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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第三十九話・第二次ラグナロク 中編

斎藤「今日が最後の決戦だ。皆、思い残すことのないように」

亮平「全てはラグナロク成就のために!」

グラたん「第三十九話、行きましょう!」

~亮平


 ラグナロク最終日の昼間。

 俺は聖王の元に馳せ参じていた。

 今日、会議室にて行われる最終ミーティングに集まったのは八人だけだ。嵩都も来ていない。

 やはり昨日の罰が堪えたのだろう。

 現に俺も体中が痛いし、他の野郎共も肩を回したり包帯を巻いていたりする。

 聖王が入室し、壇上に上がる。



「皆、よく集まってくれた。感謝する」



 聖王の重々しい響きが辺りに木霊する。

 その姿は松葉杖と痛々しいが、実のところは女子共の目を欺くための偽装だ。



「昨夜は奇襲を受けたが今日はそうはいかん。我々が笑う番だ」



 その通りだ。俺たちはそのために今日まで準備してきたんだ。

 最後に笑ってくたばるのは俺たちだ!



「しかし、残念なことに我々が考えていた通路には敵の警戒網が張られている。我々が通れるのは最も難関の正面と破壊不可能に近い男湯の障壁だ。どちらにせよ不可能に近い。現実的に成功率が高いのはこの二択の内どちらだ? 参謀」



 聖王が目を向けた先にいるのは斎藤だ。斎藤も腕に三角巾とギプスをしている。

 斎藤が手元を弄ると一枚のディスプレイが表れ、現在の状況がよくわかる。



「それは障壁を突破することです。しかし火力が現武装では圧倒的に足りません」

「どれくらいあればよいのだ?」

「アジェンド城街門壁についている魔導砲五発ほどの威力が必要です。それに障壁については一撃で破壊しないと内側にいる女子が外に出て行かれてしまいます」


 斎藤の言っていることは最もだが、魔導砲を持ってくるのは少々無理がある。

 城壁に装填されているのを見たことがあるが、全長五mと大きく、反動もでかい代物だ。

 それにそんなものが城に持ち込まれたら嫌でも女子共にばれる。



「確かにそうだな。どうすればよい?」

「一か八かですが我々の固有武装の使用を許可していただきたい」



 固有武装か……確かにそれの一斉攻撃ならある程度はいけるかもしれないな。

 あとは物理ごり押しになりそうだ。



「むう……致し方あるまい。許可する」

「ありがとうございます。それともう一つ懸念があります」

「なんだ?」

「男湯の前に女兵が陣取っている可能性についてです。もしそうなれば我々が突破した後、今度は逆に我々が男湯に入った者を守らねばなりません」



 確かにそれは重要だ。だが、それは同時に食い止める故に桃源郷を見られないということでもある。

 流石に誰も手を上げないよな、と思っていると真っ先に手を挙げる人物がいた。

 ――聖王だ。



「ふむ、そうだな。なら、それは私が務めよう。半刻位なら止められるだろう」

「せ、聖王様……」

「良い。カンツェラ、裸の王は王ではない。私たちはただの男だ。子供を先に進めるのが大人の役目……違うか?」



 斎藤にしろ聖王にしろ何故ラグナロクで名言を残せるのだろうか。

 毎度思うがこれが戦場とかならそれはもう感動して冥府にまでついて行ってもおかしくはない。



「ハッ! 不肖、このカンツェラ、お供させて頂きます」

「では、私も微力ながら残りましょう」

「隊長、大臣殿、聖王、ありがとうございます」

「開戦は夜七時だ」

「了解。それでは皆に伝えます」



 こうして、俺たちの最後の戦いが始まった。

 負けるわけにはいかない。先日に散っていった野郎共のためにも!











~筑篠


 内通者からだ。何、夜七時に戦闘開始だと?

