表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
57/466

外伝 デート・オア・ライブラリー

嵩都「デート回だ」

プレア「嵩都とデート、嵩都とデート」

嵩都「(絶対に無様だけは晒さない)」

~嵩都


 学校生活が始まって少し経った頃、俺は学校内を見回っていた。

 案内してくれているのはプレアだ。

 プレアは隣で上機嫌に俺を手を繋いでいる。

 そして嫌がらせかというほど非リア共の恨めしい視線がまとわりついてくる。



「あ、着いたよ」



 今日来たかったのは図書室だ。

 図書室の中に入る。入った中央には机と席が並び、空中にも席がいくつか浮いている。

 半重力魔法と硬質固定魔法だな。どちらも熟練の腕が必要だ。

 本棚も例外ではなく、壁や天井にもある。



「それじゃ、ボクはルー姉の所に行くね!」

「分かった。案内ありがとう、プレア」

「うん! また後でね」



 プレアを見送り、俺は目的のブツを探しに行く。

 今日調べたいのはこの世界の事やこの国の歴史だ。

 それはすぐに見つかった。本を片手に手頃な席に座る。

 分からないことはかなりある。邪神、竜などもその筆頭だ。

 項目を開き、調べたいページに飛ぶ。





邪神とは?

 邪神。ロンプロウムに巣食う邪神教の神。

 数千年前、ベイルート城とボクスエス城という二つの城があった。

 天下を分ける二大世界大戦に介入し、両軍に甚大な被害を与えた最古の化け物。

 正式な記録はあまり残されていないが、邪神が手をかざせば空より赤き岩が降り注ぎ無慈悲に人の命を奪った記録が残っている。

 また、東に眠る彼の龍を作り上げたとされている世界の害悪。

 その後に邪神はいずこかへと消え去ったが、邪神を語る人間が幾重にも存在し始め、邪神教が創設された。

 二代目邪神は初代ほどの力は無く、それ以降も襲名者が現れている。

 三十年前には邪神教の討伐が実施され、兵士の多くが犠牲となったが邪神教徒の数は激減した。

 尚、数百年前から現在に至るまで邪神は現れていない。





ベイルート城、ボクスエス城とは?

 数千年前に実在した栄華を極めた二大城。

 両城には勇者、英雄などが集まり、幾重の戦争を繰り広げた。

 中でも邪神が参戦した流星戦争と悪龍戦争が有名である。

 流星戦争は初代邪神がたった一人でボクスエス城を陥落させた記録がある。

 その中でも勇者や英雄が奮戦するが敗北している。

 後にベイルート城の女王はボクスエス城の勇者たちを迎え入れている。

 悪龍戦争は邪神が世界を滅ぼすために生み出した悪龍との戦争である。

 この戦争の率役者は大魔導士と聖王、勇者たちである。

 中でもボクスエス城が抱えていた大魔導士の『光の華』と呼ばれる古代魔法は悪龍への決定打となっている。





邪神教とは?

 苦しみ、悲しみなどの負の感情を邪神に捧げる宗教。

 山賊、海賊などが特に多く、生物を無残に殺し、その嘆きを捧げることこそが本懐。

 現在は排斥が進んでおり、世界にも僅かにしか存在しない。

 邪神教の根城跡は世界各地に点在し、時には森や海の中にも存在する。

 数百年前の一時期は慈愛や博愛が流行し、邪神教がそれらを率先していた記録がある。





竜とは?

