エピローグ★
グラたん「エピローグです!」
――嵩都――
「行っちまったか」
「ああ」
ニーマたちがゲートの中に入り、異世界へと旅立つのを見送り終える。
子供の成長とは何時でも早いものだと何度も思わせられる。亮平とクロフィナも同様らしく、しばしの別れのためか、それとも大きくなったエンタールたちを見てか目じりに涙を浮かべていた。
「うー、ニーマ~」
ルーテは相変わらずの溺愛っぷりだな。それはそれで良いのだが。
「では、我々は城で手伝いでもするか」
「うん」
「私たちも地球に戻る」
「はい」
ラミュエルを筆頭にアマデウスたちは城の中へ、バウゼンローネたちは地球へと転移していく。ルーテたちも三々五々に分かれていく。
「嵩都はこの後どうするんだ?」
亮平に問われて俺はこの後行う予定を頭に思い描き、口に出した。
「俺は他の神々と一緒に惑星の再構築だな。その後は転移したアジェンド城とかの転移だ。まあ、イヴもやる気を出しているみたいだし、俺のやることはあんまりないんだよな」
「そうか。それなら丁度いい」
亮平はニヤリと少年時代に戻ったような笑みを浮かべた。
「俺たちもしばらくは王族としての責務もないことだし、皆で旅行にでも行こうかって話していてな。どうだろう? シャンたちやアーサーさんたちも誘ってさ」
「ほう、それは良いな」
俺の体力と気力の心配さえ除けば実に良い案だ。家族サービスもあまりしてやれなかったし、ニーマたちには悪いが先にディアロスたちを思う存分構ってやろう。
「おっ、乗ってくれるか。そうなると後は場所だな。どこかの異世界の観光とか海とか山とか色々提案は出ているけど、嵩都はどこか案があるか?」
「ふむ、そうだな……」
ふと脳裏を過ぎった異世界が数件あったが、皆を連れていくというのであれば場所や観光地としても見てもらいたい場所がある。その世界の神とも懇意にしているし許可も取れるだろう。
「では皆で行けて、落ち着いた場所で、海とか山もある幻想的な世界だな。心当たりもあることだし、良ければこっちで許可申請しておくぞ」
「嵩都のチョイスなら間違いないだろ。幹事とか連絡は俺の方からやっておくよ」
「分かった、頼む」
話はそれでまとまり、亮平は城の中へ、俺は仕事へと戻る。
その途中でよく考えたら皆であの世界に行ったら相当な修羅場になるのでは、と思ったがその時はその時で何とかしようと思考放棄した。この問題については俺が死ねば問題ないためでもある。
世界の再構築は俺を含めて十柱くらいの神々で行われる。時間をかければ俺一人でも可能ではあるが、アジェンド城やネーティス城などの住民を百年単位で待たせるわけにはいかない。食料や衣類、娯楽の供給は他の世界を通じて行っているが、いずれ限界も来る。
転移した先はロンプロウムがあった空間だ。そこにはイヴ、天照、ゼウス、アポロン、トール、武御雷などの主神級の神々が待機していた。
「イヴ、皆、待たせたな。始めよ――」
「キャー! アダムからの一人だけ名前を呼ばれる好感度激アゲー! もうこれで今日のご飯三杯イケるわ! あーもう幸せすぎて夢に見そう!」
『うわぁ』
神々のドン引き視線を受けてもイヴの様子は変わらない。
それはそれとして、俺が再構築の魔方陣を顕現するとイヴもふざけた様子を止めて真面目な表情に戻った。世界を元通りにするという現象は神々であっても結構難しいのだ。
再構築自体の方法はそう難しくない。元となる俺の記憶、城の住民の記憶、天界、冥界などの記憶を『思い出させる』概念で固定し、俺の持つ魔法術式で形を作る。その後、イヴの持つ本来の力である神の権能『無限の創造』によって地形や物資を作る。
