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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
455/466

Goul12

グラたん「ゴウル12話です!」

 

~焔~

「本当に、残念だ」

 俺は無残な姿になった壮巳にそう呟いた。

 少し経ち、完全にその姿を失ったのを確認して俺は背を向けた。 

「全員、進軍」

『ォォォォォォォォォ!!』

 ゴウルたちはその声を高らかに上げた。


 一足先に軍部に戻ってくると非常事態警報が発令され、赤の光がくるくると回っている。

「あ、焔!」

 軍部の入り口で待っていたのは瀬露とシィブルだ。

「襲撃か?」

 瀬露の方に向き直って聞くと、頷いた。

「私と焔は第十八番目を、シィブルさんはゴウルからの防衛になった」

「了解した」

 もう一度シィブルと視線を合わせ、アイコンタクトをする。

 俺と瀬露はその場から急いで移動し、現地へと向かった。

 警戒網は陸地だ。基地から少し離れた場所に今回の第十八番目が地底から来ると伝えられている。

「各自、戦闘態勢に入れ」

 司令部より伝令があり、もう間もなく時間が迫った。時刻、13:00分。

 大陸が揺れた。

「来るぞ! 構えろ!」

 各部隊が一斉に動き出してMOSRや対ゴウル兵器を構える。

「う、うわっ!」

 土塊が盛り上がり、兵団の一部を飲み込んだ。

「来たぞ! 撃ち方用意……」

 指示が出され、土塊の方に銃器型のMOSRが向けられる。   

「うてんぎゃ!」

 なんて事はない。指示を出すはずの司令部が土塊の中に消えたのだから。

「各自散開!」

 そんな中で瀬露が指示を飛ばし、蜘蛛の子を散らすように人間が逃げていく。

 俺は瀬露の後に続いて動いていく。

 ドン、ドンと土が盛り上がって人間を飲み込んでいく。

「くっそ! 姿を見せろ!」

「当たらねぇ!」

「うわあああ!!」

 完全に相性が悪い。その通り、彼女は土竜型のゴウルだ。

 彼女の土俵は土の中、卑怯などとは言えまい。  

 しかし例外というのは何処にでもいる。

「ハッ!」

 土の盛り上がりを見つけると同時に壬が駆け抜け、刀を一閃する。

 十八番目はそれを察してすぐに土の中へと潜ってしまう。

 土の塊だけが斬り裂かれ、その下には巨大な穴が空いていた。

「ここが突破口だ! 水でも手榴弾でも放り込め!!」

 壬が珍しく声を上げて自身が切った穴を示唆する。

 確かに穴自体に何かブツを入れれば、例えば手榴弾なら爆破による爆音と煙で十八番目をいぶり出すことが可能だ。 

 動ける者はそれを見てすぐに動き、壬が引くと同時に手榴弾を投げ始めた。

 次いで、派手な爆発音と共に穴から盛大な煙が立ち籠った。

「ォォォォォォォォォ!?」

 そして全く別の場所から十八番目が地表へと上がって来た。

「来た……。全員、総攻撃!!」

 瀬露の声を筆頭に、今まで鬱憤溜まっていた人間たちは一斉に十八番目を目掛けて銃口を向けた。しかし、十八番目とて地中からの攻撃が全てではない。

 十八番目が両手を左右に広げ、元々巨大だった爪を先程の三倍近くまで巨大化させた。

 その爪が体全体を使って振るわれる。

 ゴウッと風切り音を立て、およそ三十m前後に居た人間たちの上体が斬り裂かれる。

 そしてそのまま数回転するかと思いきや、半回転した辺りで動きが止まった。

「――ッ! 危ねぇな!」

 沢入だ。手にもっているのは多重装甲のシールド型MOSR。それを展開し、足腰の踏ん張りを効かせて耐えていた。

「今だ!」

「せやっ!」

 その暴風圏を潜り抜けた瀬露、壬、俺が迫る。     

 十八番目は俺たちを一瞥すると爪を元の大きさに戻し、俺と瀬露の攻撃を受け止めた。だが、爪と言っても手は二本しかない。その横をすり抜け、仁が一打撃を加えた。

