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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百七十九話 邪神の祠

グラたん「第三百七十九話です!」


 装備を整えてコテージの外に出た。俺の受けたダメージは結構大きかったみたいで未だ全快には至っていない。そういう理由もあって今の俺は防具を着ずに聖剣だけ腰に帯びている。


「皆さん、集まりましたね? 忘れ物はありませんか?」


 馬車を背後に俺たちは肯定する。ニーマは一つ頷くと右手を天高く掲げて転移魔法陣を展開した。


「転移!」


 白く眩しい光に包まれる。飛翔する時のような浮遊感と地面に足が付く感触。

 次に目を開けるとそこは何もない荒野だった。エンテンス城があった痕跡だけがあり、他には何もない。城下町もなく、寂しい風景だけが残っている。


「エンタール、行くぞ?」


 振り返ると御者台にティクルスが乗っていた。ニーマたちも乗り込んでいるようだ。


「おう。今行く」


 俺が乗り込むと馬車は最大速度で走り出した。揺れは無く、先頭ではレリミアが地図を広げて指針をティクルスに伝えていた。

 不意に袖を引かれ、そっちを見るとイムリスが心配そうに見上げていた。


「エンタール、まだ少し時間あるし寝ておいたら?」


 時刻は深夜を過ぎている。ニーマとパルは座りながら寝ており、イムリスも掛け布団を抱えていた。


「そうだな。ティクルス、先に一休みするけど大丈夫か?」


 念のためティクルスの容体も聞いておく。


「目ェ覚めたぜぇ! 行くぜ!!」


 御者台の方からヒャッハァー!という声が聞こえていたので、きっとレリミアが何かを投与したのだろうと思うことにする。


「大丈夫そうだな」


 目を閉じるとイムリスがそっと俺の頭部を抱え、自分の膝へと誘導した。念のため薄眼を開けると、イムリスが頬を赤くしつつも満足そうにしていたので俺も眠ることにした。




 約3時間後。朝日で目が醒めると、やけに枕が柔らかい気がした。上も、やや圧迫感があるが息苦しいほどではない。

 視界を開けると反対側の席に座っていたパルと目が合う。俺のことに気づいたのか、そっと視線を逸らして毛布を被った。

 その謎の行動に俺は疑問符を浮かべつつ頭の上に乗っている圧迫感に手を当てて退ける。


「くむっ」


 ……なんか変な声が聞こえた。否、退けた正体を直視した瞬間気づいた。あんまり重くないのも道理。それはイムリスだったのだから。

 パルめ、気付いてたなら言ってくれれば良いのに。何故そこで気を使ってしまったのか。

 と、思っていると当人が掛け布団を少しずらして良い笑顔で親指を立てた。


「ぐっ」


 口でも言ってしまうあたり可愛いと思ってしまうーーいや、確信犯かよっ!?

 仕方ない、もう一眠り堪能するか……と頭を落とすと両手で受け止められた。


「おはよ、エンタール。よく眠れた?」

「……ああ。とても良く寝られたよ」


 完全に起きてしまったイムリスに「膝枕を堪能したいからもう一度寝かしてくれ」などヘタレな俺は頼めるはずもなく、内心で泣いて起き上がった。

 むぅ、とイムリスが残念そうな声を上げたのは気のせいだろうか。



「到着ゥー! 皆、邪神の祠に着いたぜ! 見よ、東の朝日が輝いている!」

「ティクルス、ご苦労様。助かったよ」

「良いってことよ! HAHAHA!!」


 馬車から降りるとハイテンションなティクルスと挨拶に加えてハイタッチを交わした。

 普段の彼から考えられない行動に俺たちは心配そうな顔を向け、その元凶だろうレリミアに視線を向けた。

 そのレリミアは小さな八重歯を覗かせて笑った。


「ふふん、特製の覚醒剤を体内に流し込んでおいたから三日くらいはあの調子よ」

「おいおい……」


 前にパルが言ってたが、本当に吸血鬼みたいになってるな。肌の色も少し変わっているみたいだし、耳も魔族みたいに少し尖っている。目つきは親父さん譲りで鋭かったためか、雰囲気も相応になったように思える。


