真光戦争8
グラたん「8話です!」
それから三か月間、メランニスはシーダの元で自分の力の制御訓練をしていた。
最初は意識が簡単に飛び、シーダも重傷を負うこともあった。
シーダやラウェルカが傷つくとメランニスはすぐに我に返った。
スファーダ真教にはDC細胞の量産が始まっていた。
ラウェルカたちはそれらをメランニスへの先行投資と割り切って飲んでいく。
ある時、メランニスの血からDC細胞が取れることが判明した。
スファーダ真教の闇医師たちはメランニスの同意の元、血液を採取していた。
メランニスの体内にはDC菌が回っていて、血の中で量産され続けているのだ。
つまり、メランニスは傷が付いたとしても血液や肉体に含まれるDC細胞のおかげで超回復できるのだ。
化け物化についても色々判明した。
まず、対物対魔の耐性が非常に高く、物理的な攻撃、剣で斬る、銃弾を受けるなどの攻撃は全て反射する。
全身が黒色なのも、そもそもの防御力が高く、硬いことを意味している。
また、爪やブレードは鋭利になっていて斬撃力が高くなっている。
それでいて機動性が落ちていない。
実に、化け物と言える。
しかし、三か月の訓練があったとしても自我を保てるのは五分程度。
その上、自我を上書きするほどの凶暴性と無邪気な幼児性が顔を見せる。
だが、その幼児性のおかげか、ラウェルカを母もしくは家族と見立てたのか、ラウェルカの言う事は素直に聞く。
ラウェルカにとっては最強の切り札と言っても良い。
ただ――。
「うおわぁぁぁぁぁ!!」
その幼児性の反動か、その後しばらくはラウェルカに甘えてしまうのだ。
具体的にはラウェルカに抱き着いたり、食事を食べさせてもらったりしていた。
ラウェルカも、そんなメランニスを凄く可愛がっていた。
しかし、それなりに自意識を思い出してきたメランニスにとって幼児モードが終わった後、悶える原因になる。
現に今も宛がわれた豪華な部屋で悶えていた。
当然ながらその光景はシーダたち幹部も見ているわけで、揶揄われる原因になっている。
程なくして悶え終えたメランニスは天井を見ていた。
アメリカを制圧し終えた次はカナダだ。そこも終えたらキューバとベトナム。そしてブラジルを吸収してイタリアへと向かう。
メランニスはスファーダ真教の主力の一つだ。
スファーダ真教自体が元々強いこともあり、全てをメランニスに任せているわけではない。
「メランニス~、ご飯にしよっ」
部屋の外からラウェルカの声が聞こえる。
「うん」
メランニスは起き上がり、靴を履いて部屋を出て行った。
例え記憶が無かったとしても、白色は今を楽しんでいた。
その後、二か月弱の時間でラウェルカたちはカナダ、キューバ、ベトナム、ブラジルを制圧。
それだけの時間があれば世界の民衆もどちら側に付くか決めていた。
まず、スファーダ教の穏健派が世界中で動き、スファーダ真教と合併した。
規模は実に世界の六分の一の人口が集結していた。
残った六分の五の内、一般人は六分の三。軍隊だけで六分の二となっている。
スファーダ真教公国という歴史でも最強クラスの敵を前に、中国を始めとする共同戦線、対スファーダ真教公国世界連合軍、略して『連合』が史上初めて成立した。
その手動を握るのは現最大国家である中国。しかし、可決には議席の七割が賛同示す必要がある。
そして、その連合軍とスファーダ真教公国が最初に激突することになるのはイギリスとなった。
「攻撃を開始せよ! 間違っても一般市民には手を出すな!」
スファーダ真教公国の指揮を執るのはシーダだ。
スファーダ真教公国の規模は20万と大きい。対して連合軍の規模は――『0』だった。
連合軍の拠点は非武装国家のスイスだ。
そこに各首脳が集まっている。
「だから! さっさと軍を送ってくれ!」
そう叫ぶのはイギリスの大総統だ。
「そうは言ってもだな……」
揉めているのは軍備の資金、兵士の規模、国同士の利益のぶつかり合いだ。