 十八番目が次の動きを取る前に俺たちは一度距離を取って様子を見る。

「浅いか」

 壬が斬った箇所は横っ腹。しかし傷はあくまでもかすり傷。

「皮が厚いのかもしれない」

 第十八番目も流石に此方を警戒し、動きを止めた。

 その隙に兵士たちが負傷者の救護に当たった。

「なら、狙うのは頭部、首かな?」

 瀬露の言う通り有効打を決められるとすればそこだろう。

「俺と沢入で足止めをする。二人は積極的に狙ってみてくれ」

「了解」

「分かった」

 頷きを聞き、先掛けて十八番目に斬りかかる。

「ォォォ!」

 十八番目も雄たけびを上げ、爪を振り下ろす。

 真向から受ければ俺とて無事では済まないため、受け流して地面に落とす。

 そして左手による二打撃目が降ってくる。

「っと!」

 それは沢入が受け、耐える。

 少しだけ間が出来、沢入に声をかける。

「俺たちは足止めだ」

「了解!」

 即座の策とはいえ、沢入も自分に出来ることが分かっているのだろう。

「フッ!」

 一拍の気合いと共に右腕に向かって剣を振るう。

 目的は斬ることではなく拮抗させること。

「ハッ!」

 そうすればがら空きの正面と背後から二人が攻撃してくれる。

 正面から攻撃したのは瀬露だ。その刺突は正確に十八番目の左目を抉った。

 しかし同時に俺の後頭部の髪の毛も少し持っていかれ、寒気がした。

 十八番目の背後からは壬が斬りかかり、背中と後頭部に四回の斬撃と首に二段突きを入れた。

 貫くまでには至らなかったが、ダメージは間違いなく入った。

「オオオオオオオオオオオオオ!!」

 十八番目が声を荒げながら爪を振り回し、俺たちに距離を取らせる。

「くっ!」

 流石の沢入もこれは止められなかったらしく、大きく弾かれてしまった。

 一瞬の空白の後、十八番目はまた地中へと潜った。

「逃がさないよ!」

 そこへ、今まで攻撃の隙を伺っていた涼音が動き、銃形態にしたMOSRを担ぎながら空中に大きく跳躍し、十八番目が逃げた大穴に向かって狙いを定めた。

 銃口の先には青いエネルギーの塊とスパークしている電流がある。

「レイジム・フルバースト!!」

 そう叫ぶと同時に引き金を引き、エネルギー弾が地中の中へと発射された。

 数瞬後、涼音が地面に降りたつと辺り一面に地鳴りが起こった。

「わっ!」

 思わずよろけた瀬露を支えつつ、俺は涼音の方を見る。

「一体何をしたんだ?」

「ん? ただの誘導射撃だよ。自動追尾付きのね」

 誰だ、そんな兵器作った奴。

 見た感じ、かなり強力なエネルギー弾だった。あれがその内俺に向けられると思うとゾッとする。

「そろそろ上がってくると思うから……一気に畳みかけるよ!」

 MOSRを大剣形態に直し、兵士たちに言うと、士気は一気に盛り上がった。

 俺たちも剣を持ち直して力を籠める。

 瀬露は何かを思いついたようで壬と涼音に声をかけていた。

 どこから来るのか、と思っていたが予想よりも大きな音を立てて地上へと上がって来た。十八番目が飛び出すと同時に辺りから土の塊がいくつも飛び出し、兵士たちを飲み込んでいく。

「行くよ!」

 十八番目が着地するのを見越し、涼音が動いた。

「うん!」

「了解!」

 俺たちも一斉に動き出し、先程同様に俺と沢入が両手の動きを止める。

「よっしゃ! 止まったぜ!」

「やぁぁぁああああああああああああああああ!!」

 沢入の声を合図にして涼音が渾身の気合いと共に正面から頭部を叩いた。  

 骨と剣の刃が当たる鈍い音がする。

「固っ!?」

 しかし十八番目の頭部は涼音も予想外の硬さだったようで、涼音が一度下がった。

「焔! 沢入! 頭下げて!」

 背後から瀬露の声がして、俺たちはすぐにしゃがんだ。

 背後を見て見れば刺突の構えのまま走って来る壬とその前で待機している瀬露がいた。そして、壬が僅かに跳躍し、瀬露が自分のMOSRの腹に仁の足を乗せ、全身を捻って打ち出した。 

