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勇邪の物語  作者: グラたん
第四章 次世代の物語編
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第三百六十八話 親世代の意地

グラたん「第三百六十八話です!」


「ふむ、加護について知っていたのか」


 お父さんもそんな私たちの様子に感づいて問います。


「具体的には存じあげませんが、義兄様が何かしらの強い力を得ていたことは知っておりました。もしかすればウラカや銀次も所持しているかもしれません」


「……う、む」


 お父さんの表情が何時にもなく強張っています。口元も引き攣ってしまっています。


「それで、エンタールの記憶喪失は治ったのですか?」 


 良いタイミングでイムリスさんが切りだしてくれたおかげでお父さんも意識を切り替え、重い沈黙は終わりを告げました。


「今回の記憶喪失は戦闘時における処理に脳が付いていけなくなったため起こったことだ。内部を調整しておいたため数日もすれば意識が戻る」


 お父さんの言葉にイムリスさんの表情が明るくなります。


「ありがとうございます!」

「良い。イムリスよ、其方にエンタールの介抱を任せる。意識が戻るまで付き添ってやるといい」

「はい!」


 イムリスさんは侍女さんたちと一緒に義兄様を担ぎ上げ、急いで退出していきます。

 扉が閉まるとお父さんは一つ嘆息してから顔を上げました。


「一応聞いておくが、他に神の加護を受け取ったものはいるか?」


 私も見渡してはみますが、どうやらいないみたいですね。


「なら良い。戻ってきて早々ではあるが現在の状況を伝えよう。皆、来てくれ」


 巨大な机の傍にお父さんが立ち、義姉様、アマデウスさんに続いて私たちも周囲に集まります。机には世界地図と駒が置かれており、現在の大まかな情勢が見て取れます。


「まず今回の主攻だが此方は60%ほど準備が完了している。次に各国についてだが、アジェンド城に残っていた王、女王は城へと転移させ、順次転移予定だ。準備が終わったエンテンス、獣国、サラマンダー、ウンディーネ、エルフ、竜族は先に転移した」


 長杖を向けると六国の駒が消えて更地になります。


「ネーティスは明日の正午、ハイクフォックはその後に転移を予定している。冥界、魔界及び妖精族とのゲートは切断したため今後は個人のゲート以外での異界移動は不可となる。残るアジェンドとクレリウスも明日の夕刻には転移する」


 そういうとお父さんは長杖を地図から上げて空中にディスプレイ画面を開きました。平面図ではなくロンプロウムその物の立体球体図です。


「アジェンドから転移後、余たちは天界を拠点とする。これについてはオーディンから既に許可を得ている」


 さて、とお父さんは呟きます。


「現状の説明は以上だ。其方たちも戦闘続きで疲れたであろうし、しばし休息を取ると良い。じきにディアロスたちも戻ってくる。部屋と接待についてはダナンに一任する」

「了解しました」


 会議はこれで終了のようですね。謁見場の扉前で様子を伺っていた侍女さんたちが入室し、涼音さんたちを部屋の方へ案内していきます。


「アマデウスは引き続きアジェンドを頼む」

「畏まりました」

「ニーマ、他に用事が無ければこのまま転移するぞ」


 特に思い当たる事はありませんので肯定します。


「はい、行きましょう」


 足元に転移魔法陣が展開され、私はお父さんに連れられて転移しました。

 次に眼を開けると……そこは聖気に満ち溢れ、周囲には次元断裂が絶え間なく出現して形状しがたい怪物が蔓延る場所でした。荒地になっていますが地形から察するにここはアジェンド城から遥か南西に行った平原だった場所のようですね。


「ぬおおおおお!!」

「あががが! ちょ、もう厳しいんだが!?」

「こっちも戦力的に無理ー!」

「ぎゃー! また開いたぞ!? 誰かこっち来てくれ!」

「援軍! 援軍を要請する!」


 前線では天界の天使たちと魔王軍が何とか怪物を食い止めている様子ですが戦況は芳しくありませんね。しかしもっと過酷な場所が次元断裂の前です。


「あ”――ッッ! 死ぬぅ! 死ぬぅ!」

「ヘルプ! もう聖気無い!」

「海広、博太! 気合入れろ! 無理なら死んで止めろ!」

「泣き言をいう暇があるなら斬れ!」

「ぜぇぜぇ……厳しい……」

「も、もう、無理……っ」


 博太さんたちだけでなくお母さんやバウゼンローネさんも悲鳴を上げています。全員が既に満身創痍の上、聖気も乏しくなってきています。


「お、お父さん!」


 流石に私も危機感を覚えてお父さんを見上げると――お父さんは無言で魔剣グラムを抜いて正面に向けました。つられてみてみるとそこには90mくらいはありそうな亀裂が空間を裂いていました。


