第四十話・第二次ラグナロク 後編
料理長「さあ、かかってきな! 真っ二つにしてやんよ!!」
グラたん「全員突撃っ!」
野郎共「うおおおお!」
嵩都「第四十話、行くぞ!」
~嵩都
男湯までくると既に戦いは始まっていたようだ。
奥の方には亮平たちが奮戦しているのが見える。
地形は、俺たちが居るのが通路。亮平たちが居るのが男湯の暖簾がかかっている入口。その奥は更衣室だ。女子がいるのはその中間。円状になりネトゲでいうならボス部屋に近い広さを持つ場所だ。そこに包囲陣を敷いている。
「ちょっとまずいか?」
隣にいるのは佐藤だ。こいつも腕にSTを付けている。
「意外とギリギリだったようだ。では、全員戦友を助けよ! 突撃!」
『うおおお!!』
皆がST武装を起動して背後を向けている女子たちに突撃していく。
奇襲を受けた女子たちは混乱に陥った。
このまま行けるかと思ったがそこまで甘くはなかった。
『ぐああああ!?』
「ここから先は通さないよ!!」
料理長が斬馬刀を振り回して男性勢を薙ぎ払う。
たった一振りで真二つになる奴が多数出た。
一応、悠木さんから事前にフィールドが張られていると情報を得ている。そのため俺たちは――いや、ここにいる全員がお互いを殺る気で戦っている。
それにしても斬馬刀はないだろ。女性が持てるような武器じゃないぞ。
「あれは……相当な被害が出るぞ」
佐藤が料理長の威圧に当てられて少し後ずさりしていた。
まあ、俺も何の策も無しには来ない。
「全員、一度下がれ。俺が殺る」
どうせ使っても召喚魔法と魔方陣が一緒だから分かるまい。
邪神スキル:創成。これは四天王たちを作った時に使ったスキルだ。
全員が一気に俺の後ろへと下がると女子たちは不審げに思ったようだ。
「なんだい、思ったより意気地なしだね」
料理長がここぞとばかりに挑発してくる。
「いえいえ、料理長が化け物みたいに斬馬刀を振るうからじゃないですか?」
俺が前に出て召喚の準備を整える。
俺の挑発に料理長の血管が浮き上がる。
「ハハハ、なら次はあんたが餌食になるかい?」
「御冗談を」
言い終わると同時に俺を中心とした大き目の魔方陣が展開される。
「厄介な……。あんた召喚士だったのかい」
うん、やっぱり誤解してくれた。他の女子も同様だな。
詠唱は実際必要ないがカッコつけや誤解を深めて置くためにも言っておく。
「地に巣食う魔性の者よ、召喚に応じよ。その力を用いて戦場を恐怖で支配しろ。我が呼び出すは骸が集まりし破壊の僕。ここに顕現し、今こそ解き放たん!」
そして中から俺の魔物が―――出てこない。
「…………」
大変気まずい。かっこつけた手前何も言えない。
「上だ!!」
誰かがそう言うと全員が一時手を止めて上を見た。
そこに居たのはまさに魔物。山羊の顔に、六振りの大鎌。何よりの特徴はその体。合成してはいけないランキング第一位のムカデとのコラボレーション。
「う、あっ……」
見ると近くに居た鈴木が何かを思い出したように絶句した。
それもその筈、創ったのは某ラノベの化け物。少々アレンジはしたが。
そして俺が作った魔物が暴れ出す。天井から落ち、衝撃波をまき散らした。
「ヒ、ヒィィ!」
こちらの女兵士たちは初めて見るだろう魔物に圧倒され、たたらを踏む者が多数いた。
そこへ大鎌による横薙ぎの一撃が見舞われた。
「いやああぁぁ……」
「きゃっぁ……」
巻き込まれたのは二名。ポリゴングラフィックの様にパリンではなく、文字通りの真二つに引き裂かれた。
大量の鮮血が舞い、内臓や骨があっという間にあふれ出た。
一瞬の間の後に男女問わずの絶叫と悲鳴が走った。
……やべぇ、超グロイ。やりすぎたなこれは。
「くっ……なんて物を召喚しやがって! このっ!」
料理長がスキルのエフェクトを纏った一撃を放つ。
化け物――名前はカースメイデンというのだがその魔物の足の骨に当たる。
両者微動にせず固まる。俺から見れば料理長が痺れているように見える。
「な、なんて硬さだい! 私のスキルを食らって微動にしない――――ガハッ」
ほんの一瞬のことだった。カースメイデンの鎌が立て続けに料理長に降り注いだ。
全身を三枚に降ろされた料理長は赤く染まった地面に倒れた。
その隙に俺は勇者スキル:加速を使って壁を走り、強引に突破を図った。
俺の動きを見て佐藤、鈴木、阿部の三人が追随してきた。
ここを突破すれば亮平たちと合流できる。
その先には最大の難関が待ち受けている。
~亮平
敵の会話内容を時折聞く限り、やはり援軍が来たようだ。
それも辞退した野郎共がほぼ全員。指揮を取っているのは嵩都だそうだ。
筑篠は事態の把握のため俺たちの方に攻撃はしてきていない。
おかげでしばしの休憩を取っている。会話内容も聴覚強化によって聞き取れている。
「鹿耶ちゃん! 料理長さんがやられた!」
「なにっ! あの料理長が……林、具体的な状況報告は出来るか?」
「うん、敵側の召喚士――朝宮さんが強力な魔物を出して来たの」
嵩都が? あいつは確か戦士系だったはず……。新しく召喚も出来る様になったのか?
