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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百七十三話 乾杯

グラたん「第三百七十三話です!」


 ティクルスたちのことを説明するため先にシィブルたちに顔合わせをしておき、そのあとで二人を俺たちの馬車の方に乗せた。馬車が出発してお茶を入れ終わった後、俺は二人のことを皆に紹介していた。


「というわけでしばらく一緒に旅をすることになった。皆、事後承諾で悪い」

「オッケー」 

「ま、いいんじゃねぇの?」 


 軽いノリでオッケーされた。二人も挨拶を終えるとすぐに皆と打ち解け、俺といつ出会ったのか、その後の事件はどうだったとか、そんな話で盛り上がった。当然、俺も聞きたいことはある。


「そういえばティクルスたちは聖気を使えるようになっていたけど実戦で使えるレベルなのか?」


 一応さっき戦闘で見たには見たけど全員の共通認識にしておきたいからな。

 が、それを聞くとティクルスとレリミアは苦々しい顔になってしまった。


「聖気か……」

「使えるには使えますけど……」

「あんまり使えないってことか?」


 追及するとティクルスは小さく肯定した。まあ俺たちみたいに時の流れの違う部屋で修行したわけでもないし、当然だろう。


「一応、エンタールたちが聖気の修行をしたって話をエヌさんから聞いたから俺たちも、って思って訓練はしてみたんだけど……思っていたより難しくてな」


 その割には剣に付与して威力を上げることは出来ていたけど。


「エンタールたちの戦いを見てると差が出来たって思うよ……」

「なら、今の内に少し練習してみるか?」

「いいのか?」


 俺からの提案は意外だったらしいが、この先で聖気を使えるのは必須条件だから二人には習得してほしい。何より死んでほしくないしな。


「ああ。移動中は暇だしな」

「分かった。じゃ、教えてもらおうかな」 

「おう!」


 勿論、俺だけじゃなくて全員で教えるんだけどな。

 そして毎回恒例のパターン分けもあった。ティクルスは意外にも理論から覚えた方が習得が早く、逆にレリミアは感覚での習得の方が早かった。

 更に言えば暇を持て余したメランニスと焔も参加し――この二人は聖気とは真逆の禍々しい気の方に目覚めていた。俺たちはこの気のことを邪気と定義した。

 と言っても使い方と習得の仕方は聖気と同じやり方でも大丈夫だったので理論の方は代用が効いた。

 そうして、しばらく四人の特訓に付き合っていると馬車が止まった。


「ん? また止まったな」 


 外を見てみると夜になっていて辺りは薄暗い。近くから物音や殺気はないな。しばらく様子を見ていると前方の馬車の扉が開く音がして誰かがこちらに駆け寄ってくる足音がした。


「おーい、到着したよ!」


 その声はラウェルカだな。ラミュエルさんも一緒らしく、その手には木箱がある。


「分かった!」


 その声は中にいた皆にも聞こえていたらしく、各自荷物を持ったりキャンプセットを持って外へと出ていく。俺も鍋やら具材やらを外に運んでいく。

 この場所は当初予定していた次元断裂が発生している付近の丘だ。馬車の先には次元断裂があり、大きさは3m前後だ。魔物の気配は無く、ゴウルの気配もない。


「さて、ちゃっちゃと作るわよ!」

「おー!」


 料理は朝昼夜と交代制だ。正直野郎飯なんてたかが知れてるから作れる人がいるのはありがたい。余談だがまともに料理ができるのは料亭娘のソーラム、イムリスを筆頭に、瀬露、シィブル、壬、葉理、ラミュエルさん、ディアロスだ。他は未経験か黒焦げ経験がある者たちになっていて比較的マシらしいプリューム、ラトース、フェイラの三人は手伝いに加わっている。


「ディアロスあの野郎……っ」

「ほら、愚痴ってないで水汲んで火を起こすぞ」


 傍から見ると羨ましい状況だが、よくよくみると良いように使い走らされている。それだったら薪でも作って見張りをしていた方が幾分も楽だ。

 火起こし担当は俺と焔だ。俺が薪を作り、焔が威力を調節した炎で炭を作っていく。


「くそっ……」


 元々火力押しなタイプだから弱火は苦手らしく存外苦戦しているようだ。採ってきた木も8割くらいは蒸発している。

 一応料理に使う火は先に分けて置き、キャンプ調理セットを組み立てて場を温めておく。


「そっち火は出来てるー?」


 少しするとソーラムが確認に来て、俺は温まっている火を確認して返答した。


「ああ、いつでもいいぞ!」

「おっけー!」


 ソーラムたちが鍋を運んでいるのを見て俺も運搬に加わり、それも終わると火力の調節作業に入る。匂いから今晩のメニューはシチューだということも分かる。が、何だろうか……嗅いだことのない香りも混じっている気がする。嫌な感じじゃないから多分香辛料の類だろう。

