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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
449/466

Goul6

グラたん「ゴウル6話です!」


 それから一週間後の帰国の日。

 ラミエルさんに別れを告げ、俺たちは空港へと向かった。

 帰りの飛行機はイタリアの好意で貸し切りとなり、三台に分けて乗り込んだ。

 関東の俺たちの飛行機には涼音たちも乗り込んでいる。

 部屋分けは然程変わらず。

「よっしゃー、やるよ~」

「今回は負けません」

 そして岩塚がシィブル、和那、涼音、橋場を捕まえて再び麻雀大会が始まった。

 組み分けは岩塚が単独であり、後は二人一組。

 レートは機内に大量に持ち込まれたお菓子。

 そして瀬露が負けたら俺が何故か一枚ずつ脱いでいくということになった。

 俺は拒否したが瀬露が謎の自身を持って肯定していた。

 ――上半身をはだけただけで何とか終えられたと言っておく。  


 成田空港に到着し、飛行機を降りる。

『お疲れ様でしたー!!』

 空港内では一般市民が沢山集まり、俺たちに労いの言葉をかけた。

「それじゃ、またね。ホムラ」

「また会おう、涼音」

 俺と涼音たちも簡単に挨拶して別れる。

 次に会うのは第十八ゴーラスト戦線。およそ一年後となる。

 連絡先は事前に交換しておいたため会おうと思えば会うことは出来る。

 ――最も、それを橋場の目の前でやったため橋場眼光が鋭く光っていた。

 空港を抜け、バスに乗り込む。

 空港外にも大多数の人間が道の左右に分かれて声援を送っている。

 ……まあ、昨夜の徹夜があったためかシィブルたちは寝てしまっている。

 

