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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
443/466

EX11 魔道戦記ST

グラたん「ラストです!」


 ラゼたちが乗ったボートには民間保護用の救難信号が設置されており、それをで起動しつつノマル軍基地があった方に向けて進んでいく。

 天照の直撃を受けたとしてもそれは表面上を焼くだけであり、地下100m以上には及ばない。広範囲に浅く攻撃する、それが天照だ。無論ラゼたちはそれを知ることはないが、もしかしたらシュバイツァーがまだいるかもしれないと思いつつ走行する。

 数時間ほど漂い、海以外は変わらない景色を眺めているとリモネアはラゼに何度も視線を向け、今ようやく言葉を出した。


「ねぇ、ラゼ君。これからどうするの?」


 リモネアは軍人としての生き方以外を知らない。ラゼもまだ少年と呼べる年頃だ。二人で何時までも逃避行は出来ない。


「まずはノマル軍に保護して貰おうと思う。リモネアにはまだ言ってなかったけど僕たち今MIA判定になってる。だから、民間人扱いで保護して貰えると思うんだ」

「なるほど。ちゃんと作戦は立てていたわけね」

「うん。……ごめんね、勝手に決めちゃって」    

「良いわよ。どうせ向こうにいても銃殺待ちだったからね。そうなるくらいならラゼ君と駆け落ちしていた方がずっと有益よ」


 それに、とリモネアは立ち上がってラゼの膝の上に対面向きで乗り、膝立ちでラゼに抱き付いた。


「り……リモネア?」 

「本当はこうして見たかったの。私、ラゼのことがとっても好きなの。勿論、異性として……好き」


 紅潮した顔をラゼの首に埋めて隠し、ずっと高鳴っていた鼓動を確認しながらラゼに身を委ねる。


「私を連れ出した責任取ってね?」

「――うん」


 その小さな、今まで重圧を負っていた身体に両腕を回して抱き寄せる。


「ずっと一緒にいるから。僕が守る、絶対に」


 ボムッ、と謎の音と共にリモネアの体温が急激に上昇する。恥ずかしさのあまり声も出なくなり、ラゼの大きな腕の中で縮こまる。それしか出来ない。その手が頭を撫で、髪の毛を梳かしていく。

 それだけの行為でリモネアは充分に満たされた気持ちになり、顔を少し上げた。いつも柔らかいラゼの表情にも少し赤身が増しており、自分と同じ気持ちなのだろうかとリモネアは邪に思考する。

 超至近距離で見つめ合い、お互いに意識はしていなかったが顔が近づいていき――唇が触れ合った。


「ぅん……」

「ふぅ……」


 視覚を閉じると余計にその感触は確かなものとなり、二人はお互いを求め合い、もっと深く結ばれたいと感じて何度もはみ合う。

 それをまざまざと見せつけられ、声を掛け辛かった者が一人。二人の時間が終わるのを見計らって彼女は一つ咳払いした。


「オホン。お二人さん、ちょっと良いかしら?」

「ひぁっ!?」 

「誰!?」


 二人共に驚いて顔を見合わせ、乱入者に視線を向けた。よく見ればレポンが水上待機しており、彼女――サエラがコックピットから顔を覗かせていた。

 この距離に来るまで気付かないほどキスに集中していたのか、とラゼは恥じる。リモネアに至っては口を開閉するだけで声も出ない。


「さ、サエラ?」  

「近くで民間の救難信号が上がったから来てみれば……救難者は二人だけ?」

「う、うん。ウルフラムでクーデターがあって逃げてきたんだ。軍も今はKIAに書き換えてるから民間保護――ってことにならないかな?」

「そんな手の込んだことしなくても軍を辞めたって言えば民間人扱いになるから大丈夫。さ、案内するからボートの舵を切って頂戴」

「了解」


 レポンのコックピットが収納され、ラゼもボートの舵を切ってその後を追従していく。シュバイツァーも思っていたより近くにいたらしく、しばらく進むと戦艦が見えてきた。その周囲にも生き残りを保護するための艦隊が出撃しているようだ。

