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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
442/466

EX10 魔道戦記ST

グラたん「ST10話目です!」


 自由は火虞鎚の操縦桿を握り直し、正面でビームライフルを構えた是碓を睨みつける。


「ったく、あんなのが二機とか嫌になるぜ」


 愚痴を吐き、手早く左手を動かして火虞鎚の背部ユニットに接続されている単独飛翔武装、6基のビットを放出させる。これは対是碓用に一週間かけて拵えた空中機動兵器だ。


「ま、倒すけどな」


 ビットは半自立型AIが搭載されており、使用者の意思以外でも追従して攻撃できるように設定したものだ。

 火虞鎚のブースターをフルスロットルに回し、是碓も呼応してビームライフルを射撃した。未来を演算出来ると言っても不確定要素があればその限りではなく、今回はビットの出現によって是碓二号機は簡単な未来演算しか出来なくなっていた。

 自由はそれを敵パイロットの腕が未熟であると判断し、高速で飛翔しつつビームライフルを両手で持って是碓の武装に向かって射撃する。

 是碓もそれは演算出来ており、回避と同時に左手にマシンガンを装備して引き金を引き、火虞鎚を牽制する。その背後にビットが迫り、ビームが射出される。

 正面からは火虞鎚が発射したマシンガンの銃弾が迫り、足と腕に被弾する。


『――――』


 AIが軽い悲鳴を上げ、遠距離戦では不利と判断して背面のブースター火力を最大まで引き上げた近接短期決戦を選択した。マシンガンを構えつつ火虞鎚に突撃し、自由も間一髪でそれを躱す。その後をビットが追い、射撃して回る。


「っと、あんにゃろう……!」


 ビットの弱点は近接戦闘とエネルギー消費が激しい事だ。内部に格納されたビームが途切れれば一度機体に収納するしかなく、再装填には本体のエネルギーを送る必要がある。要はコストが高いのだ。

 是碓が選択した近接かつ短期戦はその弱点を突くことが出来るため自由は小さく舌打ちした。だが逆に言えば是碓を撃墜出来る確率が一番高い方法が短期決戦であるとも言える。

 銃弾とビーム砲撃が諸島の上空で交差する。その場所は島だけでなく海上にも及び、水飛沫を上げながらの超高速の戦闘となった。

 マシンガンはお互いにあっという間に弾数が底を付き、肩部バルカンも弾数が無くなった。


「このっ!」 

『――――ッ』


 火虞鎚と是碓のビームナイフが海上で交差し、すれ違う。予測性能では是碓が上回っており火虞鎚の腕部が破壊される。

 是碓の背後を2基のビットが追い、脚部にビームが直撃する。是碓は振り返ることなくビームナイフを後ろに投げてビットを撃破し、その場でターンして振り返る。火虞鎚が正面から高速で迫り、ビームライフルを構えている。是碓は計算上、相打ちが尤も勝率が高い方法であると計算し、残り1発のビームライフルを火具鎚向けて構え、突撃する。


「これで――」


 自由はその突撃コースを予測し、是碓の背後に残りのビットを回す。残弾数の少ないビームライフルを発射し、是碓は回避を試みる。

 その回避線上にビットからビームを撃たれ、一瞬動きが止まる。それを見逃さず、自由はビームライフルを是碓のコックピット付近に直撃させた。


「終わった……みたいだな」


 それは敵が有人機であるという思い込みからの一瞬の油断。

 前方から警報が鳴り、是碓は火虞鎚に張り付いた。


『まだ……だ』


 よく見てみるとビームは是碓のコックピットから逸れていた。コックピットの電子部分を直撃されなければ是碓は動き続ける。AIは怯まない。自己が破損してもデータは初号機に送られてフィードバックされる。


「しまった!」


 是碓に羽交い絞めにされた火虞鎚は動くことが出来ない。自由も必死に振りほどこうとするが動けず――最大級の警報が上空から鳴った。ちょうど直線状の上空、宇宙空間にあるのは超大型のビーム兵器『天照』だ。先日の一件以来着々と作戦の進行とチャージを進めてきたビーム砲が遂に臨界点に達したのだ。


「嘘だろ――」


 天照が発射され、ガンマ線ビーム砲撃は火虞鎚と是碓を巻き込んだ。天照の威力は地球の十分の一を焼き尽くす。レアル軍が狙ったのはノマル軍の前線基地周囲だが、その範囲にはカメイラ諸島も含まれていた。



 その光の柱はリモネアたちも、ウォーゼたちも見ていた。レアル軍ノマル軍関係なく戦闘行為が一時止まった。

 ラゼも天照の光を見た。振り向いた瞬間に光の中へと消滅する島。


「自由――っ!」


 機体の影は見えることなく消え、視界一杯に白が染まる。バチェリースが自動的に視覚機能を閉じて周囲が暗くなり、再度起動した時にはポッカリと空いた大地を埋めるべく激しくうねり戻る海だけが見えた。