「ニーマ。早速だが先の魔法を発動し、正面の亀裂に向けてぶつけてくれ」

「はい! ――えっ!? いえ、でも射線上にはリン様や魔王軍の皆さんがいますし神様たちも――」 

「案ずるな。神々は隕石程度では死なん。大丈夫だ」


 ……凄く不穏は残りますがお父さんが言うのであれば大丈夫だと思います。


「で、では発動します!」


 魔力を高め、聖気を纏い、正面に巨大な魔法陣を出現させます。


「むっ!?」

「あれは――」

「この魔力量は、ニーマ!?」


 最前線で神経が過敏になっているお母さんたちは私の魔法に気付くとすぐに射線上から退避してくれます。それを良いことにリン様たちも最前線から離れて此方に戻って来ます。


隕石招来ドラグーン・ボルト!!」


 魔法陣から隕石が出現し、正面に向かって飛んでいきます。私の視界は塞がれてしまいますが直前に見えた光景には神様の何柱かが最前線に取り残されていたような気がします。


『ぎゃあああああああ!?』


 気のせいではなかったようです。明らかに巻き添えを食らったような悲鳴が聞こえてきました。隕石はそのまま次元断裂にぶつかり、隕石が通過すると同時にバチンという大きな音を立てました。

 次元断裂の方を見ると亀裂は約15mくらいにまで縮小していました。 


「せやぁっ!」


 その残りは波崎さんがヴァルナで切り裂いて完全に消滅してしまいます。


「ふむ……」


 続いてお父さんも別の次元断裂に向かって私よりも高度な魔法陣を展開してみせ、その中からは多数の隕石が出現します。

 その隕石は私の時と同様に次元断裂へ吸い込まれますが――亀裂を通り抜けて次元断裂の中の世界に着弾してしまいました。


「やはりニーマだけなのか……」


 威力、数、コストは明らかにお父さんの方が勝っていましたが次元断裂を小さくすることは出来ていません。


「一体何が違うのでしょうか?」


 私の問いにお父さんは少し悩んだ後、答えてくれました。


「恐らくニーマが所有できる次元技が隕石招来ドラグーン・ボルトなのだろう。あと何回撃てそうだ?」


 隕石招来ドラグーン・ボルトは一撃必殺を重点に置いた魔法なのでその分魔力と聖気を多く使います。魔力総量から逆算して……。


「……休憩したとしても一時間に二回くらいが限界です」


 今の私に出来るのはたった二回だけです。もしお父さんやお母さんであればもっと多く使用できたことでしょう。


「いや、十分だ。むしろ一撃であの威力が出せるのであれば戦線に組み込める」


 良い、と言ってお父さんは私の頭を撫でてくれます。

 そうされるのが凄く久しぶりだったためか私はいつも以上に照れてしまいます。


「戻ってきたか、アスト」


 そこへ鹿耶さんが固有武具であるレイゲルヒルデという本を開きながら此方へ駆け寄ってきます。その後ろにはミカエルさんとエルンさんがいます。


「ああ。鹿耶たちも見た通りニーマは次元技を習得していたようだ。しばらくはニーマを中心に軍配を進めてくれ」

「了解だ」

「ミカエル、戦況の方はどうだ?」

「怪物に関してなら依然として消耗戦が続いています。私たちや神々はともかくとしても魔王軍は劣勢を強いられています」


 数こそは勝っていても敵は見たこともない怪物の群れですので心理的にも心苦しいのでしょう。


「そうか……。各自の様子はどうなっている、エルン」

「見たら分かりますが全員満身創痍です。――残る次元断裂は3つですが、そろそろ一度決着を付けないと戦線が瓦解します」

「分かった」


 お父さんは左手を耳に当て、恐らく通信魔法のリンクを飛ばしています。


「武御雷、セト、ユピテル、ロキ。次元断裂の一つを頼む。各自、ニーマの攻撃まで全力で怪物共を抑えろ。その後、次元断裂を攻撃。ポノルとジェルスは魔王軍を撤退、ウリエルとガブリエルは天使たちを撤退させろ」 


『おう!』


 お父さんの指揮に合わせて戦場が肯定と共に揺れ動きました。鹿耶さんたちも持ち場に付いて通信を飛ばし、私も魔力を回復させていつでも魔法を使えるようにしておきます。

 最初に魔王軍と天使たちが総撤退し、その間にリン様たちが立ちはだかります。全身に聖気を纏い、覇気に近い気迫と共に剣や魔法が放射されます。


「聖神雷斬!」

「蒼天魔斬!」

「聖槌!」

「水竜乱舞!」

「光の剣翼!」

「火炎竜!」


 聖気を纏った勇者の一撃は怪物を粉砕し、進行を阻みます。その様子はまるで御伽噺の一節のような光景で、私は思わず息を飲みます。


「おりゃー!」

模造聖剣・飛翔(アルス・ロウム)!」

「舞え、真空波!」


 別の場所ではシャン様が敵を一刀で斬り伏せていき、パルさんが聖剣を飛ばし、波崎さんが真空波で敵を切り裂いていきます。


「聖華!」

「凍原雪羅!」

太陽シャイニング! 閃光の槍(ライトニング)! 聖十字の輝き(グランドクロス)!」


 その背後からは凪さんが光の華を飛ばし、プレア様が矢を飛ばすと着弾地点が氷河と化し、お母さんは見たこともない光の魔法で敵を消し飛ばしていきます。


「余も出る。ニーマ、好きなタイミングで魔法を発射してくれ」 

「はい!」


 お父さんの声で我に返り、頷きます。

 充分に充填された魔力を聖気に変えて魔法陣を展開し、一番巨大な次元断裂に向けて照準します。その狙いを見てお父さんは射線上にいるシャン様やプレア様たちに声をかけて進路を開けてくれます。


