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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第四十三話・納得いかない

嵩都「何故だ……」

グラたん「当たり前と言えば当たり前の話です。さて、第四十三話になります!」


~ネイル視点

 私ことネイル・ロンバーテは今季最大の問題児を見てしまったとしか言いようがありません。

 他の皆さんもそれなりに問題児ばかり……勇者ってこんな人たちばかりなのでしょうか。

 朝宮嵩都、この人は要注意人物です。

 国王命令で全員を入学させるように言われていましたが、うう……今から胃が痛いです。

 ちなみに試験の方は皆さんの実力を図るために行っていました。

 はぁ……それにしても説得が功を奏しましたね。これでドルベクアが殺害されでもしたらアルツハイマー家からなんと言われるか……。最悪、私の責任になりかねませんからねぇ。

 言い訳はどうしましょうか……。報告書もそうですし……うう、胃が痛い。

 それはそうと半殺しになったドルベクアが急患で医務室に運ばれました。

 国が建てただけあって医療は最高峰の支援が受けられます。切り落とされた両手両足もくっつけられることでしょう。



「えっ……縫合出来なかった?」

「残念ながら……」



 担当の医師がそう告げて私は少し茫然としてしまいました。



「な、何故出来なかったのですか?」

「……」



 目を逸らされました。余程言いたくないのですね。

 でも聞かないと報告書に書けませんし、知っておかないと後々厄介な事になるのは明白です。



「言いたくないのは重々承知でお願いします。私もこの事態を職員会議に提出して校長に報告しなければいけませんので……」

「……分かりました。先生にも立場がありますからね」



 医師も渋々といった様子で話し始めました。



「……原因は回復魔法です」

「回復魔法? どういうことですか?」

「事前に止血するのに回復魔法を使うのは常識ですが今回はそのせいで筋肉や細胞が既に結合してしまっていて……余程大きな回復魔法を使われた痕跡があります」

「そんな……あっ」


 真っ先に思い浮かんだのは最後のあの不可解な風景です。

 あの時は何故と思っていましたがまさかこんな置き土産をされるとは……!


「何か思い当たる節でも?」

「ええ、まあ」

「一応お聞きしますが誰がその回復魔法を?」

「……半殺しにした本人ですよ。その時は詠唱もしていなかったので規模の小さい魔法だと……騙されました」

「無詠唱は基本威力の小さい魔法に使われるのが常識ですからな。やられましたね」



 無情な沈黙が間を支配しました。



「お互いがクビにならないように済む方法って何かありますかねぇ……」



 最も、そんな都合の良い方法があるなら真っ先に手を伸ばすのですが。



「いっそ本人のせいにしてみては?」

「私が殺されますよぉ……。それにあの人が他国に出奔したら私が厳罰に処されるのが目に見えていますからね……」

「そう言って私のせいにされても…………おお、良い方法がありますぞ」



 そこで医師が手を打ちました。



「どんな方法ですか?」

「あまりしたくはないのですがこの際、事実を改竄しましょう。これは当人の協力も必要ですが、貴方は暴走する生徒を必死に止め、アルツハイマー卿は傷の痛みから自身に回復魔法を事前に掛けてしまった結果、縫合が出来なかったと……如何ですか?」


