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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
439/466

EX7 魔道戦記ST

グラたん「ST7話目です!」


 敵艦シュバイツァーもその熱源を探知し、砲門をウルフラムへと向けた。

 一瞬の睨みあいの後、先に武装展開をしていたシュバイツァーが船の上部から伸びている二連装大型魔導砲を発射した。弾丸の大きさは300mm程度だ。続けて背部、側面に装填されている大型ミサイルを噴射し、24発のミサイルが迫ってくる。


「黒騎馬から魔道砲4、ミサイル24発!」

「対空火器でとミサイル・アモン、ベリアルで迎撃! 魔道砲は回避して!」


 ウルフラムに備え付けられている対空火器がミサイルに向けて自動標準され、側面から対空ミサイルランチャー、ネームをアモン・ベリアルと名付けられたミサイルが飛翔していく。

 シュバイツァーのミサイルは数発を残して迎撃され、カウンターで放たれたウルフラムのミサイルがシュバイツァーに直進していく。

 画面を見てみると残された3発のミサイルは誘導を失って付近の海へと着弾しそうだった。


「総員、対ショックを用意してください!」


 海面に着弾すると巨大な水しぶきが上がり、ウルフラムの視界を白に染め上げた。爆音と衝撃波が船体を軋ませるが被害は無かった。


「状況は?」 


 オペレーターに問いつつ画面を見るとシュバイツァー以外の敵艦が迫ってきているのが見えた。そのいずれからも砲門を向けられている所を見るに、先ほどの砲撃が脅威とみなされたのだろう、とリモネアは思った。


「敵艦、敵艦5隻がウルフラムに向けて砲門を集中しています!」

「引き続き対空を用意してください。本艦は味方の軍と足並みを揃えるため後退してください」


 リモネアの指示にガタンと音を立てて副艦長であるイリアムが立ち上がった。


「艦長、ここは攻撃する場面です! 本艦が後退などしたら味方が押されていると思い込みます」

「いいえ、後退です。ウルフラムは高火力を持っていますが特別艦ではありません。敵5隻、それも黒騎馬を含めての艦隊ともなれば中破は免れません」

「戦場に出る以上多少は損害があります。今、ここで我らが踏ん張らねば戦線は崩壊します! そんなに自分の命が大事ですか!」


 またか、と船員たちは思う。戦場でなくとも様々な場面で艦長と副艦長が対立することは多く、とても友好的な意見の躱し合いでは無かった。

 リモネアは味方よりも部下の命を尊重しているが、イリアムは部下よりも味方レアル軍としての命を尊重している。


「副艦長、私は何も本陣まで後退するとは言っていません。味方と連携しようと言っているのです」

「では尚の事ここで食い止めるべきです! 敵軍を完全とは言えなくとも叩けるだけ叩いておくべきです!」 


 イリアムの手柄が欲しいという魂胆は透けてみえるようだった。


「副艦長、本艦はこれより後退し味方と合流して敵を迎撃します。これは命令です」


 軍人である以上イリアムとて艦長に逆らうことはできない。どれだけ嫌な命令だろうが従わなければ軍法裁判にかけられてしまう。そうなれば貴族としての爵位だけでなく家そのものが断絶されかねない。


「……了解、しました」


 ちっ、と小さく舌打ちした音もリモネアの耳には聞こえていたがこれ以上無駄な時間は取りたくないと考え、指示を出した。


「第四艦隊、第七艦隊に通電。これより本艦は一時後退します」


 それを逃がすまいと敵の砲撃が迫ってくる。ウルフラムは回頭をすることなく後退し始め、背後からは通信を受け取った第四艦隊と第七艦隊が向かって来ていた。



 空中。戦艦同士の砲撃の最中に飛び交う物体がいくつかある。中には戦艦の甲板に足を乗せ、搭載された機銃やミサイルポッドを発射して迎撃する個体もあった。

 それはARもしくはSTと呼ばれる近代の主力機だ。

 ST、ノマル軍の主力であるこの機体はレポンと呼ばれており、陸戦、宇宙戦を主な戦場にして活躍している機体だ。今回は海戦使用に変更されており、水上を駆けるためのブースターと浮力と反発を利用した素材を用いた蹄を足に装着して海上を走り抜けていた。

 装備しているのは対艦隊用の200mmバズーカ砲だ。

 対するAR、レアル軍の主力はウェガスだ。モノアイが特徴的な機体であり、此方も海戦使用となっているがラゼ機を始めとしたウルフラム艦隊の機体は空戦使用であり、空中の優位性を見せつけていた。


「ラゼ! 下からも来るぞ!」

「う、うん!」


 当然ながら海上からの流れ弾や砲撃の的にもなりやすいため一長一短ではある。

 しかし、速度を重視したこの二機は戦場を疾風の如く駆け抜け、すれ違いざまにマシンガンを砲撃を敵機に浴びせて去って行く。


「七機目!」


 だいぶじゃじゃ馬の扱いにも慣れてきたラゼは中距離ならばマシンガン、200m以内ならナイフによる突撃を繰り出し攻撃するヒットアンドアウェイの戦法で撃墜数を稼いでいた。