「具体的にどういう魔物だ?」
「そうねぇ……。見た感じライトノベル系に出てきそうな魔物だったよ。全身が骨で山羊の頭で六本の鎌を振り回す――あ、そうそう。下半身はムカデみたいだったよ」
「ム、ムカデ!? 何を考えているんだ、あいつは! 気持ち悪い……」
嫌がらせの意味も込めているんだろうなぁ……。
「なるほど……そんなのがここに来たら戦闘どころではないな」
「そうね。どうするの?」
「決まっている。それまでに突破するのみだ!」
くそっ、結局そうなるのかよ。だが、俺も聖王もだいぶ疲れは取れた。
「来い! 持ちこたえて見せる!」
「待たせたな、皆!」
嵩都の声だ。あの守兵を突破してきたらしい。
それに佐藤、鈴木、阿部もいる。嵩都たちは壁を走っている。加速を使って走っているようだ。
そして俺たちの前に嵩都たちが降り立った。
「くっ、四人だけということはまだ背後にいるな……。だが、ここで殺せば同じこと!」
もはや捕えるのではなく殺すことになっている。
「佐藤、悪いが俺は中に行く。俺のSTは高火力でね」
「――そうか! ST―8だな。分かった。それがあれば突破も可能だろう。行け!」
「おう! 必ず突破して見せる!」
そう言って嵩都が男湯の中へと入っていく。佐藤がこちらに来る。
「亮平、お前はST―14だな。お前も行け。左手の甲に赤いボタンがあるだろ? 壁の前でそれを押せ。そうすれば壁に大ダメージを与えられる」
「あ、ああ。確かにある。何が出るのかは分からんが分かった。先に行くぜ」
「おう。俺たちのためにも頼んだぜ!」
佐藤に言われ、何発も受けた銃弾でボロボロになった装甲を引きずりながら男湯に入る。
~嵩都
男湯に来た。中では斎藤、片山、久藤、富谷が壁に向かって砲台を向けていた。
斎藤が砲台の標準を定め、片山が砲台を固定、久藤と富谷が魔力を供給しているようだ。
ガララ―――亮平も来たようだ。そして亮平は砲台がある正面にまだ足を運んだ。
あれ? おかしいな。なんか亮平がいる斜め右上に亮平の笑顔が……?
「斎藤! 準備完了だ!」
そこへ片山が砲撃準備完了の合図を告げる。
俺もSTを起動しガンマバースト状態に移行する。チャージはすぐに完了する。
狙いは亮平が立っている辺り――で、良いと思う。そこへ亮平がこちらを向く。
「斎藤、皆、何が起きるかは分からんが俺が赤いボタンを押したら攻撃してくれ! 俺は避けるから!」
「分かった! なら、その次に俺が攻撃する。高火力だから余分に避けろよ」
「了解。それじゃ、行くぜ!」
亮平が壁に向かって左手の甲についている赤いボタンを押す。
「食ら―――――!」
亮平の咆哮と共に亮平が大爆発した。
視界の壁HPは残り約六割を差していた。
HP56690/82600
『亮平―――ッ!!』
くそぉ! そういうフラグだったか!
