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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百八十八話 勝利の報告

グラたん「第三百八十八話です!」


〜エンタール〜


 帰ってくるなり俺は簀巻きにされて馬車に括り付けられて引き摺られ、城へと戻ってきた。如何に無様であったか、は親父曰く『後世に語り継がれるくらい』酷いものだったらしい。

 自業自得ではあるが俺飲まず食わずで頑張ったんだぞ? 本体は仕留めたのに……。


「毎回毎回、貴方そろそろ学習したらどう!? あの焔でさえ直したのに!」

「いい加減心配かけないで欲しいものだな義兄様! せめて一言残すなり置き手紙するなりしてほしい!」

「もう! もう!」


 謁見場に正座させられてシィブル、ダナン、イムリスの三人から罵倒とビンタを喰らい続ける。弁明は要らないらしく反省文も必要ないそうだ。


「三人ともそのくらいに。我が子ながらアホではあるが、こんな遅くまで何かしていたのだろう? その戦果を聞かせてもらおうか」


 ある程度すると親父が仲裁してくれたが、まだご立腹の人は多い。あとが怖いな……。


「実はーー」


 とりあえず今まで起こっていたこと、やっていたことを包み隠さず話した。叔父様は既に予想していたらしく所々で肯定してくれた。

 そのおかげもあってか親父たちは感心半分呆れ半分になっていた。


「……分かった。残りの後始末はしておくからお前は療養しておけ。あと必死に謝っておけよ」

「あ、ああ」

「全く。――それはそうとして」


 親父はそう言ってから俺に近寄り、俺の頭をくしゃくしゃと撫でて肩を叩いた。


「よくやったな、エンタール。王として、親としてもこれほど誇りに思える子を持てて俺は嬉しい。あのアストも気付かなかったことを良く見落とさなかった」

 

 急に褒められたからか俺は少し言葉が出なかった。


「お前の決断は間違っていなかった。皆は心配して怒っているが、己の手柄に自信を持って胸を張れ。お前は勇者、英雄と呼ばれても相違ないことをしたんだ」

「へ、へへへ。そうかな?」

「ああ、そうだとも!」


 嬉しい。もう疲労とか苦労とか全て吹き飛んだかのように気持ちが軽くなって高揚した。

 やり切ったという手応えを改めて得られた気がした。


「そうだな。義兄様、よくぞ無事に戻ってきてくれた。私も嬉しいぞ」

「はい! 嬉しい気持ちは私も同じです。でも心配だったんだからね?」

「ああ……ごめん」


 ダナンもイムリスも労ってくれる。……やっぱり心配させるようなことは良くないな、ともイムリスを見ていると強く思った。


「そうね。最初に会った頃は不安でしょうがなかったけど、今回は素直に褒めてあげるわ。貴方がいなかったら今も戦いは続いていたでしょうからね」


 確かにシィブルの言う通りになっていたのは明白だ。俺の行動は浅慮ではあったが決して間違ったものではなかった。……無茶は戒めないといけないけどな。


「さて、俺も残っていることを片付けるとするか」


 親父がゴーサインを出すと俺は問答無用でダナンたちに掴まれて謁見場を強制退出させられた。後から銀次たちも来るのが見えたのでそうそう酷いことにはならないだろうと思いたい。

 



「そろそろ弁明を聞こうかしら」


 俺はウラカたちに割り当てられたらしい部屋に運び込まれ、ベッドに横たわらせられてニーマたちの回復魔法を集中砲火で浴びていた。今はもう傷も塞がっており座るくらいは出来る。

 そしてシィブルが冷たい視線で俺を見下ろしていた。弁明と言っても俺が出来るのは説明と謝罪だけ。


「本当、ご迷惑とご心配をおかけしました」


 とにかく深々と頭を下げておく。


「ヴぉ!?」


 ゴンと拳を後頭部に落とされる。あまりの容赦のなさに蹲って後頭部に両手を当てる。


「あぐぐ……」

「私はともかくとしてもダナンなんてストレスで胃に穴が開きかけたのよ? ニーマもイムリスも心配してたし。貴方には重々反省して貰うわ」

「……はい」


 弁明のはずなのに弁明の余地が無い。普段の行いのせいだな。

 顔を上げるとシィブルは呆れていたが、ダナンはまだお冠だ。しかし一度天を仰いでため息を吐き、視線を戻すと眉間のシワは取れていた。


「義兄様のことだから無事だろうとは思っていたが、敵地に、例え神様が付いていようとも単独で残るなど愚策にも程がある!」

「そうですよ! 考え無しに何処かに行かないでください!」

「このっ! 馬鹿っ!」


 ダナン、ニーマに続いてイムリスからもビンタを頂戴する。痛い。


「あたしは心配とかしてねぇけど、一発くらいはーーなっ!」


 口調と行動が後半は見事に一致し、風を纏った渾身の右ストレートが顔面に突き刺さった。なんだかんだで心配してくれていたのは嬉しい。


「……うわぁ」

「……自業自得だな」


 銀次と白色がドン引きしているが、そんなに酷いことになっているのか?

