EX2 魔道戦記ST
グラたん「ST2話目です!」
「それにしても、結局サエラの奴戻って来なかったな」
「何かあったのかもしれないな」
心配は尽きなかったがサエラの事だ、と二人は思っていた。
ヴー! ヴー!
突然、緊急警報のサイレンが鳴り響いた。
「なんだ?」
「二度目? 今日はしぶといんだな」
そう話しつつもシェルターへの避難を急ぐ。
シェルターの強度は高く、ビーム兵器が数度直撃しても持ちこたえられる。
「ん? なんだあれ?」
テーニが指差す方向には赤い機体が飛んでいた。ノマルにもレアルにも今までにない機体だ。頭部が無い事からレアルの機体であることは間違いないがウェガスよりも速い。手に持っているのは鈍色の実刀だ。それと互角以上に切り結んでいるのはオレンジ色の機体である。
「おお! あれってレポンだ!」
テーニがオレンジ色の機体を指差して言う。
「そうなのか?」
「色違いだけど武装や形、全長からして間違いない!」
「……あの赤いのこっちに落ちてくるんだけど」
「おう」
二人は全く同時に回れ右して転身する。
『逃げろぉぉぉ!!』
彼らが走り始め、少しして二人の進路方向に赤い機体が落ちて来た。
「ぬおぁ!」
「うわぁ!」
左右に飛び、建物の影に飛び込んで何とか避ける。その背後を土煙と爆風が叩いて顔面から地面に着地した。
「ラゼ! シェルターで落ち合おうぜ!」
反対側からテーニの声が聞こえてくる。
「分かった!」
ラゼも応答し、走ろうとする。
だが、ふとラゼは赤い機体にの胸の中央、コクピットに注目した。コックピットは斬撃を帯びて破損しており左腕も半ばから切り落とされている。それら以外にも細かい傷や実弾を受けた形跡が見られ、状態は素人目に見ても大破していた。
コックピットから誰かが降りて来た。そしてその人は此方に近づいて来る。
「……」
「……ちっ、運が無い」
赤いパイロットスーツを着た青年はラゼを見ると膝を付いた。
見れば右腕の肘から下が無くなっており、大量の血が地面を濡らしていた。
「撃てよ」
「……いや、僕は学生なので銃とか持っていないんですが……それよりも」
基本的にラゼはお人好しである。
例え相手が敵であろうとも看護くらいはしてしまう。
自分のYシャツを脱いで袖を切り、近づいていく。
そして腕を取ろうとして避けられる。
「……おい、何の真似だ」
「怪我、しているんですよね? だったらまずは止血しなくちゃ」
「俺はレアルだぞ……」
「人間死んだら終わりです。それに助けられるのに助けないのは嫌なんです」
そう言ってラゼは強引に右腕に袖を当てて巻いて行く。
「変な奴だな……俺は敵なんだぞ」
「あの赤い奴に乗っていたとしても僕はまだ害されていませんから」
「ここに来た時点で害だろうが」
「自分で分かっているなら来ないでください」
「……そりゃそうか」
「はい、終わりましたよ。僕はシェルターに行きますから」
そう言い、ラゼが立ち上がろうとすると青年は銃口を向けた。
「それで黙って逃がすと思うのか?」
「逃がしてください」
「ダメだ。悪いが一緒に来てもらうぞ」
「一緒に乗って機内のボタン押し間違えてでも良いなら」
「構わん。行くぞ」
青年はオレンジの機体が周りにいないのを見て、ラゼを上がらせる。
そして青年も駆け上がり、最後に足を踏み外した。
「あ……」
「わっ……」
反射的に、ラゼは青年の手を掴んでいた。
青年は一瞬で体勢を整え、機体を足場にして駆け上がった。
そうしてラゼの方を向いた。
「……あのさ、お前今なんで俺を助けた? 見捨てれば自分が助かったのに」
「反射的に、です」
「……そうか」
青年は銃を納めて機体の内部に入った。
機体の外部から内部にかけて斬撃痕がある。そしてコックピットは辛うじて機能が生き残っており、稼働可能だった。
「ちっ、しょうがない。一度戻るしかないか。おい、お前」
「はい?」
「人質はもう良いからシェルター行けよ。また巻き込まれるぞ」
しかしラゼは首を横に振った。
「そんな怪我しているのに一人にしておけるわけないでしょう。僕も行きますよ」
「おいおい……俺は敵だぞ。レアルだぞ」
「さっきも言いましたが、関係ありません」
「……調子狂うなぁ。ま、来るならさっさと来いよ」
「はい」
ラゼが機体に搭乗すると青年は機体の電源を再度入れ直し、起動した。
「よし、まだ動く。が、通信はダメか……なら合流地点に向かうか。しっかり捕まれよ!」
「はい!」
ラゼは、自らの意志でレアルの元へ向かって行った。
それが後々後悔することのない選択だったと思い知らされる。