 ふむ。流石斎藤だな。良い時間帯を選んでくる。

 ……言い忘れたが女子にとって風呂は欠かすことの出来ない日課だ。

 一日手入れを欠かすだけでも肌荒れの原因になる。

 つまり、奴等が来るにも関わらず女湯は解放されるわけだ。

 入らせないという選択肢はない。それに女子の湯は長い。絶対に阻止せねば。

 当然私とて女子であるから彼女たちを無理矢理浴場から出すことはしたくない。

 奴等は男兵士を巻き込むようなことはしない。昨夜の痛めつけも功を総じて人数が減っているため勝機はあるが油断ならない。

 さて、一応奴等が考えそうな経路は全て抑えている。

 女兵士の力も借りて女湯正面は強吾な防壁を作っている。

 一番の懸念は女湯の対にある防壁だな。ここを越えられたら終わる。

 頂上にはST製の有刺鉄線や撃退用の自動バリスタが設置されている。

 それに万が一それを潜り抜けたとしてもどうやって降りるかだ。

 南無三の自殺飛び込みはしないだろうからあるとすれば望遠鏡で視察くらいか。

 こちらは空中に幻惑魔法を掛けて置けば問題ない。

 さて、一番考えたくないのが朝宮による空中落下だ。これが一番怖い。

 こればかりはどうやっても防ぎようがない。

 まさか浴場で魔法弾幕を張るわけにも行かないし。

 ん? ああ、この城の浴場は全て露天風呂だ。室内には無い。

 さて、打てる限りの対策を打って女子の安全を守るか……。

 そう言えばいつから私が取り仕切るようになったのだろうか……?

 現に女性陣からも白紙委任状を貰っているし武器庫の鍵も貰っている。

 うむ、やはり期待には答えなくてはな。

 さてと、殺るか。







~嵩都


 あれから時間は過ぎ、何とか目途がついた。

 教員と工作員は四月の始業と共に入るらしい。

 さて、ラグナロクの方だが、こちらは作戦が決まったようだ。

 七時に浴場ね……ということは浴場突破に切り替えたか。

 まあ、俺はもう十分堪能したし今回は奴等を立ててやるか。

 俺は抜けて行った奴等にもう一度声を掛けて見た。もちろん否の声が多かった。



「馬鹿野郎! お前……戦友を見捨てて明日食う飯が美味いか!」



 そう言う風に暑苦しい言葉を掛けると奴らは簡単に乗って来た。

 女子がしてきそうな行動は大体予想が付く。女湯を直接目指すのははっきり言って自殺行為だ。一番防壁が厚いだろう。男湯の周りもその時間帯だけは女子兵が多くなるだろう。

 今日、男兵士は聖王より城外警備をするように言われている。

 残っている男たちは俺たちだけだ。つまり男湯は俺たちの貸切りというわけだ。

 夜、七時を回った。先陣を切っている亮平たちの戦闘時間を考えてちょうど良い時間だろう。

 勇者ヒーローは遅れて登場するものだ。

 STは持った。士気は最高潮。いざ、出陣!








~亮平

 時は六時半、七時に浴場へ集合する手はずだ。

 つまり、女子との戦闘になる時間を考えて行動するとちょうど良い。

 部屋を出て、廊下を歩き、階段を降りる。

 一人、二人と人数が増えていく。考えることは同じだ。

 男湯まで三百mを切った。あと一階を降り、突き当たりを右に曲がれば男湯だ。



「むっ、敵ですな。次の階段前に五十人」



 片山は透視魔法を使っている。先が見えるのだろう。

 聖王と隊長が前に出る。そして聖王がこちらを向き、得物を天高く掲げる。

 聖王が持っているのは大斧だ。威圧感がある。



「皆、よく集まってくれた。泣いても笑ってもこれがラストチャンスだ。私から言う事はたった一つ。勝てば犯罪者、負ければ賊軍だ!! だが、それでも!! 私たちは欲望にまみれた男だ!! 行くぞ! 桃源郷、理想郷、楽園は私たちのためにある!! 死を恐れるな、勇敢な馬鹿者共よ! 性なる神の御加護は我らにあれり!!」