 学園に到着しても再び賞賛の嵐だった。

 学園の入り口には『祝・第十七番目の討伐成功!』と書かれた横断幕があり、学園前には大多数の生徒が拍手で迎えてくれた。

 バスを降りる頃にはシィブルたちも起きていていつもの余裕ある表情を見せていた。

 同時にラミエルさんの死亡報告も学園内に轟いていた。

 教室に戻った俺と瀬露は自席で大講義堂から生中継している校長の話を聞いていた。

『今や空席となった第三位。それを補完すべく来週より学園戦を行います』

 校長の言葉を聞き、ラミエルさんの死を悼むと共に誰もが闘志を表した。

 学園戦は完全個人戦で行われるトーナメント戦だ。

 体育館最大のアリーナも解放される一大イベントだ。

 最上位五位の内、誰かが死亡した際に適用される学園ルール、だったな。

 最初は学園全員による予選。棄権も認められているが、確か学園の生徒数は五千近くいたはずだ。

 通常校と比較してもかなり少ない。

 しかしそれらがトーメント戦をするとなると教員たちが寝ずの番をするのは目に見えている。

 それはともあれ、この戦いでは俺の学年順位もリセットされる。

 それはシィブルたちも同じだ。 

 ただ、俺たちには元最上位五位内としてシード権が付与される。

 具体的には本選からの出場となるんだったか。

『では、皆さんの健闘を祈ります』

 校長が締めくくり、各所から追悼の拍手が行われた。

「うーん」

 カタンと音がして里咲が大きく背伸びをする。

「はぁぁ……良いよなー望月は。いきなり本選からだもんなー」

「精進あるのみだ」

「そうは言ってもなぁ……。まあ、どっちにしても順位上げるチャンスだからやるんだけどさ」

「頑張る」

 瀬露も会話に加わり、胸の前で握り拳を作った。

「そういや、瀬露ちゃんもイタリア戦で活躍したって聞いたよ?」

「……」

 ラミエルさんのこともあるのだろう。瀬露は少し顔を伏せた。

 それに気付いてか気付かないのか、里咲は言葉を続けた。

「学園中で真偽掛かってるけど、俺は疑ってないぜ。瀬露ちゃんが努力している所は偶に見てるからさ……あのハードワークを……」     

 里咲が言うハードワークはトレーニングの内容だろう。

「里咲君も一緒にどう?」

「うーん……せっかくだしやろうかな? 望月、良いか?」

「構わない。授業も今日から午前中だけだから午後は全てトレーニングに回せるな」

「げぇ……」

 里咲の表情の変化に瀬露が微笑し、俺もつられて微笑む。

 立ち上がり、昼食を取りに食堂へと向かった。


 トレーニングは地道でしかない。

 走り込みやフットワークの強化、跳躍、柔軟に始まり、体が温まって来たところで個人トレーニングルームで模擬戦を開始する。

 目標は常にSランクのゴウルが相手であり、ゴウルの基礎的な攻撃から予想不可能な一撃までをひたすら訓練する。

「うぎゃあああああ!!」

 無論、痛みの減衰はないリアリティなダメージが通る。

 パァンと軽快でリズミカルな音と共に里咲の頭部が吹き飛んだ。

 あくまでも仮想戦なので実際に頭部が吹き飛ぶわけではない。

「殺す気か!」

 なのに里咲が文句を付けて来た。

 俺は無言で入れ替わりルームに入って行った瀬露を指差す。

 瀬露の動きは俺が見ても良いと思える。

 ゴウルの一撃一撃を視認し、回避していく。

 瀬露は一対一ならSランクのゴウルにも引けを取らないので今は数を三体に増やしている。

 しかし実戦を――手加減されたとはいえ――潜り抜けたおかげか、更に動きは良くなっている。

「一緒にするなっ!」

 そんなに無茶振りしているつもりは毛頭ない。

 常にもしもを想定しておくのが戦いであり、訓練とはそのためにある。


 さて、里咲にも無茶振りの訓練を一週間やらせ、予選当日。

 瀬露のコンディションは最大限良く、里咲もそれなりに良い。

『次は1年草月瀬露さん、同じく1年熱海信三さん』

 瀬露の名前が呼ばれ、初戦が始まろうとしていた。

「行ってきます」

「頑張れ~」

「勝って来い」

 俺たちの声援を受け、瀬露が第二アリーナへと向かって行った。

 戦い以外の時間は自由行動となっているので皆が思い思いに過ごしている。

 俺と里咲がいるのは待合室の一角。

「おっ、来た来た」

 TVディスプレイに映っているのは瀬露と相手の一年生。

 会話音声までは拾えないが、相手は瀬露を舐めているように見える。