何処の国も経済的にそんな余裕は無く、何か利益でもなければ動くことは出来ない。
無論、スファーダ真教の駆逐は優先事項ではあるが、自国の利益になるかと言われると誰もが黙ってしまう。
そう、スファーダ真教は表裏の無い組織であり、物資情報や軍備情報は探りを入れれば簡単に聞けてしまう。
それでも大丈夫なのはメランニスとシーダの存在、そして姫と称え崇められているラウェルカの存在があるからだ。
もっと簡単に言ってしまえば、スファーダ真教というのは学校のサークル活動に酷似しており、更に言えば穏健派が大半を占めるため不和を招くこともあまりない。
一般市民にはスファーダ真教は危険と言い続けているが、このネットご時世である。
カナダやブラジルの様子は簡単にネット報道され、民衆に疑問を抱かせていた。
世論も二分しかけていた。
つまり、例え連合軍がスファーダ真教を駆逐殲滅しても残るのは元アメリカの莫大な土地とスファーダ真教に『洗脳』された住民。
それを誰が引き受けるのか。――世界中から資金を集め、物資を送っても足りるわけがないのは自明の理だった。
かと言って抵抗力を持たない一般市民を虐殺すれば世界の各政府の信用は地に落ちる。
「これでは何のための連合軍だ!!」
その最もな言葉に誰もが視線を逸らす。
いつの時代も有能なトップは無能とも言える。
解決策の出ないまま、軍を送ることもなく二日が過ぎた。
三日目もまた同じような会議を繰り返しているとフランス軍の兵士が飛び込んできた。
「ほ、報告します! 明朝七時、イギリス国がスファーダ真教に降伏しました!」
それを聞いたイギリスの大総統が目を見開き、口を大きく開けていく。
全身の毛が逆立ち、連合軍を睨む。
「見た事か! 貴様等が、貴様等の性で我がイギリスが陥落してしまったぞ! 次はドイツだ! フランスだ! イタリアだ!!」
彼は完全に狂乱し、連合軍に対して侮蔑を吐き続ける。
元イタリア軍の官僚たちが取り押さえたのはそれから五分後のことだった。
彼が居なくなった後、会議は再開された。
「急報! スファーダ真教がドイツ、フランス、イタリア、ギリシャなどヨーロッパ三十二か国に同時侵攻を始めました!!」
再開されると同時に、もはや連合軍は連合軍ではなくなった。
位置から最も遠い日本でさえ、退席したのだ。
他国に構っている暇はない。制圧だの殲滅を声高く唱えている暇は無い。
まずは自国である。
世界初の連合軍はたった一週間足らずで崩壊を喫した。
各国家を制圧したメランニスたちは一度本国へと戻って来ていた。
「戻りました」
「もどったよー」
三十二か国の内、二十七か国を連続して滅ぼしたメランニスは、また幼体化していた。
「おー、メランニスは偉いねー」
「えへへ」
ラウェルカは満足そうにメランニスを抱きしめた。
少女に抱きしめられる青年。何ともおかしな構図だった。
「シーダもご苦労様」
「いえ。しかし我々を呼び戻したのはどういうことですか?」
そう、シーダたちはラウェルカの指示で一度帰国させられていたのだ。
「うん、それなんだけどね。後で皆が集まったら説明するからそれまで待っていてくれる?」
「分かりました」
シーダにあるのはラウェルカへの絶対忠誠。
余程ラウェルカが可笑しなことを言わない限り、余計な口出しをする気は無かった。
「あうー」
隙を見てメランニスがラウェルカの手を引く。
「うん、それじゃ遊ぼう」
「わーい」
「シーダは部屋でゆっくり休んでね」
「了解しました」
そう言い、ラウェルカはメランニスの手を引いて部屋を出て行った。
「……何とかならんのか」
ラウェルカたちが出て行った後、シーダはそう呟いた。
メランニスの幼体化は治る兆しを見せない。
もしかしたら永遠にこのままなのではないか、とシーダは危惧している。
幼体化したメランニスはラウェルカ以外の女性に気を向けない。
