表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
419/466

第三百七十七話 再契約

グラたん「第三百七十七話です!」


 夕方になって戻ってくる。

 さて、拠点についてだが出発した時に比べると様子はかなり変わっていた。

 まず、家がある。家というよりはコテージに近いな。

 恐らくパルが持ってきたのだろうけど、一週間も野宿じゃ身体も休まらないからありがたい。

 玄関を入ると右側に居間があり、奥には厨房もある。左側は風呂場と洗面所、更衣室などが揃っている。

 二階は寝室らしいが、階段には『二階は女子のみ』と書かれた立て札が置かれていた。

 俺たちは居間で雑魚寝か仮眠室行きのようだ。

 居間へやってくると待機していた焔たちが夕食を作っている最中だった。


「ふー……ふー……」

「ば、馬鹿な……」


 何よりも驚いたのが、焔が一日で火力調整が出来るようになっていたからだ。厨房で永遠と火の番をしているだけだが一歩間違えると消し炭だから凄く集中しているのが分かる。


「お風呂入れる人は先に入っちゃて〜!」

「銀次は水汲みと薪集めよ!」


 パルの声とマーラの怒声が飛び、何処からか『げぇ』という声が聞こえた。

 なら、先に入らせてもらおうかな。

 浴場は男女別に作られている。暖簾を潜ると今は誰もいないようだ。

 衣服を脱いで備え付けの洗濯機に放り込み、浴室へと向かう。出てくる頃には洗濯も終わっているだろう。


 風呂から上がって洗濯を外に干し終えると、入れ替わりにイムリスたちが浴場へと入っていった。厨房を見ると銀次に火の番を任せているようだ。


「よう、銀次」

「ん? おう、エンタールか。ちょうどいいところに来てくれた」


 もはや何をするのか聞かなくても良いくらいに顔が示していた。


「やめとけ。流石にあの人数に叩かれたら死ぬぞ」

「だよなぁ……」


 銀次も懲りた様子は無いが形勢が不利なのは分かっているようだ。


「そういや今日はどうだったんだ? 何か戦果あったか?」


 暇なことに変わりは無いのか火の方に視線を向けつつ聞いてくる。


「次元断裂についてだな。あとミゴフライ」

「おい待て、今なんて言った?」

「ミゴフライ」


 銀次もミゴは見ているため『食えるのかよ……』と小さく呟いた。次元断裂については報告会の時に話せばいいな。

 まずはラトースが発端だってことから話そうか。


 しばらく銀次と話しているとパルたちが戻ってきた。


「出たよー」

「あら、意外にもちゃんと火の番してたのね」

「やっとけ、って言ったのマーラだろ……」


 イムリスたちは食器を並べ始め、俺たちも鍋の火を落としてカップにスープを入れていく。

 銀次も愚痴りつつも手伝うが、前科のせいだろう。

 夕食を頂き、全員が風呂から出て居間に集合したところで各自椅子に座った。


「じゃ、報告会を始めるわよ」


 シィブルが主導で進めてくれるようだ。飲み物は紅茶、お茶受けも少々あるが邪魔にならないように中央に寄せられている。

 まずは俺たちが今日見たこと、試したことを伝える。

 次元断裂の表と裏の話もして共有し、ミゴフライも話しておく。


「ってことは現状エンタール以外は次元断裂を封じられないってことか」

「むう、ボクも出来るよ」


 ウラカの確認に対してパルが少し拗ねる。


「分かってるって。そう拗ねるなよ」


 ウラカが笑い、パルもからかわれたと知ってまた頰を膨らませた。


「ちなみにパルの次元技ってどんなのなんだ?」


 聞いてみるとパルは拗ねるのをやめて俺の方に顔を向けた。


「ボクの技は覇界斬って言って、聖気を最大まで溜めて最上段から振り下ろす技だよ!」

「シンプルだけに難しそうだな」

「一番習得が出来そうだ。やってみる価値はありそうだな」


 ディアロスも肯定し、俺も候補には入れておく。そこでシィブルが手を叩いて一旦区切りを入れた。


「次はラミュエルね。報告お願い」

「ああ、分かった」


 ラミュエルさんから報告されたのは俺たちと同じく次元断裂について、ミゴについて、だ。


「報告はこんなところだな。それとメランニスから一点報告がある」


 ラミュエルさんに促されてメランニスが立ち上がる。


「俺からはグールについてとゴウルについての報告です。これはラウェルカとウラカの発見なのですが、奴らは次元断裂ではなく、正確にはロンプロウムの地中から発生しているようです。