 医師がそれで良いのだろうかとも思いましたがこの際背に腹と首には変えられません。


「……なるほど。生き残るには良い手です。当人には結果発表の時にでも話しておきましょう」

「人間としては終わっている手ですが……致し方ない。乙」

「なんです? 乙って」

「最近、巷で流行りの言葉だそうですよ。友人等にお疲れさまを言う時やご愁傷さまを省略した言い方だそうです」

「まとめちゃったわけですか……。誰がそんなことを……」

「元は川城商店らしいですよ。他にも色々流言があるそうです」

「へぇ……城下町も変わってきましたねぇ」

「ええ。全くです。ほんの一か月ですよ。STという武器や大規模な商店、冬コミというマーケット、それに魔帝様暗殺、城内覗き見事件……」

「ああ、その犯人が国王様だったという事件ですね」

「参謀を買って出た青年が南門に裸で吊るされていたそうだよ」

「はぁ……その人、今年からウチの生徒になるそうですよ」

「ハッハッハ、苦労しますな」

「笑いごとじゃないですよぉ……」



 キーンコーンカーンコーン―――

 そこで無情にも鐘が鳴って職員室に戻る時間がやってくる。



「あ、それじゃあそろそろ戻りますね」

「ああ。くれぐれも内密に頼むよ」

「もちろんです」



 そうして私は人間的にやってはいけない領域に足を踏み込んでしまいました。







~嵩都

 あれから三日が過ぎた。佐藤や鈴木たちはスッキリしたようで俺たちはまた少し仲良くなった。

 豚の家からの報復は未だに無い。来たら返り討ちで九族郎党皆殺しだけど。

 さて、そんなことよりも試験の結果が学校に出ているようだ。

 俺は……まあ、不合格でも良いと思っている。その場合は後腐れなく立ち去って領地経営に力を入れることが出来るからな。

 早速城門を出て学校へと向かう。



「お、嵩都。お前も結果を見に行くのか?」



 亮平たちだ。鈴木と斎藤もいる。合流し、歩きながら話す。



「ああ。ダメ元で、な」

「ハハハ、先日にやらかしたからな」

「ま、そのおかげで俺と佐藤はスッキリしたわけだが――」

「試験官半殺しとかどこぞの漫画に出てくる道化じゃないんだから……」

「だってあの豚むかつくし」

「子供かよ。そういえばその試験官に面向かって豚って言ったのは本当なのか?」

「ああ、アレか。うっかり口が滑った」

「本当に話題に事欠かないな。面白い」

「他人事みたいに言いやがって」

「他人事だしな」

「ほら、着いたぜ。結果はボードに貼りされているあの紙だろうな」



 ボードの近くに行ってみる。周りには筑笹たちも来ていた。



「な、なんだって!?」

「これはまた大胆な……」



 亮平も鈴木も目を見開いて驚愕する。俺だって言葉を失っていた。

 そこには四文字の丁寧な文字で簡潔に書かれていた。



       ~編入試験合否~


         全員合格


  校長 アネルーテ・スファリアス・アジェンド



 ここまで分かりやすく簡潔で余分な情報が一切ない合格通知は初めてだ。



「あ、見て見ろ。隣に成績結果が出ているぞ」



 亮平の言葉に右に張ってある長い紙を見ている。



実技100/100 筆記500/500 計600/600

1位 筑篠 鹿耶 586/600

2位 琴吹 悠木 572/600

3位 佐藤 大典 571/600



 なん……だと……。実技は満点だった。筆記だってミスは少なかったはずだ。

 面接――いや、それなら佐藤が3位にいるのが納得できない。



9位 田中 亮平 477/600



「やったぜ! ここまで嵩都の文字はなかった、俺の勝ちだー!」



 く、くそぉ……亮平に負ける日が来るとは……。やはりあの半殺しがまずかったかぁ……。

 それから目を下に向けていく。しかし結構下の方に来ているのに無い。



「あれ? 変だな。嵩都、お前そんなに赤点だったのか?」

「……少なくても実技は満点だった。やはりあの面接だろう」

「ああ……なるほど……あ、一番下に書いてあるぞ。注意書きと共に」



 えっと、なになに?