では他の神々は何をするかというとその時に起こる次元断裂の対処や各異世界への影響を弱めるための調整だ。しかし実際のところ世界の再創生など神々の仕事の中でも滅多に起こらない事例のため何回やり直しになるかわからない。
一応理解習得は使っているが、それでも一発成功にはならないだろう。
……。
…………。
結果として世界の再創生は終わった。時間にして二日と7時間程度だが、試行回数は134回と膨大だ。失敗したら最初からやり直しなわけだから辛い。
「皆、終わったぞ。お疲れ様」
「ぐはー、終わったー!」
「スルトも中々無茶を言うものだ」
「権能使いっぱなしなんて7万8000年前の修行以来じゃね?」
天照やトールたちが創生したての地面に座り込み、大の字に寝っ転がる。
まだ誰も立ったことのない大地を踏みしめ、風を仰ぎ、青空を眺める。創生したてでなければ味わえない最初の事柄に神々は愚痴を言いながらも水を呷った。
「アーダームー!」
とりわけイヴは何度も何度も権能を使い、疲労困憊だったはずだ。しかしながら俺に飛びついてくるだけの気力はあったらしく、跳躍して抱き着いてくる。
「っと」
流石にここで塩対応は可哀そうだと思ったので受け止める。
するとイヴは少し放心した後に顔を真っ赤にして自ら離れた。
「ギャー! アダムが、アダムが私の愛のホォルドを受け止めてくれたぁ!? ねぇ、どうしようアルテミス! 私、今日事故死するのかな!? 悔いはないけど!」
「悔いがないならくたばったら?」
「塩分過多っ!!」
アルテミスも調子を戻したらしく塩対応だったが、その気持ちはわかるのか微笑している。
その間に空中から各地へ城を戻し、リンク魔法でアマデウスと鹿耶に各王に城外への開放通達を頼んでおく。
諸々の相談や打ち合わせを終えた頃には既に夜を過ぎようとしており、アジェンド城へと戻ると城下町では災厄が過ぎた後の宴が始まっていた。
城の中でもパーティーが始まっており、亮平たちもそれに参加している。
戦いは終わった。これが一時の平和だとしても、今後を動かしていくのは俺たちではなく子供たちだ。俺たちは背後で見守り、時に助けてやれば良い。
「物語は、ですけれどね」
隣に転移してきたのは刻夜君と白虎だ。その顔色は疲労が溜まっているようだが……逃げてすっきりしているようにも見える。
戦っている最中も途中から姿を見なかったが、おそらく冥界の神アトミデアにパシられていたのだろうと心中察する。
「どうした? わざわざ余のところまで来たということは何かあったのだろう?」
「ええ、まあ。こちらが一段落着いたようですので、一度あちらの世界に来てほしいと狐の神様に頼まれましてね。パルさんも待ち遠しいみたいですし」
「ああ――そうだな」
そっちの案件も早めに処理しないとな。パルの精神的にも。
城の中へと目を向けるが、パーティーの方は亮平たちがいれば問題ないし、先に顔出ししておくか。
「じゃあ俺たちはこれで失礼しますね」
「にゃふふ、いよいよ刻夜も覚悟を決めて年貢を納める時が来たにゃ」
「白虎、余計な事言うな」
「事実にゃ」
そんなことを言いながら刻夜君たちも転移して別れる。内容から察するに己がやらかした地球でひと悶着ありそうだ。
俺としての物語は続いていく。誰かの物語と交差することもあれば、離れることもある。
子供たちとも近いうちにまた会うことになるだろう。再開する時が楽しみだ。
俺は空中から広大なロンプロウムを眺め、輝かしいばかりの光に包まれた城下町を見下ろし、微笑む。いずれ思い出になってしまうとしても、この長い長い物語は忘れない。
異空間から長杖を取り出して、まずはパルを迎えに行くため地球に転移をする。
ロンプロウムを巡る俺たちの物語――『勇邪の物語』は終わりを告げた。




