第四十二話・試験官は当然半殺し
グラたん「第四十二話、ようやくまともな話に復帰です」
???「ふふっ、ようやく私の出番ですね」
グラたん「伏線らしい伏線は無かったはずですけどね」
???「良いのですよ。スルト様のお傍に居られるのなら……」
ラグナロクから一週間が過ぎ、季節は桜の花散る三月の末。
朝の八時。全員が刑期を終え、制服を着て学校の前に来ていた。
男子の制服は紺色の丈の長いブレザー。中はなんでも良いらしくTシャツが多い。ズボンも同様に紺色の長ズボンだ。着心地は金を掛けているだけあってとても良い。
女子はピンクの服とスカートが一緒になっている長袖制服だ。名称は疎い俺には分からない。丈の長さは膝くらいだ。胸元には大き目の赤いリボンが付いている。
ちなみに夏服はこれが半そでになる。
さて、今日来たのは試験を受けるためだ。試験は知っての通り実技と筆記。そして面接だ。
前には六名の教師。内、四名は俺たちが送り出した工作員だ。新人でも使えるのなら使おうという魂胆だろう。
「嵩都、今日こそは負けないぜ。三連敗は食い止めて見せる」
今回もいつも通り亮平と試験勝負をしている。
「むっ、自信ありげだな」
「当然だ。この日のためにアレ以来脳を勉強と格闘に費やしたらな!」
「そうか。なら、頑張って満点取れよ」
俺たちの間に引き分けという文字はない。引き分けた場合はお互いが望む者をお互いが買うことになっているからだ。
「ほほう。満点と来たか。自信過剰は身を滅ぼすぞ?」
「フッ、まあ見ているが良い―――そろそろだな」
校門前で待っていると若手の教師が門を開き、その顔を見せた。
「それでは定時になったので試験を開始する。ついてきたまえ」
学校の中に入る。門は厳重警備。城門かというほど大きい。
学校のキャンパスは白だ。大学のような構造だと分かる。
中央には噴水があり、芝は良く刈られている。花壇も手入れされていてバラ園もある。
先頭にいる教員たちは中央から右へと進む。中央が本校舎なのだろう。左が実技棟みたいな建物だからだ。
右の建物に入る。階段を降りて地下へと進む。
教師が扉を開けると大講義堂のように広い場所へ出た。
「席は前から順に座ってくれ」
教師に促されて座る。そこへ別の教師が手際よく試験問題を配っていく。
ストレージからペンを取り出す。
少し待つと全員分配り終えたようで段に昇った先程の若手教師が口を開いた。
「問題用紙が無い者はいるか? ……いないようだな。それでは、始め」
合図と共に試験が開始された。
三十分ほどが過ぎ、筆記試験が終了した。
思ったより簡単だったな。満点近くは固い。
実技の会場である演習場に来た。ここでは学科ごとに分かれて試験をする。
俺は魔法学科だからそちらに移動する。
「え、えっと、試験官のヴェスリーラです。よろしくお願いします。試験の説明をしますね」
……ええ、彼女、教師になっています。四天王なのに! 仕事は部下に任せておけば円滑に進むからと言って志願してきました。そして今に至る。
試験内容はどの属性でも良いから正面にある的に当てる、もしくは破壊すること。
ただし、破壊するのは余程強力な魔法を撃ち込まない限り壊れることはない。
的の頭上には採点の機器が乗っている。破壊したら測定不能なので満点が得られる。
「い、以上です。順次試験を始めてください!」
ヴェスリーラの説明が終わると我先に、と並び始める。
「行くぜ! 燃えろ、俺の魂。俺の心! シグナルビィィィト!! タル・ファイア!」
最初を飾ったのはヒキだ。42点を取った。ちなみに30点以下は赤点だ。
厨二をこじらせた恰好のまま採点を受けて固まった。
これはプレアから聞いた話だが武術科にも採点機があり、アネルーテが少し難易度を上げているそうだ。これは生徒の質を上げるための措置だそうだ。
「ス――――オホン。次の方、お願いします」
ヴェスリーラや四天王、魔王の工作員には俺がここにいることを知っている。
当然、正体が分かったら俺はここにいられなくなるので朝宮嵩都で通して貰っている。
さて、俺の番だったな。的に向けて手を伸ばす。
――――ボキュッ
鉄骨と的が潰れるような音が響いた。
俺が使っているのは空間圧縮の魔法。特に規定は無かったから消滅するまで潰す。
ちなみにこの魔法の使い方は物を潰す(ただし家庭的なゴミを処分する)という攻撃的な方法や物体を小さくして後で戻すという方法が一般的だ。
ゴキュ、ベキベキ、バキョ……
―――凄まじい音をたてて的が潰れていく。
そして最後にプチンという音をたててその的はこの世界から消え去った。
「あ……えっと、はい。満点です」
背後からざわめきが上がる。ま、当然だな。
「すげぇな、嵩都」
そう言ったのは佐藤だ。こいつは意外にも87点を出している。
「そうか? 構造を見て壊す順序を決めれば簡単だぞ」
「あー、なるほど。そういう考え方があったか」
佐藤はすぐにポケットからメモ帳らしきものを取り出してメモしている。
俺の言葉から何か手かがりを得たのだろう。というか壊す順序だぞ?