もし、この先ラウェルカが誰かを娶ったりした場合、通常のメランニスなら素直に祝福するだろう。だが、幼体化したメランニスをラウェルカが構ってやれなくなった時、あのメランニスがどういう行動に出るかなど想像に容易い。
それこそ、スファーダ真教公国が崩壊する事態になる。
「ある意味、彼に対する供物なのかもしれないな」
部屋に戻ったシーダは二人の関係性をそう揶揄した。
――
日本時間で十二月十日。
その正午、銀次たちはミカエル学園の体育館に集まっていた。
ステージには大型のディスプレイが配置されていて、画面の中には何十本ものマイクと一つのテーブルがあった。
日本政府からの重大な発表ということで全国民が聞いている。
そこへ、総理大臣がやってきた。
画面内では多数のフラッシュがたかれ、生徒たちは眩しさに目を細める。
その中で総理大臣はマイクの前に立った。
『静粛に』
一拍置き、記者たちが鎮まる。
『全日本国民の皆さん。今日はお集まりいただき、感謝します。しかしながら、非常に残念なお知らせを伝えねばなりません』
一拍置き、何回かのフラッシュがたかれる。
『昨夜、スファーダ真教公国がオースリア、インドネシアを落とし、この日本へと向かってきております』
記者だけでなく、生徒たちもざわめく。
『しかし、ご安心ください! 我々には切り札が存在します!』
更に騒めく。
『そう、ミカエル学園の皆様です!』
『はぁあああ!?』
生徒も、教師も声を荒げた。
死ねと言っているのか、と。
そして半年以上前の映像が流れる。
『な、なるほど!』
記者の数人が頷く。
『そうです! 炎の巨人を倒した彼らならばきっとやってくれるでしょう!』
『ざっけんなボケェ!!』
総理大臣の言葉に生徒の誰もが無理と判断した。
『しかし、彼らだけでは決め手に欠けます。そこで我々はある大規模召喚を成そうと思っております』
画面が切り替わり、召喚魔法陣が映し出される。
『これは我々が極秘裏に開発を続け、完成させた魔法陣です。これにはあの炎の巨人を完全に支配する術式が組み込まれております』
おお、とそこらから声が上がる。
『召喚するには未だ莫大な魔力が必要になります。故に、それまでの間、具体的には今年の二月末まで何としてでも時間を稼いでいただきたい。皆様の御協力があれば必ずや成し遂げられるでしょう』
そう言い、総理大臣が頭を深く下げる。
そして頭を上げ、宣言する。
『そして協力して下さるミカエル学園の皆様に、我々はこの武装を貸し出し致します』
画面に映し出されたのは一本の大剣に二丁の砲門が付いた武器だ。
『これは数十年前に召喚魔法で漂流して来た異次元の武器なのです。詳しい事は極秘事項なのであまり話せませんが、一つだけ言えることがあります』
静まり返る皆を見て総理大臣は口を開く。
『この兵器には今まで架空と思われていたビーム兵器が搭載されていました』
この世界に置いてビーム兵器は架空の存在だ。それが実在したとなれば驚きも大きい。
『威力も高く、使用するのは当人の魔力ということです。我々は召喚魔法を行えるミカエル学園の生徒先生方ならば、と思った次第にございます』
自然と、全員の視線が波崎に集まる。
先の炎の巨人戦で、校長と共に巨人を足止めし、とどめを刺すほどの実力者たち。
校長はもう結構良い歳であるため、視線が波崎に向かっていた。
それからも総理の長々とした演説もどきを聞かされ、日本人たちは僅かに希望を見出していた。
教室に戻った銀次たちはリーベルトからプリントを貰っていた。
「……つまり、一月中旬くらいに来るスファーダ真教公国から日本を守り、二月末の召喚が出来たら攻勢に移るってことですか」
銀次の若干呆れた声にリーベルトは頷く。
「分かっていると思いますが、スファーダ真教公国はあまりにも強大な国です。私たちが奮戦すれば一度、二度は退けられるでしょう。そこは、他国よりも強いと思っています。しかし、そうなればメランニスが出てくるやもしれません」
リーベルトの言葉に銀次は震える。
――メランニスと、あの化け物と戦えるのか?
