第四十九話・懐かしき夢
嵩都「第四十九話……ぐぅ……」
プレア「くきゅぅぅ(嵩都に抱き着く)」
~別室
博太「ぐがぁぁぁ」
フェルノ「くぅ……(寝返りを打つ)」
フェルノ「んっ! (夢の中でこんがりよく焼けた肉に手を伸ばす)」
博太「がぁぁぁぁ」
フェルノ「ふにぃっ! (夢の中で爪を立ててしっかりと掴む)」
フェルノ「ふにゃぁ……(現実で伸びていた腕が力無く落ちる)」
フェルノ「ペタッ(現実でも爪が出ている上、手の位置が博太の顔面)」
博太「(爪が顔に刺さる)!?!?!?!?」
フェルノ「(爪が収納され、夢の中では目の前に肉がある)」
博太「(思わず目を覚ます)な、何が……?」
フェルノ「むにむに~(夢の中で美味しそうに食べている)」
博太「フェルノか……。思ったより寝相が悪いん――」
フェルノ「(美味しさの余り尻尾が激しく揺れる)」
博太「(尻尾が目に突き刺さる)眼ェェがああぁぁぁぁァァァ!!」
フェルノ「えへへ……(幸せそうな寝顔)」
~嵩都
宴は盛大に行われた。主役の亮平と博太、フェルノは担ぎ上げられて町の中央で酒に酔いながら戦いの様子を皆に話している。
俺とプレアも巨竜の正面で足止めしていたこともあり、奇跡の英雄扱いされていた。
そんな俺たちだがプレアとフェルノは騒ぎ疲れたようで寝てしまった。
仕方ないので俺と博太は何よりも先に取って置いた宿に二人を運び、後始末は亮平に任せた。別名、見捨てたともいう。
プレアを寝かせて、さて俺も寝ようと部屋を出ようとするとプレアに腕を掴まれて寝床に引きずり込まれた。どうせそうなるだろうと予想していたために部屋の鍵は閉めてある。
そうして俺はそのまま就寝した。
俺は朝とも言えない日が昇る前の数時間前に起きる。
そんな夜中に俺は博太と亮平に水を被せて叩き起こした。
濡れた床や寝床は火魔法を調節して乾燥させていく。
「ぶぇ……だ、誰だ!?」
「酷い……眠い」
「寝ぼけている暇はない。今すぐ帰るぞ」
「ええ……一拍しようぜ。ぐぅ……」
博太の眼が落ちて来たのでもう一度、今度は氷水を被せてやる。
――バシャッ
このクソ寒い冬に氷水だ。流石に博太も目が覚めたようだ。
「ぐぇ……分かった、起きるから勘弁してくれ。それで、なんでこんな夜中に帰るんだ?」
まだ寝ぼけているらしい。教えてやろう。
「よく日程を思い出せ。今、何月何日だ?」
「そりゃあ歴一五六六 四月三日……あっ……」
「分かったか、博太。そう、アジェンド城からクエルトまで二日かかった。つまり戻るのも同様の速さで――いや、それ以上の速さで戻らないと行けない」
「ちょっと待て、嵩都。何の話かさっぱり分からん」
ここにきてまだ亮平は寝ぼけているようだ。
「決まっているだろ。明日は入学式だ」
亮平があっ、と声を上げて目が見開かれる。
「……そういうことか。うえっ、なんでこんな遠出したのだか……」
「愚痴を言っている暇があったら荷物をまとめろ。二人は起こさないで行くぞ」
「ま、そうなるな。俺の荷物は大丈夫だ。馬を取ってくる」
「俺も行く」
博太が二頭を取りに行き、亮平が二日酔いの頭痛を堪えながらそのあとに続いた。
俺は酔いつぶれているフェルノと俺にべったりくっついて起きているだろうと思わせるプレアを運ぶ。
プレアは起きている。間違いなく。
何故なら、部屋に迎えに行くと着替えて俺の分の荷物もまとめた状態で寝ていたからだ。
起きているなら自分で歩いて欲しいが、まあ単純に甘えたいのだろう。
せっかくなのでお姫様抱っこで連れていく。
抱えた時にプレアの体が緊張で少し硬くなったのは可愛かった。
ちなみに一度町の外に出てコテージに彼女たちを入れておけばいいと思うが、残念なことにコテージを収納する時は生物が居てはいけないのが条件となっている。
町の住人には悪いが隊長のポケットに書置きを入れて置くから許してほしい。
分かっていると思うが門番も酔いしれて潰れているため自力で開ける必要があった。
まあ、俺としてはそんな面倒くさい方法はしない。飛翔飛行スキル:範囲飛行を使用し、城門を一跳び。 代償は通常時の俺のMP半分を持って行かれた。