 ロンプロウムにおいて最強の存在。

 圧倒的な力を持ち、強靭な鱗、鋭利な爪を持っている。

 種類は飛竜、地竜、水竜の三種類があり、アジェンド城の飛竜部隊は必殺とされている。

 また、アジェンド城は竜を国旗にしており、竜族と縁がある。

 ただし竜族も一枚岩ではなく、時折街や村を襲撃することもある。

 人里に降りてきた竜は国の許可が下りない限り討伐や狩猟は出来ない。

 竜を見かけた場合はすぐに逃げるのが常識である。

 また竜族は決して同胞の死を許さない性質を持つため、殺害や捕獲は禁止されている。

 竜の盟約を破った場合、その者は死刑となっている。

 竜族を保護している場合はすぐに国に報告し、決して独自の判断で動かないこと。

 また、かつての二大大戦から約百年後に飛竜が一斉に山へ帰るという事変が起きており、その飛竜たちが作った楽園こそが世界の何処かにあると言われる竜の里である。

 尚、何故飛竜たちがそんな行為に及んだのかは不明である。





 ……ふむ、実に興味深い。

 手を一度止め、もう一冊の世界地図を広げる。

 この間レニールから教えて貰った場所を思い出して検証する。

 その場所は秘境よりも奥地にある場所で、道中にはAランクやSランクの魔物や動物が徘徊している危険な場所だ。

 ふと時間を見るとプレアと合流する時間に迫っていた。

 本を元の場所に返し、図書室を後にした。








 その放課後。

 俺はプレアを連れて再度図書室に来ていた。

 その理由は亮平たちに呼ばれていたからだ。

 せっかくのデートを、と思ったがプレアは俺がいるならどこでも良いらしい。



「来たぞー」



 扉を開けると銃口が此方を向いていた。

 素早くヴァルナクラムを引き抜く。



 パパパパパッ!



「舞え、真空波」



 真空波は銃弾を全て切り落とす。

 そして俺は大きく一歩踏み出し、腕を引いて銃口に剣を突き込み、切断する。

 彼は銃を素早く捨てて大きく後退しようとする。

 背後からの殺気を感じてうつ伏せになる。

 飛んで行ったのはプレアの矢だ。援護してくれたようだ。 



「げぇ!?」



 正面から悲鳴が上がり、彼はスキルを使ってまで急いで回避を試みる。

 だが、それよりも速くプレアの矢が彼を吹き飛ばし、ついでに俺の正面の本棚を全て吹き飛ばした。

  


「大丈夫、嵩都?」

「あ、ああ……」



 相変わらず凄いな。図書室が跡形もなくなった。。

 さてと、直すか。

 邪神スキルの創成で図書室全体を構築し直す。



「嵩都、用事は?」

「ん~、亮平もいないし帰ろうか」

「夕食の食材買わなくていいの?」

「あ、そうだな。色々足りないから追加しておくか。ついでに喫茶店でも寄るか」

「うん!」



 そうして俺たちは図書室を出ようと踵を返す。



「いやコラちょっと待て!」

「なんだいたのか」



 そこにいたのは亮平だ。ちなみに銃口を向けたのも亮平だ。

 ついでに言うと、さっきまで壁に打ち付けられて呻いていた。

 ……まあ、自業自得だな。



「それで、何の用なんだ?」

「全く。用件は単純に図書室の清掃を手伝って欲しかったからだ」

「清掃?」

「ああ、俺一人だと量が多いからな。手伝ってくれ」

「いいぞ。ちなみにさっきの銃は何だったんだ?」

「図書室戦争のネタだ」

「なあ亮平。それで命落とすのって馬鹿らしいとは思わなったのか?」

「あくまでもネタだからな。あと命は落としたくない」

「そうか。じゃ、始めようか。プレア~」

「終わったよ~」



 プレアの方を向くとその手には掃除セット一式が握られ、図書室は綺麗に磨かれていた。

 


「お疲れ様~。言ってくれれば手伝ったのに」

「そう? でもこのくらいはすぐ終わるよ」

「そっか。それじゃ亮平、俺たちは夕食の材料買って帰るから」

「あ、ああ……」



 俺たちは亮平と別れ、図書室を出た。

 校舎を歩き、校外へと出た。

 やってきたのは城下町南地区の市場だ。

 夕暮れだというのに賑わいは昼間と変わらない。ちなみに一番込むのが取れたての朝だ。休日とかに来ると大抵おばちゃんたちが食材を巡って戦争をしている。最も、俺は壁走りをしたり空中を飛んだり屋根を伝って跳躍したりしているからあまり関係ない。

 今日の夕食はグリーンマトンのヒレ肉でカツにでもしようか。

 グリーンマトンというのは城下町の牧場で飼育されている食用の羊だ。毛が緑色で肉も緑色だからその名前が付いたらしい。

 肉そのものには白ワインとクルレットという臭み飛ばしの木の実を混ぜておくと一層美味しくなる。

 衣にはドラゴニュートと呼ばれる竜種の卵とホウノウソウを摺って作った小麦粉もどき、そしてパン粉を混ぜて付けて置けば完成だ。

 予め一日浸けて下味をつけると深みが増すのだが……そこまでは求めていないだろう。

 ついでにいうと明後日はカツカレーだ。

 ソースは庭の一角で育てているトマトとゲウン、スリカ、アメジの三種類の実を混ぜた特製ソースだ。

 明日のお弁当にも入れたいから量は少し多めに買っておこう。





 買い物を俺たちは学校へ戻る途中にある喫茶店へとやってきていた。

 


