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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百七十六話 次元断裂の調査

グラたん「第三百七十六話です!」


 朝食を終え、パルの挨拶も一通り終えた頃。

 高丘から見下ろした先にあるのは次元断裂。その周囲には見たことのない魔物やメランニスから報告があったミゴと思われる化け物もいる。

 それはそうとして、まずはこの大所帯の整理をしないとな。テーブルに皆を集め、俺は一望してから声を発した。


「さて、いよいよ調査なわけだが、人数も多いことからいくつかの班に分けようと思う」

「無難だな」

「是非ともそうしてください」


 焔とメランニスは割と切実に班分けを希望しているが、涼音たちやフェイラと一緒にならないとは限らない。


「班といっても馬車の見張りが一班、現地調査が四班だ。期日は一日としよう。メンバーについては俺の主観で組んでみた」


 そう言って空中に浮遊ディスプレイを立ち上げて皆に見せる。

現地一班:エンタール、シィブル、ディアロス、ニーマ、ラトース


現地ニ班:ラミュエル、メランニス、ラウェルカ、任、マーラ


現地三班:プリューム、ウラカ、パル、レリミア、葉理


現地四班:イムリス、ソーラム、涼音、銀次、瀬露


待機:焔、フェイラ、ダナン


「よしっ」

「よかった……」

「えー!?」

「……」

「まぁ、妥当ではあるな」

「ボクは現地だね!」


 好評半分、不評一部、その他は頷いてくれている。


「ちなみに明日の班分け担当はディアロスなので何かある人はそっちに行ってくれ」

「エンタールお前ェェ!?」


 いやぁ、やっぱり女性陣の視線が怖いからさ……。特に意図的にバラけさせた人たちからの視線が殺意篭ってるし。

 さて、ディアロスの叫びはともあれ。あと懸念することと言えば……。


「調査の役割だけど、一班は次元断裂内部の調査。ニ班は外部。三班は未知の敵との交戦を頼みたい」

「オッケー!」


 誰よりも早くパルが手を挙げ、早速バーサーカーぷりが発揮されている。


「リーダーは一班が俺、サポートにシィブル。頼めるか?」


 シィブルをわざわざ使命したのは俺の補佐をして欲しいからだ。何だかんだで頼りになるからな。

 彼女の方を見ると、肩をすくめて呆れつつも頷いてくれた。


「しょうがないわね。良いわよ」

「助かる」


 僅かに頭を下げ、視線をラウェルカたちに向ける。


「ニ班リーダーは色々発見してくれる意味も込めてラウェルカ、サポートはラミュエルさんとメランニスだ」

「まっかせて!」

「分かりました」

「ふむ、良いだろう」


 意外にもラミュエルさんは嬉しげな態度で応じてくれた。万が一のことを考えての人選だけど、任とマーラもいるから大丈夫だろう。


「三班のリーダーはプリュームだ。サポートに葉理。……正直、二人には多大な苦労をかけることになるけど、頼む」

「うっ、分かりましたわ」

「大丈夫ですよ。苦労なんていつものことです」


 と、葉理が言うと三方向から声が上がった。


「おい、それはどういう意味だ?」

「嘘!? 私、葉理にそんな苦労かけてた!?」

「ご、ご迷惑をおかけします……」


 ウラカ、涼音、レリミアの順に返答が返る。だが、ウラカは当然と言えば当然だろう。涼音に関しては思い当たる節がない方がおかしそうだ。レリミアは……仕方ないな。


「三人とも、落ち着いて。まだ話の途中だよ」


 パルが年長者らしくーーその実、容姿とか口調のせいで全然年上らしくないのだがーー止めに入ってくれた。

 が、ぶっちゃけ一番の不安がパルだったりする。何せ敵が居たらすぐ戦闘に行くような人だからな。


「ちっ」


 ウラカが小さく舌打ちしつつも座り、レリミアと涼音も着席する。


「パル、ありがとう。戦闘中もその調子でレリミアを頼む」

「うん!」


 威勢良く返事をくれたは良いが、俺は言わなければならない。


「レリミア。パルは普段はこんなだが、戦闘になると狂戦士化するので気をつけて欲しい」

「えっ、そうなんですか?」


 だいぶ打ち解けてはいるけど、まだ言葉が固いな。それも時間次第か。


「違うよ!?」


 レリミアは俺とパルを交互に見て、俺は肯定して、パルは激しくポニーテールを左右に振って否定した。

 尤もパルが否定しようとも俺たちはその狂戦士っぷりをよく知っているので半笑いする。


「俺からは以上だ。もう一度言っておくが二日後に集合。決して無理はしないように」

「お前が言うか?」


 銀次の期待通りのツッコミを聞き、各自微笑した。一通り見渡して見るが他は大丈夫そうだな。

 場も温まったところで俺は立ち上がり、続けて皆も席を立った。


「それじゃ、各自健闘を祈る!」

『おうっ!』


 こうして俺たちの調査は幕を開け、同時に王子として縛られない時間がスタートした。



 さて、俺たちは次元断裂へとやって来たわけだが、目の前で見ると不思議な感じだ。空間が別の場所と繋がっているからだろうか?

