いで部屋に戻り、状況を説明した。



「えっ!? あ、もうそんな時間経ってたの……」



 事実のようだ。俺は堅物みたいなおじさんに向かって会釈する。



「使用時間を過ぎていたのは事実のようです。申し訳ありません」

「いや、楽しんでいて時間を忘れるのは良くある話だ」



 このおじさん話せる。そっちの二馬鹿より断然話せる。

 俺が向かっている間にプレアが帰りの支度をしていたようで俺たちは彼らに会釈して部屋を出ていこうとする。



「あら、わたくしたちには謝罪の言葉はありませんの?」



 キャンスだ。一々面倒くさい。



「その前に聞きたいのだがキャンスさんは先ほど貸し切りと言ってたな。あれはどういう意味だったのか教えてくれるかな? 少なくても俺たちが先に予約していたのは事実だったしな」



 するとキャンスはわずかに後退した。



「あ、あれは言葉の綾よ!」

「なら、次からは注意した方がいいぞ。それで誤解を招くこともある。それはそうと時間を取らせてすまなかった」



 深く三人に向かってお辞儀をする。



「わ、分かればよろしいのですわ」



 そして俺たちは颯爽と帰路についた。

 部屋を出ると夕暮れの光が差していた。俺たちはラウンジを出て外に出た。



「今日は一旦お開きだね」

「そうだな」

「はい! 少しだったけど楽しかったよ!」

「そりゃよかった。それじゃ、リーナを寮まで送ろうか」

「うん」



 プレアの提案に乗り、リーナを寮まで送り届けて俺たちは帰路についた。

 帰ると即夕食の準備に取り掛かる。

 今日はアモンガという魚の塩焼きだ。それに法蓮草の胡麻和え、アモンガの兜を煮込んで出汁を取った白身入り味噌汁と切り干し大根だ。

 アモンガは川魚なため少々薄味だが健康には良い。それに庶民の味を出すには丁度良い食材と言える。

 切り干し大根には油揚げを入れることで旨味が増す。もしくはアサリを入れて海鮮風にしても良いな。

 そして法蓮草だが、醤油や砂糖などの和風の調味料も城下町では売っている。まあ、多文化や転移者たちのおかげでもある。

 締めは餡子と白玉、それに蜂蜜入りの和風のデザートで好評だった。


嵩都「なるほど、プレアが上機嫌なわけだ」

博太「何の話だ?」

嵩都「いや、プレアの妹のリーナに出番が回って来たという話だ」

博太「へぇ、プレアさんに妹がいたんだ」

フェルノ「初耳……」

嵩都「さてと」

博太「こんな夜中に何処に行くんだ?」

嵩都「ちょっと国王に呼ばれているんだ」

博太「国王に? そうか。気を付けてな」

嵩都「おう。次回、駆け落ち」

博太「(駆け落ち……。いや、落ち着け。まだ計画がバレたと決まったわけじゃない)」

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