「地中からーーということは発生させている奴がいるってことになるわね」


 シィブルの推測にメランニスと俺たちは肯定する。


「その可能性が高いだろうな」

「その発生源は誰かが掘ったと思われる穴です。中にも入ってみましたが中にはグールとゴウルが蠢いており、ある程度で切り上げました」

「行ってみる価値はありそうだな」

「義兄様、調査するなら相応数の人数は必要になるだろう」

「次元断裂の調査と次元技の習得を並行して行うことを考えれば明日からは二つに分かれることになるのでしょうか?」


 ニーマの問いに俺が肯定する。


「そうだな。だが、先にプリュームたちの報告を聞いてから決めよう」

「はい」


 プリュームに報告を促し、シィブルも頷いて進行を再開した、


「では、私から報告させて貰いますね」


 プリュームたちは主にミゴの討伐や部位の調査、周囲の探索とグール共との交戦をしていたらしい。


「以上になります。あとはティクルスたちですね」

「うん、飲み込みが早かったから教えることもあんまりなかったよ!」


 パルの教えもあってティクルスとレリミアも聖気の扱いが上達しているようだな。

 ただし当人のティクルスたちは苦笑いしているが。


「じゃあ、明日の班と調査範囲を決めましょうか」


 シィブルもさっきの話の内容から何かをメモしていたのだが、どうやら班を考えてくれていたようだ。


「まず、次元技は急務よ。パル、ニーマは確定として、現段階で習得できそうなのはエンタール、ディアロス、ウラカ、プリューム、ラトースね。次点でダナンや私たちだとは思うけど……ダナンたちはゴウル共の調査に向かって貰える?」

「ああ、悔しいが、その方が有効だろうな。待機する者以外は調査か?」

「そうなるわね。待機するのはティクルス、レリミア、それと私と涼音よ」

「えー、私も?」


 涼音がブーイングするのは恐らく焔と瀬露が関係しているのだろう。


「ティクルスたちの訓練に涼音の力が必要なのよ。ダメかしら?」

「うっ……わ、分かったよ」


 涼音の性格上、頼まれたら断ることはしないだろうと踏んでの発言だろう。効果は充分あったようだ。


「調査リーダーはダナンとラミュエルさん、サブリーダーは葉理と銀次でどうかしら?」

「良いとは思うが、銀次を推薦した理由は?」


 俺が問うと銀次から酷ェと呟かれたが、ラミュエルさんや葉理たちも同じことを思ったのか肯定した。


「理由としては『直感力』よ。何が起こるか分からないし、土壇場での行動なら銀次が決めた方が上手く事が運ぶと思ったからよ」


 意外な評価だったのか銀次本人も驚いている。


「そうなのか?」

「んー、良いんじゃないの?」


 マーラからもお墨付きがあったことで反対意見は無いみたいだ。


「他に報告はある人はいる?」


 シィブルが確認を取ると銀次が思い出したように手を挙げた。


「銀次? 何かしら?」

「あっと、そういやメランニスの件が残ってたなぁ、って思ってさ」


 ああ、そういえばやってなかったな。


「何のことだ?」


 ティクルスたちが首を傾げたが、参加する前の話だから知らなくてもしょうがないな。


「ウラカ」

「あいよ。掻い摘んで説明するとーー」


 ウラカから説明が成され、俺たちも再確認する。

 まず、メランニスはラウェルカとフェイラの二人と契約していること。二重契約によって色々と危険なこと。ウラカの精霊魔法で再契約して調整する、ということだ。


「ラウェルカとフェイラは同意してるのか?」


 焔の問いに二人は肯定した。事前の説明はしてあるようだな。

 ウラカも確認を取り、立ち上がった。


「万が一に備えて契約は外でやるぞ。メランニスの力が暴走したら私一人じゃ対処出来ないから、全員武器持ってきてくれ」


 ウラカにしては慎重だ。それだけ危険な状態ということも伝わってくる。


「大丈夫よ。万が一の時は物理的に鎮めるから」

「で、出来れば遠慮したいですね……」


 シィブルの軽口にメランニスが苦笑いする。


「ほら、さっさと済ませるぞ」


 報告会が終わり、俺たちはコテージの外に出た。



 夏場ということもあって気温は少し暑いが、代わりに星空がよく見える。

 戦闘になることも考えてコテージから少し離れた場所での契約になる。何も起こらなければそれに越したことは無いけどな。


「そっちは準備どうだ?」


 ウラカ、メランニス、フェイラ、ラウェルカを中心に俺たちは円陣を組み、各々武装を展開して待機している。

 ダナンが声を掛けると、そっちも準備完了らしくウラカから手が上がった。


「準備オッケーだ。……始めるぞ」


 いつになく真剣な声色でウラカは術式を展開し、メランニスの背に手を当てる。次いで右手をフェイラが持ち、左手をラウェルカが持った。

 術式は見たことのない薄い緑色の魔法陣だ。ウラカの周囲には緑や黄色の精霊が集まり、魔法の発動を待っている。


「契約解除発動」


 その一言を発するとウラカを中心に高濃度の魔力が渦を巻いた。その魔力はフェイラとラウェルカに流れ、メランニスへと繋がっていく。

 するとメランニスの背に描かれていた文様が赤く光りだした。


「ぐああ!!」


 メランニス自身も悲鳴を上げた。肩や背中から棘やブレードのようなものが露出し始め、俺たちも油断なく構える。


「くそっ……! こりゃ、思ってたより――」


 ウラカは精霊魔法の行使に集中していることもあってか目の前のメランニスの様子に気づいていないようだ。そのメランニスは既に化け物の体躯に変化してのっぺりとした丸顔になっていた。