「あ、これで最後ですね。試験を終了しますね」
メモが終わると同時くらいに試験も終わりを告げた。この後は面接だな。
面接は男女の五人のグループでするようだ。五グループに分かれて控室に向かう。
それと27というカードを渡された。これが俺の番号のようだ。
俺の他に佐藤、鈴木、後藤、青葉がいる。特に話すこともなく皆無言だ。
待つこと数十分。終わった奴らが小声で雑談しながら帰って行く声と音がする。
少しすると教師が控室の扉を開く。茶髪赤目の小さな先生だ。
身長は目測で137cmほどだ。小さい……。
多分、本人はコンプレックスに思っているだろうから黙っておこう。
「次のグループ、25、26、27、28、29、どうぞ」
順番が来たようだ。意外と早かったな。
廊下を歩き、三階へと上がる。そして待ち時間なしでプレートに会議室と書かれた部屋に案内される。
「どうぞ、入ってください」
『失礼します』
中に入ると案内してきた教師と白髭の偉そうなおっさんがいた。ご丁寧に腕に足まで組んでいる。傲慢というのが実に会っている。誰だ、こんな奴教師にしたのは。アネルーテの仕業ではないな。プレアもこんなことはしない……金と権力でも使ったのか。 ボンボンが。しかも代表的とでもいうべきか太った中年のおっさんだ。
「座れ」
俺からしたこの教師への第一印象、うぜぇ。が、とりあえず座る。
「それでは面接を始めます。本日、面接官を務めさせていただくネイル・ロンバーテと言います。よろしくお願いします」
「吾輩は誉れ高きアルツハイマー家が次男、ドルベクア・ア・アルツハイマーである」
もうこの女性教師だけでいいのではないかと思えて来た。
というかアルツハイマーって認知症の英名じゃなかったっけ?
しかも次男かよ。どこまでも残念だな。この豚野郎は。
「では、右の方から名前と番号をお願いします」
「25番、佐藤大典と申します」
「26番、鈴木博太です」
「27番、朝宮嵩都です」
「28番、後藤咲といいます」
「29番、青葉阿嘉です」
「ふん! 貴様があの薄汚いST工房の親方か」
「ドルベクア先生、面接中ですので私情を挟まないでください」
佐藤が一瞬スキルを発動しかけた所にネイル先生が注意した。
「ちっ」
どう考えても敵視しているな。大方、STに客を取られ続けているとかいう恨みだろう。
ネイル先生が手元の資料に目を落として佐藤に目を向けた。
「それでは、まず佐藤さん。貴方はST工房を経営しているそうですが学校にきて支障はありませんか?」
「問題ありません。それに私が経営しているのではなく相方の工房です。商売に関しては私が製作した魔導を使った人形がいます」
「そうですか。抜かりないようで何よりです」
へえ、魔導人形ね。色々作る物だな。
「では、次に鈴木さん。貴方は先日、フェルノ・ソルヴィーさんとご結婚なされ、更にはフェルノさんと同居……そしてそのフェルノさんも本学に在籍しています」
その言葉に豚の眉間に皺が寄った。
「そのような低落でこの学校に通えるとでも思っておるのか!」
黙れ豚が。言っていることは分かるが鈴木はそんな考えなしじゃない……はずだ。
「言い方は悪いですがドルベクア先生の言う通りです。妊娠および中退の場合はどうするつもりですか?」
「そこの辺りはフェルノと話しが済んでいます。フェルノが卒業するまではしません」
「……なるほど。分かりました」
「ハッ! 薄汚い亜人の何が良いのだ」
一瞬、鈴木が豚に向かって殺気を飛ばした。
単純にどんくさいのか豚にはあまり効果がないようだ。
「先生。先程も言いましたが私情は控えて下さい」
「ちっ」
「次に朝宮嵩都さん。貴方は城内で一時料理人として腕を振るい、料理長及び数名に白旗をあげさせたそうですね。それは事実ですか?」
「はい。料理と言ってもお菓子で、ですけれど」
一瞬、ネイル先生の目が光った気がした。
「オホン。なるほど、腕前はあるようですね。それともう一つ、本学に在籍するプレアデスさんと交友関係があると不純な噂が流れているようですがそれは事実ですか?」
「そういう関係は一切ありません」
「でしょうね。根も葉もないプレアデスさんを妬む人が流した噂ですから」
特定出来ているのなら捕まえて置けよ!