「そら、九機!」


 その近くでは自由が敵の顔面に蹴りを加えて無力化し、撃墜数を更にマークしていた。


「ンフフフ、二人とも頑張るわね」


 背筋が凍るような声に二人の顔が強張る。そのビンルは二人の背後をついていくのに精いっぱいであり精々仕留めそこなった獲物を撃破するだけに留まっていた。


「でも残念。ウルフラムがちょっと追い込まれているから移動するわよ」

「えっ!?」


 ラゼもウルフラムの方に探知を向けてみると確かに戦線位置が後退しており味方艦隊の中から砲撃している様子が分かった。

 すぐに戻ろうと転身しようとするとその背後にビンル機が立っていた。


「なら、すぐに戻らないと!」

「大丈夫よ。ああ見えてもウルフラムは固いのよ。それに味方と一緒なら両軍とも損害が大きくなるのを恐れて砲撃合戦に努めるはずよ」


 それも一理ある、とラゼは思いとどまった。


「じゃあどうするんですか?」


 自由が代わりに聞くとビンル機からデータが送られてきた。それを解析してみると戦場全体の図面が表示された。


「見て分かる通り戦線は膠着状態。でも、私たちが今いる位置って敵の背後を叩くのに絶好だと思わない?」


 ラゼたちが今いる位置は敵軍から真横に離れた位置だ。そうなるようにリモネアが位置調整をしてビンルに指示を出していたりする。

 その偶然とは思えない位置取りに自由とラゼは画面越しに頷いた。


「じゃあ行くわよ。と、言っても自由ちゃんが先頭でラゼちゃん、アタシの順で行くわよ。行動は素早くお願いね」


 ハートが罅割れるような投げキッスに自由は思わず画面を閉じ、隊列の先頭になって一度背筋を震わせた。それからラゼに通信回線を開いた。


「ラゼ、行けそうか?」

「うん。自由こそ大丈夫?」

「誰を心配してんだっての。――うっし、行くか!」


 ラゼを心配しての通信だったが当人に怯えが無いなら問題はない。通信を切って自由は機体の右手にマシンガンを持ち、弾薬を装填しつつ先行する。その後に続いてラゼも追従していく。最後尾にはビンルが機体を走らせるが時速500km以上で先をいく二人には追い付けず後から移動していく。

 移動にかかった時間は約30秒。敵も無能ではないがレーダーに反応し、艦長が指示を出す頃にはもうラゼたちが戦艦の前まで迫っており、ビーム射撃によって戦艦のエンジンは破壊され航行不能に陥った。

 その戦艦を楯にしつつ高速で移動し、他艦隊の背後に迫り、同様にエンジンを潰していく。直接ブリッジを狙う方が確実ではあるがラゼからすれば今は敵とはいえど少し前までは自分を守ってくれていた艦隊でもあるため撃墜することは出来なかった。


「これで3!」

「2つ!」


 ラゼが3隻、自由が2隻潰した段階で敵のレポン小隊が戻ってきた。数は五小隊、十五機だ。


「ラゼ! 敵さんが来たぜ!」

「うん!」


 自由の一瞬の通信に頷きを返し、二人同時に大きく迂回して敵小隊に突撃していく。水中用のレポンは陸戦時より機動力が半分ほどに落ちる。ラゼと自由からすれば案山子も同然のため危なげなく頭部のメインカメラを蹴りで砕き、近接ナイフで両腕を切断して戦闘不能にさせていく。


「ば、馬鹿な! 速い!」

「あれがARだと!?」


 さっきも見たような反応だがラゼたちに声は聞こえない。全機撃墜したとはいえ死傷者は0人。敵が全滅したのを見てラゼは自由と合流し、後から追ってきたビンル機の元へ向かう。

 そのビンルも二人が全滅させた敵を見て通信を開き、素直に称賛した。


「あら、ヤダ。二人で5隻15機なんてエース級の戦果じゃないの」


 ただし敵兵を絶命させない辺りはまだ甘いと評価を付けた。


「ビンル中尉、このままウルフラムの援護に行きましょう」

「ンフ、自由ちゃんヤる気満々ね。オッケー、パーティーに参加しましょ――」


 ビンルが言い終える前に全員のレーダーに熱源を感知した。その発信源はシュバイツァーがいる方向から直進してくる機体だ。


「敵が一機……ううん、後方にもいるから二機」

「照合――無し!? 新型か!」


 それはレポンとは違い、完全な人型をベースにした機体だった。頭部には一本の角があり、全体が黄色をベースに塗装されている。右手にはビームライフルを持ち、腰にはマシンガンを装備している。全体的に厚みのある装甲を装備しているのにも関わらずその速度は通常運転時のラゼ機に匹敵する約550km。名称を是碓。