 ハッチを開けてボートをシュバイツァーの格納庫に乗せるとサエラから報告を受けてテーニが血相を抱えて走ってきた。


「ラァァァゼェェェエエエエエエエエエエエエエ!!」


 一瞬誰が発声したのか分からなかったが、テーニが猛突進してくるのを見てラゼは手を振った。


「あっ、テーニ!」

「うおおおお! マジ良かった! 生きてたんだな!」

「う、うん、まあね」


 ハハハと上機嫌に笑って肩を叩き、サエラも笑みを浮かべて二人の肩に手を置いた。


「はいはい、そのくらいにして。まず艦長に保護した件を報告しなきゃいけないんだから。テーニは二人の部屋を用意してあげて。あっ、一部屋で良いわ」

「一部屋? ……ほー」


 テーニだけでなく整備兵の野郎共がニヤニヤと嫌な笑い方をし、ヘヘヘと口々に言い合って手を上げながら踵を返していく。テーニも小走りで駆けて行き、サエラは呆れつつ二人を促した。


「こっち。来て」

「うん……」


 気まずいなぁと思いつつラゼはリモネアの手を引いて歩いていく。



 艦長室をノックし、扉が開くとウォーゼが優雅にココアを飲んでいた。そこには副艦長もおり、何かの書類の束を整理しているようだった。


「失礼します。民間人二人を保護しました」


 サエラの報告は受けていたがウォーゼは改めて二人を見て微笑んだ。


「おや、来たみたいだ。まあ適当に座ってくれたまえ」


 手元のスイッチを弄ると床下が開いてテーブルと椅子が出現し、サエラから順番に椅子に座っていく。副艦長は紅茶を入れなおして各自に配り、ウォーゼはココアを追加して席に座った。


「さて、まずは久しぶりになるね、ラゼ君」

「はい。ウォーゼさんもお元気そうでなりよりです。まさかシュバイツァーの艦長だったのは驚きましたけど……」

「ハハハ、私もまさか君が敵に回るとあんなにも厄介だったとは思ってもみなかったよ。無論、理由はともあれ君たちという多大な戦力を私は歓迎するよ」


 君たち、という時点でウォーゼはリモネアのことも概ね分かっているということになる。二人ともに気を引き締めるが、反してウォーゼは気楽な姿勢のままだ。その柔らかい微笑みの表情をリモネアに向けた。


「そして君が羽根つき、ウルフラムの艦長だったリモネア君だね」

「はい。この度は保護していただきありがとうございます。黒騎馬、シュバイツァーの艦長さんに生きている内にお話しできる機会があるのは光栄の限りです」

「いやはや私はそんな大層な人物じゃないよ。あとそんなに堅くならなくても構わない――いや、私としても気楽に接する方が好きなのでね。出来れば気さくに頼むよ」


 意外だ、とリモネアは感じたが表面上は善人の顔なので肯定した。


「分かりました。では、もっと気楽にしますね」

「ふふふ、助かるよ。ああ、こっちは副艦長のエレイン君だ。中々有能な人材で書類整理と人員整理に関しては右に出る者はいない。尤も我がシュバイツァー以外では雑用必死の待遇だったため私が抜擢させてもらったよ」


 エレインは女性将校であり、シュバイツァーに転属になる前は本部で永遠と事務の窓仕事をさせられていた人物だ。その手際と小規模なリーダーとしての才覚をウォーゼは見抜き抜擢した。


「艦長には本当に感謝しています。おかげ様で毎月のお給料が3倍近く跳ね上がりました。昔に比べたら本当にこれだけの仕事で良いのかな、っていつも不安になります」

「日々10時間労働と5時間の無償残業、休日返上なんて馬鹿馬鹿しい話だよ。ちなみに今は戦闘時以外は平均2時間の労働だ」


 余談だがノマルの平均出勤時間は8時間であり、艦によって労働時間は違う。本部もそれは適応されてしまっており給料は能力給となっている。


「さてさて。そこで相談なんだけど二人とも私の元で働いてくれないかね? ラゼ君は試験パイロット、リモネア君は作戦立案とラゼ君専任のオペレーティングを頼みたいと思う。お給料は――」


 ディスプレイ画面を開いてそこに数字を打ち込んで自動演算させ、クルリと反転させてラゼたちに結果を見せる。


「一人25万円。ただし身分は学生にしておくため卒業まではアルバイト扱いとなる。その代わり身分の保証と住居、食事等々の手配は此方が受け持とう。余談だがサエラとテーニ君も表向きは学生の身分だよ。で、卒業後はシュバイツァー専任という肩書きが付いてお給料も本来の値にさせて貰う。……どうかね?」