そんな俺の願いもむなしく次に進んで行く。
「次に後藤さん。貴方は少々魔法実技に不安があるようですが授業についていけそうですか?」
「精進します」
「まあ……不安というほどの不安ではなさそうですけど……」
どうしたのだろうか? 下手に首を突っ込むのも野暮か。
「そんなので授業についてこられるのかぁ?」
「黙っていてください」
そろそろネイル先生も怒りそうだ。学習しろよ、豚が。
あ、ちなみに本物の豚さんとは別種だぞ? あっちは料理でよくお世話になるからな。
「最後に青葉さん。貴方は語学に不安があるようですがどの程度ですか?」
「はい。この世界の言語については問題ありません。ただ、地域ごとの文字がまだ少し憶えられていない箇所がある程度です」
「ハン! 言葉も満足に扱えない下民が何故こんなところにいるのか理解に苦しむな」
そんな豚の言い草に青葉が顔を俯けた。
「いい加減にしろやてめえ!」
「さっきから聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!」
流石に佐藤も鈴木も立ち上がって怒った。止めるか。
「落ち着け二人とも。この豚は口がお粗末だが言っていることは一理ある」
「誰が豚だ! 愚か者!」
あ、やべ。口が滑った。ま、無視しておこう。
俺も少なからず不快感を抱いているのを感じて博太たちも怒りを抑えた。
「まあ、一理あっても百以上の害があるのだが……」
「使い方が微妙に違うけどな」
「……とにかく今は面接中だ。座っておけ」
「そうだな……失礼しました。ネイル先生」
佐藤に続いて鈴木も頭を下げる。
豚はもう無視する方向で行くようだ。
「この私を無視するとは何事だー!」
「先生、これ以上そのような口を挟むなら退出していただきますが?」
怒った豚にネイル先生が強い口調で抑止する。
確かにこの分だと面接が終わるのに一時間はかかりそうだからな。
豚は怒りながらも足を組みなおした。
「今の事態は目を瞑っておきましょう。私からの面接は以上です。どうぞ」
「フン! この私を無視したのだ、貴様等全員零点だ!」
「以上で私の面接を終わります。お疲れさま」
ネイル先生が嘆息し、豚を空気化させて面接を終えた。
俺たちもそれに異議は無いので立ち上がる。
『ありがとうございました、ネイル先生』
「いい加減にしろ! なんど私を無視すれば気が済むのだ!」
さ、帰るか。豚は放っておいて。
青葉から順に扉に向かう。
「おのれ、薄汚いSTに亜人と仲良くしている下賤に薄汚い小娘と交際している愚か者がぁ!」
青葉が扉に手を掛けた時、俺の足が止まった。
「ぶ――ドルベクア先生? 誰が薄汚い小娘なのですか?」
「決まっておろう! プレアデスのことだ! 他に誰がいる!」
「ドルベクア先―――」
流石にネイル先生が立ち上がったが――――許さん。
「お、おい、朝宮! 何をする気だ!」
ヴァルナクラムを抜き放ち、生きている価値もない豚に近寄る。
「ハハ、何をって決まっているだろう。――――殺す」
俺の怒りを知ってか、豚は椅子に足を引っ掛けて無様に転び、後ずさる。
「な――愚か者! そ、そんなことをすればレッドカラーになるぞ!」
「ハッ、それがなんだ。そんなのは脅しにもならん」
「ひ、ひぃ……」
黒くない俺本来の魔力を纏い、威圧する。
「コイツにはプレアを愚弄した罰が必要だ。死ぬよりも恐ろしい、俺という恐怖を刻もう。寿命を過ぎ、例え転生したとしても俺に怯えながら生き続けるのだ。二度とそのような口を聞けぬようその体を切り刻んでやろう」
「ヒ……ヒィィ!」
豚がブヒブヒ言いながら椅子から転げ落ちて壁際に寄って行き、角に追い詰める。
「まずは全身を血に染めてやろう。舞え、真空波!」
腕を加速させて振るい、小刻みの真空波を飛ばす。
見えない風の刃は豚の手を、足を、胴を、醜く歪んだ顔を切り刻む。
血が溢れ出る。まだだ、まだ物足りない。