着地してフェルノを博太に渡し、プレアを抱え直して俺たちは町を後にした。
クエルトを出発してから二日目の朝。
俺たちは一夜の野営も惜しんで馬を飛ばした結果、入学式の二時間前に城へ到着出来た。
一時はあまりの眠さに馬でコテージを引かせようかと思ったくらいだ。
少々の仮眠の後、再び走り出した。
気が付けば博太は睡魔に意識を持って行かれ、馬から落ちかけていた。
さて、それはそうと俺たちは城門を潜り、予め伝令されていたのか俺たちが入ると城下町は日が昇りかけている早朝だというのに盛り上がっていた。
住民が俺たちを見かけるや黄色の声援が送られた。
そのおかげか亮平、博太、フェルノの意識が覚醒した。
プレアを背負っている俺に対しては少々怨恨の眼差しが送られた。
東門の馬小屋に来た。叔母ちゃんたちも鼻が高いようだ。
その後、俺たちは一度城ギルドへ行き正式に報告を済ませた。
「待って下さい」
報告を済ませて前金を貰い、ギルドを出ようとすると受付嬢に止められた。
「えっと、朝宮嵩都さん、田中亮平さん、鈴木博太さん、フェルノ・ソルヴィーさん、プレアデスさんの五名は学校の方で入学式中に国王陛下がいらして簡易式の叙勲をされるそうです」
マジか。俺の場合は余計な注目を集めそうだな。
「以上です。お疲れ様でした」
受付嬢に見送られて俺たちはギルドの外に出た。
「じゃあ、一度解散でいいか?」
博太が促すと皆頷いた。
「そうだな。登校は制服で行く必要があるし……それに一風呂浴びたい」
「うん……それにしても、叙勲……緊張する」
「確かに……良くも悪くも注目されるな」
「特に嵩都は色々な噂が流れるだろうね」
「うう……」
あれは致し方ない。割り切るべきだろう。
雑談も程々に俺、亮平、博太は一度城へ戻った。
フェルノは自宅通学らしい。両親や兄弟にも報告するのだろう。
プレアも同様に自宅通学らしい。両親については複雑な事情があるようだ。
女子二人とは式が始まるのが八時なので七時半くらいに校門前に集まることにした。
城に戻った俺たちは一風呂浴び、朝食を摂った。
巨竜撃退の報告は既に広まっているようで部屋に戻るまでずっと注目を浴びていた。
それとこの部屋についてだが、駐屯している兵士やメイドを合わせても余っている部屋なので好きに使っていいと先程筑篠が国王の言葉として伝えに来てくれた。
使わないで埃が溜まるよりは有効活用しようという魂胆だろう。
それと城の出入りは顔パスで良いそうだ。浴場や食事は流石に料金制らしいが。
そうそう、食堂だが実は一般公開もしていて金さえ出せば食べられるらしい。
さてと、そういうことなら有効に活用させて貰おう。
そういえばプレアは自宅の一室を手製矢置き場にしているらしい。
そこに異空間魔法――要するに簡易のストレージを作っていつでも矢を補充できるようにしてあるということだ。
俺の部屋も氷魔法で冷凍庫にして食材の保管庫にでもしようかな。
そう考えつつ、寝床に座ると急激な睡魔に襲われて俺は迂闊にも横たわってしまった。
最後の力でタイマーをセット出来たのは行幸と言える。
気が付くとまた地球にいた頃の夢を見ているようだ。
今日は俺が少し考えていたことが夢に出てきたようだ。
葬式――俺たちが通っていた高校跡地で執り行われているはずの俺たちの葬式だ。
俺たちの死体は見つかっていないと思いたい。まさか転生したとかではないだろう。現に俺たちの顔ぶれは全く同じだからだ。少々美化されているのは仕様だろう。
それで、その葬式には俺の家族、父、母、妹が喪服で参列している。
そこにいる遺族たちや後輩、先生は皆、涙を流している光景だ。
ふと、場面が変わる。青い屋根の二階建て、自宅だ。
そこには俺の仏壇がある。両親はもう喧嘩していない。なぜ喧嘩などしていたという悔恨が見える。
妹は少し暗い表情ではあるが両親ほど落ち込んではいない。
そういえば……夕夏は今年中学卒業だったな。
卒業祝いにと事前に注文しておいたアレ、届いているといいな。高校でも剣道やるって言っていたし。