 試合のルールは大きく分けて三つ。

 1、相手が敗北宣言をする。

 2、相手の急所に武器を付き立てる。もしくは戦闘不能と教師が認める。

 3、私怨の禁止

 各会場には教師が二人付いている。

 万が一にも生徒が生徒を叩きのめすことがないように配慮している。

 試合開始のゴングが鳴り、試合が始まった。

 瀬露が開幕と同時に走りだす。

 瀬露の脚力は速い。

 地道にトレーニングを積んだおかげで瞬発力も鍛えられている。

 相手がMOSRでガードする前に瀬露が接近し、その心臓部に剣を突き立てた。  

 教師二人が見ても戦闘不能と判断され、瀬露が勝利した。

 代わりに相手は教師二人に対して何か文句を言っている。

「うはぁ、開始数秒で決着かぁ」

 里咲も瀬露の瞬殺振りに驚いている。

「当然だな」

 瀬露の努力は俺が一番知っているし、瀬露の剣技や実力も認めている。

 元々半ゴウルとしての能力値がある分、鍛えれば強くなるのは分かっていた。

 ランクにしてみればAの上と言ったところか。場合によってはSでもおかしくはない。

『次は1年矢吹倫太朗さん、同じく一年里咲沢入さん』

「おっと、次か」

「行って来い」

「おう! 目指せ100位内!」

 里咲は立ち上がり、拳を高く上げて部屋を出て行った。


 その後、瀬露は二戦目、三戦目と勝ち上がり、意外に里咲も勝ちあがって行った。

 ちなみに瀬露は第三ブロック。里咲は第八ブロックのため予選で当たることはない。

 一ブロック500人前後だから八回勝てば良いはずだ。

 本選に出場できるのは予選上位12名まで。

 俺たち最上位者を四人入れれば十六人となり本選のトーナメントが組みやすいということらしい。

「ッヅハー! 疲れだぁぁ!」

 予選は二日間に分けて行われる。

 二人ともに初日の四戦を勝ち残り、ラウンジで初日の祝杯を挙げていた。

「お疲れ様、二人とも」

「うん」

「でもおかげで初の1000位入りしたぜ!」

「浮かれるなよ。目標は100位内だろ?」

「おう! あたぼうよ!」 

 気分の乗っている時の会話は特に弾む。

 ラウンジにいる人間は大きく分けて二種類。

 勝利の祝杯を挙げている者、敗北の傷を癒す者。

 最も、敗北した者も数種類に分けられるが省略する。

 祝杯もそこそこに今日は解散となった。

 肉体的な疲労よりも精神的疲労は着実に溜まる。可能な限り休む方が賢明だ。

  

 予選二日目。

 試合は午前九時から始まり、ここから二年、三年生との戦いも珍しく無くなってくる。

「うげぇ、いきなり三年とかよ……」

 昨日のハイテンションは何処へ行ったのか、相対する敵に里咲はげんなりしていた。

「私も三年生の先輩と戦うよ」

「戦うのが遅いか早いかの違いだけだ。勝ってこい」

「簡単に言うなよ!? 経験差考えろよ!」

「あと、負けたら退学申請出すからな」

 俺の手には二枚の退学申請書がある。

 片方には里咲の名前が記入されていて、もう片方には瀬露の名前がある。

 今はまだ第四位としての権限が残っているので申請することは可能だ。

「鬼か!!」

「人間死ぬ気なら格上相手でも勝てる。食らいつけ」

 ついでに言うと人間は追い込まれれば嫌でも奮い立つ。

「絶対、負けない」

 瀬露は逆にやる気を出したようだ。

「やってやるこんちくしょう!!」

 そうして落ち着いている瀬露と本気になった里咲はアリーナへと向かった。

 試合が始まると里咲の試合の方から音声を拾わなくても分かる雄たけびが聞こえて来た。

「オラオラオラァ!!」

 里咲のやけくそと本気を感じ取った三年生が油断なく身構える。

 いつものおちゃらけた里咲の意外な一面を見てクラスメイトたちも試合に食いついている。

 里咲は善戦した。

 猛然と斬り込み、自身を鼓舞し、上級生を罵って戦った。

 しかし相手が格上では一筋縄では行かない。

 時に斬られ、蹴られ、それでも尚、里咲は戦った。

 途中で審判に止められたりもしたが、最後は里咲が勝利した。

『うおおおおおお!!』 

 観戦していた同級生たちも里咲のナイスファイトにガッツポーズを見せていた。

 返り、瀬露の方は注目度が低かった。

 毎度同じやり方であり、尚且つ一撃必殺。

 里咲戦の方が沸いていたので仕方がないとも言えた。

 しかしまあ、この分なら退学届けは要らなそうだな。

 