「ひ――うぎゃぁああああ!!」
「オレンジにならないのがシステムの良い所だな。さあ、足から小刻みに斬り落としてやろう」
「や、やめろ! 私を誰だと思っているのだ! このような行い、神が許さんぞ!」
神……神ねぇ……。ククッ、神オーディンは既にこの世から死んでいるというのに貴様等はそれを知らずに未だに崇めているのだからおかしなものだ。
「そうか。その神とやらは何時俺に裁きを下す? 今日か? 明日か? くだらない。ああ……なんとくだらない。神などと曖昧で都合の良い妄想に助けを求めるとは何とも無様だ。裁きは来ない。代わりに俺が貴様に裁きをくれてやる!」
ヴァルナクラムを振るい、両手両足を同時に切り落とす。
生きの良い手足が斬れ飛んでピチピチと動く。そして血の匂いが部屋に充満していく。
「ぎゃぁあああああ!」
「おおっと、いけないいけない。思わず手が滑ってしまった。もっと苦しませないと」
不思議と口元がにやける。人間を甚振るのは背徳感を感じる。それがまた堪らない。一歩近づく度に恐怖が刻まれて行く。
豚は惨めにも生き延びようと足掻き、逃げる。それを追いかけ、追い詰めていくのは快感すら覚える。
「ヒィ――」
豚は血を流し過ぎたのか、俺に恐怖し過ぎたのか気絶しやがった。全身から色々な液体が零れている。
全く、楽しいパァティはこれからだってのに。
ともかく、ヴァルナクラムは仕舞って黒の魔力を僅かに纏う。
「気絶すれば助かるなんて思うなよ」
邪神スキル発動。スキル:夢幻現想。
自身が生を受けてから今まで体験した思い出が全て恐怖の記憶に塗り替えられる。
目が覚めれば聞こえてくるのは全て裏切りの幻聴。
目を閉じれば己が生きて来た過去の塗り替えが始まる。
要約すればこのスキルは対象を狂わして精神崩壊させ、死に追いやる魔法だ。
黒い靄が豚の耳から入って行く。これでスキルは完了だ。
「あ、朝宮さん! そこまでですよ。それ以上の暴力を加えるなら貴方を捕縛します!」
ネイル先生か。意外と度胸があるな。
だが、もはや手遅れだ。豚は助からない。
「出来るかな、貴方に」
「します! 先生は生徒を守ることが最も大切なことだと思っています。貴方が人生を棒に振らない様に道を示すのも先生の役割です!」
理に適っている。やっぱり良い先生だな。最も、俺に関してはもう手遅れだけど。
だが、この糞豚も痛みと恐怖で気絶しているようだし頃合いだな。
「ふぅ――……分かりました。確かに少しやり過ぎたようですね。ここらで止めておきましょう」
ネイル先生は自分の説得が成功したのだと思っているような表情だ。
「さて、せめてもの情け、止血くらいはしておきましょう」
俺はわざわざ止血と回復魔法を糞豚にかけてやる。
先生は少し意外そうな表情で俺を見ていた。
「では、失礼いたしました」
『失礼の度合いが違う!』
全員から総ツッコミを食らった。そう言えばこいつらもいたな。
今度こそ皆と一緒に会議室を失礼する。
ネイル先生はすぐにリンクを飛ばして医者を呼んでいるようだった。
グラたん「グロ注意」
鈴木「今更だな!?」
佐藤「何もかも手遅れだな」
グラたん「はい、すみませんでした。では、次回予告です」
嵩都「次回、納得いかない。だからグラたん、お前を殺す」
佐藤「嵩都、真面目にやれよ」
嵩都「(無言で次のタイトルを見せる)」
佐藤「(無言で頭を下げ、合掌)」
グラたん「いやいや!? 私が死んだら物語が終わりますよ!?」
嵩都「安心しろ、文章は目、脳、指があれば書ける。つまりそれ以外――例えば椅子に括りつけて足の指をペンチで切って持続再生魔法を掛け、生えたらまた切るとかが出来る。大体半日に一回のペースで生えるみたいだから一日四回拷問する。それ以外は書いていられるぞ」
グラたん「まともな思考力が残っていると思いますか?」
嵩都「意地で書け」
グラたん「無茶苦茶ですね!」