 その瞳は頷くことが確信しているかのように笑んでおり、ラゼたちも行く当てもないため肯定した。


「ご配慮ありがとうございます」


 ニヤリ、と一瞬だけ嗤ったのは気のせいだろうとラゼは思うことにした。

 そこで扉が開き、テーニが敬礼して入ってくる。その背後には先ほどニヤリと笑いながら去って行った者が段ボールを抱えて通って行った。


「入ります!」

「うむ、入ってくれたまえ」


 返礼を返し終わるのを見計らい、テーニはラゼの元に駆け寄って頭を鷲掴みにした。そのまま首に腕を回してホールドして締め上げる。


「ラーゼー! こーのーやーろー!」

「う、うわっ! い、痛い! 痛いよ!」 

「本当っ! お前は! 何が悲してお前と戦わなきゃならんのだ! つーか、勝手にレアルの方行くなよな! マジ心配したんだぞ!」  

「ご、ごめん! く、苦しい、苦しい」


 そんな様子にサエラは苦笑いしつつ立ち上がって二人の頭に手套を落とした。


「くおっ!?」

「なんで僕まで!?」

「二人とも落ち着きなさい。気持ちは分かるけど、ね」


 全く、と呆れつつ事務用の椅子を転がしてテーニに渡し、エレインも可笑しそうにしながら淹れたてのココアをテーニに渡した。


「ありがとうございます、エレインさん」 

「いえいえ。腐腐腐……」


 何か危ない視線をリモネアは感じたがテーニもラゼも気づいた様子はないため黙っておく方が吉、と考える。

 全員が座りなおしたのを確認し、ウォーゼは言葉を発した。


「オホン。さて、ここらで少し真面目な話をするよ。吉報と悲報があるのだがどちらから聞きたい?」


 こういう場合は喜ばしい方からの方がダメージが少なくて済むことを知っているリモネアは姿勢を正して答えた。


「吉報からお願いします」

「分かった。吉報というのは終戦命令が出たことだ。決め手はノマルの核攻撃に対しレアルが持ち出した戦略級兵器『天照』が地球に直撃したことだった。お互いに甚大な被害を被ったのを見て火星のアブルが両陣営に終戦を持ちかけたというわけさ。講和や条約については追々上層部がやることで我々は一切関与しなくて良いというのは実に気楽なことだと思う」


 両軍が終戦の声明を発表した以上、それは民間にも知れ渡ることとなる。正式な発表は明日の緊急会見で行われることとなっている。講和が結ばれることとなれば最低でも冷戦、お互いが歩み寄ればより良い結果になるだろうとウォーゼは告げた。


「では悲報も告げよう」


 ウォーゼはゆっくりと瞬きしてラゼとリモネアを見た。その視線を受けて二人も何となくではあったが嫌な予感を覚えていた。


「先程、保護活動を続けていたイージス艦から連絡があってね。戦線を離脱していたウルフラムを発見したそうだ。そのウルフラムは此方の投降勧告に対して攻撃を繰り返したためやむなく撃沈させたと報告があった」

「そうですか……」 


 リモネアにとってウルフラムは思い入れのあった戦艦であり、アジルカや自由、リースたちと出会った場所でもある。


「ただし事前に退艦したと思われる大多数の負傷整備兵と通信技師たち、総じて21名を保護したとの連絡も受けている」


 それはラゼたちの逃亡に助力した整備兵たちだ。彼らもノマル艦隊に包囲された段階でさっさとボートに乗って投降していたため助かっていた。戦死したのは副艦長一派であり、ラゼたちと整備兵が忽然といなくなっていたため怒り狂ってノマル艦隊に砲撃したから撃墜されたという話でもある。


「……皆、無事だったんだ」


 ラゼも、リモネアも少し嬉しそうに頬を緩め、それを見たウォーゼも清々しい笑みを浮かべていた。


「勿論、彼らも私の配下に入って貰うよ。他に渡すわけにはいかないからね」


 その笑みの裏には是碓を完成させるための鍵があると踏んでのことであり、是碓と互角に戦ったバチェリースを作った者がいると考えてのことだった。無論、自由もアジルカも戦死しているためその推測は後で裏切られることになるのだが。


「さてさて! 軍務はこれくらいにして歓迎のパーティーを開こうと思う。テーニ君、準備は出来ているかね?」

「抜かりないですぜ。へへへ……」

「ふふふ、よろしい」


 野郎二人の怪しい高笑いと共に扉がスライドし、複数人の女性が敬礼しつつ入室してくる。その姿は軍服ではなく艦内とは思えないような私服だ。中には軍支給の上着を腰巻にしている者もいる。