 ラゼは反射的に機体の高度を上げて波に足を取られないように制御しつつウルフラムへ通信を開いた。


「オペレーター! 何が起きているんですか!」


 返答は返ってこない。通信はザザッと嫌な音を立てている。距離的には巻き込まれてはいないはずだ――と思いつつラゼは急いでウルフラムへ向けて飛翔する。

 結果的に言えばウルフラムは存在していた。ただし、ノマル軍の戦艦20隻に囲まれ、50はいるレポンが群がっている。マップを見ればラゼはノマル軍艦隊の側面を突く形に飛翔しており、このまま戻るよりは敵の足を止めた方が良いと判断してビームライフルを正面に構えた。

 自由が施した改良によってバチェリースの速度はマッハ2を超えている。一瞬にも等しい時間で距離を詰め、エンジンめがけてビームライフルを射撃する。


「うあああああ!!」


 二隻、三隻と次々に被弾させていき、時には主砲をマシンガンで撃ち抜いて大破させ、着実に戦力を削っていく。

 しかし――。


「敵機出現!」

「構うな、羽根つきを撃て!」


 艦隊は一切手を緩めることなく砲撃を続行し、レポンも一機として戻ってこない。彼らはウォーゼの指示によって既に死兵と化しており、エンジンが被弾した艦も退艦しつつも誰かがブリッジに残って全弾を発射している。


「なんで――!?」


 ラゼは一切引かないノマル艦隊に対して畏怖した。20隻を大破させたというのに攻撃は戦艦が爆発して海に沈むまで止まなかった。

 退艦した者には目もくれず、ラゼは勢いのままウルフラムに向かう。

 ウルフラムは大破しつつもサブエンジンを動かして前線基地へ移動していた。その周囲にはレポンの残骸が浮かんでおり、ウルフラムの甲板の上には撃破されたウェガスが二機存在していた。


「ウルフラム応答してください! 此方、ラゼ!」


 再度通信を開いてみると今度はウルフラムから応答が返ってきた。


『ら、ラゼ? ラゼさん!』


 その声はいつも聞くオペレーターのレアの声だった。


「レアさん、状況を教えてください。皆は?」 

『えっと、大まかにはなりますが死者多数、負傷者多数、です。敵の猛攻によってラゼさん以外のパイロットは……皆、戦死しました。リース少尉も敵機を引き付けるため予備のウェガスで出撃し、そのままKIA(消息不明)です』

「そんな……」

『ともかく今は中間基地へ帰還することが最優先事項になっています。格納庫も被害が甚大のためハンガーの待機は出来ません。着艦待機をお願いします』

「――了解」


 通信を切り、バチェリースを甲板に着艦させて膝を付いた形で待機させる。機体から降りて甲板の端にある内部に繋がるハッチを開け、ブリッジへと急ぐ。

 度重なる攻撃によりウルフラムの至る箇所に穴が開いており、壁が崩れて瓦礫になっているところもあった。

 ブリッジの扉が開き、ラゼは敬礼して中に入る。


「来たか」


 だが、艦長席に座っていたのは副艦長のイリアムだ。その周囲にはイリアム一派の取り巻きが待機している。


「副艦長?」

「今は艦長代行だ。艦長は今回の戦いでウルフラムを大破させた裏切り者として牢屋に放りこんである。他にも部下を無駄に死なせた過失の責任がある」


 その理屈は通っておりラゼは反論は出来なかった。


「他にも色々と罪状はあるが、まずは何としてでもウルフラムを中間基地まで帰還させる必要がある。敵襲があれば出撃を命じる。それ以外の時間は工房の復旧作業でもしていろ」

「……はい」


 ここにリモネアがいないのであれば当分来ることは無いだろうと思い、敬礼して踵を返した。

 向かった先は工房だ。いつもなら賑いのある場所だが、今は物資も人員も少ない。機体があったハンガーの辺りには死亡した仲間の遺体が並べられていた。彼らの前に立って両手を合わせ黙祷する。


「あっ、ラゼ?」


 片腕と頭部に包帯を巻いている整備兵の一人がラゼに気付き、其方を向いてみると他の整備兵たちも負傷部位を抑えつつ近寄ってきた。


「皆……」

「ラゼ、よく無事で戻ってきてくれた。機体、バチェリースは?」

「こっちには置けないって聞いたから甲板待機してあるよ」

「オッケー。じゃ、一機分だけでもスペース作るか。おーし、皆、やるぞ!」


 彼が比較的動ける者に声をかけると『工房長のつもりかー』とか『やってやるか』等、そこらから軽口飛んでくる。ラゼも笑みつつ、アジルカの姿が無いことに気が付いた。 


「そういえばアジルカさんは?」


 それを聞くと彼らは笑いを収めて視線を地面に落とした。


「あー……それなんだけど、アジルカさんはさっきの戦闘で死亡したんだ。ほら……」


 彼が指を差した方向は砲弾が直撃したらしく壁が吹っ飛んで周囲は焼け爛れていた。恐らくそこで運悪くアジルカは作業していたのだろう。


「そっか……」

「遺体はこっちだ」


 彼の後に続いてハンガーの一番右端に向かい、一際小さな遺体が布袋に包まれていた。その御前で黙祷し、顔を上げた。


「さてと、これは独り言なんだけど――」


 彼は腕を組み、踵を返してやや大きめの独り言を告げた。


「リモネア艦長、今回の責任がどうとかで牢屋に入れられているみたいだけど本当は戦闘前に副艦長がクーデターを起こしたんだ。……艦長が指揮を執っていれば結果は違ったのかもな」