あまりにも次元の違い過ぎる生物であり、物理も魔法もほぼ効かない上に超再生の能力を持っている化け物。
仮に、あの炎の巨人を操れたとしても倒せるのかどうか疑問が立つ。
両方とも見た銀次なら分かる。
炎の巨人ではメランニスを倒せない、と。
あの不気味に歪んだ笑いが脳裏を過ぎる。
「……もしも」
リーベルトの声に銀次は意識を引き戻す。
「もしも、倒せない、勝てない、死にたくないと思ったら逃げても降伏しても構いません。大事なのは生きることです」
最も、生きて辱めを受けるなら話は別、とマーラは思う。
「全力を尽くしましょう。私は白色君に誓って、君たちを生き残らせると宣言します」
リーベルトの力強い言葉が銀次たちの胸に刺さる。
さて、とリーベルトが話題を変える。
「先程、校長先生から話がありましたが、三日後からあの大剣を所有するための大会があります」
一本しかないため、全員にチャンスを与えるために選抜戦という緊急の大会が開かれることになった。
校長や波崎が決めあぐねたということもある。
そして大剣を持てるのは優勝した一人のみ。
もし、優勝者が戦場で死んだ場合、準優勝者、三位、と継承されていく。
「辞退したければ明日の午後六時までにその旨を私に告げてください」
完全な個人戦であり、この場にいる教師を含める全員が敵となる。
銀次がマーラを斬るかもしれない。ラミュエルがフェイラを撃つかもしれない。
もしかしたらマーラとフェイラが殴り合うかもしれない。
そんな可能性が大会にはあった。
「私は辞退するわ」
「私も辞退します」
「私の武器はこれだけだ。辞退する」
最も『大剣を持てない』ためマーラ、フェイラ、ラミュエルは辞退した。
見るからに重そうな大剣であり、ビーム兵器があったとしても反動で上手く扱えないかもしれなかった。
「分かりました。銀次君はどうしますか?」
最後に残った銀次は、頷いた。
「出ます。例え波崎先生と当たったとしても戦います」
力強く、守る意志を持って銀次は宣言した。
「……分かりました」
リーベルトも覚悟を決めて頷いた。
ホームルームが終わり、明日以降は休校という形になった。
銀次たちはそのままフェイラの家へと来ていた。
三日という時間。どう使うかは各自次第だが、銀次はもう決めていた。
「本当に良いのね?」
「ああ」
「後悔しても遅いからね!」
「来い!」
銀次はマーラたち三人を相手に、本気の戦いを望んだ。
敵となるであろう波崎に頼むわけにはいかない。
しかし生半可に過ごしていたのでは絶対に勝てない。
本当に殺すくらいの気持ちでなければこの先はきっと生き残れない。
銀次は波崎から貰った大剣を振り回し、近接戦闘を仕掛ける。
それに対してラミュエルは中距離で戦い、その隙を埋めるようにマーラとフェイラが背後から援護している。
――やり辛ぇ。
銀次の素直な感想だった。
今までは安心して背後を任せられていたのに敵となるやここまで厄介だったとは思っていなかった。
「やっているようだな」
そこへ校長の声がして銀次たちは一度手を止めた。
「校長先生。どうしたんですか?」
「何、銀次君が大会に出ると聞いてね。少し稽古を付けようかと思ったのだ。私から見てもあの大剣を使えるのは銀次君か波崎先生くらいだろうからね。でも、どうせなら君が使っている姿を見たいと思ってしまうよ。少し場所を変えようか」
校長が手に持っている杖で地面を叩く。