 二戦目、三戦目、四戦目と二人は勝ち進んでいく。

 瀬露の方はもはや俺以外視聴していないという酷い有様。

 逆に里咲の奮戦下極上は満員御礼になるほど視聴率が高くなっている。

 ……里咲には悪いが瀬露の戦い方を他に知られないカモフラージュとして役立ててもらおう。 

 そうして五戦目も二人は勝ち残り、ベスト12が決まった。

 昨夜同様に勝利の祝杯を俺たちは挙げていた。

「ぁぁ――――……」

 予選を突破したというのに里咲は虚空を見つめて口を開けて呆けている。

 全力を出し切って魂が抜けているのだろう。

 里咲の戦いは学園中の噂となり、速報の号外が出されていた。

 その一枚を俺たちは見ていた。

「今年のダークホースの一年生。上級生相手に泥臭く戦い抜く下極上……」

 新聞部にとっては良いネタだな。

 里咲のファンクラブも密かに確立されているとかどうとか……そんな噂もある。

「私……頑張ったのに……」

 逆に瀬露は本選出場の十六名の内、名前と顔画像のみしか出ていない。

「大丈夫だ。俺が見てた」

 俺の言葉に瀬露は小さく頷いた。

 号外のチラシを見ると今回のトップ5予想が掲載されていた。

 一位はシィブル。二位は和那。三位と四位には四年生の名前が上がり、五位には里咲がランクインしていた。

 自然と首を回したくなった。

「焔、落ち着いて」

 むっ、瀬露に言われるほど怒りオーラ出していたか。

「落ち着いた。さて、二人とも」

 気分を入れ替え、俺は別の話題を切り出した。

 里咲も呆けから戻ってくる。

「まずは予選突破おめでとう。里咲は百位入りだな」

「おう、ありがと」

「そこで二人の健闘を称えてこんなものを用意してみた」

 ファイルの中から二枚の招待券を取り出す。

「スキー?」

「そう、スキー。今度の冬休みに予定が合えば一緒に行こうと思った」

「おー、良いじゃん。俺は冬は暇だぜ。瀬露ちゃんは?」

「私も大丈夫」

「決まりだな。他に確定でシィブル、和那、岩塚も来る」

 それを口にすると里咲がテーブルから身を乗り出して迫る。

「是非とも連れていってください」

 試合の時のように真面目な顔で頼んできた。

「あ、ああ。それと今朝方に二人誘っているが、まだ連絡はない」

 里咲を席に戻し、言葉を続ける。

「二人? 誰?」

「橋場と涼音」

「すず……天海さん!?」

 里咲が大声で叫び、周りの視線が集まる。

 里咲はすぐに視線に気づき、各方面に頭を下げて座る。

 周囲も興味を失い、雑多な声が戻ってくる。

「な、なんでお前、天海さんと連絡取れるんだよッ」

 今度は小声で聞いて来る。

「この間の飛行機で連絡先貰ったからな」

「おまっ――」

 にべもなく言うと里咲が絶句した。

 数秒のフリーズ後、里咲は飲み物を一口飲み、会話を続けた。

「ま、まあいいや。楽しみにしておくぜ」

「ああ、そうしてくれ」

「それよりも望月、お前も天海さんのファンなら暗黙の了解は知っているよな?」

「それは――」

「それは天海さんが焔と仲良くなりたいからって言っていましたよ」

 瀬露の言葉が先を制し、里咲は二の次を告げなくなっていた。

 談笑は続き、夜中へと時間は進んでいく。

 端末が鳴る。

 俺だけでなく瀬露たちも鳴っていた。

 取り出してみると明日の対戦表が出ていた。

「全員バラバラか」

 俺は初戦、四戦目に里咲、反対ブロックの三戦目に瀬露。

「うへぇ、どこも手強そうだな」

「面白い」

「うひぃ……」

 里咲の元気は時間が経つに連れて減衰して行った。 

 ある程度して今日はお開き、明日に備えることにした。


対戦表

1望月焔

2ダミアン・ジャッガル

3佐々風宗次

4ブリュッテス・デスマー

5シィブル・ティ・ウィマー

6ラジカル・ラゼカル

7トルネッタ・アベリッツァ

8里咲沢入


1和那壬

2高年誠二

3岩塚壮巳

4ベクラ・コ・イター

5草月瀬露

6コノヤ・ロウ

7鳳凰院・フロンター

8フザ・ケルナァ


 本選の日がやってきた。

 本選は午前九時から行われる。

 武器制限もないため本気で競い合える場になっている。

 優勝、準優勝は言わなくても良いが、三位、四位、五位は敗者で行われる。

 準決勝で敗北した二人の内、三位は赤から、四位は青から戦って選出される。

 五位は三位、四位戦で敗北した二人が戦い、決められる。

 一応、三位と四位の間に戦力的な差は無いと言われているが納得しない人のために勝利した三位と四位は戦うことが許されている。

「焔、頑張って」

「お前なら心配はいらないよな!」

「ああ」

 二人の声援を受け取り、俺は控室を出た。

 アリーナに来ると会場は満員御礼で賑わっている。

 俺の公式戦は初めてともあり、新聞部の連中やプロのカメラマンがカメラを構えている。

 そしてその俺の相手は三年生のダミアン。

 体格はゴリラで顔は猛獣。肌は黒く目つきが悪い。

「へっ、俺様超ついてるぅぅ!」

 そして頭も悪そうだ。

『まもなく試合を開始します。選手は位置についてください』

 アナウンスが入り、定位置にまで移動する。

「黒佐後の兄貴ィィ、天国から見ていれくれよ! 俺が仇を取ってやるからな!」

 距離は五十mほど。その気になれば一瞬で動ける距離だ。

「さぁて覚悟は良いか望月ィィ」

 MOSRを起動し、手で弄ぶ。

「今からテメエをメタメタのギタギタにしてやるからなぁ」

 手のなじみは良い。感度も良好。行けそうだな。   

「聞いてんのかゴラァ!!」

「ん? なんだ?」

 さっぱり聞いてなかった。

『試合開始!』

 始まったか。

 左足を引き、地面を強く蹴って跳躍する。

「良いか! もう一度だけ言ってやる! 今からテメエをメタメタの――」

 そして空中で二回転して勢いを付けたまま右足で廻し蹴りをする。

 ――メキャッ

「――あっ」

『――あっ』

 風車というのをご存じだろうか?