 ノックダウンしてベッドに倒れ込むと両肩を掴まれて無理やり起き上がらされる。


「ったく、良くまあ死地から戻ってきたよ」


 人目も憚らずに抱きつき、若干骨が嫌な音をたてる。下手したらこのまま鯖折りされかねない。


「むぅ、ウラカばかりズルイ!」

「おう、じゃあこっち来い」


 イムリスの抗議もなんのその。腕を掴んで引き寄せて抱きつかせる。


「……全く。お説教はしたりないが、この辺で切り上げるとしよう。本当に無事でよかった」

「どうせまたやるから折檻は次回ね」


 ダナンとシィブルが肩を竦ませて皆に退出を促す。


「義兄様、傷は治っていますが体力は戻ってませんのでしっかり療養してくださいね」

「寝て起きたら宴会だぞ! 待ってるからな!」


 ニーマに銀次も言うこと残して退出していく。


「エンタール! そのうち全員で総当たり戦やるよ! 誰が一番なのか決めるんだからね!」

「涼音……ま、それも悪くないか。せっかくの機会だし全力を出させてもらおう」


 涼音だけでなく焔もニヤリと笑って去っていく。葉理と任は呆れていたが、やる気は充分のようだ。


「ウラカ。エンタールは疲れてるんだから程々にしなさいよ」

「わーってるよ! そんな無茶させねーから」


 そう、と呟いてマーラたちも退出した。


「じゃ、俺たちも先行ってるよ。ラゼたちとラミュエルさんには伝えておくから」

「パル姉にも言っておかないと危険だからね」


 確かに、と笑いながらディアロスとソーラムは踵を返し、プリュームとラトースは何かを察したのか俺を見るなり一つ大きく頷いて退出していった。

 全員がいなくなった後、少し静かな時間が訪れる。ウラカも一旦降りてカーテンを下ろし、イムリスはさりげなく扉の鍵を閉めた。

 電気は付いたままだが二人はニヤリと肉食獣の笑みを浮かべ、しかし一度抑えて近くの椅子に座った。


「まー、なんだ。アスト王が言うにはお前が帰ってくれば全部綺麗に終わるって話だったし、敵の親玉も討ち取ったんだろ? 大手柄だったな」

「お、おう」


 また怒られるかと思ったがそうではないらしい。


「この後も修行は続けるんだよね?」

「まあな。ここが限界だなんて思ってないし、皆もまだまだ成長途中だからな」

「そっかぁ〜」


 そう言うだろうと勘付いていたような反応だ。


「そういうイムリスたちはどうなんだ?」

「勿論ついて行くよ。でもアスト王が言うにはロンプロウムじゃもう大きな戦いは起こらないらしい、って」

「行くなら異世界だろうな。どっちにしてもダナンたち、銀次たちも一緒に行くぜ。これはもう決まったことだ!」


 いつの間に話したのやら。しかし手回ししてくれていたのはありがたいな。


「おう。二人ともありがとな」

「へっ、いいってことよ!」

「私たちもエンタールと一緒にもっと多くの旅がしたかったからね」


 嬉しいが少し恥ずかしいな。とは言え、そうなると親父と母さんは説得しないとな。少なくとも親父は反対しないだろうけど、母さんは難関だろう……。


「あっ、ちなみにお義父様とお義母様のご許可は貰ってるわ。『どうぞウチの馬鹿息子をよろしく』って」

「……おのれ親父たち」


 それはそれで少し悲しいが、良しとしよう。それでも念のため俺の方からは言っておいた方が良いだろうな。


「じゃ、話はこれくらいにしてーー」


 ウラカがパチンと指を鳴らすと電気が消え、辺りに小さく暖かいオレンジ色の光の玉が現れた。


「う、うん。今日こそは!」

「おいっ、ちょまーーーー!」

「へへへ、観念しやがれ!」


 後から考えれば全部仕組まれていたのだろう。実際それから事が終わっても誰一人として部屋の扉を叩かなかったわけだし。


「アーッ!」


 問答無用で俺は服を脱がされて押し倒されーー……。



 時間にして次の日の昼時くらい。

 結局昨日は一晩中寝ることは出来ず、体力的に限界を感じて気絶して寝たようなものだ。


「くぅー」

「んがぁー」


 性格から寝相まで正反対の二人だが寝ている時は何故か横向きで寝るらしい。


「あー……」


 怠い。二度寝しても多分怒られないくらい眠いが、銀次たちとの約束もあるし起きるとしよう。

 シャワーを浴びて着替え、腹も空いていたので異空間収納から適当に取り出して軽く腹に詰める。

 念のため二人も起こしてみるが、起きる気配は無いな。窓と扉の鍵をしっかりと閉めて俺は謁見場へと向かう。

 外を見ると遠くの方から笑い声や剣戟の音が聞こえて来る。連日宴会でもしているのだろう。

 謁見場へとやってきた。大扉を開くと中ではパーティが開かれていた。