「発射します!」


 魔法陣から隕石が発射され、一瞬にして次元断裂へと届きます。そして、やはり隕石は亀裂にぶつかるとバチンという音を立てて、亀裂を縮小させます。


「次元攻撃!」 


 鹿耶さんの声が飛ぶと戦場は大きく二手に分かれました。前線にはお父さん、パルさん、波崎さんが残り、お母さんたちは一斉に下がります。

 最初にお父さんが次元断裂の前に飛び出し、魔剣グラムを右肩に担ぐようにして持ち、亀裂に向かって振ります。


壊滅する魔剣(エグゾダス・グラム)!」



 亀裂に差し掛かると同時にお父さんの体から魔剣グラムへと莫大な聖気が流れ込みます。同時に魔剣グラムからは周囲の魔力を奪い尽くすような力場が生成され、一瞬の拮抗の後、魔剣グラムが振り抜かれます。

 ビシリ、と私の時とは全く違う音を立てて次元断裂が閉じました。次いで別の場所からも同様の音が聞こえ、其方は神様たちが次元断裂を閉じられたようです。

 最後に残った場所には波崎さんとパルさんが聖剣を構え、上段から振り下ろします。


世界斬(ワールドブレイク)!」

「覇壊斬!」


 どちらも聖気を極限にまで練り上げた斬撃で、次元断裂でさえも切り裂いたような錯覚が起こります。一瞬の暴風が吹き荒れ、地上も地割れが起きた後――そこに次元断裂はありません。


「ひとまずは終わりだな……」


 鹿耶さんの声と共にお父さんたちがハイタッチを交わし、その場に膝を付きます。どうやら動けそうにもなさそうなので私たちの方から向かった方が良さそうですね。

 お父さんたちの方へ鹿耶さんたちと一緒に向かうと、全員の視線が私たちへと集まります。その中に神々の姿もあるため私は一層緊張してしまいます。


「皆様、お疲れ様でした」


 ミカエルさんと天使さんたちがリン様たちにタオルや水を渡し、私もお母さんの元へ駆け寄ります。


「お母さん、お疲れ様です!」


 近寄るとお母さんは私の声を聴いて反射的に抱き付こうとしますが、自身の血塗れの姿を鑑みてか今回は留まりました。代わりに疑問の声が上がりました。


「えっ、ニーマ? どうしてここにいるの?」

「お父さんに連れて来られました。これからは私も一緒に戦います!」 


 義兄様たちを差し置いてにはなってしまいますが、それ以上にお母さんたちの力になれることが嬉しいと感じてしまいます。

 しかしお母さんは納得はしていないらしく頬を膨らませてお父さんの方に半眼を送ります。


「アースートー?」

「それについても説明しよう」


 お父さんは魔剣グラムを仕舞い、いつもの長杖を取り出して皆さんの傷を癒しつつ言葉を続けます。


「ニーマについてだが、俺たちより先に次元技を習得していたことが発覚した。実に情けないことだが今後はニーマの、ひいては子供たちの力も借りることになるだろう。これについて異議があるものは次元技を習得してから申し立てるように」


 リン様も、お母さんも異議はあったようですがお父さんの一言で今の立場を見て言葉に詰まっています。


「ってことはエンタールたちも次元技を習得しているかもしれないってことか?」


 リン様が疑問を上げるとお父さんは肯定します。


「そうだ。特にエンタール、ウラカ、銀次の三人は俺たちの知らない内に神々と契約して加護を受けたらしいから一番可能性があるな。それに引っ張られてソーラムたち、ディアロスたちも早期習得する可能性が非常に高い」


 うぐっ、という声がそこらから上がり、博太さんやバウゼンローネさんの表情が見る見る変わっていきます。


「――全員、分かっているとは思うがこのままアジェンドに帰るわけにはいけなくなった。こんな体たらくを子供たちに見せつけるなど恥にしかならん!」

「ああ!」

「負けられねぇな!」


 お父さんが叱咤すると皆さんの目つきが代わり、一斉に立ち上がります。


「しばし休息を取った後、すぐに次の次元断裂へ向かうぞ!」

『おうっ!』


 出汁に使われた感じはしますが、それ以上に萎えかけていた気力が戻った様子が伺えます。いえ、気力だけでなく心なしか魔力の回復速度や聖気の強さまで上昇したような感じがします。

 ――私とてこのままで終わるつもりはありませんし、お父さんたちの足手まといにはなりたくありません。負けてはいられませんね。



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