「あっ、そういえばエンタールには話してなかったね」


 そこでパルが思い出したかのように手を打った。


「……概ね予想は付いてるけど、一応聞いておくよ」


 長くなるだろうと思い、俺は移動がてらに話を聞いていく。その内容は二日前に遡る。

 俺が気絶して療養している最中、レリミアとティクルスはダナンたちに聖気の扱い方を教わり、実戦を繰り返していたそうだ。

 その相手は当然ミゴ共だ。数の多さでレリミアたちは毎日苦戦しつつも力を伸ばしていったらしい。

 能力に気づいたのはレリミアが不覚を取ってミゴに捕まった際、彼女が死にたくないが余りにミゴを生で捕食したことだ。

 化物の血肉を食らったことで一日近く意識不明だったようだが、意識を取り戻した際に自身の変化に気付いたらしい。

 パルが言うには死の間際まで心身を追い詰めることによって新たな力を得ることは良くあることらしいが、そういうのはあまり経験したくない事柄だな。


「なるほど。そんなことがあったのか」


 確かに強敵と戦ったり、死に物狂いの時は良くあることだな。俺も何度か経験がある。


「義兄様、納得してはいけません。それは狂戦士の思考です」


 ニーマにしては結構辛辣な言い方だ、と思ったがイムリスとティクルスも肯定しているため俺たちの方がおかしいようだ。

 無論、そんなこと口にはせず苦笑いだけしておく。

 そのパルはというとーー。


「あれかな?」


 特に気にした様子もなく俺たちの行く先を指差していた。そっちの方を見ると洞窟らしき場所がある。手前には灯篭や鳥居があることから当たりだろうと思う。


「行ってみよう」


 森を抜け、更に進んでいく。鳥居を抜けて洞窟の前まで辿り着くと奥から冷たい風が吹いていた。

 洞窟自体は人が複数人入っても余裕がありそうなくらい大きく、入り口の手前には邪神像と思われる崇拝道具が置いてある。全く人の手が入っていないのか道具は苔に覆われ、入り口付近も岩がむき出しになっていた。


「……嫌な感じですね」

「ああ」


 この感覚は覚えがある。前に邪神化した叔父様と相対した時のような感じだ。

 自然と口数も少なくなり、各々の獲物を抜いて洞窟へと入っていく。先頭は光魔法で灯になれる俺とニーマ、その後にティクルスとレリミア、殿はイムリスとパルだ。

 洞窟の中は壁に松明がかけてあったり、通路が整備されていたりと人工の手が入っている。

 階段を降りて長い通路を歩いていく。進むほど冷たい感覚は深くなり、耐性の無いティクルスたちは呼吸も辛そうだ。

 冷たい感覚は正面から来るから壁でも作れれば少しはマシになるのかもしれない、と俺は思う。


「義兄様、聖気を纏ってみてはいかがでしょう? 少しは暖を取れると思いますよ」


 ニーマが聖気を纏いつつ、その効果の程を教えてくれる。


「そうだな。ティクルスとレリミアも纏っておくと良いかもな」


 俺も聖気を身に纏い、背後からも聖気が放出された。それでも感覚が伝わるってことは、やはり邪神の気配なのだろうか?