「失礼します! リモネアさんを貰っていきます!」

「リモネアちゃん! 着替えとメイクはお姉さんたちに任せなさい!」

「え、あの、へ? あ、ちょっ、ラゼ助け――」


 年齢と身体が小さいことも仇となってリモネアは困惑した一瞬の隙に彼女たちに俵担ぎにされて何処かへ運び込まれていった。


「では私も着替えてきますね」

「私も。軍服はどうも苦手でねー」


 エレインとサエラも適当な敬礼をして部屋を退出してしまい、ラゼは呆気にとられた。正面ではウォーゼも立ち上がって階級が付いている上着を脱いで艦長席に掛けた。


「テーニ君。ラゼ君にこの艦の軍規を教えてあげなさい」

「了解! よし、俺たちも行こうぜ!」

「え、ええ?」


 テーニに連れられてラゼも退出する。



 テーニに手を引かれて部屋を退出し、長い通路を駆け、とある一室に連れて来られる。壁には『【専用】300号室』と書かれている。

 中は軍用の上下の二段ベッド解体してビックサイズに作り直したベッドが壁際に接合され、手前にはテーブルと椅子がある。入り口付近にはクローゼットがある。


「ここがラゼとリモネアの部屋な。これ鍵な」


 300と書かれた鍵を渡され、テーニはクローゼットを開いてラゼが好きそうな白無地のTシャツと黒の長ズボンを取り出した。それをベッドに置き、振り返って直立不動で声を張り上げた。


「シュバイツァー軍規第一条! 基本的に軍服禁止! シュバイツァー軍規第二条! 労働は1日5時間まで! シュバイツァー軍規第三条! リア充は爆破せよ!」

「…………え?」 


 ラゼは流石に絶句した。そんな軍規があるのか、そもそも軍規なのか、と内心で首を傾げるくらいには変な軍規だった。当然テーニも最初は面食らったが慣れるのに3日もかからなかった。


「ま、要するに気楽に生きようぜってことだ。ほら、ウォーゼさんがあの通りだからさ」

「あー……」


 温厚で笑みを絶やさず気楽な思考をしている者がこのシュバイツァーの艦長だ。ウォーゼにとって軍務とは人生の娯楽の一つであり、嫌なことは皆でやる主義を掲げているため普段のシュバイツァーは一般学校のような雰囲気になる。


「軍服はコスプレ、ってエレインさんも言ってるくらいだ。工房のおやっさんも軍服は作業着って公言しているぜ。つまり、ラゼもあんま張り詰めるなってことさ」


 なっ? とテーニは学生の頃のように腕をラゼの肩に回して笑った。


「――うん!」


 ここがそういう場所ならそうしよう、とラゼは頷く。テーニも一旦私室に戻って私服に着替えに行った。

 着替え終わり、レアル軍の軍服をハンガーにかけてクローゼットに入れ、自室を見て回る。ベッドや机の他にはノートパソコンが二台あり、トイレも付属している。風呂は共同だ。