「フハハハハ! 次は誰だ!」

「うにゅう、無念……」


 その中央では画面を外して顔が赤くなっている叔父様とパルがいる。その手には酒のジョッギがあることから飲み比べでもしていたのだろう。

 そのパルも今しがた倒れてバウゼンローネさんに連れて行かれた。


「ようやく起きたか」


 親父が俺に気付き、フラフラとした足取りで此方に寄ってくる。場は既に出来上がっていることから様子は察することが出来る。


「親父……」


 酒臭い! 分かってはいたけど飲み過ぎだ。

 うぐっ、と呻きつつ鼻を摘む。まさかだとは思うが夜通し飲んでいたのか?


「さあ、我らが英雄様のお通りだ!」


 ガッと肩を掴まれて場の中央まで移動させられる。これは酒の肴にされるなぁ。


「おっと先約は俺たちだぜ、王様」

「そうよ! こっちで飲み直しよー!」


 反対側から銀次と酒瓶片手に酔っ払っているマーラに掴まれる。


「仕方ないなぁ。じゃ、あとの楽しみにさせて貰うかぁ!」


 これ後も先も変わらない気がするんだが……。


「おい、マーラ。飲み過ぎじゃね?」

「何よ、文句あるの?」


 銀次も文句の一つ二つはあるのか連れて行かれる最中に口論は絶えなかった。

 外に出てしばらく歩いているとマーラも酔いから醒めたらしく大人しくなっていた。

 連れてこられたのは天界の端にある泉だ。静かな場所だが皆ここに集まっていた。


「やっぱ銀次たちを行かせて正解だったな」

「起きたらネタにされるのは分かっていたからね」


 波崎さんとパルもこっちにおり、別の場所ではアマデウスさんとラウェルカが何か話している。

 席に促され、紅茶とサンドイッチを頂く。


「ふぅ……」


 吐息を出してコップの紅茶を喉に流し込む。飲み干したコップは近くのテーブルに置き、顔を上げた。


「あー、疲れたなぁ」

「全くだ」


 切り株や木製の椅子に座って溜息を吐いたのは、俺と同じく会場から逃げてきた銀次だ。ディアロスも何かあったのか顔色が悪い。

 余談だが食べてる合間に白色はフェイラたちに捕まって何処かに連れて行かれ、焔は瀬露に一服盛られて何処かに連れ去られ、ラゼとテーニとティクルスは大砲に詰められて何処かに放射された。

 他の女性陣は女神たちに絡まれたり、天界を見て回っているようだ。


「お前は残っても良かったんじゃねぇの?」

「勘弁してくれ……あんな場所にいたら命がいくつあっても足りないよ」

「……確かにな」


 ディアロスが言うには、親父は神々の遊戯に負けて樽に詰められて川に流され、叔父様は何かやらかしたらしく中庭で修羅場になっていたらしい。

 何してるんだ……。

 ズズッ、と紅茶を飲み、空になると次を注いだ。


「……これで終わりかぁ……」


 銀次が小さく呟いた。


「だな……」


 思っていたより呆気ないと言えば皆に悪いとは思うが、実際の討伐作戦ならこんなものだろう。いや、そもそも「勇邪の戦い」みたいな物量戦争を経験したいとは思わないが……。

 それでも、もう少し戦いたかったな、と思ってしまうのは俺の勝手な感情だろう。


「銀次とディアロスはこれからどうするんだ? やっぱり元の世界に戻るのか?」


 ディアロスはまた会えるかもしれないが、銀次とは本当に会えなくなってしまう。今まで立場なしの友人はなかったからか惜しいと思ってしまっている。


「いや? 戻ったところで帰る場所も無いし、こっちの世界に滞在しようと思ってるけど」

「俺は地球に戻って学校に行かないとな。……課題は免除されてるけど期末テストは免除されなかったんだ」

「くっ……何処の世界でもあるのか、期末」


 銀次はテストが嫌いらしく頭を抱えた。ディアロスも期末は嫌らしい。

 しかし……そうか。銀次は残ってくれるのか。


「なら、アジェンドの兵士にでもなってみるか? 銀次なら軍団長とか近衛隊長くらいすぐになれると思うぞ」


 と、割と本気で言ってみたが当人は苦笑いで手を雑多に振って否定した。


「俺が? 無理無理。俺は人の上に立てるような奴じゃないって。それに今後のことは白色たちとも話してから決定するさ」

「そっか。そうだよな」


 当然と言えば当然の回答に俺の心には焦燥と安堵が入り混じる。


「そういうエンタールはーーああ、そういやお前王子様だったな」

「ウラカとイムリスを抱えて立派なハーレム王になるんだろうなぁ」

「刺殺されたくないからそんな王様は遠慮しておこうか」


 尤もだ、と三人で笑い合う。


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