そう、実に五分後の話だった。
機体中のレーダーが鳴り響いた。
「くっそ! あいつ戻ってきやがった!」
青年は毒づき、ラゼはザラついている画面を見た。
「あのオレンジ……」
「ぐっ……」
青年が呻く声を聞き、ラゼは反射的に青年を見た。
青年の腕を見ると、傷が開き出したのか赤く染まっていた。
「おい、マジで降りとけ。本気で死ぬぞ」
それは青年なりの親切心だったのだが、ラゼにとっては全くの逆効果だった。
「いえ……操縦、代わってください」
「は? お前――」
青年はラゼを見上げ、眼を見開いた。
「僕がやります」
「阿保ぬかせ。相手も正規軍の軍人だぞ」
「でも、今の貴方よりはマシです!」
ラゼは強引に青年をどかし、コックピットの操縦桿を握った。
「ったく……基本動作も分からない素人のくせに」
「学校でも最低限の動作シュミレーターはやってます」
操縦桿を引き、一歩前進する。
「重っ」
「当たり前だ。俺のALは最新式の試作機だからな」
青年の言葉を受け、ラゼは操縦桿をより一層強く握った。
一歩、また一歩と進み、その足は徐々に速くなっていく。やがて右手、右足、左手、左足、頭部へとラゼは機体と意識を同調させていく。
そこへオレンジ色の機体が接近してくる。その右手が腰に伸び、刀身の無い柄を抜刀し、握っていた。そしてその刀身が赤く輝いて行く。
「まさか……まさかビームナイフか! くっ、ノマルめ。もう実用段階に入ったというのか!」
青年が声をあげて驚く声も今のラゼには聞こえない。
オレンジ色の機体は宙高く上がり、あまりにも大雑把にラゼたちに襲い掛かった。
「避けろ!」
その声よりも早くラゼは操縦桿を横に倒し、避ける。
あまりにも早いタイミングに青年は驚き、顔を上げる。
敵を見るが、どうも襲い掛かってくる様子は無い。
「向こうも負傷しているのか? いや、何にしても……チャンスだ」
ラゼに指示を出そうと声を上げかけた所で、ラゼは操縦桿のスイッチを押していた。
赤い機体、正式名称はAL-18バチェリースの頭部からバルカンが発射され、オレンジ色の機体に直撃する。そして一歩踏み出し、右手を固めた拳をぶつけた。鈍い音が響き、オレンジ色の機体が数m吹き飛んでいく。
「り――」
離脱だ、という前にラゼは大きく後方に飛びずさり、背面のブースターを起動させ、颯爽と飛び去っていた。
――あり得ない、と青年……リースは思う。
このALは、たかが学生それもシュミレーター訓練をしただけの子供が少し見ただけで動かせるような機体ではない。それはリース自身が扱いの難しさを知っていた。
そして同時に、これは良い拾い物をしたと考える。
「そろそろ合流地点みたいですね」
ラゼの言葉にリースは顔を向け、頷く。
ALが目指す先にはレアルの戦艦ウルフラムが地上に降り、リースとALを今かと待ちわびていた。
リースは通信を開きウルフラムに問いかける。
「此方レアル軍第八十八中隊所属リース・ショウマン。応答願う」
するとディスプレイに茶髪の少女の顔が現れた。
『リース少尉、随分と負傷しているみたいですね』
「ええまあ。右腕が吹っ飛んじゃいました」
『ええっ!? それではどうやって操縦しているのですか?』
「現在は現地民間人の少年が操作しています。入艦許可を」
『……分かりました。許可します』
通信が終わり、リースは安堵の息を吐いた。
母艦に辿り着いた影響からかやけに眠くなってきていた。
しかしここでまた襲撃されては敵わないと最後の力を振り絞って目を見開いた。
ウルフラムのハッチが開き、ラゼは機体を中に運んでいく。
ALの機体を地上に降ろし、少し重い音と共に膝を付かせる。完全に動作が止まったのを見計らい、ラゼはホッと息を吐いた。
次いで艦内に喧騒が立ち込めた。
「衛生兵急げ!」
「梯子持って来い!」
「うわ! こりゃまた派手に大破したな!」
その声を聞きつつ、ラゼはリースに肩を貸してハンガーへと降りていき、床に降りると同時にリースは意識を失った。
「わっ!」
リースの全身の力が抜けた性でラゼは思わず転びかける。
「おっと!」
それを見た月の見習い学生の一人が正面から支え、ことなきを得た。
「ありがとう」
「いや、リース少尉を戻してくれたんだ。こっちがお礼を言わなきゃな。俺は中津自由、月の学生で今回の遠征に参加させて貰っているんだ」
「僕はラゼ。ラゼ・アゼーニ。学生だよ」
「おう! っても、まぁ乗っちまったからには当分帰れないけどな」
「だよね……」