 壬のMOSRは緑の電子を纏っている。それが徐々に肥大化し、十八番目の顔面に迫った。  

「ハァッ!!」

 ボンッ! とポップコーンが弾けるような音と共に一瞬で十八番目の頭部が消え失せた。

 壬はそのまま数mほど飛翔し、砂埃を巻き上げて着地した。

 その仁の方に倒れるように十八番目が倒れていく。

「……」

「……えっ?」

 あまりのあっけない終わり方に俺も沢入もしゃがんだまま動けなかった。

 しばらくそうしていると立ち上がった壬が此方に歩いていた。

「何を呆けている、二人とも」

 それを聞いて俺たちはやっと立ち上がった。

「お、終わったのか?」

 沢入が驚きながらも仁に聞く。

「ああ。間違いなくな」

 確かに頭部は吹き飛び、遺体からの生命反応は感じられない。

「しかし……何故こうも簡単に? 硬いんじゃなかったのか?」

 俺の記憶が確かならば、涼音の斬撃ですら一刀では切れなかったはずだ。

「先程までなら無理だっただろうな。しかし瀬露の策が上手くいったんだ」

 瀬露の方を見ると瀬露は少し恥ずかしそうにしながら答えた。

「えっとね、さっき左目を取った時に思っていたよりも手応えが固くて、もしかしたら頭部や骨全体が固いから斬撃が入らないんじゃないかって思って。それで一撃で首を取るために先に涼音さんに全力で頭を叩いて首の骨を外して貰ったの」

「なるほど――だけどそれじゃ消し飛ぶのは無理だろ?」

「うん、そうだね」

「だからこそ私の奥の手を使った。正直、これが効かなかったらどうしようかと思っていた」

「あの緑色の攻撃か?」

「そうだ。電槍グングニル、無事に決まって良かった」

 なるほど、と俺と沢入は納得し、様子を覗っている兵士たちに振り返った。

「じゃ、壬。締めてくれ」

「私がか?」

「今回の率役者だからな」

「……分かった」

 不承不承と言った感じではあったが、前に出てMOSRを天高く掲げた。

「――第十八番目、打ち取ったぞ!!」

 一拍空いて。

『ウオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 そこらかしこから地鳴りがするほどの雄たけびが上がった。

