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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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EX3 魔道戦記ST

グラたん「ST3話目です!」


「中立の学生ね……」

「あの……」


 ラゼが続きを言おうとするとリモネアが手で制した。


「無事に降りられるか、でしょ? 残念だけどウチのALを初見で扱えるほどの人材をみすみす逃しはしないわ。中立の学生と言っても将来的に敵同士になる可能性もあるわけだし、そうなった時に苦戦するのって私たちなのよね。しかもここの最前線ならその可能性は十分過ぎるほどに、ね」


 それに、とリモネアは続けた。


「君はウチの最新鋭の機密と向こう側の新型を視ちゃったから帰っても無事にまた学生を続けられる可能性は低い。その上レアルの軍人を助けて機体に乗って動かした、この事実は町中のカメラに写っていると思うわ。それが物語る先は――解るわね?」


 リモネアの言葉にラゼは俯きつつも頷いた。

 中立であるからこそ表向きは何方の軍にも加担しないという法がある。ラゼの行動はそれに違反しており、法律上は銃殺刑だ。地球軍に保護されたとしても酷い目に遭わされるのは想像に容易い。


「君がちゃんと生き残れる道は二つしかない。レアルの軍に籍を置いて一生働くこと。もう一つは自由と同じように火星の学校に転校する。ま、転校しても良い目には合わないから軍属しちゃう方が楽よ」

「……そう、ですよね」


 リモネアの勤めて明るい口調に対してラゼの声は重い。

 その声は自分の行いを責めているようにも聞こえるし、テーニとの約束を果たせない悔いも感じられた。

 リモネアも急に決断しろとは言わない。人の一生を決めるのは自分であることは重々理解しているし、時間が必要なのも分かっていた。


「話は以上よ。あまり長くはないけど時間をあげる。確か自由の部屋ってまだ空いていたわよね?」

「はい」

「なら、しばらく面倒見てあげてくれるかしら? 年の近いもの同士の方が悩みも共有しやすいでしょうし」

「わかった。ラゼもそれでいいか?」


 自由の問いにラゼは頷いた。元よりそうする以外の選択肢はない。


「よろしく頼む、自由」

「おう! じゃあ行こうぜ!」

「あー……盛り上がってるところ悪いんだけど」


 そう言って勢いよく退出しようとするとリモネアが止め、告げた。


「無駄飯食らいを置く余裕はないから工房で仕事させてね。アジルカには言っておくら」

「了解であります、艦長!」


 自由が見様見真似の敬礼をしてラゼもそれに倣う。

 二人が退出した後でリモネアは深い溜息を付きつつも手元の呼び出しボタンを押して、待ち時間の合間にディスプレイを見た。

 ディスプレイにはラゼの大まかな事柄が乗っていて、最も注目すべきは最新機鋭であるALを難なく乗りこなしたことだ。これは間違いようもなく天才の所業であり、自由と組ませればウルフラムの戦力になるのは確実だった。


「……例の作戦を考えれば運が良いのかもしれないわね」


 小さく呟き終えると同時くらいにドアを叩き、開く音がした。


「お呼びかしら艦長さん」


 身長192cmの長身でありながらも体型は細身であり髪は茶髪。口には紅を指しており制服は男性用の軍服ではなく女性用の軍服を着ている。顔立ちは完全に青年であり声色は低い男性のそれだ。