自由の陽気な笑いとは裏腹にラゼは落ち込む。自身の性格がいつか災いを引き起こすのではないかと思っていたが今回は過去最大級だろう。
衛生兵がやってくると彼らはすぐに担架を取り出してその上にリースを乗せて運んでいく。
月の最新医療技術では人体の部位が破損しても先天的障害でない限りは再生できるようになっている。
医務室にも緊急用に緑色の液体が入ったポッドが三機ある。その内の一機に全裸に剥いたリースを放りんで蓋をする。後は時間が経過すれば全身の傷は治る。
一方で現場に残されたラゼと自由は同じ学生ということもあってあっという間に打ち解けていた。会話は主に先程の戦闘の経緯だ。
「ふーん、馬鹿だな」
率直な感想にラゼは撃沈した。
「でもまあ嫌いじゃないな、そういうのはさ」
そこまで話すとラゼと自由の周りを兵士が取り囲んで銃口を向けた。
「そこの少年、一緒に来て貰おうか」
少し厳しい口調で命令するのはウルフラムの副長、イリアムだ。誰に対してもこの口調であり融通の利かない頭をしているため大抵の人間には嫌われている。
「おうおう、そりゃぁ無いんじゃねぇのか副長さんよ」
イリアムが大嫌いな筆頭格の一人であるのがここの工房長、アジルカだ。この物調口調に似合わずにその外見は艦長と同様に小柄だ。しかしその腕は月の中でも一、二を争うほどのいわゆる天才だ。彼女の指示とあらばウルフラムの工房で逆らう者などいない。その上気に入らなければ艦長にすら口よりも手が出る。
無論、イリアムもアジルカが嫌いだ。否、天才そのものが嫌いと言っても良い。
「艦長の命令だ」
「あいつが取り囲んで銃口向けて連れて来いなんて命令出すタマかよ。オイ、自由」
出立のその日に手厚い洗礼を受けている自由は呼ばれただけで直立不動を強いられている。
「はい!」
「お前が連れて行ってやれ」
「はい!」
二回目の返事は喜色だ。自由も友人になったラゼを見殺しにすることだけはしたくなかった。
「アジルカ工房長、お前にそんな命令権は無い」
「あたしもテメエに命令される権利はねぇな」
イリアムの額には既に青筋が浮かんでおり今にも切れそうだ。
不穏な空気を感じ取ったラゼは自らその中間地点に立ち、イリアムを見た。
「僕なら大丈夫です。行きましょう」
前半の言葉はアジルカに向けたものだったが、アジルカはそのがら空きの尻に蹴りを炸裂させた。
「――っ!?」
「ったく! ほらテメェ等、さっさとALの改修を始めるぞ! 全部分解だ!」
『アイサー!』
男性の野太い声と女性の高い声が聞こえ、見物していた乗組員が一斉に動き出した。
今の蹴りが何を意味しているのか分かっている自由はラゼの傍に付き添って注釈した。
「慣れてないかもしれないけど、アジルカさんってツンデレだから」
ラゼは微妙に得心し、頷いた。二重の意味でお礼、自由の注釈が無ければ見放されたと勘違いしてもおかしくはなかった。
「……来い」
イリアムは一回舌打ちしてからラゼと自由と兵士たちを連れて艦長室へと向かった。
艦内は大抵慌ただしいが今回はリースの帰還待ちで発進待機していたためいつもよりも慌ただしい。ウルフラムが出航し、艦内が少し揺れる。
「失礼します」
艦長室に入るとそこには茶髪の小柄な少女がデスクワークをこなしていた。
「ご苦労様です。貴方たちは下がってください」
「……はっ」
イリアムは辛うじて舌打ちを堪え、兵士たちを解散させて持ち場へと戻っていく。
「あ、自由君は残ってね」
艦長の言葉遣いが一気に砕けた感じになったのは相手を緊張させないためだった。
「はい」
「うん、それじゃ座って頂戴」
手元にあるボタンを押すと椅子が二個現れて自由とラゼは座った。
「えーっと、まずはお礼と自己紹介かな。私はこの艦、ウルフラムの艦長のリモネアよ。リース少尉を助けてくれてありがとうございました」
「いえ、僕が助けたかったから助けただけ……です」
緊張はまだ解けていないのか、それともリモネアの可憐な雰囲気に飲まれたのか、ラゼはあまり慣れない感覚を覚えていた。
「公的の場以外で敬語は要らないわよ。この艦で私とアジルカより最年少はいないからね」
「アジルカさんはさっきの人。技術主任」
自由の注釈もあり、ラゼは頷いた。
「さて、次に貴方の処遇についてだけど……名前と経歴と経緯を聞かせてくれる?」
「はい。まず、僕の名前はラゼ・アゼーニ。学生で――」
ラゼは先程自由に説明した話をリモネアに話し、リモネアはそれらを端末のディスプレイに入力していく。ラゼから聞いたことを一通り入力し終えると手を置いて二人を見た。その表情は少し難しそうだ。