 少し顔を上げるとソーラムとラウェルカが鍋を混ぜており、銀次たちも水汲みから戻ってきていた。


「うん? な、なんだこの匂い?」

「おかえりー。水は浄化魔法掛けてくれた?」

「マーラがやってくれたぜ。分量は分からないから丸投げするけどいいか?」

「うん、任せて!」


 ふと視線を水瓶の方に向けると、一体何リットル持ってきたのか分からないくらいの量が瓶の中に詰まっていた。あれじゃ持ち運ぶのだって大変だろうに……。

 それはそうと、このまま銀次を遊ばせておくわけにはいかないな。


「銀次、手が空いたならてつだ――」

「銀次! こっち手伝いなさい!」

「へーい……」


 ああ、もうマーラの先約があったようだ。銀次は浮かない顔でマーラたちの方へ走っていき、俺はひたすら火加減を調節する。

 鍋物なだけあって火は強すぎず弱すぎずを保つ必要がある。調節出来ているなら焔に任せてもいいんだけど、あの様子だしな。ちなみに火の調整は俺が薪の調整をしてウラカが反対側から風魔法を使っている。

 パチパチと薪が爆ぜる様子を眺めつつシチューの完成を待つ。一応周囲の警戒もしているけどメランニスたちが哨戒してくれているから大丈夫だ。

 流石に暇なので辺りを改めて見渡してみると、大所帯になったものだ、と思う。最初は俺、ダナン、ニーマの三人旅だったのになぁ。


「そろそろ出来上がるよ!」

「こっちもそろそろ出来るわよ」


 思い出に耽っているとラウェルカとシィブルが声を上げて合図を送っていた。野外にテーブルとイスが並べられ、皿に盛りつけられたサラダやパンが運ばれていく。

 馬車の方ではティクルスとレリミア、それと銀次とマーラで魔物除けの結界を張っているようだ。


「よし、完成! エンタール、火の片付けをお願いね」

「了解」 


 鍋が退けられ、運ばれていく。片付けと言っても後でこの辺りに集まって団欒するし、野郎どもは火元で雑魚寝が決定しているからある程度火の勢いが収まったら炭だけ残しておく。


「よし、アタシたちも行くか!」

「おう、飯だな」


 片付けを終えてテーブルの方へ行くとシチューをメインに夕食が並べられていた。


「あ、あんな量だったのに……」

「そんなもんよ」


 ディアロスは作ったこともない量に驚き、それが一瞬にして無くなることに愕然としていた。逆にソーラムは料亭の手伝いをしているだけあって驚きもしないな。

 どれもこれも良い香りだ。美味しいのは間違いないが、皆と食すこれらは過去最高の美味となるだろうことは簡単に予測できた。

 各自が席に座り――っと、忘れるところだった。


「あっと、皆、先に一つ良いか?」

「どうしたんだ?」


 銀次を筆頭に全員の視線が俺に集まる。


「大した事じゃないんだが、一応な。もう知っていると思うし仲も深まっていると思うが、今日から新しく調査に協力してくれる俺たちの仲間、ティクルスとレリミアだ」

「よろしくな!」

「改めまして、レリミア・エンテンスです。しばらくの間ですが、よろしくお願いしますわ」


 やはり短時間で馴染んでいたらしく、誰も驚きもせず異論も無かった。


「おう! よろしく!」

「挨拶終わったんなら飯にしよーぜ!」


 ウラカは相変わらずガサツというか何というか……。そう思っているとシィブルが制してくれた。


「ウラカ、こういう場は様式美って物があるのよ。ドンチャン騒ぎも良いけれど、今回の発端者から一言くらい何かあっても良いんじゃないの?」

「そうか?ま、やるなら手短にな」


 そんな予定は無かったんだが、皆の視線が集まってることだし気合いの一つでも入れて見るか。

 俺は全員を一望し、今更ながらに大層なメンバーが集まったなぁ、と思う。

 一呼吸入れて、俺は今思っている素直な気持ちを静かに告げた。


「まず、皆には毎度俺の無茶ぶりに応えてくれて本当に感謝してる。ありがとう」


 静寂のおかげか俺の声はいつもより通っている気がした。皆の反応は照れたりドヤ顔だったりと分かりやすいな。


「そして、ここにいる皆ならこれから起こるだろうどんな困難だって乗り越えられると俺は思う」


 隣の席にいるイムリスがそっと果実のジュースが入った酒小樽の杯を渡してくれる。

 いつの間にか皆に行き渡っているし。

 酒小樽を掲げ、俺は最後の句を告げる。


「今日、この夜を俺は忘れない。俺の元に集まってくれた仲間ーー盟友たちに最大の感謝と敬意を込めて祝杯を挙げよう。ーー乾杯!」


『乾杯!!』


 ガシャン、と杯が打ち合わされる音が鳴り、全員一斉に果実ジュースを呷る。

 ぐびっ、ぐびっ、ぐっーー!?