「この喫茶店?」

「うん」



 ここは事前に調べておいたスイーツの美味しい店だ。

 下見に来て一回食べているから味はもう分かっているがせっかくのデートだしプレアには美味しい物を食べて貰いたいからな。

 そしてここはデートスポットとしても活用される店のためカップル用の品も多い。

 金の心配はない。事前に下ろしてある。

 例え夕食が食べれなくなるほど食べたとしても大丈夫だ。



「ねえ、嵩都は何食べたい?」

「プレアと一緒の物が良いな」

「じゃ、これが良い!」



 数あるメニューの中からプレアが頼んだのはホールケーキだ。

 文字通り、ワンホール。サイズは普通のより一回り小さいが、カスタム出来るためバリエーションが広いこの店のおすすめ品だ。



「中身はどうしようか?」

「それもプレアが決めて良いぞ。好きなようにコーデしてくれ」

「分かったよ! ええっとね……」



 カスタムの品を選ぶ姿は一人の女の子だ。やはりプレアも甘い物が好きなんだな。

 その間に俺は紅茶を注文する。

 そしてプレアが顔を上げて内容を言葉にした。



「ケーキはクッキー生地でスポンジにはミカルクの実とリームクリーム山盛りで、砂糖と粉砂糖を追加で振って、その上から雪山クリームを乗せて白銀桃のシロップをあるだけ全部かけて、五段盛り! 一段目はリムムをスライスしたのを入れて、二段目にはレモネードとリームシロップを大量にかけて、三段目にはルミスティー盛りで、四段目には苺と練乳ね。五段目は雪だるまアイスを乗せてその上から黄金桃シロップをかけてください! あと飲み物は紅茶で砂糖はボトルでお願いします!」

「はい、かしこまりました」



 プレアが注文すると店員がちらりと俺を見て苦笑いして、一礼した。

 おーい、待てや店員。色々突っ込んでいけ。

 注釈すると、ミカルクの実というのはロンプロウムでバニラアイスを作るのに必要な原料の一つだ。そのまま食べることが出来るが糖分が高く、人間が食べると味覚が壊れるらしい。

 リームクリームというのはミカルクの実を砕き、糖分を薄めたクリームだ。普通はコーヒーとかに入れてカフェモカとかにするのが定番だ。それでも甘い。

 砂糖と粉砂糖は言わなくても良いな。雪山クリームというのはルップカと呼ばれる果実をお湯に浸けて溶かし、砂糖とブランデーを入れ、ほんの少しだけ岩塩を入れているクリームだ。

 リリムは梨に似た果物だな。ルップカやミカルクほど糖度は高くないが甘くて女子に人気の一品だ。主に貴族たちが好んで食べる果物だが、一般民衆にも出回っている。

 ルミスティーというのはエファット・ラケットと呼ばれる苺を砂糖に浸けて一年間ほったらかしにしたら生えてきたと言われる、別名『甘党殺し』とも言われるほどに甘い苺だ。俺も一度食べたことがあるが、血糖値が恐ろしいほど上がって二度と単体では口にするまいと誓った代物だ。

 雪だるまアイスというのはミカルクで作ったアイスを二段重ねにした物だ。黄金桃や白銀桃のシロップをかけると味が変化する。

 ――フフフ、ククク……。

 俺、血糖値上がり過ぎて死ぬかもな。

 まさかプレアがこんなにも狂った甘党だったとは……知らなかった。

 夕食の味付け、俺のだけ濃くしよう。きっと味覚が崩壊しているだろうから。

 プレアはいくら糖分や塩分をとっても太らないし体重が増えない体質だからな……。

 羨ましいと言えば羨ましいが……なんて言えば良いんだろうな?