 テーニは味方の全滅という惨状を見て目の前にいる三機――否、新型二機を脅威と判断した。


「ちっ、初戦から新型相手とか付いてないぜ……」


 テーニは突撃することなく一度右手に迂回して距離を保ちつつ敵の様子を見る。敵も銃口を構えて動き出したが大雑把な狙いは付けても撃ってくる気配はない。流石に不思議に思い、サエラに通信を開いた。


「サエラ、あの二機は敵なのか?」 

「隊長機のウェガスは敵照合があるわ。恐らく新型二機も敵だけど向こうもこっちを警戒している」

「どうする? やるか?」    

「小手調べだけね。無理に撃墜しようとは思わないこと」

「オッケー!」


 そうと決まればテーニの行動は早い。速度を700にまで上昇させて左手にマシンガンを持ち、ラゼ機に向けて牽制射撃する。


「撃ってきた!」

「ラゼ! 数で勝ってるけど油断するなよ!」

「自由ちゃんとラゼちゃんは角突きをヨロシク。アタシはオレンジをやるわ」


 ビンルが指示を出し、ラ自由は是碓に向けてマシンガンを放ち、ラゼはナイフを抜いてギアをマッハ1にまで上げて迫る。


「速っ!? だが!」


 腕部に向けて繰り出された薙ぎを是碓が予測し、テーニが体を軽く引いて回避する。


「躱された!」


 当たると確信して振ったナイフが空振りし、ラゼは驚愕したがスピードは落とさずにUターンしてもう一度迫る。今度は更に加速して膝蹴りでメインカメラを破壊しようと試みる。

 しかしそれもしゃがんで回避され、ラゼは驚きつつもナイフを下方に向けて投げ、是碓の腰に用意されていたマシンガンに命中させる。


「ちっ!」


 予測してもその上をいく反射攻撃にテーニは舌打ちする。ナイフはマシンガンの銃口部分に刺さっており使えそうにない。暴発するよりはマシと考えてマシンガンを着脱して捨てる。

 速度は完全にラゼに分があり、数も二対一と不利。


「是碓システム、起動!」


 ブーストを最大に加速させ、バランスを保ちつつ、音声認識で起動する是碓に備え付けられたコマンドを発動させる。メインカメラの光が緑色に輝き、画面の淵が赤くなったことで言葉が受諾されたことを示していた。


【ZEUSシステム、起動確認。速度、予測制限を解除】


 コックピット内から無感情な音声が響き、是碓機の本体から僅かに赤く輝いた。ビームライフルの照準が自由機に向けられ、自由はすぐにその場から移動したが左腕に被弾した。よく見ると被弾したのは二発目であり、一射目は左足を掠っていた。


「なんだ? あいつ、急に動きが! ラゼ、気を付けろ!」


 通信を開いて忠告しつつマシンガンを打ち続けて牽制する。

 ラゼも敵機を見てナイフを仕舞ってマシンガンに切り替え、一定の距離を保ちつつ発射し続けながら自由と通信を続けた。


「いつまでもあんな状態が続くわけがない。攻撃を続けよう」

「おう!」


 お互いに攻撃し合わないように十字砲火を主体にしつつ射撃を続け、一定の距離を保ちつつ牽制する。是碓の狙いは速度の遅い自由機に集中しており、距離が近くなり過ぎればラゼが接近してすれ違いざまに近接を繰り出して距離を稼がせる。


「くそ、やり辛い……」


 高度AIの予測を以てしても倒しきれないことにテーニは歯を噛んで耐える。マップを横目で見るとサエラは敵隊長機と交戦しているらしく密接している。少しすると二機が動き出し、ラゼもそれに気付いた。


「ンフ、ラゼちゃん、自由ちゃん。敵機を捕獲したわ。こっちを護衛してくれる?」

「了解!」


 ビンルから通信が入り、ラゼと自由はビンルと合流すべく動き出した。テーニもそれを追おうとし、同時にシュバイツァーから停戦信号が発射された。テーニは驚いて通信画面を開いてシュバイツァーに問い合わせる。


「ちょっ、なんで停戦信号出したんだ!?」


 その問いは通信技師から返された。


「作戦本部からの停戦命令です。援軍が発進したため、到着するまでの時間稼ぎをするようにとのことです。それとサエラさんがMIA判定になりました」

「っ! なら――」

「落ち着いてください。MIAでも生存は確認されてます。今は引いてください」


 テーニは悩み、その間にも敵三機が合流し、是碓も撤退を推奨している。ZEUSシステムも終了し、エネルギーも2割を切っているのが視界に入りテーニは決断した。


「――了解ッ」 


 眉間に皺を寄せつつもその場を離れ、シュバイツァーへと帰還していく。


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