 風が吹くとくるくると回るもので、大規模なものは風力発電に使われたりもする。

 ちょうどそんな感じに彼は地面を転がって行った。

 しかも良い具合に首に入ってしまい、少し深い手応えに驚いている。

 いや、そもそも試合が開始しているのだから不意打ちでも何でもないのだが……。

 教師の一人が彼に駆け寄り、状態を調べている。

「救護班、担架! 担架急いで!」

 教師が叫び、俺の所にいる教師がアナウンスに向かってバツ印を送った。

『し、試合終了のようです……しょ、勝者、望月焔!』

 本来ならコールすればワーっと会場が盛り上がるはずなのに静まり返っている。

 俺も不本意だが、試合が終わったのではどうしようもない。

 公式初戦は開始七秒で終わりを告げた。


 控室に戻って来た俺は二人から微妙な顔をされた。

「なに……その、瞬殺は凄いには凄いけどさ……」

「なんて言うかその……」

 どうにも煮え切らない会話に俺は首を傾げる。

「何が言いたいんだ?」

「いやね、つまり不意打ちで倒しちゃうのはどうなのかなぁ、って思ってさ」

「不意打ち? 試合開始の合図は既に鳴っていたし影からこそこそやったわけでもないぞ? 正面から蹴っただけだ」

 すると里咲が「えええ……」と呟いた。

「焔、でも話を聞いてからでも良かったと思うよ」

「話……あれは会話ではないだろう?」

 すると瀬露も何故か視線を逸らした。

 試合は順当に消化されて行き、瀬露と里咲も一戦ずつ勝ち上がった。

 そうして俺の二回戦目がやってきた。

 開始の合図が鳴り、必殺のデコピンを飛ばす。

「ヒャヒャヒャ! ダァミアンはしくじったようだが俺は違う! 黒佐後の旦那を殺した望月ぃぃ。お前はこの佐々風宗次様がしゃぶり尽くしてくれるワァ――!?」

 彼は軽々しくぶっ飛び、場外へと消え去った。

 消息が確認されると試合続行不可能と認定され、俺の勝利となった。


「うはぁ、やっぱ上位陣はすっげぇな」

「うんうん」

『次の試合はティマーさん対里咲さんです』

「っと、遂に俺かぁ」

「行って来い。今回のダークホース」

「頑張って」

「……おう、負けたら缶ジュース奢ってくれ」

 もはや負ける前提で控室を出て行った。

 先にシィブルが現れ、ファンたちが歓声を上げた。

 シィブルも手を振ったり笑顔を振りまいたりと人気集めをしている。

 数分後に顔つきの変わった里咲がアリーナに出て来た。

 瞬間、先程のシィブルの歓声よりも大きい歓声が上がった。

 控室に居ても分かるほどの歓声か……。

 お互いに構えを取り、シィブルが口を開いた。

『……貴方が里咲さんですか』

『ああ。まさか学園最強と戦えるなんて光栄だなぁ』

『ふふっ、今回のダークホース。その力、期待させて貰いますよ』

 試合が始まり、シィブルと里咲の一合が合わさる。

 ガンッと里咲が跳ね飛ばされ、シィブルがすかさず追撃をかける。

 里咲は空中で体勢を立て直し、追撃を躱す。

 そして里咲が反撃に出ようとした所でシィブルが腰から引き抜いたMOSRガンランチャーを撃つ。  

 紙一重で里咲は躱し、その隙にシィブルが距離を詰める。

 やはり元が元だからか試合はほぼ一方的な物となった。

 シィブルが叩きのめし、その度に里咲が立ち上がるという何処かの漫画が繰り広げられていた。