 ある程度進むと背後にいるレリミアたちの呼吸が荒くなってきていた。これ以上進むと後で支障が出そうだな。

 そう思っていると少し開けた場所に出た。正方形の小さな所だが、視線の先には邪竜と思われる紋様が描かれた大扉がある。邪気はその奥から来ているようだ。

 俺たちは部屋の内部で一度立ち止まり、振り返る。

 やはりレリミアたちの顔色は優れない。……ここに残ってもらう方が良さそうだ。


「ティクルス、レリミア。二人はここで待機していてくれ」

「い、いや、俺はまだ……」


 ティクルスは見栄を張ってるだけで実際は限界だろう。立っていることも辛そうなので二人の肩に手を置いて座らせる。


「……悪い。足引っ張ってるよな」

「ここまで来れただけでも充分凄いよ。イムリスとニーマもここで待っていてくれ。パルは一緒に来て欲しい」


 と、いつもの様に指針を決めようとするとニーマに手を掴まれた。


「ダメです。義兄様は傷がまだ治りきってないのですから、待機してください」

「そうですよ。中の様子は私たちで見てきます!」


 イムリスからも猛反対を食らう。そこまで重症じゃないんだけどな……。


「だったら四人で行けば良いだろ。俺たちはここで待ってるからさ」


 どう説得しようかと思っているとティクルスから提案が挙げられた。


「ミゴの大軍とかじゃない限り、私たちは大丈夫よ。そこらの魔物程度に遅れは取らないし、ここまで入ってくる奴もいないわよ」

「それもそうだな」


 俺たち基準ではティクルスたちの戦闘力に不安があるが、一般的に見れば十全戦えるんだよな。

 念の為、ニーマたちを見るが、それなら反対はしないようだ。


「分かった。パルもそれで良いか?」

「うん! 今のティクルスたちなら大丈夫なのは分かってるからね!」


 戦闘狂の保証も得たことだし、頷きを返してから俺は扉の方に歩み寄る。

 触れてみると硬度は鉄よりも硬いくらいだな。軽く押してみると存外あっさり開き、罠の可能性も警戒はするが大抵なら聖気で弾ける。

 大扉を開くと中からは邪神を前にしたかのような邪気が溢れ出てきた。


「うっ……」


 軽い目眩と威圧感に足が半歩下がり、意を決して前へと進む。

 俺の後に続いてニーマたちも奥へと進んでいく。




 青白い炎の松明が周囲を照らす。光魔法で通路自体は明るいはずなのだが、暗闇の中を歩いているかのような不気味さがある。

 通路の先には木製の扉があり、俺たちは扉を開けて中を覗き込んだ。

 広さはおよそ15m四方の部屋だ。中央には小さな祭壇があり、大理石で作られた台がある。台の上には二体の天使の像があり、黒い球体を持ち上げている。

 邪気は黒い球体から発せられているようだな。


「……ここが最奥らしいな」

「息苦しいですね」


 重々しい空気に呼吸が出来ない。聖気を纏っていてこれなのだから、常人ならとっくに気絶しているだろう。

 そんな中をパルだけは軽い足取りで祭壇に近寄っていく。よく見たら聖気すら纏ってない。やはり化物か。


「これ、スルトさんと同じ感じがするよ。持って行ったらパワーアップ出来るかな?」


 ただでさえ強い叔父様がまだ強化できる余地があるというのだろうか。

 パルが黒い球体に手を掛けると、邪気がパル目掛けて集まってきた。洞窟内に散っていた気が全て、だ。


「うわぁ!」

「パル!」

「パルさん!」


 一瞬にして邪気はパルの身体を覆い、吸い込まれていく。まるで依代を見つけたかのようなーー。


「うぐぐ……この感じはーー」


 邪気が吸い込まれるにつれてパルの様子が分かる。顔色はあまり良くない。それどころか体の半分くらいが黒で覆われている。


「パル、意識はあるのか?」


 言葉をかけて見るが抵抗で精一杯なのか返答はない。万が一に備えて聖剣を構えつつ近寄って見ると「瘴気を一点に……」とか「乱数を固定値に変換して……」など良く分からない呟きが聞こえた。

 不意にパルが両手を俺の方に向けてきたので攻撃を食らう前に雷の強化を施してその場を離れる。


「えいっ!」


 この場には似合わない可愛らしい掛け声と共にパルの掌から黒い球体が出現した。邪気は感じられない。


「ふぅ、思ったより手強かった〜」


 黒い球体は自然に落下して手に乗り、パルも球体を大事そうに抱えた。


「……えっと、パル、説明頼む」


 大事なさそうなので俺は警戒を解き、ニーマとイムリスも寄ってくる。

 その当人は良い運動をしたくらいの軽い汗を掻いてはいたが、疲れてはいないようだ。

 俺の問いには微笑して答えてくれた。


「うん! まず、この黒い球体はスルトさんーーというよりは邪神アダムの核だよ。中身はスルトさんが持っていない力があるみたい。元のアダムが使っていた能力や魔法も封じてあるみたいだよ」

「何その強化アイテム」

「それに万が一、ロンプロウムが復活した時の対策もいくつか考えていたみたいだね。再封印の術式もあったよ。ただ、悪用されないように触れたものを狂わせる呪いもあったんだけどね……」


 それは凄い。凄いけど……それをあっさり無効化したパルの方が俺は怖いんだが。


「でも、どうやってそんな危険な物体を無力化したのですか?」


 俺も気になっていたことをニーマが聞く。精神力の問題なのか、それともさっき呟いていた事と関係があるのか。


「無力化というよりは数を弄って外に出しただけだよ」


 数を弄る? 外に出す? ああ、例の能力を使用したのか。

 俺たちも相当強くなったが、パルはまた異質ーー規格外の力を持っている。もしかしたら単独で叔父様を倒しきるかもしれない能力持ち。戦闘におけるセンスと天武の才能。

 ……正直羨ましい。だが、そこまで行くと人類の枠から外れている気もする。

 そこまでの能力を与えないといけない理由が何かしらあるのだろうか?

 その答えは今の俺では出せそうになかった。


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