 次元断裂を間近でよく見るとビシリ、ビシリと音を立てて広がったり縮小したりしている。


「へえ、こんな風になってるのね」

「おっ、聖気に反応してるぞ」


 シィブルとディアロスは興味深そうに空間を触ったり、聖気を流してみたりしている。


「んっ!」

「聖気は有効打になり得るが、通常の攻撃でも傷は負わせられるようだな」


 対してラトースとニーマは寄ってきたミゴ共に向かって剣を振るい、手応えを感じているようだ。

 ふとラトースはミゴをじっと見つめ、海老のような胴体の一部を切って持ち上げた。


「エビフライにできないかな……」


 何か恐ろしい言葉が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにしよう。


「エンタール、ちょっとこれ見て!」


 おっと、シィブルが何かを見つけたようだ。駆け寄って見ると彼女は次元断裂の前に屈んでとある一角を指差していた。


「どうした?」

「これこれ! もしかしてここからミゴが出てくるのかもしれないわ」


 はしゃぐ声の方に顔を覗かせると、そこには小エビのような姿のミゴが数匹地面を歩いていた。


「こっちの世界だけじゃなくて向こうにも出るみたいだな」


 次元断裂の先の世界はピンク色と緑色の平原だ。そこにもミゴらしき生物がおり、一部はこちら側に来ようとしている。

 念のため警戒してみるが、小ミゴたちは次元断裂に触れるとその姿が断裂してしまった。

 もっと注視するとピンク色の平原は成体になっただろうミゴの死骸だった。どちらの世界でも共食いや蹴落としが発生していることから、蜘蛛のような生態をしていると考えても良いのだろうか?


「……こいつら、あんまり長くは生きられないようだな」


 ディアロスが呟き、俺たちは視線を向ける。


「どういうことだ?」

「多分環境が合わないんだと思う。ほら、幼体でもこんな弱ってるし、成体も動きが鈍いように思えるんだ」

「そこら辺は確証が持てないが、良い推察だと思う」


 ただ、ミゴ以外の生物は見当たらない。ゴウルも、報告にあったグールも姿はない。


「しかし……変な生物だな」


 渦巻きのような頭部に海老のような胴体、腕から先は触手だし、虫のような羽で飛んでいる。


「合成獣ってのが一番近いのかもね」

「そうだな」


 シィブルの意見に得心し、次元断裂の方に視線を向ける。そして手に石ころを一つ持って裂け目に向かって投擲する。

 結果はバチリと音を立てて石ころが消え去った。


「何してるの?」

「いや、こっちの世界から向こうへ行けないのかな、って思ってさ」


 まあ、ミゴの幼体が通り抜けられない時点で察してはいたが無機物ならと思っての行動だ。


「結果は見るまでもないわね」

「やっぱ次元技で閉じるしかないのか」

「それが最有力でしょうね」


 だけど俺たちはまだ次元技を習得していないから、ここの次元断裂を閉じることは出来ない。

 次元断裂は空間にできる歪のため周囲を一周することが出来る。反対側からも石を投げ込んで見るがーーこっちからは弾かれた。


「えっ?」


 消滅ではなく弾かれた。念のためもう一度確認するが結果は同じだ。そこらにあったミゴの幼体を放り投げてみると、こっちも壁に当たったように弾かれる。

 なら横はーーこれも弾かれるという結果だ。

 試しに聖気を流してみるとピシリという音を立てて大きく縮小した。

 ……まさかと思いつつイクス・ターンを抜いて、聖気を纏わせて斬りつける。やはりピシリという音を立てて縮小した。


「ちょっとエンタール、なに一人だけ次元技を習得してるのよ!」


 反対方向からシィブルの声が聞こえ、我に返ってそちらへと向かう。


「いや、まだ次元技は習得出来てないよ。ちょっと実験しているだけだ」


 と言いつつ最上段から斬り下ろす。すると今度はビシリと違った音を出した。手応えは裏側より重いし、縮小も先程とは違って小さい。


「今の音、聞こえたか?」

「音? ビシリってやつ?」

「はい、確かに聞こえました」


 シィブルとニーマにも聞こえたらしい。


「それがとうしたのよ?」

「次元断裂にも表と裏ーーいや、もっと正確に言うなら扉、か? 斬った時の感触が俺たちのいる方だと重くて、裏側だと軽いんだ。もしかしたら何かの手がかりになるかもしれない」