 確かに泥臭く戦っているが、その戦い方には何処か心打つものがあった。

 必死という言葉が良く似合うからだろうか。

 だが、シィブルは終始冷徹に里咲を叩きのめし、勝利した。

『攻撃はまだまだだけど、受け身や防御なら一線級ね。その粘りを戦場で使われたら、相手方は溜まったものじゃないわ』

 しかしそのシィブルも里咲をそう評価していた。

『精進なさい』

 ふむ、中々良い試合だったな。

 二人が退場し、アナウンスが流れる。

『次は和那さん対岩塚さん、まさかの上位二名によるカードです!』

 会場からオオオと歓声が聞こえる。

 モニターを見て見ると岩塚と和那が相対していた。

『もよや、お前と戦う事になるとはな』

『ふふふ、ジンちゃん相手でも手加減は出来ないよ~』

「瀬露、これが会話というものだ」

「……うん、そうだね」

 何か不服そうに瀬露が頷いた。

 里咲に視線を向けるが肩を竦められた。

 ……良く分からんな。

 二人の試合が始まり、観戦する。

 和那は剣タイプのMOSR、岩塚はゴウル戦線でも使っていた鎌形のMOSRだ。

 一撃の威力なら岩塚に軍配が上がるが、和那はMOSRをもう一つ持って手数で対応している。

 前の戦線で使わなかったことから対岩塚用装備だということが分かる。

 先程が俺の見ごたえのない試合だった性かこの戦いの盛り上がり方は凄まじい。

 勝敗が着いたのはそれから十二分後。

 岩塚の斬撃が斬り流されて和那に足で抑えられた。

 和那の左が迫り、首で寸止めされた。

『あちゃ~、ギブギブ』

 岩塚が両手を上げて降参すると観客席から一際大きな声が上がった。

「次、行ってきます」

 次は瀬露か。

「頑張れよ」

「はい」

 瀬露は微笑み、控室を出て行った。

 試合はすぐに始まり、一閃で片を付けていた。

 一戦目も同様だったため、観客は冷めるばかり。

 昼食休憩に入り、準決勝は午後二時から始まる。

 里咲はシィブルに叩きのめされて医務室行きだったため俺たちは見舞いも兼ねて医務室へと向かった。

「入るぞ」

 プシュッと気の抜けた音と共にドアがスライドする。

「あら、二人も来たのね」

 里咲の傍にいたのは意外にもシィブルだ。  

「シィブルさんもお見舞い?」

「それもあるけど、一つは問い詰めね」

「?」

 瀬露が首を傾げるとシィブルが至って真面目な表情で俺たちを見た。

「ここまで戦える人が何故今までやらなかったのか、ということです」

 ――余談だがシィブルは真面目になると言葉も丁寧になる。

「いや、だからそれは……」

「学園に在籍する以上、努力を怠ることは許されることではありません。にも関わらず彼はあなた達に触発されるまでその力をひた隠しにしてきました。見てください」

 シィブルが俺たちに見せたのは個人情報の一つ、能力値。

「校長先生と本人の許可はとってあります」

 紙を受け取り見て見るとそこに書かれているのはランクA~。

 事実Sと言っても良い。

「個人的な事情はあったとしても、これは明らかに校則第三条五項の違反です。また、この結果は同じクラスメイトを馬鹿にする行為でもあります」

「で、でもそれなら私も――」

「草月さん、彼を庇おうとする気持ちは分かりますが貴方は入学当初以前の診断結果から出来が悪かったということを私は知っています。……その、勝手に調べたことは謝ります。ごめんなさい」

