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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百七十一話 賑やかな旅路

グラたん「第三百七十一話です!」


「では、次は私たちだな。皆も知っての通り、私たちは次元断裂についてオーディン様の話を聞きに行った。だが、内容は前に聞いた通りに次元断裂からは形状しがたい怪物のみが出てくるとのことだった。ゴウルどもについては別件なのではないか、というのが見解になる」

「次元断裂そのものについての情報はないのか? どうやったら起きるのか、とか」

「それについても詳細を記録してきた」


 流石はダナンだ。抜かりないな。


「発生条件についてだが、これは世界に負荷がかかることによって発生するようだ。具体的に言うと莫大な魔力による力場の生成、神同士が争うことによっておこる歪み、もしくは邪神が敵対した際に発生するもの、という認識をして貰えれば良い」


 今回で言うとロンプロウムの敵対、神々の黄昏とかが原因なのか。


「ってことはゴウルに関しては完全に別件?」


 涼音が聞くと概ね間違っていない、とダナンは頷いた。


「そうなるな。首謀者はロンプロウムだけでなく、もう一人いると考える方が自然だろう」


 それだと後で二手に分かれる必要が出てきそうだな。別世界から送り込めることを考えても手練れなのは間違いないだろうし、もしかすると神格かもしれない。


「で、だ。ゴウルよりも問題なのは形容しがたい化物ども――長いので神話から拝借して仮称ミゴとしよう。そのミゴ共は一体一体は大した強さではないが常に群れで進行してくる。対軍、対国家戦力規模と考えてくれても構わない」

「具体的にはどのくらい強いんだ?」

「大体最上位魔法3発食らったら倒れる程度だ。魔王軍の兵士5人で一匹倒せるくらいの強さだろう」


 それは……大した強さだと思う。人間なら、魔族の兵士1人を倒すのに最低でも30人は必要だ。つまり最低150人いて人間側はようやく1匹倒せるかどうかというくらいか。


「そのミゴとは戦闘したのか?」

「オーディン様から聞いた限りだ。その点はメランニスの方が経験があると思うが、どうだ?」


 視線をメランニスに向けると、珍しいことにフェイラが抱き着いていないこともあってか顔色は凄く良く、上機嫌に答えた。


「ええ、前回の際に何匹か倒しました。俺のブレードで一撃で倒せますから皆さんも苦戦することはないと思いますよ」


 メランニスは修行をしていないため聖気を扱うことは出来ないが、それでも十分すぎるくらいの強さを持っているはずだ。前に叔父様にやられてはいたが、銀次たちの話を聞く限りだと物理攻撃も魔法攻撃もあまり通用しないらしい。


「そうか……戦ってみて、だな」


 数という不安はあるが今は気にする必要はないだろう。


「報告は以上になるが、次元断裂の調査をするのであればある程度の目星は必要だと思ってアジェンド周辺の亀裂についての情報をミカエルさんから貰っている。可能であれば本戦の前にゴウルの件を片付けてほしいとも頼まれている」


 ゴウルの件は未だ不明な点が多いからな……不安要素は可能な限り無くしておきたい。


「加えて次元断裂を封じるための技術、次元技についても情報を貰った。これについてだが、現在次元技を習得できているのは極一部の神々と叔父様、ニーマとなっている。圧倒的に使用できる人数が不足しているため私たちも習得するようにとお達しが来た」


 聞く限りでも相当難しいことが予想されるが、使用出来るようになれば親父越えも夢じゃないな。


「その習得方法は?」 


 ダナンは手元のメモ帳を見つつ酷く気まずそうな雰囲気を出しつつ、重々しく呟いた。


「人それぞれだ」 

『……』


 ダナンの言葉の続きを待つが、ダナンはそれ以上言葉を出すこともなく黙り込んだ。


「えっ、おい? まさか具体案が無いってことなのか?」


 焦れたウラカが問うとダナンは渋々と頷いた。その様子にウラカも苦渋の表情を浮かべ、俺も表情が引き攣った。今ある情報から考えると――。


「習得できている人が少なすぎて情報がなく、ニーマに関しても情報がない。そういうことで良いのか?」

「その通りだ。ニーマは隕石を召喚する魔法が次元技となったそうだ」

「あー、あの魔法がそうだったんだ!」


 涼音に続いてゴーラスト戦線にいた面々は納得したように頷き合った。そう考えると単純な強さだけじゃ次元技を習得は出来ないのかもしれないな。


「これについては今考えても仕方ないことだ。ともあれ、目的は決まったな」


 全員の意識を俺へと向けさせ、努めて明るく振舞って言い放つ。


「今回の旅の目的は大きく三つ。一つは次元断裂について調べること。二つ、ゴウルや死人を操っている元凶を探して仕留める。三つ、次元技を習得すること。ただしいずれも絶対条件でないことは各々頭に入れておいて欲しい」