「本当?」




 シィブルは半信半疑ながらも抜刀し、聖気を纏わせて次元断裂に叩きつけた。次いで裏側も斬り、抜刀したまま戻ってきた。


「確かに裏側の方が手応えあるわね。この規模なら数回斬ったら消滅出来そうよ」

「物は試しにやってみるか」


 シィブルの確信を信じて裏側に回り、俺は聖気を十全に溜めてから次元断裂を横一文字に斬り裂いた。

 やはりピシリと軽い手応えがあり、次の瞬間ーー次元断裂は消えていた。


「成功だな」


 うんうん、とシィブルとニーマが頷く。


「これ、初日から大手柄になりそうね」

「流石は義兄様です!」


 へへへ、ちょっと照れくさいが悪くない。


「出来た!」


 と、そこでミゴを討伐していたはずのラトースが大きな声を上げ、俺たちがそちらを振り向くと……何か見たことのある巨大な海老フライが出来上がっていた。

 ディアロスも一役買っていたらしく、満足げな表情で鍋と油を片付けている。


「一応聞いておくけど、それは?」

「無論、ミゴフライだ。私が下拵えして、ディアロスが揚げてくれた。美味いぞ」

「マジか……」


 一見すると普通にエビフライだが、そこらに転がっている幼体ミゴの大きさより一回り小さいくらいの大きさのため食欲不振にもなる。


「自信作だ。食べてみてくれ」

「毒味はしたんだよな?」


 ディアロスに確認を取るが、大丈夫だと頷かれる。

 俺は震える手で串を手に取り、マヨネーズとソースをたっぷりと付ける。


「義、義兄様……」


 ニーマが心配そうに見上げるがーー南無三と心の中で呟いてかぶりついた。

 口に入るとソースとマヨネーズが絡み合い、サクサクに揚がった衣が砕ける。そして中から出てきたのは想像もしていなかったプリプリの海老。食感は悪くないし、しっかりと下処理もされているから臭みもない。

 数回噛んで飲み込むとゴクリと音を立てて胃の中へと収まった。


「う、美味い……」

「だろ?」


 ディアロスとラトースがドヤ顔になるのも頷ける。


「嘘でしょ……」

「本当でしょうか……?」


 二人は疑っているのも仕方ないだろう。何せ見た目がアレだし。実質ゲテモノの類だしな。


「食ってみたら分かるさ」


 俺の言葉を信じたのか、それとも興味本位なのか、二人は串を手にとって躊躇いつつも口に入れた。

 数秒後、二人は驚いた表情でミゴフライを飲み込んだ。


「あら、意外とイケるわね」

「はい。これは食べれます!」


 それを聞いてディアロスたちも満足気だ。

 食べながら情報を共有し、ラトースたちにも次元断裂の前まで来てもらう。

 そしてもう一度次元断裂を閉じてみせる。


「おー、裏側からの方が楽そうだな」


 と言ってディアロスも他の次元断裂の裏側へと回り、聖剣を手にして斬り裂いた……が。


「わっと!?」


 まるで何も無い空間を斬ったかのように空振りし、斬撃は勢い余って地面を大きく斬り裂いた。


「盛大に空ぶったな」

「な、なんでた? ちゃんと聖気も纏わせたのに……」


 確かにそれは俺も確認したし、シィブルたちも見ている。次元断裂の方に目を向けるが、大きさはあまり変わっていない。


「エンタールに出来て、ディアロスに出来ない……違いはそんなに無いように思えるけど……」

「もしかして義兄様は神様の加護をお持ちなので、その影響もあるのかもしれません」


 ニーマの推測にある程度の納得はいく。だけどそれだと説明のつかないこともある。


「仮にそうだとするなら叔父様が習得に苦戦するのは変な話だと思うぞ。それに魔王軍のメンバーは全員魔神様の加護を得ているわけだからディアロスが出来ないわけない」

「そうなると……エンタール、貴方ほかにも何か隠してることないかしら?」


 シィブルの懐疑的な視線を受けるが、神の加護以外は……そこで俺はイクス・ターンのことを思い出した。

「隠してるわけじゃないけど、あるとするならイクス・ターンかもな」

「どういうこと?」

「少し前にオーディンの爺ちゃんから『聖剣の中身がない』って言われて、今この中にはカラドボルグっていう聖剣が入ってるんだ」


 そういえばミカエルさんも『無限を斬るが持ち主を破滅させる』みたいなこと言ってたな。


「ちょっとまって。その言い方だと俺の聖剣はまだ完成してないってことか?」

「中身は必要みたいだけど詳しくは分からない」


 実際俺もオーディンの爺ちゃんから聞くまでは知らなかったわけだし。中身入れたから何が変わるのかも知らなかったしな。


「そっか……」

「となると、エンタールはともかくとしても私たちは次元技の習得が必須だな」


 ラトースの言葉に俺たちは頷く。俺もイクス・ターンに頼りきりじゃ置いてかれそうだから修行には参加するぞ。

 その後も次元断裂を調べたが大きな成果は挙げられなかった。


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