「ニィ」


 目が合っただけでゾクリと背筋が震えた。


「ギャァガガガガガ!!」


 理性はぶっ飛んだらしい、と全員が認識したらしくメランニスの周囲に魔法陣が展開された。


「光の束縛!」

「水竜の束縛!」

模造聖剣・飛翔(アルス・ロウム)!」 

獄炎の凶手(レギオン)!」


 光の鎖や水の縄、大量の聖剣に焔の手によってメランニスはその場に押さえつけられた。


「ギャァアアア!!」


 聖なる属性は通りやすいのかメランニスは束縛を解こうと左右の腕のブレードや尾を使って暴れだした。


「各自部位を狙って攻撃! 装甲もある程度壊して良いわ!」

「了解!」 


 シィブルの攻撃指示を聞いて真っ先に飛び掛かったのは涼音だ。そのあとに瀬露、葉理、壬が続き、一歩遅れてディアロス、プリュームたちも動き出した。


「せやぁ!」 


 涼音が接近すると同時に最上段に構えられた大剣を振り下ろしてメランニスの肩を袈裟懸けした。その勢いのままV字に切り上げ、逆袈裟の三連撃を決めて一旦離脱する。


「んっ」


 瀬露は狙いやすい腕のブレードを狙い、素早く同じ個所を切り付けて罅を入れる。逆側からは葉理がブレードに亀裂を入れる。


「ディアロス!」

「おう!」


 瀬露たちが離脱するとディアロスとソーラムが腕のブレードめがけて剣と爪を振り下ろし、破砕した。


「雷光一閃――グングニル!」

「ア”ァ――ッ!?」


 メランニスが奇怪な声を上げる。見ると壬の剣が灼熱の雷光を纏ってメランニスの肩部目掛けて刺突していた。その一撃で肩にあった装甲とブレードが破壊されて地面に落ちる。


「はぁっ!!」


 次いで逆の肩をダナンが聖気を纏わせた聖剣を一点集中で刺突し、装甲を貫いていた。


「グギャァァァァム!!」


 流石にメランニスも黙ってやられているわけもなく、破壊された装甲とブレードを急激に修復させ、背中から巨大な翼のようなものを広げた。いや、恐らくあれは鱗とか棘とかを飛ばす攻撃だろう。


「させません、光の束縛!」  

「剛斬!」


 プリュームが光の束縛で左腕を抑え、ラトースが右腕のブレードを一刀で切り落とす。


「俺だって!」


 押さえつけられている左腕のブレードの再生口にティクルスとレリミアが間髪入れずに聖気を纏った剣で切りつけて即座に離脱する。


「エンタール! 背中は俺がやる!」


 少し離れた場所では銀次が大剣を砲撃モードに切り替えてメランニスの背中を狙っている。


「了解、任せた!」


 なら、俺が狙うのは尻尾だ。今はニーマが光の束縛で抑えてくれていると言っても、あの長さ全てを抑えるには相応の力が必要だ。

 全身に身体強化と雷を纏って駆け出し、尻尾へと回り込み、聖剣を最上段に構えて半ばから振り下ろす。鉄を素手で叩いたような鈍い手ごたえだったが、切り落とすことに成功した。


「ギャガァ!?」


 長い尻尾は生物学的に体重を支える錘にもなる。それが急になくなった場合、その生物は前のめりに倒れこむ――はずなんだけどメランニスは前足を一歩踏み出してとどまった。

 俺は瞬間移動のごとくその場を離れ、同時に極太の熱線がメランニスの翼を消し飛ばした。


「ギュ、ガァァァアアアアアアアアア!!」


 ぷしゅー、と音を立てて銀次の大剣から何かが放出される。おそらく魔力をため込んだパックだと思う。


「イタイ、イタイタイタイタイイタイイイタイィィィ!!」


 片言の人の言葉と化け物の言葉が交じり合った叫びが上がる。メランニスのおぞましい牙が生えた口が目の前にいるウラカの頭部に噛みつこうと牙を剥いた。

 俺は瞬時にウラカの前へ立ち、メランニスの口内に聖剣をねじ込んで、腕を噛み千切られないように剣を縦にして上顎と下顎に食い込ませる。聖剣は壊れないから手を離し、メランニスの次の行動に備える。


「!? ア、ァァァアアアアアアア!?」

「――もう少しだ!」


 メランニスの叫びとウラカの喚起が同時に聞こえた。

 そして、のっぺらだと思っていた顔がパカリと左右に分かれ、赤色の瞳と目が逢った。その瞳に輝いた熱が集まるのが見えたのは僥倖なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