「ビンル・ウィックマン中尉、やって貰いたいことがあります」

「あらあら、艦長直々なんて珍しいわね」


 リモネアも最初こそ驚いたが色々訳アリな人員の多いこの艦では慣れるということが一番最初の課題だ。

 リモネアは今見ているディスプレイにコッソリ撮影したラゼの写真を張り付けてビンルに見せた。


「この子はラゼというのですが、自由と一緒に中尉の中隊で鍛えてください」

「ふぅん。純朴そうで自由ちゃんとはまた違った感じで好みねぇ」


 ウフフフフと聞く人が聞けば寒気が奔る含み笑いをしていた。


「良いわよぉ。艦長が一押しなら鍛えがいがありそうだわ」

「お願いしますね。今は工房にいると思います」

「了解。それじゃ失礼するわね。ンフフフフフ」


 ビンルが去って、リモネアはこれから起こるであろう事柄を思い、彼らに黙禱した。

 しかしこれが間違った選択でないことは確信を持っていた。

 理由は無い直感の類だがリモネアはそれを信じるタイプだ。特に自分の直感には自信を持っており、ラゼと自由は間違いなく良いコンビになると思っていた。



 工房へとやってきたラゼは自由と一緒に整備の手伝いや運搬作業を手伝っていた。


「お前ってモヤシ体格なのに思ったより体力あるのな」

「体育の時間とかは軍属訓練が入っていたからね」

「……それ本当に中立の学校か?」


 ハハハ、とラゼが笑うと自由も釣られて笑った。

 その背後には二人より二回り以上も身長の高い男性が立っていた。


「ウフフフフ、可愛い坊やたちの麗しい友情と微笑ましい笑顔を見ているとあたしも笑顔になっちゃうわねぇ」


 ハハハ、と自由の笑いが一気に乾いた。


「な、ななななんでここにいらっしゃるんですかビンル中尉」


 震える声を絞り出しつつ自由は張り付いた笑顔で振り返った。


「あんら、やだもう! どうもこうも艦長さんに言われて二人を鍛えてあげるのよ」


 自由表情が酷く歪み、小さくゲェーと呻いた。


「自由、この人は?」


 ああそうだった、と自由は紹介を始めた。


「此方、ビンル・ウィックマン中尉。見ての通りのお兄姉ねえさんだ。間違ってもお兄さんとかオカマとか言うなよ。あと長身も厳禁な」

「自由ちゃん、それ本人の前で言うことかしら?」

「今更ですよね……」

「ま、良いわ。これからよろしくね、ラゼちゃん」

「えっと、よろしくお願いします。ビンル中尉」

「ん~、可愛いわねぇ。食べちゃいたいくらい」


 その言葉に自由が酷く怯え、鳥肌を立てる。ラゼもビンルの発言に寒気憶えて数歩後退る。ビンルはそれを気にせず踵を返した。


「さぁて、その荷物は早く置いて頂戴。早速訓練するわよー」


 ラゼは、自由が何か言う前に動いた。直感的に彼は危険だと判断していた。

 その後に続いて自由もすぐさま荷物を置いてラゼの後を追いかけた。

 三人がやってきたのはウルフラムの格納庫内で行われるいつもの訓練メニューだ。しかし中隊と言っても格納庫内にいるのはラゼたち以外には三人しかいない。ついでに言うと訓練メニューは柔軟や筋トレが主になっている。


「ハイハイ、小鳥さんたち注目~」


 ビンルが手を叩くと三人の少女たちは筋トレを中断してビンルの元へと集まった。


「今日から一緒に訓練することになった自由ちゃんとラゼちゃんよ。仲良くしてあげてね」


 ラゼと自由に三人の奇異の視線が集まる。

 一人は茶色の髪で身長は三人の中では一番小さい151cmのアレイス。彼女の視線はラゼに集中しており、時折にやけている。

 次に金髪ストレートで一番発育の良い体型をしているカロン。自由とは仲が良く話す内容も機械のことや機体についての話題が多いため気が合っている少女だ。

 最後に赤と茶色の入り混じった癖ッ毛の少女、ラエイ。ラゼにも自由にも興味は無さげで気だるそうな表情をしている。


「よ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「それじゃアレイスから自己紹介して頂戴。趣味と好みの男性のタイプも入れてくれるとグッドよ」


 ビンルに促され、アレイスがラゼに近寄っていく。その眼はまるで子犬のような輝きを灯していた。


「私はアレイス・ケイロキャード。階級は上等狙撃兵よ。ねぇねぇラゼ君、リース少尉のAL動かしたって本当?」

「は、はい」

「ほっほーう。頼もしいねぇ。あ、趣味は人間観察とエロい事! ちなみにラゼ君は外見ドストライクでお姉さんワキュワキュしちゃうよヘヘヘ……」

「え……ハハハ……」


 流石のラゼも乾いた笑いしか出てこない。

 少々暴走気味なアレイスを引っ張り入れ替わるようにカロンが前に出た。


「私はカロン・アブリュッセル。階級は曹長。自由とは機械友達よ。趣味は機械弄り。それと私たちのことは呼び捨てで良いわよ。よろしくね、ラゼ」

「よろしくお願いします、カロン」


 ちゃんとラゼからの返答を確認して、最後になったラエイを前に押し出して交代した。


「ラエイ・ラ・オーブライン。階級は軍曹。趣味は寝ること。よろしく」


 人見知りやコミュ障ではないらしい、とラゼは思う。見た目はあまり活発ではなさそうだっただけに少々以外だった。


「よろしく」


 ラゼも固さがだいぶ取れたところでビンルは続けた。


「次はラゼちゃんたちの番よ。先に自由ちゃんがお手本見せたげて」

「了解です。えー、知っての通り中津自由です。学生で趣味は機械弄りと友人と話すことです。これからよろしくお願いします」

「うん及第点。ちなみに好みの男性はア・タ・シ?」

「真面目にあり得ない上にキモイです」

「やだ……その返答ゾクゾクしてぶっこみたくなるわぁ……」


 自由に毒を吐かれたというのに当の本人は不気味過ぎる笑みを浮かべながら肩を二度震わせて舌なめずりをしていた。

 これはさっさと次へ行った方が良いとラゼは考え、自己紹介を始めた。


「ラゼ・アゼーニです。一応中立の学生で、趣味は体を動かしたり本を読んだりすることです。よろしくお願いします」

「合格。さ、親睦をもっと深めるためにもトレーニング始めるわよぉ。アレイスちゃん、カロンちゃん、ラエイちゃんはラゼちゃんと一緒に訓練してね」


 自由は自分だけ省かれたことに非常に嫌な予感を憶えていた。


「あの、俺は?」


 ビンルはウフフフフと不気味に笑った後、その肩をしっかりと掴んだ。


「自由ちゃんはアタシと一緒にシュミレーター訓練よ。負けたら抱き枕の刑ね」

「ヒィ!? い、嫌だぁぁああああ!! ラゼ! ラゼ助けてくれ!」


 自由が必死に手を伸ばす先に、ラゼはいなかった。

 ラゼはアレイスたちに連れられて格納庫の中央で既に訓練を始めていて自由のことはもはや眼中になかった。


「あ、アァ…………」


 自由が死にかけている鶏のような声を上げて目から一粒の涙を流した。


「ンフ」


 そして上機嫌のビンルに担がれてシュミレーターの方へ連れて行かれた。 

 


 訓練を始めること三時間。ラゼはクタクタに疲れて冷たい床に寝っ転がっていた。

 息は完全に切れてしまい、吐き気のようなものが込み上げてきていた。


「まー初日にしては上々ね」

「ええ。アレイスなんて吐いてましたからね」

「それ言わないでよー。……ところでこれってチャンス?」

「止めておきなさい。襲ったらラゼが持たないわ」

「ガーン」


 そんな漫才のような会話をぼんやりと聞きつつラゼは虚空を見つめていた。

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