すると一瞬にして景色が変わり、何処かの荒地へと変わっていた。
「まさか、転移魔法ですか?」
マーラが心底驚いて校長に尋ねる。
この地球に置いて転移魔法は秘術とされている。
使える者はほぼおらず、使えたとしても自身を転移させる程度だと言われている。
「如何にも。さてと……私と戦ってくれるかね、銀次君?」
「ありがとうございます」
校長の実力は分からないが、今の銀次にとって校長は格上の存在だ。
強敵と当たれるのは銀次にとっても好都合だった。
校長は二カッと笑い、ローブを脱いだ。
「本気で構わんぞ。私も本気で戦おう」
校長は右腕を天高く上げ、叫ぶ。
「ZSシステム、起動!!」
右腕に付けられている腕輪が輝き、校長の体を包んでいく。
眩い閃光の後に見えたのは全身を紅蓮の鎧で包み、両手に斧を持って若返った校長の姿だった。
「さあ、来い」
その一言を聞いただけで銀次は全身が震え上がった。
圧倒的な存在。下手をしたらメランニスよりも上位の存在に銀次は震えた。
同時に脳裏で思ってしまう。
――この人がいるなら大丈夫だ、と。
その思いを見透かされたように背面のブースターが唸り、校長の右斧が下段から振り上がって銀次を軽々と天空に放った。
ブースターが翼のように両翼に広がり、大火力を持って空高く飛翔した。
「ぬぅん!」
斧の平で空高く舞った銀次を打ち据えた。
銀次は完全に油断していた。
校長の一撃はあまりにも速く、予想を裏切っていた。
脳の処理速度が完全に追い付かず、唯一反射的に右手が動いて振り下ろされる斧と顔面の間に大剣を差し込んだ。
ガァァァンという金属音と共に銀次は地面に激突し、五m近いクレーターを作った。
「銀次!!」
マーラは今の速すぎる攻撃が見えていなかった。
気付いた時には背後で爆音が鳴っていた。
その土煙の上がったクレーターに駆け寄ると中央には茫然として鼻血を噴き出している銀次がいた。
ズンッと重々しい音を立てて校長が降りてきた。
強化外装を解き、クレーターを見やる。
ラミュエルとフェイラは銀次が決して弱くないことを知っている。
あの波崎と戦えるような存在であり、帰国後に何回かあったスファーダ教の襲撃も退けて見せたのだ。
その銀次が瞬殺されたという事実は三人の心を酷く揺るがした。
銀次を救出して、校長が再度転移魔法を使って家に戻って来た。
そして銀次をソファーに寝かせる。
「一つ、私の昔話をしようか」
銀次が起きるまでの間退屈だろうと思い、校長が語り出した。
「私は昔、神と戦ったことがある」
あまりにも荒唐無稽な話だ。
「神話と言い換えても良い。ここではない全く別の世界で私は仲間たちと共に邪神と戦った」
校長、ガイアが思い返すのは邪神と初めて戦った防衛戦。
ガイアの口から語られるのはあまりにも信じがたい話であり、しかし何処か真実味を帯びていた。
「龍とも戦った」
かつての仲間であり、敵であり、最後の強敵として戦った邪龍のことを聞かせた。
どちらにしてもガイア一人だけでは勝てず、もしくは敗北している。
マーラたちは疑問にさえ思う。
この校長が、あれだけの力を持った校長が勝てなかった相手。
少しして話終えた校長にマーラは問う。
「その邪神とメランニスだったら、どっちが強いですか?」
「邪神だ」
即答の断言。
「むしろ、彼にかかればメランニスは雑魚やもしれん」
あの化け物が雑魚扱い。マーラたちは少しだけ笑った。
ガイアは彼女たちを見ながら思い返す。