 誰もが喜び、今回の戦いが終わったと思っていた。

「急報! 急報ゥ!!」

 そこへ水を差すように伝令役の一人がバイクを走らせてきた。

 辺りがなんだなんだと静まり返っていく。

「どうしたの?」

 涼音が聴くと、伝令役は顔面蒼白のまま答えた。

「だ、第十九番目が日本、伊豆に出現!! 更に山脈よりゴウルの群れが接近!! 至急司令部に戻られたし!」

 きっと、俺以外の誰もが思考を停止したことだろう。

「じゅーきゅーばんめ? えっ?」

 涼音でさえコイツ何言ってんの? という風に伝令役を見ていた。

「で、ですから! 第十九番目とゴウルの群れが出現しました!」

 やはり、誰も動けないし動かない。

「分かった」

 その中で俺が頷くと伝令役はその場にへたり込んでしまった。

 コイツだってそんな知らせを信じたくは無かったのだろう。

「えっと、焔?」

「全員、帰還する。軍部の者たちは負傷者の手当てと司令部に戻る準備をしてくれ。日本部隊はすぐに司令部に戻るぞ」

 俺が指示を出すと、せめてその通りには皆動き、俺たちは前線基地に戻って車を借り、休息がてら司令部に戻っていた。

 皆もある程度落ち着いたところで涼音が話を切り出した。

「第、十九番目……」

「まさか連戦とはな」

「焔は良く落ち着いていられるね」

「正直、落ち着いてはいない。思ったよりも状況は悪いからな」

「なんで今年に限って――」

「そもそも一体ずつ来る方がおかしかったんじゃないのか? 人類を滅ぼす気ならさっさとニ十体で攻めてくれば良いんだから」

「それは……そうだけど」

「戦況は後で分かる。今は休んだ方が良い。涼音は一番の戦力なんだから」

「……うん」

 それっきり会話は無くなってしまったが、冷静に判断できるようになるには良い。

 しばらく車を走らせ、司令部へと戻って来た。

「おお、戻って来たか」

 チッ、この豚野郎。まだ死んでなかったか。ゴウルたちは何やってんだ。惨くやれって命令してあるはずなのに……シィブルたちが思ったより頑張っているみたいだな。

「報告します。第十八体目、和那壬が打ち取りました」

「聞いている。しかしだな、それ以上に不味いことが起きた。見ろ」

 豚の隣にいるモヤシがディスプレイを付けるとそこには二体の巨大なゴウルと大多数のゴウルの群れの姿が見えた。

「伝令通り、十九番目と群れだ。日本からも即時帰還命令が出ている」

 ふむ、この豚のことだから何か理由をつけて止めておくのを予想していたのだが。

「了解。シィブルさんは何処にいますか?」

 瀬露がそう言うと、豚はそっと視線を逸らした。

「残念ながら前線にて戦闘中だ」

「なら、此方の方が先決ではないでしょうか?」

「その気持ちは分かるがね、君たちには帰還命令が出ている。無論、前線には中韓の兵士を常に投入して迎撃している。此方の事は任せたまえ」

 万を超えるゴウルの軍勢相手にやけに自信満々だな。

「……分かりました。では、帰還します」

 瀬露が歯噛みしつつもそう答え、俺たちは退出しようとする。

「――ああ、言い忘れたが天海には帰還命令が出ていない。此方でゴウルを対処するようにとのことだ」

 踵を返す直前にそう言われ、俺は豚の面を見た。

 ああ、そういうことか。やけに自信ありげなのも納得だ。

 そう、涼音が居ればゴウルは倒せる。涼音さえいればどうとでもなる。

「そ、そんな」

 しかし日本にとっても戦力が大きく欠けるのは痛手だ。

「これは命令なのだよ、フフフ」

 誰もがただの自己欲で涼音を引き留めていることに気が付く。   

 しかし、瀬露たちに真実を知るすべは無い。命令であれば仕方のないことだとそう思ってしまうだろう。

「――了解」

 数瞬後、瀬露は頷いた。

 

 数時間後、俺たちは空港へと来ていた。

 空港便は予定を全て変更して俺たちを優先した便になっている。日本から来た学生たちが急いで機内へと入っていく。

 だが、司令部の豚を見た後ではどうしても思わざるを得ない。

 ――要するに、お前等邪魔だからさっさと帰れ、と。

「じゃ、日本のこと頼んだよ、皆」

「うん。涼音さんも気をつけて」

 時間はあまり無いが、最初に瀬露が言葉を告げた。

「大丈夫大丈夫」

「任せた」

 言葉数は少ないが信頼を込めて壬が口にした。

「ま、お互い生きてたら祝勝会でもやろうぜ!」

「そうだね!」

 沢入が明るく挨拶する。

「……無茶はするなよ」

「大丈夫だって、焔。どんだけ居ても私は負けないよ!」

「そうだな」   

「ちゃんと十九体目を倒してよね」

 涼音が手を高く上げる。

「無論だ」

 俺も呼応するように手を挙げ、ハイタッチを交わす。

 そこへ見計らったように便の発進予鈴が鳴った。

「あ、ほら行っちゃうよ! 乗って乗って!」

 涼音が急かすようにそう言い、俺たちは苦笑いしながら飛行機に乗り込んでいく。

「頑張ってねー!」

 その声の途中で出発の音が鳴り始める。

 振り返れば涼音が底なしの明るい笑顔で俺たちを見送っていた。


 俺たちが機内に入ると飛行機が移動し始め、俺は沢入に後を任せて窓を開けて飛び降りて物陰に身を隠しつつ移動する。

 俺の目的は涼音の救出と韓国の破壊。そして涼音を伊豆に連れていくことだ。

 だが、日本へ戻ったはずの俺が早々に助けに来たら涼音とておかしいと思うし、協力して欲しいと言われる。それでゴウルを殲滅しては意味が無い。

 限界が来るまでは様子見だな。

 皆と別れ、涼音が奮闘している最中に俺は帰りの飛行機やら燃料の補給やらを一人で何とかこなし、その飛行機の上に立ち、目の前に広がる韓国を見る。

 数時間前に見た時はまだ空港があり、町もまだあり、奥には司令部が見えていたが、今はどれもこれも今やゴウルが占拠して地上はここからでもハッキリと見えるほど赤で染まっていた。