 鼻一杯に広がる果実の香りと舌の上で弾ける炭酸。上質なものであるのは間違いないだろう、だが!!


「って、これエールだろ!?」


 半分くらい飲んだところで俺は叫びを上げた。一応国家の法律上、15歳で成人はしているから飲酒は大丈夫だし、祭事の時とかは口つけくらいするからわかる。

 いや、この間の神々との宴で散々飲んだけどさ! 味も質も負けてるけど、せっかく用意してくれたものだし黙っておこう。


「なんだ、エンタールは酒が苦手か?」

「いや、飲めるには飲めるぞ」


 焔は美味そうに飲んでる。シィブルたちも割りかし飲める方みたいだ……?


「いや、ちょっと待て。シィブルたちはまだ未成年だろ」

「今日くらいは良いのよ。ぷはぁ! 初めて飲んだけど意外と美味しいわね!」

「ごくごくごく」


 ……これ、後で大丈夫なのか? 瀬露も恐ろしいペースで飲んでるが……。


「細かいこと気にすんなって! ほら、飲め飲め! で、食え!」

「そ、そう、だな?」


 ウラカの気迫に押されて追加を受け取ってしまったが……程々にしよう。全員ぶっ倒れて魔物に襲われたら笑えないし。


「苦~い」

「ラウェルカにはまだ早いみたいですね。ジュースもありますよ」

「うん」


 メランニスはラウェルカの給仕で忙しいようだが、隙をみてはフェイラが食べさせている。


「銀次、勝負だ!」

「おう!」


 銀次とティクルスはシチューと水を片手に食べ比べ、飲み比べをしている。シチュー自体は山のようにあるので完食には至らないたろう。


「エンタール、ちょっといいか?」


 パンをかじっているとディアロスが隣の空席にやってきた。本来ならレリミアが居たんだが……。


「ハイ! 抜刀リンゴ切りやります!」

「助けてー!」


 エール一杯でハイテンションになった任に連れ去られて隠し芸のネタにされている。助けようにもああなった任へ初めて見たから対処方が分からない。

 つまり、俺はやむなく見て見ぬ振りをするしかない。それでディアロスだったな。顔色は明るいから悪い話ではないのだろう。


「おう、どうした?」

「エンタール、さっきの締めくくり良かったぞ。かなり照れ臭いけどな」

「それは俺も同じだ」


 だが、率直な気持ちだったのは間違いない。


「俺さ、立場上、同年代の友人がいなかったから嬉しいよ。というか俺の周りの女子率異常なんだよな……」

「嫌なのか?」


 一見だと良いように思えるが、何か気苦労があるのだろう。


「嫌じゃないよ。むしろ嬉しいくらいだ」

「くっ……」


 こいつ……っ、凄く満足気にしやがって!


「ただ、尻に敷かれて足蹴にされる点を除いたらって話でもあるんだけど」


 さっきのが良い例か。悔し紛れにエールを飲み、ディアロスは数泊間を開けてから告げた。


「あのさ、銀次とマーラのことなんだけどーー」

「ディアロスさん、ここにいたんですね。さあ、こっちに来てください」


 そこへタイミング良くか悪くか葉理が割って入った。顔つきからして酔ってはいるが意識はありそうだ。

 ディアロスの腕を強引に掴み、本人も俺の意思も無視して連れて行く。


「えっ、いや、今結構大事な話が!」


 連れ去られた方向を見るとソーラムがナイフ投げをするみたいだが、好き好んで的になる奴はいない。そこで婚約者という名目があるディアロスを身代わりにするってことか。

 ……早めに離脱した方が賢明か。

 夕食自体は宴会になっているので離席しても大丈夫だ。念のためディアロスの安否を確認すると、物の見事にナイフがリンゴに刺さっていた。


「次はーー」

「あっ、それならエンタールが適任ね」


 おのれシィブル。やはり逃げて正解だったか。


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