43位 朝宮 嵩都 600/600 

※筆記も実技も満点であるが面接時に問題を起こしたため最下位とする。

※成績優秀のためSクラスに編入とする。

※この後の入学書類を提出する際にお呼び出しします。



「問題起こしても最下位に残れるのかよ……何か裏があるよな、コレ」

「俺もそう思う。お呼び出しされにいくか」

「そうそう、筆記も実技も満点だが負けは負けだ。炭酸2L奢って貰うぞ」

「くそっ、点数で買っているのに奢るとか泣けてくるぞ」



 くそぉ……納得いかねぇ。

 学校内部に入って事務室に来た。廊下には椅子が並んでいて長蛇の列になっている。

 歩いていると筑篠の姿が見えた。筑篠も俺に気付いたようで書類を置いて立ち上がる。



「朝宮、深くは聞かないが次の期末試験は私が勝つ。憶えておけ!」



 筑篠は言動と共に腰に手を当ててビシッと俺に指を指した。



「そうか。なら、俺も負けないようにしないといけないな。理不尽な目に遭わないためにも」

「理不尽? ああ、お前たちがよくやっている賭けのことか」



 筑篠は元生徒会長だからそのことも知っているのだろう。



「そういうことだ。点数で勝って奢らされるなんて二度と御免だ」

「そ、そうか―――クスッ」



 わ、笑いやがった! 他人事だと思いやがって! 他人事だけどさ!

 それから列の後ろに並んだが前の方から笑いを押し殺しているような声が聞こえた。

 筑篠の奴、流布しやがったな。くっそぉ……。



 しばらく亮平と雑談し、順番を待った。

 書類提出は滞りなく終わった。キーンコーンカーンコーンとお呼び出しの鐘が鳴る。



『朝宮嵩都さん、朝宮嵩都さん。事務室の横の階段を昇って五階まで来てください』


「だ、そうだ」

「じゃ、俺は先に寮の説明会場に行っているぞ」

「分かった」



 亮平と別れ、俺は受け取った寮説明の資料をストレージに仕舞った。

 階段を昇っていくが階段は長く、歩くのはかなり面倒くさいので飛行した。

 ああ、もちろん許可は取れているぞ。俺が使用する無害系スキルは全て書類に書いた。

 階段を上がる前に俺の書類にハンコが押されるのが見えたから大丈夫だろう。



 階段を飛び終わり五階に着くとそこにはネイル先生がいた。



「お待たせしました」

「……まさか階段を昇らずに飛行してくるとは思いませんでした」

「そんなことは良いでしょう。それで先生がお呼び出ししたのですか?」

「ええ。少しお話しておかないといけませんので。寮説明には間に合いますので」

「分かりました」

「ではついてきてください」



 そうして案内されたのは五階の一番奥にある実験室みたいな所だ。



「ここは私の部屋ですからセキュリティは万全です」



 そういって先生は扉を閉めて鍵を閉めた。そして音消し魔法をかけた。



「それで、話しとは?」



 先生は自分の机と思われる机の引き出しから一枚の紙を取り出した。



「そ、それはまさか伝家宝刀の退学届け――」

「そんなわけありません。これは先日の事件に関しての報告書です」



 その報告書とやらを手渡された。

 内容は、ドルベクア――以下豚が俺たちを手酷く挑発し、暴走。ネイル先生がそれを抑止しようとしたものの暴力に巻き込まれて気絶。そこへ偶然通りかかった医務室の先生が救急したものの豚が痛みに耐えきれず医師に貴族権限で命令し、ファリス・ヒールを発動。それによって血管や細胞、筋肉が凝縮してしまい肉質が悪化。四肢を切断することになる。暴力を振るった生徒は先に手を出した豚によって骨折。

 その他二名が軽傷。以上を考慮して喧嘩両成敗で収めたいと考えています。



「よくまあこんなシナリオ考えましたね」

「考えたのは私ではなく医師の先生です」



 腹黒い。それに乗った先生も先生だろう。



「それで、これを見せて俺に何をさせようというのですか?」

「簡単なことです。裏口を合わせてクビを免れたいだけです。協力してくれますね?」



 ま、俺がしでかしたことだしコネを作って置くのも悪くはないだろう。



「分かりました。協力しましょう。それと俺のためにもありがとうございます」

「いえ、利害の一致です」

「そういうことにしておきましょう」

「話しは以上です。さ、寮の説明会に行きましょう」

「はい」



 こうして俺は共犯の沼へと片足を突っ込んだ。


ネイル「はぁ……」

グラたん「お疲れ様です」

ネイル「問題児が多すぎる気がします」

グラたん「それが彼らですから諦めてください」

ネイル「はあぁ……次回、不穏な影。また何か問題事ですか?」

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