 はぁ、と彼は一つ溜息を付いて帽子を被りなおした。


「副艦長の野郎、今回の戦いで受けた傷を全部艦長のせいにするつもりらしい。……ここに残ってると命が無いかもしれないぜ」

「……うん」


 ラゼは小さく頷き、彼は工房室に向かって歩いていく。


「さてと、作業するかな。ラゼ、悪いんだけど牢屋に行って小包を取ってきてくれないか? 持ってきたら格納庫の端にある小型のボートに乗せて買い出しに行ってきて欲しい。お金と一週間分の食料は積んでおくからさ」


 彼のおせっかいにラゼは不謹慎にも微笑んでしまい、彼も彼で後頭部を掻いた。


「あー、あと帰ってこなかったらMIA判定付けておくからな。これ鍵な」

「うん、ありがと」


 鍵を受け取り、ラゼは駆け足で工房を出て牢屋へと走って行く。工房及び整備兵のほとんどは副艦長一派のことを良く思っておらず、リモネアの方を支持する者の方が多い。

 牢屋の警備は人手不足ということもあって居ない。監視役の兵士も食事を届けに来る以外は復旧作業をしている。そんな静かな牢屋の中でリモネアはベッドに寝転がり目を閉じていた。

 副艦長のクーデターは思考したことはあったが軍人である以上表立って実行することは無いと思っていた。


「は~……」


 何度とも知れない溜息を吐き、島へ向かったラゼと自由の消息を案じる。激しい戦闘があったのは把握出来ているが艦内の状況は把握できていない。艦長だった立場もあって今の状況は凄く気になる案件ではあった。

 コツコツと歩いてくる足音がする。リモネアは体を起こして眠たげな眼を開けてベッドに腰かける。昼食はさっき済ませたばかりなので恐らく副艦長かその一派の連中だろうと推測を付ける。


「リモネア艦長~」


 ラゼの声が聞こえる。リモネアは思わず肩を震わせてその場で軽く身だしなみを整え、姿勢を正して座りなおす。ラゼの姿が見える頃にはいつも通りの艦長らしい姿に戻っていた。


「艦長!」

「ラゼ君、戻ってこられたんですね」

「はい。艦長も無事みたいですね」

「ええ……ラゼ君、状況はどうなってるか分かりますか?」

「……はい」 


 ラゼは今まで起きたことを分かる範囲で説明し、自由たちがMIAになったこと、アジルカが死亡したことを告げた。


「……そうですか……」


 リモネアは視線を背け、少しの沈黙の後にラゼを見上げた。


「ラゼ君。貴方はウルフラムから逃げてください。このまま此処に居れば恐らく中間基地に到着と同時に捕縛され、要らぬ罪状を押し付けられることになるでしょう」

「なら、艦長も――ううん、リモネアも一緒に連れていくよ」


 そう言うとラゼはポケットから牢屋の鍵を取り出して錠に差し込み、解錠して牢屋の扉を開いた。

 リモネアは、その申し出は嬉しかったが艦長として断らざるを得なかった。


「……いいえ。私は行けません。艦長として最低限今回の責任は取らないといけません。なので――」


 ラゼは牢屋を開け放って中へと入り、リモネアの体を抱きかかえる。


「え、ちょっと、ラゼ君!?」

「ごめん。もう脱走準備は整ってるので連れて行くよ。それに整備兵の皆も協力してくれているんだ」


 リモネアの体を軽々と抱えてラゼは急いで工房へと駆ける。有無を言わせない態度と実は肉食系男子だったことにリモネアは胸をときめかせつつラゼを見上げる。

 ――い、意外と男の子なんだなぁ……。  

 効果音を充てるならばズキュゥゥゥゥゥン! が適切だろう。


 工房に戻ってくると整備兵の何人かがラゼたちに気付き、そっぽ向きながら指をボートの方へ向ける。ある者は整備室からブリッジとの入り口を遮蔽し、ある者はブリッジにいるオペレーターに合図を出してレーダーと熱探知を切らせ、ハッチを開けさせる。

 整備兵が用意したボートは退艦用のゴムボートに小規模魔道炉を取り付け、下地を余った予備パーツで補強し、銃火器を装備した強化ボードだ。

 ボートを発進させ、ラゼは一度背後を振り返った。そこでは整備兵たちが何も言わずに親指を立てて笑みを浮かべており、ハンガーに運び込まれたバチェリースは二度と作れないように完全分解オーバーホールされていた。


「皆、ありがとう」


 リモネアは残された彼らを心配そうに見上げ、そんな心配を他所に彼らは大手を振って見送った。

 ボートが小さな駆動音を立てて海上を進み、完全に姿が見えなくなると整備兵たちは満足げな表情で作業に戻った。


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