「……あれ?」


 よくよくベッドの反対側の壁を見ると小さな収納スペースがあることに気付く。試しに引いてみると――


「……ッ!?」


 パタンと音を立てて中身を見なかったことにする。それは反射的な行動であり、引き出しに入っていたのは女性用の下着だ。それも子供サイズと思われるものだ。

 そういえばテーニも『ここがラゼとリモネアの部屋な』と言っていたような……とラゼは思い出して喉を鳴らした。


「待って……えっ、同室?」

「うーす、着替え終わったかー?」 


 ちょうどよくテーニが扉を開けたのでラゼは珍しく怒った表情で詰め寄った。


「ちょっとテーニ! いくら何でも年頃の男女が同室はダメだって! せめて僕をテーニと同室にしてほしい!」

「いやー、悪い。ここ以外は今の所空いてなくてな~」


 ハハハ、と如何にもなわざとらしい返事を返したのでラゼは更に詰め寄り、その後ろにリモネアたちがいるのが見えた。


「ラゼは私と同室は嫌なのね。……ふーん」


 何故か私服に着替えたリモネアから冷たい視線を向けられ、女性たちからも冷ややかな視線を向けられ、密やかな小声が聞こえる。


「テーニと同室?」

「ラゼ君って実はあっちな方?」

「お姉さんたち的にはグッジョブだけど……」


 腐腐腐と怪しい笑い声が響き、ラゼは首を振って訂正する。


「ち、違うよ! リモネアのことが大事だからだよ!」

「ふぇ!?」


 ボムっと音を立ててリモネアは視線を逸らし、お姉さんたちもニヤリとしながらラゼたちを見ている。

「まあまあ、どっちにしても空き部屋が無いのは事実だし一緒なのは帰還するまでの数日だけだからな」

 余談だが空き部屋が無いのではなく、荷物を置いて空き部屋をわざわざなくしたというのが正しい答えだ。しかしラゼは乗せて貰っている以上、無茶は言えないと考えてしまい肯定した。


「……分かったよ」

「あ、それと例のブツは収納スペースに入ってるから好きに使って良いぞー」

「ちょっとテーニ! しないよ!?」


 下世話な気遣いをしてテーニは逃げて行き、ラゼも半場本気で追いかけていく。残されたリモネアは余計にそのことを意識して顔を火照らせ、思考がショートして立ったまま気絶した。

 


 敵対してしまった時にはもうこんな笑いあうこともないだろうとラゼとテーニは思っていた。だが、戦争はあっという間に終わってしまい、多少の確執こそあれど元に近い関係に戻っていた。

 帰還までの道中は実に騒がしく、空きなどなかった。テーニが騒げば皆が巻き込まれ、ラゼが巻き込まれ、サエラとリモネアが呆れながらも追いかける。

 そんな日々が過ぎ、ラゼたちは中央へと戻ってきた。ラゼとリモネアはウォーゼが保護するということで軍務から引き離され、ウォーゼは最新鋭の敵艦を打倒したことで昇格することになった。

 出撃命令がない限りはテーニもサエラも学生に戻る。そこにラゼの姿もあった。リモネアは中等部に編入することになっている。


「――戻ってきたね」

「そうだな」

「一時はどうなることかと思ったけどね」


 そんな感想を交えつつ三人は校舎内へと入っていく。

 何か月か空けていただけなのに妙にこの感じが懐かしい、とラゼは思う。


「そういや、リモネアは結局寮じゃなくてお前のとこに住むんだっけ?」

「あーうん。そうなんだよ……」


 本来であれば軍からも外され、身寄りのないリモネアは女子寮に住まうことになるはずだった。が、ウォーゼの粋な(悪意のある)計らいによってラゼが引き取ることになったのだ。

 それをテーニもサエラも知っているため、進展があるのを楽しみにしている。


「いいよなぁ、ラゼは。弁当も手作りなんだろ?」

「うっ、まあね」

「いいなぁ……」


 そう言いつつテーニはサエラに視線を送る。その視線はサエラに捉えられ、慌てて視線を正面に向けた。そんな様子にサエラは微笑みながら問う。


「ん? テーニもお弁当作ってほしいの?」

「ま、まあな!」

「ふーん」

 

 じゃあ、と前置きしてサエラが鞄の中から大きめの包みを取り出した。男子一人が食べる分にはちょうど良いだろう大きさの弁当箱だ。


「はい、お弁当」

「え、マジで?」

「マジマジ」


 テーニは意外そうにしつつも受け取り、今までの仕返しとばかりにラゼが微笑みを浮かべた。


「へー、二人ともいつの間にそんな関係になってたんだ」

「え、い、いや俺だってびっくりしてるよ」

「ふふっ」


 そんな気軽なやり取りすら懐かしいと思いつつ三人は昇降口を上がって廊下を歩いていく。

 もう戦う必要はない。そこにあるのは安寧と平和だ。

 

 三人の見ている世界は変わってしまった。

 だが、居場所は何時だって同じだ。これから先も、そうでありたいとラゼは願う。



 NE歴2951年。

 実に200年以上も続けてきた戦争は両者の戦略級兵器の実戦使用によって終結した。地球と月が受けた被害は多大であり、それを機に火星が動きを見せると両者は冷戦状態へと移行し、両指導者の退職をきっかけに新たな主導者が台頭した。

 これによって冷戦は解除され、地球と月は少しずつ歩み寄り始めることとなる。少なからず後世の歴史にて300年間は大規模な戦争は無かったとされている。


 それから少しの後。

 ラゼたちは世界から忽然と姿を消した。


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