 やるべきことは多いが全て達成する必要はない。逆に、親父の言い分からすれば全て達成できなくても問題はないと思う……が、どれか一つくらいは達成しておきたいな。


「何か質問はあるか?」


 全体を見渡すと焔から手が上がった。


「調査するのはいいが、日程はどうするんだ?」


 ああ、そういえば言ってなかったか。


「調査の日程は今日から9日の昼までだ。昼になったら迎えがくるらしい」


 どうやって来るのかはわからないが、多分、探知魔法でも使って見つけるのだと思う。


「そうか。物資や荷物の手配はどうなっている?」

「正式に調査命令が出たってことで大型の馬車2台と物資が支給される。コテージとかも用意してある」

「なら大丈夫だな」


 戦いで地上が大きく損傷しているといってもロンプロウムは広大だから森や川は多く残っている。最悪、現地調達でも良いだろう。


「他は何かあるか?」

「はーい!」


 今度は涼音か。そちらを向くと彼女は窓から城下町の方角を指差していた。


「うん? どうした?」

「えっとね、飛行機? みたいなのが城下町に降りてきたんだけどなんだか大騒ぎになっているみたいだよ」


 気になって窓に近寄ってみてみると確かに飛空艇が着陸していた。よく見てみると飛空艇からは多くの避難民が降りてきており、城下町に到着したことで安堵したり歓喜したりしているようだ。


「ああ、そっちは兵士たちに対応させておけば問題ないだろう。どうやら避難民が降りてきたみたいだしな」

「そっか! 私からはもう大丈夫だよ!」


 多分無いとは思うが念のため皆を見渡し、質問が無いことを確認して俺は大きく頷いた。


「それじゃ準備が整い次第出発しよう!」

『おー!』


 意気も士気も高く各々が拳を上げたり同調して頷いたりしている。

 改めて見て、俺は良い仲間を得たと思った。




 出発はアジェンド城が転移する前に出ようということになり、俺たちは馬車を止めてある城の門前までやってきた。予定では乗り込んだ後に西門に向けて出発予定だったが、門前では今後の不安を抱く民衆で溢れかえっており、通行止めを食らうのは必至のため俺たちはあまり使われることのない北門へと回り道することになった。

 余談だが俺たちの馬車は危険地帯に入るということもあって馬はST製の機械馬を用意されており、馬車も大人数が乗るということで従来の二倍近い大きさで用意されていた。しかも内部は魔導鉄と呼ばれる鋼鉄よりも固い金属で加工されているため魔導馬が出せる最高時速500kmにも耐えられるらしい。

 ちなみにその速度は移動用の魔法を使ってない場合だ。使用した場合はもっと速くなるらしいけど使うことはまず無いだろう。

 馬車の内部は長いソファーが壁際に設置されていて、中央にはテーブルが2つあるが片方は使わないので畳まれている。奥の方には荷物が詰められている。食料は前方の貨車に詰められている。

 城の北門は王侯貴族専用の連絡通路門だが貴族たちの住居からだと東西の門の方が近いため、北門は実質的にアジェンドに降りてきた竜族の住処となっている。

 親父の話だと竜族っていうのは勇者を除けば世界最強の種族らしい。最近は城にくることが多く、他種族と会ったりもしているようだ。


 そんな彼らの横を通り抜けて北門を抜け、ガタゴトと揺られながら俺たちはアジェンド城を後にした。

 しばらく走っていると転移する予定の時刻が来て、俺たちは馬車を一旦止めて背後にある城を眺めていた。今いる場所は西北にある小高い丘の上だ。地形は荒地になってしまっているが、ここからはアジェンド城が良く見える。

 少しすると城を起点に超巨大な魔方陣が展開され、城を包み込むように転移魔法が発動していく。見慣れた城の姿が少しずつ光の中へと消えていき、一瞬後にアジェンド城は姿形残さず転移してしまった。

 少し寂しくもあるがそれも戦いが終わるまでだ。


「さてと、これで本当に後戻りは出来なくなったな」


 俺がそう呟くと銀次が含み笑いをしつつ俺の背を軽く叩いた。


「なんだ、戻りたかったのか?」  

「まさか。とっくに腹は括ったぜ。――行こう」


 おう、と銀次が答え、俺たちに続いて各自馬車に乗り込んでいく。


 目的地はここから更に西へ向かった平原だ。近くには町も村もないということで優先順位が低くなっている次元断裂へと俺たちは馬車を走らせる。

 道中は動物も魔物もなく静かなものだ。姿も気配もない。この静寂の中で音があるとすれば俺たちの馬車と馬車の中の談笑する声、それと風を切る音くらいだ。

 馬車も普段ならガラガラと音を立てて動くが魔導による機構式なこともあって音はほとんどしない。路上を進んでも石くらいなら砕いてしまうこともあって車輪が壊れることもない。

 馬車は二台あるため内部は二手に分かれていて、俺が乗っている方には銀次、フェイラ、ディアロス、焔、ウラカ、メランニスがいる。御者は自動運転のため要らないから目的地に着くまでか何かトラブルがあるまで俺たちに出番は無い。