 そんな中で司令部の奥地から僅かな剣戟の音が聞こえてくる。

 たった一つの剣の音。涼音。

 このアジア最大の土地でたった一人だけ戦っていた。

 もう見る影もなくボロボロになり、G細胞による回復と再生も追い付かなくなってきている。正に、極地。

 だが、こうすることによって涼音の中に存在するG細胞は量を減らし、やがて消滅する。そうなることは校長たちの資料で分かっていたことだ。  

「さて、行こうか」

 涼音の体はもう限界を通り越して回復もほぼ機能しなくなって、それでもまだ折れた大剣を振るっていた。

「もう、良い」

 地下より、言葉に出すとゴウルたちが一斉に俺の方を見て畏まった。

 涼音もぼんやりとした視線で俺を見ていた。

 短い命令を受け、ゴウルたちが一斉に他の場所へと移動し、涼音の元から離れる。それを見てから地面に降り、涼音がゆっくりと此方に迫ってくる。

「涼音、もう良いよ」

 意識が無いのか、俺をゴウルだと思っているのか、剣を振り上げ、そのまま力が抜けて崩れ落ちる。

 その体を支えて抱き上げる。

「――――……焔?」

 まだ、意識がある。なんて強靭な精神力なんだ。

「ああ、迎えに来た」

「ゴ……ルは?」

「皆、涼音が倒したよ」

 俺がそういうと涼音はホッと息を吐いて辺りを見渡し、本当にいないことを確認して全身の力を抜いた。

「寝て良い?」

 俺はしっかりと頷く。すると涼音は完全に気を失って脱力してしまう。

 ボロボロになったその姿を見て、その体を見て、正直ちょっと欲情しなくもない。だが、あくまでも理性で抑えられる程度。

 涼音をしっかりと担ぎ、折れた大剣を手に持って俺はその場を移動し、飛行機内部の一室に涼音を寝かせ、飛行機を全速力で日本に向けて飛ばす。時間上は、第十九ゴーラスト戦線が始まると同時くらいに到着する予定だ。涼音にも起きて貰い、倒す予定だ。

 操縦をオートモードに移行し、俺も少し休息を取ることにする。


  



~沢入~

 正直、俺は必要ないって感じた。

 第十八ゴーラスト戦線。壬のおかげであっという間に終わったけどさ、いやなんかもう自分の力が本当にたかが知れているって思った。

 天海涼音。その活躍を実際間近で見て、ああ、次元が違うって思った。ぶっちゃけ一撃で首の骨折るとかすっげぇと思う。いやそれを言うなら俺もよく十八番目の攻撃を防いだなって思うよ。今でもその感触が思い出せる。

 でもさ、焔に瀬露ちゃんに壬。あの三人も別格だった。

 焔は俺みたいに多重防御を展開してないのに剣一本で右腕を抑え込んだ。瀬露ちゃんは一年前とは別人みたいに攻撃して、ダメージを与えた。

 いつもは目立たない壬も今回は一番の活躍をした。

 そこでじゃあ俺は? ってなるわけだ。何もしていないわけじゃないけどさ、どうしても劣等感ってのは出るんだよ。同時に羨ましいとも思った。

 今更どうこう言ってもしょうがないだろう。結局、涼音さんは置き去りにしてきた。焔は窓から飛び降りたから飛び立った後の空から見てなかったけど俺は見た。ゴウルの群れ。山という山を、平原を、川も海も埋め尽くす勢いで迫るゴウルの群れ。

 あと少し飛ぶのが遅れていたらあの二人以外は死んでいたんだろうな。壮巳もシィブルの説得のおかげで此方側に引き入れたけど飲み込むまではまだ時間かかるだろうな。

 ――もう一つ独白しておくか。

 俺は焔と涼音さんの関係についても知っている。いや、それよか傍から見ていれば分かる。両想いなんだなって。正直、羨ましいよ。

 何となく相性が良いのは気付いていた。でもそれを口にしたら瀬露ちゃんはどうなっちゃうんだろうなって思うと、俺からは切り出せなかった。

 瀬露ちゃんは瀬露ちゃんで焔のことを見ているみたいだからな。

 帰ったらどうなるやら……。


 

 少し寝て起きるともう日本の中に入っていた。

『ォォォォォォォォォ!!』

『ォォォォォォォォォ!!』

 窓から見下ろせば両刃斧のような形状をした二体のゴウルが浮遊していた。

 ああ、あれが第十九体目だと分かる。

 多分、対のゴウル。双子だろうか?

『まもなく当機は伊豆空港へと着陸します。各員戦闘準備を願います』

 アナウンスが入り、シィブルがわざわざ起こしに来たのか扉を叩いた。

「もう着いたみたいよ」

「そうみたいだな」

 荷物を纏め、MOSRを腰に装着して俺は気合いを入れ直した。 


 

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