 俺は現実逃避気味にプレアと会話していると厨房の方からおぞましいほどに甘ったるい香りがしてくる。

 他の客がドン引きして一人、また一人とお勘定を払って出て行く。



「あれ? ボクたちだけになっちゃったね」

「そ、そうだな」


 

 天然……何だろうな、きっと。悪意がないのは表情を見れば分かる。

 パタンと厨房の扉が開く音がする。

 甘い香りが此方に近づいてきているのが分かる。



「お、おまたせ致しました。ごっくりどうぞ」



 店員さんが張り付いた笑みを浮かべ、その額には冷や汗を浮かべている。

 俺と目が合い、その眼は『ご愁傷様』と言っていた。

 きっと俺はこの後意識が飛ぶだろうから先にお勘定を渡して置く。ついでに迷惑料も込みで。

 店員さんが一礼し、速足で去って行った。

 しかも本日貸し切りというように店前の札を変えた。

 うん、今日はもうお客はきっと来ないだろうな。

 さて、視線をテーブルに戻す。



「わぁぁ!」

「おぉぉ……」



 プレアの目が輝かしい程に輝き、俺の目が、鼻が、肌が、全身が拒否反応を起こした。

 これは一種の化学兵器だ。

 見た目は店員さんたちの努力の結果が分かるように良い。

 しかも頼んでもいないはずなのにケーキの最上段にある雪だるまが二つに増えて黄金と白銀のシロップがわざわざかかっている。しかもチョコを細く切って手を繋いでいやがる。

 


「嵩都、ありがとうね! いただきまーす!」



 プレアが大層楽しそうな声を上げてフォークをケーキに入れた。

 一口、二口と、とても美味しそうに平らげていく。

 実はそんなに甘くないんじゃないかと淡い期待を抱かせるような食べ方だ。



「はい、嵩都。あーん」



 それは唐突に地獄へと変わる。



「いや、でもそれプレアの分だから……」

「ん? 嵩都にも食べて欲しいんだ。はい、あーんして?」



 俺の丁重な断りは純粋無垢な笑顔でかき消される。

 俺は意を決して口を開き、その口にフォークとケーキが侵入してくる。

 決して噛むことは許されないはずなのに噛むしかなく、甘すぎるが故に喉が受け付けない。

 甘すぎる甘すぎる飲み込むと喉が焼けつくような感覚を覚える。胃の物が全て逆流するような感覚に陥るが吐き出すわけには行かない。飲み込むしかない。――――――――――あ、あ、あ、ア、ア、ア、ああ、嗚呼、あぱぱ、アパパパパパパ、あひひひひひひひひひひひひひ甘甘甘甘死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ紅茶甘い甘い甘い甘い甘い死ぬ死ぬ死ぬ殺される甘い止めて味覚が壊れ甘い死ぬ狂う狂う甘い止めて助けて助けてアアアアアアアアアァァァァァァアアアアアア死んじゃう死んじゃう死んじゃう死ぬ逝く逝く逝く逝く逝く逝く逝く逝く助けて水水水水水甘死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ紅茶ァァアアアア脳が震エルゥゥゥァァァァアアアア甘い死ぬ甘い死ぬ甘い死ぬほど甘い狂う死ぬ助けてンペペペペペペペペ止めて止めて助けて拷問苦しい逝く逝く死ぬ死ぬ甘党辛い物唐辛子岩塩紅茶甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘アアアアアアアアアァァイイイイイイイィィィィイイイイィィィイイィィィィ――――。





「泣くほど美味しかったの? それならもう一口――」



 それが、俺が聞こえた最後の言葉だった。


 




 俺の味覚はしばらく何も感じなくなったと記載しておく。



グラたん「無様ですね」

嵩都「……食ってみるか?」

グラたん「遠慮しておきます」

嵩都「……悪い、寝る(退場)」

グラたん「相当な精神打撃を食らったみたいですね」

アネルーテ「……」

グラたん「おや、どうしましたか?」

アネルーテ「プレアと嵩都がデートしていたのよ。ズルい……」

グラたん「羨ましいなら今度誘ってみては如何ですか?」

アネルーテ「無理よ。学校の仕事もあるし、何よりプレアと不仲になりたくないもの」

グラたん「……そうですか(恋は戦争。奥手は後手後手に回るんですよ)」

アネルーテ「……でも、やっぱり羨ましいわ」

グラたん「次回、魔王軍陣営」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