「それにしても随分と偏ったな……」


 馬車の内部には貴重な野郎枠が全員揃っている。先頭を行く馬車は女子が固まっているため入っても肩身が狭くなるだけだ。代わりに座席が狭くなるからという理由で荷物は全てこっちの馬車に積まれてしまったが俺たちは然程気にしないので問題ない。


「ま、気楽で良いけどな!」

「そう思うなら助けてください」


 メランニスの奴はいつも通りだな。気にする必要もないが、ストッパーのマーラとラウェルカがいないから止めてやるか。


「フェイラ、そんなに抱き着かなくても大丈夫だろ? 別にメランニスも逃げないだろうし」

「ダメ。白色は逃げる」

「馬車の中で逃げ場ないと思うんだが……」 


 多分そういう問題じゃないんだろうってことは銀次たちから聞いた話で分かっている。


 重症だな、と思いつつ俺は席に座りなおした。


「いや、あの、諦めないで――ぐえっ」

「つっても、このままじゃメランニスも困るだろうから何か解決策ないもんかね?」


 確かにずっとこのままというわけにはいかないだろう。解決策か……。

 ふと、俺はつい最近類似した経験をしたことを思い出し、もしかしたらと考える。


「なあ銀次。一応聞いておくけどメランニスが白色って奴かそうじゃないかって分かればいいのか?」

「確証がないから何とも言えないけど、そうだな。少なくても俺たちは納得できる」


 俺たちは、か。フェイラの場合はどっちだろうと構わないのかもしれないし、違っていたとしても虚構に逃避する可能性が著しく高いということだろう。


「そっか……」 


 死人は生き返らないし生き返らせてはいけない。一部例外を除いて、それはこの世界では不文律だ。


「なんか良い方法でもあるのか?」

「なんとかこの状況を打開できるのなら手伝いましょう」


 銀次も、メランニスも興味ありげに身を乗り出して聞いてくる。


「あまりお勧めは出来ないし、フェイラがちゃんと認識するわけがないってこと前提ならあるぞ」

「マジで!?」

「マジだ。要は記憶があるか無いかってことだろ? それなら叔父様に記憶領域を調べてもらえば済む話だ。記憶喪失なら俺みたいに治ると思う」


 ああ、と二人は納得し、聞き耳を立てていたウラカたちも納得する。


「それは期待できそうなアイデアですね」

「その叔父様がどこにいるのかって問題はあるけどな。少なくても実行されるのは戦いが終わった後になるだろう」

「……まあ、気長に待ちましょうか」


 メランニスは今は諦めたらしく、大人しく席に座ってフェイラにホールドされた。やはりミシミシという骨や肉が軋む音が聞こえてくる。同時にメランニスの口からは悲鳴が迸ったが誰も助けに入ろうとは思わないらしく苦笑いを返すだけだ。


「おうおう、どうしたエンタール? 羨ましいのか?」


 しばらく見ていると何を勘違いしたのかウラカがニヤリと笑いながら傍に寄ってきた。


「あれを羨ましいとは思わないな……」


 メランニスの反応からしても骨が痛んでる音だろうし。それを超回復能力を持たない俺が受けたら一撃死は間違いない。


「なんだよ、アタシじゃ不満か。イムリスの方がいいってか?」

「そこまで言ってないだろ。あんな骨が折れそうなくらいの痛みは嫌だってだけだ」

「ほーう、じゃあ良いんだな?」


 ウラカが更に接近して距離が無くなる。腕が触れ、今にも飛びかかろうとする肉食獣の如き目つきで俺を見上げてくる。俺としてはむしろ来てほしいんだが、さっきから銀次の視線が痛い。


「今はやめとけって。銀次たちが可哀そうだろ」


 そういうと銀次はガクリと首を項垂れさせた。


「それ言うなよ……。良いよな、お前ら彼女持ちでさぁ……」


 確かにこの場にいる野郎どもの内、銀次だけがいないな。そう思っていると銀次は急に顔を上げ、とてつもなく悔しそうな表情を俺たちに向けた。


「俺だって……俺だって――!」

「マーラに告ってみれば?」


 銀次が立ち上がって雄たけびが上がる寸前、ウラカの先制が決まり、銀次は見えない矢が刺さったかのように勢いよく座りなおした。


「ば、馬鹿言え! 何が悲しくてマーラなんかに――!」

「口じゃ嫌だ嫌だって言っても何だかんだ一緒にいるくせに良く言うな」


 尤もな言葉に銀次は言葉を喉に詰まらせた。


「そ、そりゃ、あいつ一人じゃ心配だしよ……」

「お前……そこまで気にかけておいて嫌いなのかよ……」


 ウラカが呆れ気味に呟き、ディアロスと焔も視線を耳を傾けた。


「別に嫌いじゃねぇよ。ただなぁ……俺はマーラの召喚獣だし、マーラも俺のことをそんな風に見てないだろ」

『確かに』


 満場一致の肯定。誰も否定しない辺り分かり切っていたことでもあったのだろう。


 

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