「カハッ……さ、佐藤、あの野郎……っ」
亮平が全身血まみれの重体で立っていた。
「亮平、お前の死は無駄にしない。ガンマバースト、行け!!」
「ちょ―――」
トリガーを引くと大口径のビームが亮平に向かって飛んで行った。
HP32900/82600
壁のHPバーが一気にイエローゾーンに落ちる。
「行け、斎藤!」
「これで――終わりだぁあああ!!」
「止め―――」
斎藤が砲台のトリガーを引く。その大口径から魔力の塊が飛んでいく。
そして亮平らしき人影と壁を消し飛ばすように高密度の魔力がぶつかった。
HP4223/82600
なっ――あの威力でもギリギリ破壊出来なかったのか!
「あと少しだ! 攻撃しろ!」
斎藤の号令で全員がSTや固有武装を出す。
俺もSTを戻しヴァルナクラムの真空波を飛ばす。
HP1088/82600
「ぐぉおお!」
真空波を飛ばし続け、視線だけ声のある方を見ると男湯の入り口に聖王が転がっていた。
「今だ! 全員殺せ!」
筑篠の号令が聞こえてくる。聖王は持ちこたえられなかったようだ。
「すまん! 他の男たちも突破した物のこちらが突破された!」
見ればこちらに向かって聖王たちが走ってくる。
斎藤たちも捕まるまいと壁を突破しようと壁に近寄る。
――くそっ! 仕方ない。切り札を切るか!
「帝龍スキル発動!」
俺も壁に向かって走る。右腕が黒い鱗に覆われ、爪が強吾になり爪先が鋭くなっていく。
初めて使ったがこれは相当の威力が期待できるな。
「慟哭黒牙!」
亮平がいたと思われる黒い人型の焦げ。その頭の部分に掌底する。
「げべっ!」
まだ生きていたようだ。しぶといな。
――ガラガラガラガラ
儚い音をたてて壁が壊れていく。
目の前から熱い湯気が吹き荒れてくる。
だが、その先にあるのは桃源郷だ!
「殺せぇ―――――!!」
「皆、急げ!!」
背後から多分鬼の形相となっているだろう筑篠の物騒な声が浴場に響き渡る。
その声から逃げるように俺たちは駆け足で中へと入って行く。
壁の向こう側にいた女子共は破壊された壁を見て、俺たちを凝視した。
『い……いやぁぁぁぁあああああああ!!!』
女子共は大絶叫を引き起こした。
ああ、先日もここへきたがやはりこの悲鳴がなくてはな。
「ぶっひゃぁああ! たまんねぇぇええ!!」
いつの間にかヒキもそこにいた。本当にいつの間にか、だ。
「ほ、本当に桃源郷はあったんだ!」
鈴木や阿部たちも女湯に逃げ込んできたようだ。
「来ないで―――!」
「よいではないかー、よいではないかー」
斎藤たちに至っては何かのタガが外れたのか上半身裸になって女子たちを追い回していた。
他の奴ら(俺を含める)は顎を引き、厭らしい目で視姦しながら三日月のように口元を歪ませ、更に腰に手を当て、股間の聖剣を七色に輝かせてズキュゥゥゥンさせていた。
ガララ。
そんな音が別の方向から鳴った。
『いやぁぁぁぁあああああああ!!!』
女湯の正面突破を図った連中が数名ほど突破出来たようだ。
女たちが退路を断たれて浴場を逃げ惑う。
うむ、実に瑞々しくて良い。湯気さんの活躍と湯着というお湯に浸かるための着物を付けているため見える場所は少ないが、それでも生足や胸は良く見える。
これこそぶっひゃぁたまんねぇ――!!。
「死ね! クソ共が!!」
そこへ筑篠のSTと思われる大鎌の刃先が俺の頭部に突き刺さり、俺は桃源郷から立ち去ることになった。しかし、俺はこの記憶を生涯忘れることはないだろう。
俺たちの聖戦は全員とは行かなかった物の、勝利に終わった。
尚、ここにプレアがいないのは俺が予め言っておいたおかげだ。
グラたん「……(内容をもう一度よく見る)」
鹿耶「どうしたのだ?」
グラたん「いえ、ただの懸念です。次回予告しましょう」
鹿耶「次回、第二次ラグナロク 後始末編」
グラたん「後始末……ですか」
鹿耶「無論だ。ああ、勿論加担した貴方もです」
グラたん「(素早く退散)」
鹿耶「待てっ!!」
グラたん「(……やはり鹿耶さんたちが先手を取れたのは嵩都さんのせいですね)」