あの森の中にあった一軒家で過ごした最も輝かしい楽しかった時間を。
――どうせ、あいつらはまだ天国か地獄にいるんだろうな。
ガイアはあの化け物共を思い出して何度もそう思う。
「痛ってぇ……」
少しすると銀次がソファーから身を起こした。
「あ、起きたみたいね」
「良し、それでは続きと行こうか」
『えっ?』
校長は杖を立てて、転移魔法を発動した。
それから三日後。
校長との猛特訓もあったおかげで銀次は決勝にまで進んでいた。
最後の決勝戦はグラウンドの中央で行われる。
相手はやはり波崎であり、銀次は試合直前まで精神を集中させていた。
波崎を倒す方法は何度も考えていた。
『間もなく試合が開始されます!』
アナウンスが入り、銀次は立ち上がる。
「頑張りなさいよ!」
背後でマーラが声援を送る。
「おう」
銀次は大剣を担ぎ、手を挙げた。
グラウンドに出てくると、周りには全学年の生徒と教師が囲んでいた。
「来たか」
波崎は先に出てきており、大剣をグラウンドに突き立てていた。
銀次もグラウンドに上がり、波崎の正面に立つ。
二人の間に言葉は必要なかった。
銀次は下段に構え、波崎も下段に構えていた。
それもそのはず。学園で唯一、波崎から直に手ほどきを受けていたのだ。
『それでは、開始!』
「では、行くぞ」
「行きます!」
試合のコールが鳴ると同時に両者が動いた。
下段からの切り上げ、弾かれ、切り上げ、上段からの最速の斬撃。
弾かれ、再度最上段から振り下ろす。
鍔迫り合いになり、銀次が押される。
銀次は不利と見て即座に下段に切り落とす。
波崎は大剣を軸に体を捻り、遠心力の乗った廻し蹴りを繰り出す。
銀次はそれを知っているので後方に大きく飛びずさり、着地と同時に大剣を右から振りかぶる。
波崎はしゃがんで躱し、同じく右から斬撃を繰り出した。
銀次は前方に体ごと跳躍して間合いから逃れる。
そして銀次は空中で刺突を構え、波崎に向かって突く。
波崎はそれを読んでいたように前方に転がる。
銀次の大剣が地面に突き刺さり、お互いに呼吸を整える。
たった七秒の間に行われた剣戟の応酬は生徒たちを大いに沸かせた。
しかし、その後数十秒間はにらみ合いが続いた。
その様子に皆が疑問を持ち始めたと同時に両者が動いた。
「シッ!」
「ハッ!」
一瞬の裂帛の気合いと共に繰り出されたのは両者とも渾身の薙ぎだった。
刃と刃が当たり、火花を散らせる。
一瞬の交差の後、今度は左からの薙ぎがぶつかり合う。
波崎の上段斬りが振り下ろされ、銀次は逆に下段から斜め上に向かって素早く二度切り捌く。波崎が跳躍するのを見越して銀次は全力で跳躍して波崎の上を飛ぶ。
そして銀次が最大の勢いが乗った最上段斬りを振り下ろす。
波崎は大剣を横に持ち、防御の構えを取る。
大剣同士がぶつかり合い、波崎が地上に激突する。
銀次はそのまま落下し、刺突する。
果たして――銀次の大剣が波崎の首筋に突き立てられていた。
銀次が波崎を押し倒す形で……。
「参った。降参だ」
波崎の降参を聞いて、会場は大いに盛り上がった。
『優勝は1-Fの銀次君です!』
司会のコールが響き、学校中の空気が激震した。
校内最強とも噂されている波崎を正面から打ち破ったのだ。
銀次は大剣を引き抜き、波崎に手を差し伸べる。
「今のお前なら大丈夫そうだな」
「はい」
波崎は銀次の手を取り、起き上がる。
その光景に何処からか拍手が贈られた。