「い、いえ……大丈夫です」

「しかし……彼の場合はその入学以前から高数値を叩き出し、実力的にもSと遜色ない力を持っています。ダークホースと言われる裏には必ず何かが存在するのです」

 里咲を見ると……里咲は視線を逸らした。

「学園に置いて校則は守られるべき秩序なのです。それを破った彼は退学処分が下されることになるでしょう」

 里咲の表情が悔しそうに歪む。

「しかしながら、これはあくまでも個人的意見ですので。実際の処分がどうなるかまでは分かりません。……私とて優秀な学友を退学にされるのは嫌ですから」

「そうか」

「ただし、出来る可能性が、伸びしろがまだまだあるのですからちゃんと精進して欲しいものです。では、私はこれにて失礼します」

 シィブルが立ち上がり、部屋を出ていく。

 プシュッという音がなり、閉まる。

「なんか、ごめんな。騙して」

 里咲が此方を向いて謝る。

「別に良い。それよりもほら、先に昼食にしよう」

 缶ジュースを投げ渡す。

「色々買ってきた。里咲さんも一緒に食べよ?」

 里咲はもう一度顔を落とし、少し泣いてから頷いた。


 里咲沢入。

 里咲家は守護に特化した武術を扱う家柄だ。

 里咲はその次男坊だ。

 元は李先という分家の生まれだったがその才能から本家への養子となった。

 里咲の守護術を体に叩き込まれる幼少時を過ごし上位成績を残した。そしてこの学園へと進学。

 しかし自身の家を嫌っていた里咲はこの学園が手強いのを理由に手を抜いて下位に属した。

 確かにシィブルや和那は強く、他の学生もランクBが平均的と強力だ。

 しかし俺たちと関わったことにより意志を再度転換。

 自身の本来の実力を出して上位十位内へと食い込んだ。

 

「そうか辛かったな」

「感想それだけかよ!?」

 簡単にまとめてしまえばこの程度のことだ。

 里咲の反応に瀬露が口元を抑えて笑う。

「瀬露ちゃんも酷っ!」

 談笑をしていると鐘が鳴った。

「そろそろか」

「次はシィブルとだな」

「俺の仇、取って来てくれ!」

「断る。自分で取れ」

「ははっ……きついなぁ」

 里咲と短い会話を交わし、俺たちは医務室を後にした。 


 控室で瀬露と別れ、俺はアリーナへとやって来ていた。

 アリーナでは既にシィブルが待っていて、MOSRを構えていた。

「来たわね、望月さん」

「相対は二回目だな」

「そうね。……この間は校長先生に邪魔されたけど、今日はそうはいかないわ」

 そう言ってシィブルは剣を横にしてスイッチに手を掛ける。

 前にシィブルがやろうとしていたことだ。

「初めから全力で行くわ。あなたも全力で来て」 

 シィブルの本気を感じ取り、俺も構える。

「それは俺が決める」

「そう、なら、後悔しないでね」

 シィブルがスイッチを押すと同時に試合開始の合図が掛かった。

 ガシャンと機械音がしてシィブルの剣形態が変わる。

 柄先が開き、そこから緑色のエネルギーが放出されて剣の形になった。

『あ、あれはまさか緑楓剣!? シィブルさん本気モード!』

 あれが余程珍しいのか実況が此方まで聞こえてくる。

「ハッ!」

 シィブルが地面を蹴り、接近する。 

 思っていたよりも速い!