『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』



 士気は最高潮。これならば相手が十倍いても勝てるはずだ。



「では、参ろうか」

「ええ。まずは私が先陣を――ST・オン」

「任せる。フィールド結界を作動させよ」



 フィールド結界とは訓練場で兵士が怪我をしても大丈夫なように模擬戦などで使われるアイテムだ。ここでも死者をなくすために聖王がこっそり持ち込んだらしい。

 敵との接触まで後十m。隊長がSTを出して構える。俺たちもそれに倣う。



「いくぞ! この戦いで決着を付ける!!」

『うおおおおおお!!』



 隊長に続いて俺たちも駆けだしていく。



「敵襲だ! 陣形を構えよ! 後方部隊と司令官にリンクを飛ばせ!」



 敵将らしき人物が奥から声を出す。



「ハァァ!!」



 そして隊長の剣と敵の銃剣の刃が当たり、開戦となった。










 それから三十分が経過した。敵の第一陣を突破し、俺たちは男湯に立てこもる事に成功した。



「亮平、あと五分持たせろ!」



 背後の浴場から斎藤の声が聞こえる。佐藤に特注しておいたらしいチャージ砲という奴だ。莫大な魔力を使う代わりに敵に大ダメージを与えるらしい。

 それがあと一時あればチャージが終わるらしい。



「はぁ、はぁ……せやあ!」



 僅かな休憩を挟んで攻撃する。最初ほどの勢いはない。

 それは俺だけじゃなく全員が疲労困憊の状態だ。

 やはり諸に戦力差が出た。勝ち目のない戦いではある。

 その中でいまだに前線を支えているのは俺と聖王だ。

 しかし、いかせん厳しい。そろそろ俺も体力的に限界だ。



「くっ!!」



 敵の後ろにいる魔法師部隊がまた魔法を波状攻撃する。

 俺は自分を守るので精一杯だ。聖王も同様。



「ぐっ!!」



 くそっ、また犠牲者が出た。もう浴場付近にまで追い詰められている。



「そろそろ終わりよ! 一斉射撃用意!!」



 敵将の声が響く。一斉に銃を向けられる。



「撃て!」



 フィールド結界が張られているとはいえ、死ぬのはちょっと怖いな。ハハ。

 ドドド、ドドドン。

 銃撃音が響く。敵の銃は魔法銃だ。直線状に打撃系統の魔法が飛んでくる。

 俺のSTは仮面ライダーのスーツみたいになっている。勿論、下半身もしっかり守ってくれる。強度もあるし柔軟性も抜群だ。

 だけど代わりに毎秒ベルトに締め付けられている言わば呪いの装備だ。

 でも当たれば痛い。固い雪玉をぶつけられている感じがする。



「ぐぅ……」



 聖王が膝を付き、大斧が地面に落ちる。これまでか……。



「投降しなさい。いくら国王でもやって良いことと悪い事があります」



 筑篠がそういうと聖王は不敵に笑った。



「ククク……それでも成し遂げなければいけないこともある。散って行った同胞のためにも覗かねばならんのである!!」

『馬鹿ですか!?』



 女子が一斉に声を揃えて聖王を罵った。うん、冷静に考えればその通りなのだよなぁ。



「呆れました……。それでは、そろそろ終わりにしましょう。罰については後程……構えよ!」



 再び銃口が俺たちに向けられる。くそぉ……。

 筑篠が右手を振り下ろす。



「撃て――」

「きゃぁああ!!」



 奥の方から女子の悲鳴が聞こえる。



「どうした!」

「鹿耶ちゃん、背後から奇襲よ! それに女湯の方にも数名が襲撃!」

「なにっ!? ……女湯の方は人数がいる。こちらの半分を後ろに回して迎撃!」

「分かった!」



 筑篠の指示で十名ほどの女子が背後に下がって行く。



「なんだ? まさか援軍か?」



 聖王も少々驚いている。援軍? そんなものは予定になかったはずだ。

 一体、背後で何が起きているんだ?



筑笹「やはり男というのは馬鹿ばかりだな」

筑笹「しかし不思議だ。一体何が奴等を駆り立てるのだろうか?」

グラたん「私たち女子には分からないことですよ……」

筑笹「今まで何処に?」

グラたん「聞かないでください(追い出されてしまいましたから)」

筑笹「奴等、まさか彼女をよってたかって……」

グラたん「……何か酷い勘違いをしているような?」

筑笹「次回、第二次ラグナロク 後編。奴等に死の鉄槌を!」

女子たち「イエス・マム!!」

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