ピピピ……
タイマーの音がする。まだ寝ていたいが仕方ない。俺も入学式に行かなければ。
目を開け、眼を擦りながら洗面所に行って顔を洗い髭を剃って髪を直す。
そしてストレージから新品同様に皺ひとつない制服を出して袖を通す。
中がTシャツなのは楽でいい。それ以上に制服の着心地が良い。
鞄はいらない。全部ストレージに入れて置けば良い話だ――そう考える奴対策か学内は基本ストレージの使用禁止。鞄(学校指定のものはない)に入れて登校することが義務づけられている。
そういうわけだから俺は鞄を首から下げて窓から飛び出し、窓を閉めた。
俺の部屋は四階にあるから余程クライミングが得意な奴かプレア以外は来られないだろう。
まあ、特に見つかって騒ぐものは隠していないが念のため邪神スキル:創生より二体召喚しておいた。強さ的にはA程度だろう。これが突破されるようなら俺が直々に暗殺しなければならない。
さて、そんな物騒な話は置いて、入学式へ向かうか。
俺は校門前に向けて飛行した。
~幕間
町の住民が朝起きると英雄たちの姿はもうそこにはなかった。
その騒ぎにヴァインたちも起きる。
ヴァインは立ち上がると上着のポケットの中に紙が入っていることに気付く。
取り出して読むとヴァインは納得した。
ヴァインは嵩都たちを代弁してその紙の内容を読み上げた。
嵩都たちがまだ学生だったことに住民は驚いた。
その日の内にもう一度彼等の出立を祝う宴が開催された。
ヴァインたちには流石に帰還命令が出され、引き留める住民虚しくアジェンド城に向かった。
一方アジェンド城では昨夜国王が考えた懸念を重臣たちに発表し、忙しさが格段に増していた。
~幕間2 軍国
軍国バルフォレス。軍国はアジェンド城の西、二つに分かれた西側の大陸にある国だ。
近年をもって発達した通信技術により、国王アルドメラの返答が王に伝わった。
「ほほう、あの馬鹿王が否と、な」
軍国の王は茶髪を束ねた野性的な男だ。
常に傍らに大剣を刺し、来るものを威圧している。
「左様にございます。そして勇者の力に引かれて魔王軍という者たちがこの世界に進行してきているため、勇者は引き渡せないと申しております」
「魔王軍? 邪神軍ではなく?」
「はい、魔王軍にございます」
「ふむ……どう見る、宰相」
宰相と呼ばれた男は小太りで甲高い声色で答えた。
「はい。これはアジェンド国のでまかせではないでしょうか」
「でまかせか……あり得る線ではある」
「はい。自らの国に勇者を残したいがための言い訳にございましょう」
「……もう一度問うても平行線だな」
「ええ、平行線にございます。しからば、力づくで奪うしかありませんな」
王も馬鹿ではない。宰相の献策に首を横に振った。
「しかし、敵には勇者がいる。それも大多数の、な。勇者の力は先の撃退戦で聞いての通りだ。まともに戦えばこちらの被害は甚大、下手をすれば負ける可能性もある」
「でしたら、私にお任せを」
宰相は勝つためなら小ズルい手を惜しまない、一種の策略家だ。
王は真正面から戦うことが好きなため戦時はあまりそりが合わない。
しかし宰相の手腕は信頼できるので無下に扱うこともできない。
「――小細工は好まない、が、そうも言っておれまい。やれ」
「ハハッ」
(猪武者ですなぁ。奇策こそが至上。勇者とはいえ所詮は人間。殺害するのはもってのほかで肢体を失うのも下策――男なら金と女で大抵は落とせる。女ならば大金を積み、丁重かつ自分が重要人物だと思わせることで落とすことが出来る。くひゃ、またこれで私の位があがってしまうなぁ! あひゃひゃひゃ!!)
宰相は内心でほくそ笑みながら一礼し、玉座を出て、暗闇の道へと進んで行った。
グラたん「次回、葬儀」
嵩都「また誰か死ぬのか?」
グラたん「既に故人扱いです」
嵩都「……はて、誰だ?」
グラたん「心当たりでもあるんですか?」
嵩都「……いや、多少だ(ヤベェ。結構殺害してるから分からん)」
グラたん「あ、それと次回は名前だけだったキャラが明確に出てきます」
嵩都「……まさかな」