 MOSRを振るい、上段からの攻撃を迎撃する。

 手数は同じだが何分速度が速い。

 俺は岩塚と同様にパワー型だ。どうにも相性が悪い。

 攻撃もある程度は迎撃しているが掠る。

 ……まずは一旦距離を取ろう。

 息を吸い、声を出す。

「――阿ッッ!!!!」

 空気が揺れ、シィブルが反射的に飛びずさった。

 近接戦闘に変わりはないが、このままではやられる。

 MOSRの出力を上げ、対ゴーラスト並と仮定する。

 シィブルも俺が本気になったのを確認したのか、表情を完全に消した。

 ――次はどちらともなく動いた。

 初動は大きく振りかぶり、地面に叩きつける。

 衝撃波がシィブルに飛んで行き、シィブルは跳躍して躱す。

 そのまま落下し、俺の頭上を捉える。

 剣を真上に振り上げ、それを迎撃した。

 シィブルが弾き飛ばされ、俺は追撃をかける。

 着地を狙ったが、それはシィブルも分かっている。

 弾かれ、またシィブルが後方へと飛んでいく。

 シィブルは持前の足の速さで追撃を振り切る。

 そして残像が残るほどの速さと一条の緑の光を残して動いていく。

 眼力の絶対限界を超えた速さになり、俺は見るのを止める。

 それを隙と捉えたシィブルが背後から強襲してくる。

 剣を背後に回し、辛うじて迎撃する。

 しかし瞬時に移動したシィブルが俺の左腕を刺突する。

「ぐっ――」

 流石に躱せず、直撃を食らう。

 左腕から血が流れ、痺れる。感電か。

 次いで、背後から一撃を食らう。

「くっ!」

 更に足、肩、腕、胴と肉が斬り裂かれる。

「やあっ!」

 そして裂帛の気合いと共に正面から袈裟懸けが繰り出される。

 くっ、これがシィブルの本気か――。

 シィブルは両手でぶつけるのに対して俺は片手。徐々に押し込まれる。

 同時に俺の苛立ちも加算していった。

「このッ――!」

 だからか、思わずゴウルの力を使ってしまった。

 剣を一瞬手放し、シィブルの胴体に爪を立てて袈裟に引き裂く。

 俺は瞬間で我に返り、力を仕舞う。

 シィブルが弾き飛ばされ、斬り裂かれた右肩を抑える。

 斬り裂いたのは右鎖骨から左胸。ギリギリ剣でガードしたとは言え、俺の攻撃は剣を砕き、シィブルの体には鋭い四本の爪痕が刻まれてそこから血を流していた。

 俺は剣を落とし、右手を握る。

「降参する」

 俺は自身の敗北を認めた。

 ――馬鹿か俺は。これでは俺がゴウルだと言っているようなものだ。一体何をしているんだ。俺らしくもない。

 ……どの道、このまま戦っても敗北は目に見えている。

 ならばここらで引き上げるのが良いだろう。

 とにかく落ち着け。感情的になるな。視界を閉じて昂りを抑える。

 ――目はまだ大丈夫だ。シィブルは気付いていない。

『勝者、シィブルさん!』

『オオオオオオオオオオオオオ!!』

 歓声が上がり、シィブルが俺の元に来る。 

「望月……」

 シィブルの目は真っ直ぐに俺を見ている。

「何故、降参したの?」

「俺が反則したからだ」

「反則? 相手を倒すのに反則も何もないわ」 

「――お前を殺しかけた」

「それなら、私だって――」

「それとは訳が違うんだ……。詳しくは、話せない」

 俺は呟き、踵を返した。

「何よ……」

 背後でシィブルが呟く。

「こんな決着で納得できるわけないでしょっ!!」

 シィブルが叫び、それがアリーナ中に響き渡る。

「戻って戦いなさい! 望月焔!!」

 その声を背に俺はアリーナを出て行った。

 控室には戻って来た。瀬露は次の試合のためかそこに姿は無かった。

 次の試合は瀬露対和那だ。

 とても……見る気にはならなかった。



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